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CDMモデル

 

よみ方

しーでぃーえむもでる

英 語

CDM (cold dark matter) model

説 明

ビッグバン宇宙論に基づいて宇宙の進化を記述する宇宙モデルの中で、冷たいダークマター(Cold Dark Matter: CDM)の密度ゆらぎがもとになって現在の銀河銀河団などの構造が形成されたとするモデル。

ダークマターとは電磁波を放出も吸収もせず、また陽子や中性子からなる通常の物質(バリオン物質と呼ぶ)とは一切相互作用しない物質であるが、冷たいダークマターと熱いダークマター(Hot Dark Matter: HDM)、そして温かいダークマター(Warm Dark Matter: WDM)に三分される。これらの区別は宇宙初期(正確には放射優勢期から物質優勢期に転じる際)に、その速度分散によって区別される。熱いダークマターは、速度分散が光速度と同じ程度、冷たいダークマターは光速度に比べて非常に小さい物質、温かいダークマターはその中間の物質である。

宇宙のごく初期に生成された物質密度揺らぎは空間スケールが小さいほど大きな揺らぎをもっていると考えられているが、その揺らぎの性質はダークマターの種類によって大きく変化する。熱いダークマターはその大きな速度分散によって小さな空間スケールのゆらぎを消してしまう。一方、冷たいダークマターでは小さなスケールのゆらぎが消えずに残る。したがって熱いダークマターによる構造形成ではまず最初に超銀河団スケールの構造ができ、それが分裂して銀河団、銀河と小さい構造が作られる。このような構造形成のシナリオをトップ・ダウンという。質量をもつニュートリノが熱いダークマターの候補であるが、エネルギー密度としてはダークマター全体の10%程度以下である。一方、冷たいダークマターの場合は、最初に小さなスケールの構造ができて、それらが集合、合体して銀河、銀河団、そして超銀河団へと大きなスケールの構造をつくっていく。このような構造形成のシナリオをボトム・アップという。冷たいダークマターは未発見であるが、その候補として素粒子の超対称性理論に現れるニュートラリーノと呼ばれる既知の中性のボソンの超対称性パートナーが想定されている。

銀河の空間分布の観測から冷たいダークマターモデルが支持されているが、Mpcスケール以下の構造の観測から冷たいダークマターシナリオでは説明できないこともあり温かいダークマターシナリオも検討されている。

2024年01月10日更新

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    *ビッグバン宇宙論(インフレーションを含む)に基づく宇宙進化のイメージ図。このような宇宙の進化を説明する宇宙モデルの一つがCDMモデルである。
    https://map.gsfc.nasa.gov/media/060915/ の図に用語の和訳と補足説明を付けて作成(岡村定矩)
    素粒子ダークマターの候補と検出法。
    http://www.cc.kyoto-su.ac.jp/project/MISC/slide/seminar-s/2013/131216-Kamae.pdf