天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

X線連星系

 

よみ方

えっくすせんれんせいけい

英 語

X-ray binary

説 明

通常の恒星中性子星ブラックホールなどの高密度星との近接連星系で、相手の星から高密度星への質量降着で強いX線放射されるもの。近接連星系の一方が巨星となりロッシュローブを超えて膨張すると、伴星への質量移動が起こる。
伴星が比較的小質量星の場合、物質は星の周りに形成される降着円盤を経て星の表面に落下する。これは小質量X線連星系(Low Mass X-ray Binary, LMXB)と呼ばれる。伴星が重い星(早期型星)の場合、星の表面からは絶えずガスが放出されている(星風という)。星風は一般に、星の質量が大きいほど大きい。このガスの一部が高密度天体に捕えられると、やはり高密度天体の周りに降着円盤ができて、高密度天体はX線で明るく輝く。これが大質量X線連星系(High Mass X-ray Binary, HMXB)である。はじめて確実なブラックホール候補となったはくちょう座X-1(Cyg X-1)は大質量X線連星系である。
これから分かるように、X線は恒星質量ブラックホールの候補を見つけるための極めて有効な手段である。X線連星系を発見し光学対応天体が同定され、スペクトルから連星の軌道周期などが分かれば、質量の推定ができブラックホールかどうか判定できる。1970年代の初めから世界中でほぼ途切れることなくX線天文衛星による観測が続けられ、2022年現在銀河系天の川銀河)内で70個近くのブラックホール候補が発見されている。これらのうちの35個については銀河系内の分布が分かっている。
またチャンドラ衛星のような角度分解能の高いX線天文衛星で銀河を観測すると、多数の点状X線源が見られる。これらはブラックホールか中性子星を含むX線連星系である。

2022年07月11日更新

この用語の改善に向けてご意見をお寄せください。

受信確認メール以外、個別のお返事は原則いたしませんのでご了解ください。

    関連画像

    画像をクリックすると拡大されます

    大質量X線連星系Cyg X-1の想像図。左側の大質量の青色超巨星(HDE 226868)から、星風で放出されたガスが右側のブラックホールに吸い込まれている。ブラックホール周辺の降着円盤が高温になってX線で輝く。
    https://apod.nasa.gov/apod/ap080811.html
    クレジット: 2004 European Space Agency, http://www.spacetelescope.org
    銀河系(天の川銀河)で発見されたブラックホール候補の累積数の変化。「確認済」は力学的な観測から質量が求まっているもの。英文字とその下の横棒はX線天文衛星の名称とその観測期間。
    出典 https://www.astro.puc.cl/BlackCAT/
    ここにある図のラベルを日本語にした。
    銀河系中の35個のブラックホール(赤丸)と候補(星形)の分布。太陽は円の中に黄丸のマーク。線は距離の不確かさを示す。
    Corral-Santana et al. 2016, A&A, 587, A61 の図に太陽マークを書き込んだ。
    銀河系中の35個のブラックホールの天球上の分布。
    Corral-Santana et al. 2016, A&A, 587, A61 の図の一部を抜粋。
    ソンブレロ銀河(M 104)のX線、可視光、赤外線の画像(右)を合成して作成された画像。X線はチャンドラ衛星、可視光はハッブル宇宙望遠鏡、赤外線はスピッツアー宇宙望遠鏡によるデータ。X線点源はブラックホールか中性子星を含むX線連星系である。
    https://www.messier-objects.com/messier-104-sombrero-galaxy/ の図に日本語ラベルを追記。