グスタフ・キルヒホッフ(Gustav Robert Kirchhoff;1824-87)はドイツの物理学者、化学者。ケーニヒスベルク(現在のロシア/カリーニングラード)で生まれ、ケーニヒスベルク大学で学び、学生時代にオームの法則を拡張した電気法則を提唱、1849年に電気回路におけるキルヒホフの法則としてまとめ上げた。1850年にブレスラウ大学員外教授に就任、ロベルト・ブンゼン(R. Bunsen)とともに、分光学研究に取り組み、セシウムとルビジウムを発見した。1859年には黒体放射におけるキルヒホッフの(放射)法則を発見した。
フラウンホーファー(J. von Fraunhofer)が発見した太陽光スペクトルの暗線(フラウンホーファー線)は、太陽の光球から放たれた光がその周囲にある太陽大気中の各種元素によって吸収された結果であると説明した。また、フラウンホーファーのD線がナトリウムによる吸収線であることも明らかにするなど、物理学や化学のさまざまな分野で多くの偉大な業績を上げた。
1862年にイギリス王立協会ランフォード・メダル、1876年にはドイツ国立アカデミー・レオポルディーナのコテニウス・メダルを受賞している。
参考:https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Kirchhoff/
オイラー(Leonhard Euler;1707-1783)はスイスの数学者、物理学者、天文学者。人並み外れた記憶力と計算力を持っていた数学の巨人。バーゼルに生まれ、1720年バーゼル大学に入学、ベルヌーイ(Johann Bernoulli)に数学の才能を見出される。1727年にロシアに渡り、サンクトペテルブルク・アカデミーで職を得、1734年に結婚するが、1738年頃に右目の視力を失った。1741年にドイツのベルリンへ移り、1766年には再びロシアへ戻ったが、その直後に両目とも失明、しかし研究意欲は衰えることなく、人類史上最多の論文を書いたと数学者と言われている。76歳でサンクトペテルブルクで没した。
数学のあらゆる問題に関係し、それらを再構成した。解析学では、無限級数への展開、その和、収束などを研究した。三角法では三角関数を導入し、指数関数との関係(オイラーの公式)を見出した。また、ネイピア数(オイラー数とも言う)2.71828…を e という記号で表わし、円周率3.14159…を π としたのも彼であった。β関数やΓ関数もオイラーによって導入されている。また、幾何学への貢献も大きく、二次曲線と円錐曲線の関係や、三次元空間での二次曲線が作る曲面などの考察を行なった。力学や流体力学では、力を再定義し、解析的な形で運動方程式を与えた。剛体の運動に登場する「オイラーの運動方程式」や「オイラー角」、流体の運動方程式の定式化でも有名である。天文学では1744年に出版された 「Theoria Motuum Planetarum et Cometarum(惑星と彗星の運動論)」、1772年の「Theoria Motuum Lunae(月の運動論)」などがあり、三体問題の考察を行なった。
参考:https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Euler/
複数の炭素原子が直線状に連なった「炭素鎖分子」は、星間分子の分光で発見された宇宙に特有の分子種族である。野辺山宇宙電波観測所の45 m宇宙電波望遠鏡の分光装置や最近ではアルマ望遠鏡の電波分光計による観測的研究で大量のスペクトル線データが取得され、化学反応モデルとの検証も進められている。エチニルラジカル(CCH)、チオキソエテニリデン(CCS)、シアノアセチレン(HC3N)、シアノジアセチレン(HC5N)などHC11Nまでが確認されている。地上で見られる飽和炭素鎖分子と異なり、低温低密度の星間空間では多重結合を持つ不飽和炭素鎖分子の存在が特徴的で、その反応過程の研究対象となっている。星間化学も参照。
ハッブル定数の緊張のこと。
宇宙初期、具体的には宇宙の晴れ上がり時点(宇宙誕生から約38万年後)、から我々に届く宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のデータを基に構築された宇宙モデルが与えるハッブル定数と、そこから138億年経過した現在の宇宙の観測から決められるハッブル定数の間に、観測誤差を大きく越える食い違いがあることを指す言葉。英語をそのまま使って「ハッブルテンション」とも言う。
銀河の3次元分布(宇宙の大規模構造)の観測や宇宙マイクロ波背景放射の等方性の観測などから、宇宙空間は数100メガパーセク以上の十分に大きなスケールで平均してみると、近似的に一様等方とみなすことができる。現代宇宙論は、これらの観測により一様等方空間が等方的に膨張しているという時空モデル(ロバートソン-ウォーカー計量に基づくモデル)をもとに構築されている。多くの観測事実をよく説明ができ、現時点で標準宇宙モデルとされているのはΛCDMモデル(Λは宇宙定数もしくはそれを拡張したダークエネルギーを表す略号で、CDM は冷たいダークマターの英語Cold Dark Matterの略号。CDMモデルも参照)である。
ハッブル定数(以下では $H_0$ と表す)は宇宙の現在の膨張率を表すパラメータであるが、その決定方法は大きく分けて二種類ある。一つは、現在に近い宇宙(銀河系=天の川銀河からそれほど遠くない宇宙空間)にある銀河や銀河団などの観測から宇宙モデルを用いることなく直接ハッブル定数を決定する方法である。最も基本的な手法は、それがハッブル-ルメートルの法則( $v = H_0\,r$ )の比例定数であることを利用する。基本的には、現在に近い宇宙にある銀河の後退速度 $v$ をスペクトルの赤方偏移から測定し、距離はしごを用いて銀河までの距離 $r$ を求めれば、両者の割り算( $H_0 = v/r$ )からハッブル定数が求まる。実際には、銀河の特異運動やコスミックバリアンスの影響を避けるために、多数の銀河に対する平均値を求める必要がある。距離はしごで用いるさまざまな標準光源のなかで、最も遠方まで届き $H_0$ の決定に重要なものはⅠa型超新星である。Ⅰa型超新星まで届く距離はしごはセファイドや赤色巨星分枝の先端にある星の明るさなどの近傍銀河で使える距離指標に基づいて較正(calibration:目盛り付け)をする必要がある。この手法以外にも、最近では強い重力レンズによるクェーサーの二重像の時間変化における変光時間ずれ、活動銀河核のメーザー天体の運動、重力波の観測などから $H_0$ を決める方法なども開拓されてきている。
これに対して、宇宙マイクロ波背景放射に基づく方法からも $H_0$ を正確に測定できる。晴れ上がり前の宇宙では、光子とバリオン(通常の物質)が相互作用のために一つの流体として振る舞い、疎密波の音波モードが存在した。この疎密波はバリオン音響振動(BAO)と呼ばれる。この音波に対応する波長は、宇宙マイクロ波背景放射で精密に測定されており、宇宙において大きさを測る「標準ものさし」(英語ではstandard ruler)を与える。このものさしは、晴れ上がり後にできる銀河の分布にも刻み込まれるので、標準ものさしの長さを反映して分布する銀河のあいだの見かけの離散角、あるいは赤方偏移の偏差から、宇宙論距離が測定でき、宇宙膨張の歴史が(したがってハッブル定数も)求められる(バリオン音響振動を参照)。
ただし、この方法はインフレーションが予言する宇宙の初期条件など初期宇宙の物理の仮定に基づいており、宇宙のモデルに依存した方法になっている。このバリオン音響振動の測定から求められた $H_0$ と、上記の方法で現在に近い宇宙の観測からモデルに関係なく求められた $H_0$ の間に有意な違いがあれば、ΛCDMモデルに基づく我々の宇宙進化に関する現在の理解に何らかの未知の物理が介在している可能性がある。
宇宙マイクロ波背景放射の観測が、COBE衛星、WMAP衛星、プランク衛星、および地上からの観測により精度が飛躍的に高まるのとほぼ同期して、現在に近い宇宙の観測もその精度を格段に高めつつある。ハッブル定数の緊張が話題に上り始めた2017年頃までの状況はハッブル定数の項目に記述されている。同項目の図4を本項目の図1として再掲してある。図2は図1と同じ形で2022年までのデータを含めたものである。2017年当時は「緊張」の度合は3σレベル(違いが偶然起きたのだとすれば1000回に1回程度の確率)であった。
図2と図3に2022年時点での状況を示す図を掲げる。僅か5年程度の間に莫大な数の研究が進んだことが分かる。観測精度が上がって不確かさ(誤差)が小さくなり、この時点でハッブル定数の緊張の度合は5σ以上のレベル(偶然の結果であれば100万回に1回以下程度の確率)となっている。現在の標準モデルとはいえ、ΛCDMモデルに基づく宇宙の進化には、まだ確認できていないダークエネルギーとダークマターの性質、ニュートリノや他の相対論的な粒子の性質、インフレーションの時期と性質などの仮定があるため、ハッブル定数の緊張は、現代の宇宙論・物理学の最重要課題の一つとして近年、観測と理論の双方から精力的な研究が進められている。
ハッブル定数の緊張と同様に、初期宇宙と現在に近い宇宙とのあいだで食い違いの兆候を見せるのが、宇宙における「構造形成の成長度合いを特徴付けるパラメータ(S8)」 である。この値が大きいほど、現在の宇宙で構造形成が進んでいる(すなわち物質の粗密のむらが大きい)。宇宙マイクロ波背景放射のデータが示唆するΛCDMモデルを現在まで進化させれば、現在の宇宙のS8の値を求められる。一方現在に近い宇宙では、宇宙大規模構造に伴う弱い重力レンズ効果、銀河分布の2点相関関数やパワースペクトル、銀河団の個数密度などから、より直接的にS8の値を求められる。図4に2022年時点での状況を示す図を掲げる。弱い重力レンズ効果の観測にはすばる望遠鏡のハイパーシュプリームカム(HSC)も重要な貢献をしている。この「S8の緊張」が「ハッブル定数の緊張」と同じ(未知の)原因によるのか、それとも全く独立の原因による現象なのかはまだ分かっていない。
現在に近い宇宙から求まるハッブル定数の観測値が深刻な矛盾をはらんだことは過去にもある。ハッブルが1929年の論文で求めた$H_0\sim500$ [km s-1 Mpc-1]に対応する宇宙年齢は約20億年だった。その頃、放射年代測定(放射性元素を参照)から推定される地球の年齢はどんどん古くなっており、1940年代には20億年を越えることが確実となった。これは深刻な問題であった。その後の研究で恒星には二つの種族があることが分かり、セファイドを含む変光星の周期-光度関係が見直された。ハッブルが銀河の写真で恒星とHⅡ領域を見誤ったものがあることも含めて、ハッブルによる銀河の距離推定が5倍程度間違っていたことが分かり問題は解決した。次は1990年代で $H_0\sim70-90$ がほぼ確実視された頃である。対応する宇宙年齢は140-110億年となる。このときは、銀河系の球状星団中の最も古い星の年齢が宇宙年齢を超えるという深刻な問題が持ち上がった。この問題は1998-2000にかけて宇宙の加速膨張が発見されて解決した。このように考えると現在は「第3のハッブル定数の緊張」の時代といえるのかも知れない。過去2回の「緊張」はいずれも画期的な発見をもたらしたが、今回はどのような展開が見られるだろうか。
(現時点では)ΛCDMモデルを指す。
ハッブル宇宙望遠鏡(1990年打ち上げ)の運用と関連分野の研究発展のために、アメリカ合衆国メリーランド州ボルチモアのジョンズ・ホプキンス大学ホームウッドキャンパス内に1981年に設立された研究所。全米天文学大学連合(AURA)によって運営されている。
現在はハッブル宇宙望遠鏡の後継機であるジェイムズウェッブ宇宙望遠鏡も運用し、2027年打ち上げ予定のローマン宇宙望遠鏡の運用も行う予定である。さらにアメリカ航空宇宙局(NASA)のさまざまな天文観測衛星のデータを統合した宇宙望遠鏡のためのデータアーカイブMAST(Mikulski Archive for Space Telescopes)を運用している。運用だけでなく、所属する多数の研究者が多くの共同研究をリードし、ハッブルフェローシップをはじめとするいくつかのフェローシップで若手研究者を集め、宇宙望遠鏡による研究の国際的推進に貢献している。
このような活動に加えて、宇宙に関するさまざまな情報をインターネット上や学校、プラネタリウム、科学館、さらには一般市民に提供する広報活動も活発に行っている。
ホームページ
https://www.stsci.edu/
MASTホームページ
https://archive.stsci.edu/
アメリカの地上天文観測に関わる組織を運用する中枢的な研究所。現在はNOIRLabが正式名称となっている。
1984年にアメリカ国立科学財団が、全米天文学大学連合によって運営されていたキットピーク国立天文台とセロトロロ汎米天文台の運用を統合してアメリカ国立光学天文台を設立した。その後、キットピーク国立天文台の3.5-m WIYN 望遠鏡(1994)やセロトロロ汎米天文台の4.1-m SOAR望遠鏡、2台の8.1-mジェミニ望遠鏡(2001)などが新たに加わり、ベラルービン天文台も建設の運びとなったため、それらのデータを包括的に扱う組織(コミュニティ科学データセンター)を含めて全体を統括するNOIRLabが2019年に設立された。現在NOIRLabが運用するのは、キットピーク国立天文台、セロトロロ汎米天文台、国際ジェミニ天文台(ジェミニ望遠鏡を参照)、コミュニティ科学データセンター(the Community Science and Data Center (CSDC))、およびベラルービン天文台である。
ホームページ
https://noirlab.edu/public/about/
NOIRLabに至る歴史
https://noirlab.edu/public/about/history-of-noao/
最先端の観測装置を用いて天文学研究を大きく前進させることを目標にして、天文学の教育研究を行うアメリカの8つの大学と研究機関によって1957年に設立された組織。略称のAURAが広く用いられている。
現在は49の大学/研究所と3つの国際パートナーからの約1700人を擁する天文学推進のための一大組織である。アメリカの天文学研究に関わる3つの大きなセンターを運用している。地上観測のセンターは、アメリカ国立科学財団(NSF)との協力で運営するアメリカ国立光学赤外線天文学研究所(NOIRLab)とアメリカ国立太陽天文台(NSO)、また宇宙からの観測のセンターは、アメリカ航空宇宙局(NASA)との協力で運営する宇宙望遠鏡科学研究所(STScI)である。
ホームページ
https://www.aura-astronomy.org/about/
アメリカ合衆国の科学・技術を振興する目的で1950年に設立された連邦機関。略称のNSFが広く用いられている。
アメリカ国立衛生研究所(NIH)が管轄する医学分野以外の幅広い科学・工学分野に対する支援を行っている。理事長と副理事長は大統領によって選ばれ、上院で承認を得る必要がある。米国の大学における基礎研究に対する連邦政府からの支援の約20%を担当している。
「生命科学」、「コンピュータおよび情報科学・情報工学」、「工学」、「地球科学」、「数学及び物理学」、「社会科学・行動科学・経済学」、「教育・人的資源」の分野に対して支援を行う。天文・宇宙科学は主に「数学及び物理学」分野で支援を受けている。
ホームページ https://www.nsf.gov/
ゲージ相互作用(ゲージ理論を参照)によって素粒子間に働く力を媒介する粒子のこと。ゲージボソンとも呼ばれる。スピン1を持つボース粒子であり、ベクトル場によって記述される。素粒子の標準模型のゲージ粒子には、電磁気力(電磁相互作用)を媒介する光子、弱い力(弱い相互作用)を媒介するウィークボソン(WボソンとZボソン)、強い力(強い相互作用)を媒介するグルーオン(量子色力学を参照)がある。重力を媒介するゲージ粒子である重力子は未発見である。四つの力も参照。
ビッグバン直後に起きたビッグバン元素合成による軽元素の元素存在度、および宇宙マイクロ波背景放射(CMB)のパワースペクトルから制限される宇宙におけるバリオン(通常の物質)の量(宇宙の臨界密度の約5%)に対して、現在の(近傍の)宇宙で観測されるバリオンの量が少ないという矛盾を指す言葉。現在の宇宙に観測されていないバリオンがあることを意味するので、ミッシングマスにちなんでそれをミッシングバリオンまたはダークバリオンという。
現在の標準宇宙モデルによると、宇宙はダークエネルギー(約69%)、ダークマター(約26%)、バリオン(約5%)から構成されている。2012年時点での調査によると、この5%のバリオンのうちで、重力の影響で塊となって存在する銀河、銀河を包み込む銀河周辺物質、および銀河団内にある銀河間物質は約18%、塊ではなく広く広がった温度103-105 Kと比較的低温度の銀河間物質が約28%、それより高温(105-107 K)の中高温銀河間物質(Warm and Hot Intergalactic Medium: WHIM)が約25%で、残りの約29%が観測されていないミッシングバリオンである(図参照)。
宇宙の構造形成のコンピュータシミュレーションから、広がったWHIMは宇宙の大規模構造に沿って分布していると考えられている。プラズマ状態にあるWHIMはその温度から、紫外線から軟X線にかけての電磁波が観測に適しているが、薄く広がっているので技術的に検出が難しい。WHIMに含まれる重元素の輝線や、活動銀河核など明るい背景天体のスペクトルに見られる吸収線などの観測を通してその組成や分布を研究することはXRISM衛星を含むX線天文衛星の重要な目的の一つである。
2020年に発表された、高速電波バースト(FRB)から測定される銀河間空間における分散量度と赤方偏移の相関関係の発見(図参照)により、宇宙には予想通り約5%のバリオンがあり、その内の約80% (ミッシングバリオンを含む) が銀河間プラズマとして存在していること自体は明らかとなった。分散量度は宇宙の電子の柱密度に比例し、高速電波バーストはこれを直接測定しているので、銀河間プラズマからの放射を直接捉えて分布を描きだしたわけではないが、ミッシングバリオン問題は解決した(ミッシングバリオンはない)と考えられている。
丙午(ひのえうま)は干支の一つ(43番目)である。「丙午の年に生まれた女性は気性が激しすぎて夫を不幸にする」という科学的根拠のない迷信の影響で、丙午の年である明治39(1906)年生まれの女性には、将来を悲観して自殺するなど多くの悲劇が起きた。
中国では「丙午」と「丁未」の年は天災が多いと言われていたが、それが江戸時代初期に「丙午の年には火災が多い」という根拠のないうわさに変わったことがもとだと言われている。17世紀の文献には、「丙午の男は妻を殺し、女は夫を殺す」などとあり、男女の区別はない時代もあったらしい。ところが、天和3年(1683年)に江戸で放火事件を起こし処刑された「お七」という女性のことを、「八百屋お七」の物語として井原西鶴が浮世草子に書いた貞享3年(1686年)以降、お七は丙午の生まれとされた(諸説ある)ことから、女性の結婚と出産に関する強い迷信となったといわれている。
人口1万人あたりの出生数でみると1906年の丙午は前年の311.62人から296.42人まで5%低下している。次の丙午の1966年には、前年の185.57人から137.42人まで26%も急減している。5%しか低下しなかった1906年との大きな違いは、簡便な避妊方法の普及により出生を調節できた影響が大きかったと考えられている。2026年に次の丙午が巡ってくる。
大阪教育大の2022年度卒業論文に、丙午に関するアンケート調査を行ったものがある(注1)。その論文によると、1966生まれの142人(うち女性56%:当事者)と18-25歳の大学生210人(うち女性83%)に尋ねた結果、当事者の半数近くが「丙午生まれで嫌な思いをしたことがある」と答えたが、「結婚や出産を避けるべきだ」と考える人は1%で、否定的にとらえている人はほとんどいなかった。一方若い大学生では、言葉も意味も理解している人は11%であったが、迷信を伝えた上で信じるかどうかを尋ねると23%が「信じる」とし、女性の37%は丙午の出産を「気にする(避けたい)」と答えた。また、2026年に「出生数が低下する」と考える人は60%に上った(注1)。
科学的根拠の全くない迷信でもいったん広く信じられてしまうとその払拭には長い時間がかかることが分かる。インターネットを通じて誰でも簡単に情報発信できる時代になった。偽情報や悪意のある情報は言うまでもないが、科学的根拠のない話や迷信を不用意に拡散させることがないよう十分留意すべきである。
注1:大阪教育大学 https://osaka-kyoiku.ac.jp/university/kouhou/detail.html?pno_5657=2 (2023.04.06)
読売新聞オンライン https://www.yomiuri.co.jp/local/kansai/news/20230405-OYO1T50028/
ニュートンが「プリンキピア」の中で述べているニュートンの運動法則、およびニュートンの万有引力の法則を基礎とし、確立された力学体系。
ニュートンの運動法則は、全3巻からなる「プリンキピア」の第2巻で述べられており、物体の運動に関する以下の3法則よりなる。
第1法則: 力が作用していない物体は、静止または等速直線運動を続ける。
第2法則: 物体の運動量の変化は作用する力に比例する。また、その方向は力の方向に起こる。
第3法則: 二つの物体が力を及ぼしあうとき、働く力は大きさが等しくかつ向きが反対である。
第1法則は、「慣性の法則」とも呼ばれている。慣性とは、力を受けていない物体が初速度を保とうとする性質のことである。したがって、力が作用していない物体の初速度が0の場合は静止を続け、初速度が0でない場合は等速直線運動を続ける。この法則は、第2法則において、作用する力が0の特別な場合にすぎないとの見方もある。しかし第1法則は、静止または等速直線運動が成り立つ座標系(慣性系という)を選び出す条件を示しているという点で重要である。
第2法則は「運動の法則」ともいわれている。運動量は、質量 $m$ の天体が速度 $\boldsymbol{v}$ で運動しているとき、方向が $\boldsymbol{v}$ で大きさが $mv$ で表わされるベクトルである。そこで作用する力を $\boldsymbol{F}$と書くと、第2法則は
$$\boldsymbol{F}= m \frac{d\boldsymbol{v}}{dt} = m\frac{d\boldsymbol{r}^2}{dt^2} $$
または
$$\boldsymbol{F}= \frac{d\boldsymbol{p}}{dt} $$
と表現できる。ここで $m\boldsymbol{v}$ は運動量 $\boldsymbol{p}$ である。この常微分方程式をニュートンの運動方程式という。初期条件として、天体のある時刻における位置と速度を与えれば、運動方程式から任意の時刻の運動の状態を定めることができる。速度 $\boldsymbol{v}$ の変化 $d\boldsymbol{v}/dt$ は加速度 $\boldsymbol{a}$ であることから、運動方程式は
$$\boldsymbol{F}= m\boldsymbol{a} $$
となる。
第3法則は「作用反作用の法則」とも呼ばれている。物体1が物体2に力 $F_{12}$(作用)を及ぼしているとすると、同時に、物体2は物体1に力 $F_{21}$(反作用)を及ぼしている。このとき、二つの力の間には $F_{12}$=− $F_{21}$ が成り立つ。ニュートン力学では、力が及ぶ時間は瞬間であるとしている。力が空間を有限な時間をかけて伝わる場合は、作用反作用の法則は成り立たず、運動量保存則に置きかえなければならない。
一方、ニュートンの万有引力の概念は「プリンキピア」の第二版において追加された。ニュートンは、まず、ケプラーの第1法則の「惑星は太陽を焦点とする楕円軌道上を運動する」ことに着目した。惑星の運動は楕円運動をしていることから、静止または等速直線運動ではない。そこで第一法則より、惑星には力が作用していることがわかる。さらに、ケプラーの第2法則「太陽と惑星を結ぶ動径が単位時間内に掃く面積は一定である」ことから、惑星に作用する力は、太陽を向く中心力である。惑星が太陽のまわりを楕円運動するために働く中心力には、太陽からの距離に比例する力と、太陽からの距離の2乗に反比例する力の二つが考えられる。前者の力の場合、太陽は楕円軌道の中心に位置することになる。一方、後者の力の場合は、太陽は楕円軌道の焦点に位置する。実際の惑星は、ケプラーの第一法則より、太陽を焦点とする楕円運動をしている。以上から、ニュートンは、惑星に作用する力は、太陽からの距離の2乗に反比例することを発見した。さらに、ケプラーの第3法則の「公転周期の2乗は軌道長半径の3乗に比例する」ことに矛盾しないようにするため、惑星に働く力は、太陽からの距離の2乗に反比例し、太陽の質量と惑星の質量の積に比例すると結論づけた。この結論を「ニュートンの万有引力の法則」という。太陽と惑星の質量をそれぞれ $M$、$m$ とし、太陽と惑星の間の距離を $r$ とすると、惑星に作用する力 $F$ は、
$$F = G \frac{mM}{r^2} $$
と表わされる。ここで、Gは万有引力定数である。このように、ニュートンの万有引力の法則は、ケプラーの法則とニュートンの運動の法則を組み合わせることで得られる。
ニュートンは木から落ちるりんごを見て万有引力の法則に気づいたという逸話がある。この話の真偽は定かではないが、ニュートンはこの法則が天体間だけではなく、地上のあらゆる物体間においても成り立つことにも言及している。20世紀になり、原子スケールの粒子や光速に近い速さの物体の運動は、ニュートン力学では説明できないことがわかってきた。これらの運動を解釈するために発展した分野が、波動方程式により記述される量子力学と、アインシュタインの相対性理論が基礎となる相対論的力学である。この二つの分野に対して、ニュートン力学は「古典力学」と呼ばれるようになった。
コラプサーを参照。
重力崩壊した星のこと。崩壊星とも呼ぶ。昔は、星が重力崩壊した後に残るもの、つまり今でいうブラックホールのことを指す言葉として使われていた。最近では、ガンマ線バーストや爆発エネルギーの大きい超新星などのコラプサーモデルの崩壊星を指すときに良く使われる。
コラプサーモデルでは、太陽の10倍程度より重い星が重力崩壊したときに、中心からジェットや円盤風を放出して、ガンマ線バーストや極超新星爆発を起こす。星が重く回転が速いので、中心にブラックホールと降着円盤ができて、ジェットや円盤風を駆動すると考えられている。ブラックホールではなく、マグネターなどの中性子星が中心エンジンの役目を果たす可能性もある。
ロングガンマ線バーストに対するコラプサーモデルの妥当性は、いくつかのロングガンマ線バーストと同時に超新星爆発が発見されたことで決定的となった。最初に発見されたGRB980425に付随する超新星SN1998bwは爆発エネルギーの大きな極超新星であった。ただし、ロングガンマ線バーストに付随する超新星でも通常のエネルギーのものも観測されている。これらは主にⅠc型超新星である。このことは、コラプサーの親星が水素外層やヘリウム外層をもたず、それらが吹き飛んだウォルフ-ライエ星のような構造をもつことを示唆する。親星に水素外層があるとⅡ型の超新星になるが、ジェットが外層を突き破れずガンマ線バーストにならない可能性がある。ロングガンマ線バーストの母銀河は金属量(重元素量)が少なく、太陽組成の10%程度以下であることが、残光の吸収線の観測などから示唆されている。
太陽質量の約8倍以上の大質量星が進化の最後に起こす大爆発。超新星の分類ではⅡ型、Ⅰb型、Ⅰc型である。この中で親星の外層が剥ぎ取られた後で爆発したものは水素欠乏型超新星(stripped-envelope supernova)と呼ばれることもある。
天文単位を表す記号。以前は大文字 AU などが使われたが現在の正式表記は小文字の au である。
アルハゼンを参照。