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ダークエネルギー分光装置(DESI)

 

よみ方

だーくえねるぎーぶんこうそうち

英 語

The Dark Energy Spectroscopic Instrument (DESI)

説 明

キットピーク国立天文台の口径4 mメイヨール望遠鏡主焦点用の広視野主焦点補正光学系とともに開発された、約5000本の光ファイバーをもつ多天体分光器(Dark Energy Spectroscopic Instrument: DESI; デジーと発音される)システム。約110億年昔(赤方偏移にしてz~2.3)から現在までの宇宙膨張の歴史を描き出すことにより、ダークエネルギーの理論モデルを検証することを主目的とするサーベイ観測のために開発された。

DESIサーベイでは、全天の約1/3にあたる14000平方度の天域を観測し、そこにある約3000万個の銀河のスペクトルを取得して銀河およびクェーサーの赤方偏移を測定する。赤方偏移から各銀河とクェーサーまでの距離を推定して、それらの三次元分布(宇宙地図)を作成する。その三次元分布の詳しい解析から、宇宙において天体の距離を測る標準尺となるBAOスケール、すなわちバリオン音響振動(BAO)が銀河分布に刻み込んだパターン(BAOバブル)の大きさ、の観測から宇宙膨張の歴史を描きだす。

可視光の検出装置が写真乾板からCCDに代わった新世代の銀河サーベイと見なされたスローンデジタルスカイサーベイ(SDSS)を、望遠鏡の口径と多天体分光器のチャンネル数および技術進歩による効率化で凌駕する大規模サーベイである。5年間を予定している主観測は2021年5月に開始された。2022年に大規模な山火事があったが幸いにも望遠鏡と装置に被害はなかった。最初の1年分の観測データは2025年3月に公開され(DR1)、その後のデータも含めた初期成果も公表された。観測は2028年まで継続される予定である。

DESIサーベイの分光対象を選び出すために、チリのセロトロロ汎米天文台の口径4 mのブランコ望遠鏡と、キットピーク天文台の口径2.3 mのBok望遠鏡とメイヨール望遠鏡の3つの望遠鏡による三色(g, r, zバンド)での撮像サーベイ観測が行われた。それらから選び出された分光対象は以下のカテゴリーに分かれている。
(1) 約20等より明るい銀河(BG: z=0.4 まで; 月のある夜でも観測できる)
(2) 明るい赤色銀河(LRG: z=1 まで)
(3) 輝線銀河(ELG: z=1.6 まで)
(4) クェーサー(z=3.5 程度先まで)
(5) クェーサーのスペクトルに見られるライマンα雲(2.1<z<3.5)
(6) 天の川銀河銀河系)内の恒星(ダークエネルギーの研究とは別の目的)

新たな補正光学系を備えたメイヨール望遠鏡の主焦点の視野直径は3度である。DESIは、その焦点面で5000個の光ファイバー端を制御するロボット式ファイバーポジショナー、天体の光を分光器まで送る長さ50 mの5000本の光ファイバー、10台の分光器、それらを制御する制御系およびデータ解析システムなどからなる巨大なシステムである。新しい視野を観測するためファイバーポジショナーが5000本のファイバー端の配置換えを行うのに必要な時間はわずか3分である。10台の分光器は主焦点のはるか下のドーム床にある温度制御された部屋に置かれている。各分光器は入射光を青(${\small 360<\lambda<555\,{\rm nm};R= 2,000-3,200}$)、赤(${\small 555<\lambda<656\,{\rm nm};R= 3,200-4,100}$、赤外(${\small 656<\lambda<800\,{\rm nm};R= 4,100-5,000}$)の3つの波長帯に分けてスペクトルを記録できる(${\small\lambda}$ は波長、${\small{R}}$波長分解能)。

DESIは、オーストラリア、中国、コロンビア、フランス、ドイツ、韓国、メキシコ、スペイン、スイス、イギリス、アメリカなど世界各国の70を越える研究機関に属する450名以上の研究者からなる国際共同研究の成果である。装置の建設費用は主にアメリカ合衆国エネルギー省科学局とアメリカ国立科学財団(NSF)、イギリス、フランス、メキシコの科学技術担当局、ゴードン・アンド・ベティ・ムーア財団、ハイジング・シモンズ財団、及び多数の協力機関によって賄われた。DESIサーベイの運用は、エネルギー省科学局の資金によりローレンス・バークレイ国立研究所が行っている。

2025年3月19日に公開されたデータ(DR1)には、約1310万個の銀河、160万個のクェーサー、および4万個の恒星のスペクトルが含まれる。この初期データは現在の標準宇宙モデルであるΛCDMモデルと合致するものであったが、ダークエネルギーの影響が時間とともに弱まっている兆候がはじめて検出されたことで、学界に多くの議論を巻き起こしている。近く公表が予定されているより精度の高い報告が待たれている。
ホームページ
https://www.desi.lbl.gov/
レガシーサーベイのビューワー
https://www.legacysurvey.org/viewer


DESIの観測データから作られた数百万銀河の分布する空間を旅する動画。Fiske Planetariums による。

https://www.youtube.com/embed/fQkFS5yot5I?si=lzsof88JL-ZT1twc"

2025年07月01日更新

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    DESIのサーベイ領域。赤緯が-18° < δ < +84°で銀緯 |b| >15°の約14,000平方度。3台の望遠鏡で分担して行われた分光天体を選び出すための撮像サーベイの略号が示されている:ブランコ望遠鏡(DECaLS)、キットピーク天文台の口径2.3 mのBok望遠鏡(BALS)、メイヨール望遠鏡(MzLS)。
    https://www.desi.lbl.gov/imaging-surveys/
    DESIのハードウェア(1)。出典は各画像に明記。
    DESIのハードウェア(2)。出典は各画像に明記。
    DESIサーベイによるこれまでで最大の3次元宇宙地図(ウェッジダイアグラム)。地球は中心にあり、一つ一つの点が銀河を表している。データがない楔形部分は天の川銀河(銀河系)のダークレーン(星間ダスト)のために銀河系外の銀河が観測できない領域。
    https://www.desi.lbl.gov/2025/03/19/more-than-a-hint-of-evolving-dark-energy-new-results-and-data-from-desi/
    (Credit: DESI collaboration and KPNO/NOIRLab/NSF/AURA/R. Proctor)

    DESIの最初の公開データが示す数10億光年先までの宇宙地図(ウェッジダイアグラム)。近傍銀河(BG: 黄色)、明るい赤色銀河(LRG: 橙色)、輝線銀河(ELG: 青色)、クェーサー(緑色)が色分けされている。最も観測データ密度の高い領域(拡大図)では宇宙の大規模構造の様子がよく見える。ここに示された領域はDESIサーベイ領域の0.12%にも満たない。
    https://news.osu.edu/new-desi-results-strengthen-hints-that-dark-energy-may-evolve/
    Credit: Claire Lamman/DESI collaboration
    スローン・デジタルスカイサーベイ(SDSS)とDESIの初期データによるウェッジダイアグラムの比較。右図には40万個の銀河しか示されていないが、DESIは最終的には3000万個以上の銀河のデータを取得する。
    https://noirlab.edu/public/images/comparisons/noirlab2203a/
    Credit: D. Schlegel/Berkeley Lab using data from DESI
    Acknowledgment: M. Zamani (NSF's NOIRLab)
    今から30億年から110億年昔までの宇宙史の7つの時点におけるBAOスケール(BAOバブルの大きさ)の測定結果。DESIサーベイの3年間の観測データから得られたもの。ΛCDMモデルとほぼ合致しているが、ダークエネルギーの影響が時間とともに弱まっている兆候がはじめて検出された。
    https://www.desi.lbl.gov/2024/04/04/first-cosmology-results-from-desi-most-precise-measurement-of-the-expanding-universe/ にある図に日本語ラベルを補足。
    原図Credit: Arnaud de Mattia/DESI collaboration