キーナン(Philip Childs Keenan;1908-2000)は恒星スペクトルの二次元分類MK法で知られるアメリカの天文学者。1943年、モルガン(W.W. Morgan)やケルマン(E. Kellman)と一緒に『An Atlas of Stellar Spectra with an Outline of Spectral Classification』(通称MKKアトラス)を出版し、ここで恒星の温度系列に対応するO、B、A、F、G、K、Mというスペクトル分類に加えて、光度を表わすⅠa、Ⅰb、Ⅱ、……などの光度階級を導入し、温度と光度で分類する現在の二次元分類法(MK分類)を確立した。このMK分類は、1973年にモルガンとキーナンによってさらに改訂されている。
二人の共同研究では、キーナンは太陽よりも温度の低い星を、モルガンは温度の高い星を研究の対象としていた。キーナンは、最初のアリゾナ大学学部生の時の論文発表(1929年)から70年後の1999年に最後の論文を発表しており、非常に息の長い研究者であった。
参考 https://astro.uchicago.edu/alumni/philip-c-keenan-1932.php
スキアパレリ(スキャパレリ)(Giovanni Virginio Schiaparelli;1835- 1910)は望遠鏡による観測で火星面地図を作ったイタリアの天文学者。彼の作成した火星面地図には、海、大陸、それに「canali(カナリ)」(イタリア語では、自然に作られた溝、畑のすき跡などを意味する)が記録されていた。カナリが運河を意味する「canals(カナル)」と英語に誤訳されて、その後の宇宙人ロマンが流行するもとになった。
イタリアのトリノ大学で土木工学と天文学を学び、1854年卒業、政府から派遣されてベルリン大学(ドイツ)、プルコボ天文台(ロシア)で天文学の研究を行なった。1860年にイタリアに戻り、1862~1900年までミラノ・ブレラ天文台の台長を務めた。1861年には小惑星ヘスペリア(69 Hesperia)を発見しているが、1864年にペルセウス座流星群とスイフト・タットル彗星(109P/Swift-Tuttle)の軌道が一致するとして、その関連性を発表した。この研究は世界的な評価を受けて、パリ科学アカデミーから賞を受けている。1877年から屈折望遠鏡による系統的な惑星表面の観測を始め、火星面の詳細な模様を示す火星図を作成した。水星の自転の研究もあり、その公転周期が自転周期と一致するという彼の見解は、近年の惑星探査機による観測結果(公転周期は自転周期の1.5倍)がもたらされるまで長い間信じられてきた。晩年には天文学史に興味を移し、バビロニア、ユダヤ、ギリシャなどの古代天文学の研究でも大きな成果を残した。
エイベル(George Ogden Abell;1927-1983)は主に銀河群、銀河団の研究をしたアメリカの天文学者。ロサンゼルスのグリフィス天文台のツアーガイドとして天文学のキャリアをスタートさせた後、ウィルソン山およびパロマー天文台やマックス・プランク研究所などに所属、1958年、銀河団の「エイベルカタログ」を発表。2712個の銀河団をリストにし、宇宙の大規模構造の研究に大きな影響を与えた。銀河団の視線速度の解析から、銀河団にも見えない質量、ミッシングマスが存在していることを見出したり、惑星状星雲についての研究をピーター・ゴールドライヒとともに発表、赤色巨星から進化するというアイデアを発展させた。
高校生を対象としたサマーサイエンスプログラムの教員を20年以上務めたり、超常現象の科学的調査のための委員会(CSICOP[サイコップ])を共同で設立するなど、科学教育の普及にも尽力した。小惑星3449番には彼の名がついている。
参考 http://todayinastronomy.blogspot.com/2009/03/march-1-george-ogden-abell.html
コンパクト天体を参照。
白色矮星、中性子星とブラックホールの総称。コンパクト星、高密度星、あるいは高密度天体とも呼ぶ。通常、恒星の進化の最終段階で誕生する。通常の恒星に比べて質量あたりのサイズが小さいため強力な重力場を伴う。単体では半永久的に存続すると考えられている。自分自身の中にはエネルギー源を持たないが、(ブラックホール以外は)冷えていく間は輝く。また、連星系をなすなど周囲の物質と相互作用がある場合には、強い重力場や磁場などに起因する高エネルギー現象を引き起こし、明るく輝いてさまざまな波長の電磁波や重力波で観測される(マルチメッセンジャー天文学を参照)。
銀河など星とは異なる種類の天体でも、頭に「コンパクト」をつけて呼ぶ天体(コンパクト楕円銀河など)があるが、通常はこれらはコンパクト天体には含めない。
既知の特定の天体に望遠鏡を向けて行う観測。サーベイ観測を参照。
ダイナマイトの発明者として知られるスウェーデンの発明家・企業家アルフレッド・ノーベル(Alfred Bernhard Nobel)の遺言に従って、彼の遺産に基づいて創設された世界的な賞。1901年から始まり、物理学、化学、生理学・医学、文学、平和および経済学(1968年創設)の分野で顕著な功績を残した人物に贈られる。
本項では、過去の物理学賞のうち天文・宇宙に関わりの深いものについて、受賞者と受賞タイトルおよび、本辞典の中の関連深い主な項目を列挙する(日本人受賞は全て含む)。天文・宇宙に関わりの深い分野での受賞頻度は近年増加している。
【2021年】
・真鍋淑郎(Syukuro Manabe)(アメリカ、日本)
・クラウス・ハッセルマン(Klaus Hasselmann)(ドイツ)
「地球の気候の物理的モデリング、気候変動の定量化、地球温暖化の確実な予測」
気候モデル、IPCC、地球温暖化、温室効果ガス、気候変動、オゾン層
【2020年】
・ロジャー・ペンローズ(Roger Penrose)(イギリス)
「ブラックホールの形成が一般相対性理論の強力な裏付けであることの発見」
特異点定理、ペンローズ時空図、宇宙検閲官仮説
・ラインハルト・ゲンツェル(Reinhard Genzel)(ドイツ)
・アンドレア・ゲズ(Andrea M. Ghez)(アメリカ)
「我々の銀河系の中心にある超大質量コンパクト天体の発見」
ブラックホール、いて座A*
【2019年】
・ジェームズ・ピーブルス(Jim Peebles)(アメリカ)
「物理宇宙論における理論的発見」
宇宙マイクロ波背景放射、宇宙の晴れ上がり、原始銀河、宇宙の大規模構造、ダークマター
・ミシェル・マイヨール(Michel Mayor)(スイス)
・ディディエ・ケロー(Didier Queloz)(スイス)
「太陽型恒星を周回する太陽系外惑星の発見」
太陽系外惑星、ドップラー法、ホットジュピター
【2017年】
・レイナー・ワイス(Rainer Weiss)(アメリカ)
・バリー・バリッシュ(Barry Barish)(アメリカ)
・キップ・ソーン(Kip Thorne)(アメリカ)
「LIGO検出器および重力波の観測への決定的な貢献」
重力波、重力波検出器、LIGO
【2015年】
・梶田隆章(Takaaki Kajita)(日本)
・アーサー・B・マクドナルド(Arthur B. McDonald)(カナダ)
「素粒子「ニュートリノ」が質量を持つことを示すニュートリノ振動の発見」
ニュートリノ、ニュートリノ振動、素粒子、スーパーカミオカンデ
【2013年】
・フランソワ・アングレール(Francois Englert)(ベルギー)
・ピーター・ヒッグス(Peter Higgs)(イギリス)
「欧州原子核研究機構 (CERN) によって存在が確認された素粒子(ヒッグス粒子)に基づく、質量の起源を説明するメカニズムの理論的発見」
ヒッグス粒子、ヒッグス場、素粒子、真空の相転移、自発的対称性の破れ、電弱統一理論、欧州原子核研究機構
【2011年】
・ソール・パールムッター(Saul Perlmutter)(アメリカ)
・ブライアン・P・シュミット(Brian Schmidt)(オーストラリア)
・アダム・リース(Adam Riess)(アメリカ)
「遠方の超新星の観測を通した宇宙の加速膨張の発見」
Ia型超新星、光度曲線(超新星の)、加速膨張、ダークエネルギー、宇宙定数、ハッブル時間、地平線(宇宙の)
【2009年】
・チャールズ・K・カオ(高錕)(Charles K. Kao)(イギリス、アメリカ、中華民国出身、1948年香港移住)
「光通信を目的としたファイバー内光伝達に関する画期的業績」
・ウィラード・ボイル(Willard Boyle)(アメリカ、カナダ)
・ジョージ・E・スミス(George E. Smith)(アメリカ)
「撮像半導体回路であるCCDセンサーの発明」
CCD、多天体分光器、赤方偏移サーベイ
【2008年】
・南部陽一郎(Yoichiro Nambu)(日本)
「素粒子物理学および原子核物理学における自発的対称性の破れの機構の発見」
自発的対称性の破れ、真空の相転移、ヒッグス場、ヒッグス粒子
・小林誠(Makoto Kobayashi)(日本)
・益川敏英(Toshihide Maskawa)(日本)
「自然界においてクォークが少なくとも3世代以上存在することを予言する、対称性の破れの起源の発見」
素粒子、CP対称性、キャビボ-小林-益川理論、反物質
【2006年】
・ジョン・C・マザー(John C. Mather)(アメリカ)
・ジョージ・スムート(George F. Smoot)(アメリカ)
「宇宙マイクロ波背景放射が黒体放射の形をとることおよびその非等方性の発見」
宇宙マイクロ波背景放射、黒体放射、宇宙の晴れ上がり、COBE衛星、WMAP衛星、プランク衛星
【2002年】
・レイモンド・デービス(Raymond Davis Jr.)(アメリカ)
・小柴昌俊(Masatoshi Koshiba)(日本)
「天体物理学への先駆的貢献、特に宇宙ニュートリノの検出」
ニュートリノ天文学、太陽ニュートリノ問題、SN1987A、カミオカンデ、スーパーカミオカンデ
・リカルド・ジャコーニ(Riccardo Giacconi)(アメリカ)
「宇宙X線源の発見を導いた天体物理学への先駆的貢献」
ジャッコーニ、X線天文学
【1993年】
・ラッセル・ハルス(Russell A. Hulse)(アメリカ)
・ジョゼフ・テイラー(Joseph Hooton Taylor, Jr.)(アメリカ)
「重力研究の新しい可能性を開いた新型連星パルサーの発見」
パルサー連星、重力波、二重パルサー連星
【1983年】
・スブラマニアン・チャンドラセカール(Subrahmanyan Chandrasekhar)(アメリカ、インド)
「星の構造および進化にとって重要な物理的過程に関する理論的研究」
チャンドラセカール、チャンドラセカール限界質量、恒星の進化、白色矮星、中性子星
・ウィリアム・ファウラー(William Alfred Fowler)(アメリカ)
「宇宙における化学元素の生成にとって重要な原子核反応に関する理論的および実験的研究」
ファウラー、ジェフリー・バービッジ、マーガレット・バービッジ
【1978年】
・アーノ・ペンジアス(Arno Allan Penzias)(アメリカ)
・ロバート・W・ウィルソン(Robert Woodrow Wilson)(アメリカ)
「宇宙マイクロ波背景放射の発見」
宇宙マイクロ波背景放射、ビッグバン、ビッグバン宇宙論、宇宙の晴れ上がり、定常宇宙論
【1975年】
・オーゲ・ニールス・ボーア(Aage Niels Bohr)(デンマーク)
・ベン・ロイ・モッテルソン(Ben Roy Mottelson)(デンマーク、アメリカ)
・レオ・ジェームス・レインウォーター(Leo James Rainwater)(アメリカ)
「核子の集団運動と独立粒子運動との関係の発見、およびこの関係に基づく原子核構造に関する理論の開発」
量子力学、ボーア半径、ボーア磁子、ボーア
【1974年】
・マーティン・ライル(Martin Ryle)(イギリス)
「電波天文学における先駆的研究(観測および発明、特に開口合成技術に関して)」
ライル、開口合成、電波干渉計
・アントニー・ヒューイッシュ(Antony Hewish)(イギリス)
「電波天文学における先駆的研究(パルサーの発見に果たした決定的な役割)」
パルサー
【1970年】
・ハンス・アルベーン(Hannes Olof Gosta Alfven)(スウェーデン)
「プラズマ物理学の様々な部分への有意義な応用を伴う、電磁流体力学における基礎的研究および発見」
アルベーン、アルベーン波、電磁流体波、電磁流体力学、イオンサイクロトロン波
【1967年】
・ハンス・ベーテ(Hans Albrecht Bethe)(アメリカ)
「原子核反応理論への貢献、特に星の内部におけるエネルギー生成に関する発見」
ベーテ、CNOサイクル、ppチェイン、核融合、熱核融合反応、太陽
【1965年】
・朝永振一郎(Shin-ichiro Tomonaga)(日本)
・ジュリアン・シュウィンガー(Julian Schwinger)(アメリカ)
・リチャード・P・ファインマン(Richard P. Feynman)(アメリカ)
「量子電磁力学の分野における基礎研究と、素粒子物理学についての深い結論」
早川幸男
【1949年】
・湯川秀樹(Hideki Yuakawa)(日本)
「核力の理論的研究に基づく中間子の存在の予想」
パイオン、素粒子、強い力、核力、四つの力
【1933年】
・エルヴィン・シュレーディンガー(Erwin Schrodinger)(オーストリア)
・ポール・ディラック(Paul Adrien Maurice Dirac)(イギリス)
「原子論の新しく有効な形式の発見」
量子力学、不確定性原理、ディラック、磁気単極子
【1921年】
・アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)(スイス)
「理論物理学に対する貢献、特に光電効果の法則の発見」
アインシュタイン、一般相対性理論、宇宙定数、アインシュタイン方程式、アインシュタインリング、アインシュタイン係数、アインシュタイン衛星
【1918年】
・マックス・プランク(Max Karl Ernst Ludwig Planck)(ドイツ帝国)
「エネルギー量子の発見による物理学の進展への貢献」
プランクの法則、プランク関数、プランク分布、黒体放射、プランク定数、プランクスケール、プランク衛星
【1911年】
・ウィルヘルム・ウィーン(Wilhelm Wien)(ドイツ帝国)
「熱放射を支配する法則に関する発見」
ウィーンの近似式、ウィーンの変位則、ウィーンスペクトル、黒体放射
【1907年】
・アルバート・マイケルソン(Albert Abraham Michelson)(アメリカ)
「彼が考案した精密光学機器マイケルソン干渉計とそれによる分光学および計量学の研究」
マイケルソン干渉計、マイケルソン-モーリーの実験
【1904年】
・レイリー卿(Lord Rayleigh; (John William Strutt)(イギリス)
「重要な気体の密度に関する研究、およびこの研究により成されたアルゴンの発見」
レイリー-ジーンズの近似式、レイリー散乱、レイリー-テーラー不安定、レイリーの解像限界
【1902年】
・ヘンドリック・ローレンツ(Hendrik Antoon Lorentz)(オランダ)
・ピーター・ゼーマン(Pieter Zeeman)(オランダ)
「放射現象に対する磁性の影響の研究」
ゼーマン効果
ノーベル賞の公式ホームーページ
https://www.nobelprize.org/
物理学賞のホームページ
https://www.nobelprize.org/prizes/physics/
物理学賞の全受賞者リスト
https://www.nobelprize.org/prizes/lists/all-nobel-prizes-in-physics/
日本語版のノーベル物理学賞の全受賞者とその受賞タイトルの一覧は以下のサイトにある。
https://ja.wikipedia.org/wiki/ノーベル物理学賞
ローマン宇宙望遠鏡を参照。
中国科学院国家天文台により、中国南西部のミャオ族自治州平塘県に建設された口径500 の固定型電波望遠鏡。英語名称のFive-hundred-meter Aperture Spherical radio TelescopeからFASTと略称される。建設は2016年に完成し、2020年に正式に稼働を始めた。アレシボ天文台の口径305 mを抜いて世界最大の電波望遠鏡となった。
一度に観測するときの有効口径は300 m、観測可能範囲は天頂から約20度以内である。観測周波数は0.3-5.1GHz(波長1 m-6 cm)を予定しており、中性水素の21cm線、メーザーを含むさまざまな分子輝線と電波の連続波(スペクトルを参照)、パルサーなどを主な観測対象としている。
中国科学院国家天文台ホームページ
http://english.nao.cas.cn/
わし座の特異天体(マイクロクェーサー)。見かけの明るさは約14等級で、6〜8等程度の星間吸収を受けている。コンパクト星(恒星質量ブラックホールか中性子星、主星)とおそらくは早期型星(伴星)からなる近接連星系である。伴星からコンパクト星に向かって流れ込んだガスは、コンパクト星に対して角運動量を持っているため、コンパクト星の周辺に回転するガス円盤(降着円盤)を形成している。連星の公転周期は約13.1日、伴星と降着円盤が食現象を起こしており、「わし座V1343星」という変光星名も付けられている。
1976年に発見が報告されて以来、SS433がユニークな天体として注目を浴びているのは、コンパクト星と降着円盤周辺から、おそらく降着円盤の回転軸に沿って、光速の0.26倍にも達する速度でプラズマガスの噴流(いわゆる宇宙ジェット)が吹き出ているためである。真っ直ぐに伸びず、揺らいでいるジェットの形状は、約162日の周期で歳差運動をしているためと考えられている。
SS433という名称は、スティーブンソン(Stephenson) とサンドゥリーク(Sanduleak)が作成した輝線星カタログの433番に掲載されていることによる。超新星残骸W50(マナティー星雲)の中にあり、SS433の主星が2万年ほど前に超新星爆発を起こし、現在のコンパクト星になっている。距離約5.5キロパーセク(1万8,000光年)。
参考:http://blackholes.stardate.org/resources/article-mystery-of-ss443.html
オリオン大星雲(M42)に含まれる星の集まりの一つ。中心にある4つのO型星の並びが四辺形(トラペゾイド状)であることからその名がある。オリオン大星雲自体、巨大な電離水素領域(HII領域)であるが、トラペジウムはその中でも若く明るい星の集まりで、盛んに星が生成されている領域である。主としてC星(スペクトル型O6)とD星(O9型)がオリオン大星雲を励起させている。最近の観測で、質量が小さく核反応にいたらない褐色矮星が大量に存在することが示唆されている。誕生後時間がそれほど経っていないために、褐色矮星が十分に冷え切っておらず、赤外線で比較的容易に観測されたものと考えられる。
このように、OB型星が同程度の間隔で構成する多重星は、他の電離水素領域でもしばしば見られ、オリオン大星雲のものに限らずトラペジウム(トラペジウム・システム)と言われることもある。
トラペジウムの近傍には、可視光でもきわめて興味深い天体がハッブル宇宙望遠鏡などで発見されている。1〜2秒角程度以下のきわめて小さな光斑で、多くはおたまじゃくし状の尾を伸ばしている。頭部に恒星が隠れており、そのまわりにガスと固体微粒子の円盤が形成され、惑星系を生む母胎となると考えられている。プロプリッド(proplyd)とも呼ばれ、尾がすべてθ1C星から反対側に放射状に伸びているのは、この星からの強力な恒星風または放射圧が原因である。
オリオン座にある大きくて明るい星雲。三つ星の南に南北に並ぶ小三つ星(オリオンの剣に当たる)の中央に、4等星に相当する明るさで輝いており、肉眼でも認められる。古くから知られていてオリオン大星雲と呼ばれることも多い。M42(実際には北に隣接するM43も含まれる)またはNGC1976の名称もある輝線星雲で、より詳しくいえば電離水素領域である。したがって、当然電波の連続波でも明るく、電波源としてはオリオンAやW10と呼ばれる。距離は460パーセク(1500光年)で、見かけの大きさ35分角程度、実サイズ5パーセク(15光年)程度である。電離水素領域として特別に巨大というわけではないが、距離が近いので天球上で大きく明るく見えている。
中心には5等星のオリオン座θ1があり、A,B,C,Dの4星からなっている。これら4星はいずれも高温の若い恒星で、15秒角程度の間隔で不等辺四辺形を形作っており、トラペジウムと呼ばれる。そのすぐ南東側の明るいバー(電離境界面をほぼ横から見たブライト・リム)と呼ばれる線状構造、同じく北東側の暗黒湾、そしてそれにつながりM43を隔てる大きなダークレーンなどが特に目立つ構造である。
多くの電離水素領域と同様、オリオン星雲は若い散開星団(オリオン星雲星団)を伴っており、特にその中心部をトラペジウム星団という場合もある。オリオン星雲星団は吸収雲に埋まって赤外線観測でのみ見えてくるものも合わせて、全体で星数3,500個、総質量2,000太陽質量ほどである。年齢は非常に若く、100万年以下とされるが、個々の星の年齢には10万年以下から200万年程度までの幅が見られる。この星団は、もっと大きな恒星のグループ、オリオンOB1アソシエーションの一部である。これは、年齢1,200万年の1a、年齢800万年の1b、年齢600万年の1c、そして最も新しい1dのサブグループに大別され、1dがオリオン星雲星団である。
このオリオンOB1アソシエーションを生んできたのがオリオン分子雲で、オリオン星雲の少し北から南南東方向に、幅1.5度長さ10度以上にわたって伸びており、質量は20万太陽質量もある。この分子雲は現在あちこちで星を生みつつあるが、オリオン星雲のすぐ背後の部分(OMC-1)では星形成が特に活発である。誕生しつつある星々は厚い吸収雲に埋もれているために可視光では見えないものが多いが、赤外線ではその姿を現わす(オリオンBN-KL天体)。
https://youtu.be/embed/xCFg5udYbAg
オリオン星雲内部のCG(CREDITS: NASA, ESA, F. Summers, G. Bacon, Z. Levay, J. DePasquale, L. Hustak, L. Frattare, and M. Robberto (STScI), R. Hurt (Caltech/IPAC), M. Kornmesser (ESA), and A. Fujii; Acknowledgement: R. Gendler)
日本の天文学者(1943-2019)。新潟県生まれ。1968年、東京大学大学院理学系研究科修士課程修了、同大学助手、助教授を経て、1988年、国立天文台教授。1972年、「銀河中心領域の構造および活動性」で理学博士を取得。大学院生時代から野辺山宇宙電波観測所45 mミリ波電波望遠鏡の設計・建設に参加し、赤羽賢司、森本雅樹らとともに中心的な役割を果たした。また、当時の世界水準を大きく凌駕する大型の音響光学型電波分光計を開発し、宇宙電波分光学の発展をもたらした。1990年からすばる望遠鏡建設に参画、1997年には国立天文台ハワイ観測所初代所長に就任し、すばる望遠鏡建設の指揮を取った。
研究面では、45 mミリ波電波望遠鏡を用いて星間分子の探索や星形成の研究を行った。その業績により、仁科記念賞(森本雅樹と共同受賞)「ミリ波天文学の開拓」(1987年)、日本学士院賞「星間物質の研究」(1998年)を受賞した。
2000年からは国立天文台長としてVERAやALMAの建設を推進したほか、大学共同利用機関の法人化に取り組んだ。また、東アジア地域天文学の共同研究を発展させるために東アジア中核天文台連合(EACOA)を立ち上げ、東アジア天文台(EAO)設立への道筋をつけた。2005年から2011年には日本学術会議会員(第三部長)として、ボトムアップ型の「大型施設計画・大規模研究計画マスタープラン」を策定する枠組みを確立した。2012年から2015年には、日本人としては古在由秀に続いて2人目となる国際天文学連合(IAU)会長を務め、国際普及室(OAO)の設置を始めとするIAUの組織や制度の改革を行った。2018年には日本天文学会への功労に対し名誉会員の称号が授与された。
一般向けの書物を多数著したほか、野辺山宇宙電波観測所設立当時から研究成果のアウトリーチ活動や科学者の社会的責任を問いかける活動にも積極的に取り組んだ。また、新聞社の書評委員を務めるほか、和歌や俳句にも造詣が深かった。
天文月報追悼記事
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/2019_112_08/112-8_564.pdf
はくちょう座X-1を参照。
1995年7月22日に、アメリカの天文学者ヘールとアマチュア天文家ボップによって発見された彗星。正式名称はC/1995 O1 (Hale-Bopp)。ニューメキシコ州に住むヘールは熱心な彗星観測者で、既知の彗星の観測中にこの彗星を発見している。アリゾナ州に住むボップは、仲間6人と星雲・星団の観望中に発見している。発見時の彗星は太陽から7天文単位、木星軌道と土星軌道の中間ぐらいのところであったが、その位置にしては11等級と明るく、巨大な彗星であることが推測された。
彗星の明るさを予想するのは大変難しく、往々にして期待はずれになることが多いが、1年半後の近日点通過(1997年4月1日)前後の数ヵ月間には、地球にはそれほど近づかなかったにもかかわらず、最大でー1等級前後の雄大な姿を見せ、多くのアマチュア天文家、天文ファンを楽しませた。太陽から遠い位置で発見されたため観測期間も非常に長く、1年以上肉眼で見えたのは記録が残る中では最長と考えられている。
彗星核は直径50km程度と見積もられており、過去に観測された彗星の中でも最大級と推定されている。核からのジェット、ナトリウムの尾、重水素の量、有機化学物質など、非常に多くの発見があり、彗星研究においては画期的な発展となった。公転周期は約2530年。
南天の星座、ケンタウルス座で最も明るいα星(αCen)は3個の星からなる三重連星であり、αケンタウリ星系と呼ばれる。太陽系に一番近い恒星系(距離4.3光年)でもある。αケンタウリA、Bと呼ばれる二つの星が、周期79.9年の実視連星を構成しており、そのまわりをさらに第三の恒星Cが55万年ほどの周期で回っている。
αケンタウリAの固有名はリギル・ケンタウルス(Rigil Kentaurus)。リギルは、オリオン座のリゲルと同じ「足」という意味のアラビア語によっており、実視等級-0.01等、スペクトル型G2Vの太陽によく似た恒星である。Bの固有名はトリマン(Toliman)。実視等級1.35等、K1V型のオレンジ色の星である。未確認ではあるが、2012年と13年に惑星候補BbとBcの発見が報告されている。
Cの固有名はプロキシマ・ケンタウリ(Proxima Centauri)で、プロキシマは「最も近い」という意味のラテン名による。実視等級11.0等でM5Ve型の赤色矮星。AB系から約0.2光年離れたところを回っており、現在,主星よりやや近いので、私たちの太陽系からから最も近い(4.2光年)恒星として有名である。2016年にはプロキシマ・ケンタウリにも惑星Cbが発見された。さらに2019年と20年に相次いで惑星候補Cc、Cdも発見されている。
はじめて発見された、確実な恒星質量ブラックホールを含むX線連星系として有名なX線源。地球からの距離は約1900 pcと推定されている。変光星でもあり、はくちょう座V1357星(V1357 Cyg)という名前もある。X線放射は不規則な時間変動を示すことが知られている。また、VLBI観測によりジェットが噴き出していることが分かっており、マイクロクェーサーにも分類される。
青色超巨星と、太陽質量の20倍程度の質量をもつブラックホールが、周期約5.6日で共通重心の周りを回っていると考えられている。超巨星からブラックホールに物質が強い重力で引き寄せられて降着円盤がつくられ、高温に熱せられてX線を放射し、円盤に垂直方向にはジェットが噴き出していると解釈されている。ブラックホールは毎秒800回転という高速で回転している。
ブラックホール連星、X線連星も参照。
おとめ座銀河団の中心部にある巨大楕円銀河。1781年に出版されたメシエカタログの87番目の天体なので M87と呼ばれる(NGCカタログの番号は4486)。電波源としては「おとめ座A」とも呼ばれ、歴史的には最も初期に可視光で見える天体に同定された銀河系外の電波源の一つである。M87の中心部では中心核に対応するコンパクトなコアとそこから伸びるジェットが、さらにその外側に広がるローブが見える。ジェットは可視光でも観測されており、電波と光の両方の観測からジェットが高速で運動していることが確認されており、このことからも銀河中心核の激しい活動性がうかがえる(活動銀河核)。
イベントホライズンテレスコープ(EHT)は2017年4月に、波長1.3 mmの電波でM87の中心核にある超大質量ブラックホールの観測を行った。このデータを解析したEHTグループは2019年4月にその結果を公表した。EHTチームの発表した電波画像では、ブラックホール周辺の明るい高温のプラズマがドーナツ状に見え(光子リング)、中心にブラックホールシャドウ(暗い穴)として見えている。その質量は太陽質量の65億倍と推定された。このEHTのデータおよびその解析手法は広く世界に公開されているため、EHT以外の研究者が独立に再解析し、EHTが発表した結果についての検証を進めている。2022年6月には別のグループが別の手法で解析した結果、EHTグループの画像とは異なる特徴を持った画像が得られたという研究が報告された。その画像には、中心部分にある「コア構造」と、そこから伸びている宇宙ジェットが見られる。
EHTによるデータの再解析や手法の検討に加え、さまざまな装置での追観測などを通じて、M87の中心にあるブラックホールとそれに付随する構造についての研究が進められている。グローバルミリ波VLBI観測網(通称GMVA)と呼ばれる地球規模の国際電波望遠鏡ネットワークは、2018年4月14日から15日にかけて、EHTより長い波長3.5 mm帯の電波でM87の中心部の詳細な観測を行い、その結果を2023年4月に発表した。その画像には、光子リングの周囲に広がる降着円盤とそこから噴き出すジェットが捉えられている。
2023年9月には、東アジアVLBIネットワーク(EAVN)などの電波干渉計の観測網によって過去20年以上にわたって得られた170枚もの電波画像(波長7 mm帯)を分析した結果、ジェットの噴出方向が約11年周期で変化していることが明らかになった。コンピュータシミュレーションによりこの現象は、周囲の時空を引きずりながら自転しているブラックホールの自転軸と降着円盤の回転軸がずれているために起きる一般相対性理論の効果による歳差運動で説明できることが示された。ブラックホールの自転を観測的に証明した初めての例と考えられる。
M87中心のブラックホールの画像に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2019/20190410-eht.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2022/20220630-m87.html
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230427-gmva.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する国立天文台の発表
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
M87中心のブラックホールの自転の証拠に関する日本EHTグループの発表
https://www.miz.nao.ac.jp/eht-j/c/pr/pr20230928
M87の中心核のブラックホールまでの仮想の旅とブラックホールシャドウの解説(英語)。
イベントホライズンテレスコープ(EHT)による。
https://www.youtube.com/embed/v_Bk2997YMA
M87のブラックホール周辺の科学的シミュレーションCGとイベントホライズンテレスコープによる観測結果の比較
https://youtu.be/zHjWSiSZRmo
 
自転するブラックホールの周りで歳差運動する降着円盤とジェットのCGアニメーション。ブラックホールの自転軸は画面右下に示されているZ軸の方向に固定されている。時間の0:21-0:25の間に、見る向きを変更するためにZ軸方向が変化する。
クレジット:Cui et al. (2023), Intouchable Lab@Openverse, Zhejiang Lab
https://www.nao.ac.jp/news/science/2023/20230928-eavn.html
天体ガンマ線の観測を高感度・高精度で行うために、ヨーロッパ諸国や日本・米国を含む31か国の国際協力により、北半球(カナリア諸島ラパルマ島、標高2200 m)と南半球(チリ・パラナル、標高2100 m)の高地に建設中(2020年現在)の、大規模な大気チェレンコフ望遠鏡アレイ(多数の検出器を配列した装置)の名称。
観測できるガンマ線エネルギー範囲を広くとる(20 GeVから300 TeV)ために、大面積望遠鏡(Large-Sized Telescope: LST)、中面積望遠鏡(Medium-Sized Telescope: MST)、小面積望遠鏡(Small-Sized Telescope: SST)の3種類の大気チェレンコフ望遠鏡(反射鏡の直径はそれぞれ23 m、12 m、4 m )を開発し、ラパルマにはLST 4台(うち1台は2018年から稼働中)とMST 15台、パラナルにはLST 4台・MST 25台・SST 70台を設置する予定である。ガンマ線天文学も参照。
ホームページ:https://www.cta-observatory.org/
ブラックホールとブラックホールの連星系。連星ブラックホールとも呼ばれる。
2015年にLIGO(Laser Interferometer Gravitational-Wave Observatory)で検出された重力波信号は、それぞれが太陽質量の30倍程度のブラックホールからなる二重ブラックホール連星が合体した際に放出されたものと解釈され、その存在が裏付けられた。その後も次々と観測例が見つかっている。2019年5月21日に重力波が観測されたGW190521では、太陽質量の85倍と66倍のブラックホールが合体して142倍のブラックホールが生成され、太陽質量の約8倍に相当するエネルギーが重力波として放出された。
銀河中心核に存在する太陽質量の数百万倍から数億倍の(超)大質量ブラックホールが、銀河合体により連星系となっている(超)大質量二重ブラックホールの存在も指摘されているが、まだ観測的には十分に確認されているとは言えない。
重力波も参照。
合体するブラックホールとその周りの空間のゆがみ。
クレジット: SXS (Simulating eXtreme Spacetimes) プロジェクト
https://www.black-holes.org/
https://www.youtube.com/embed/1agm33iEAuo
