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ラニアケア超銀河団

 

よみ方

らにあけあちょうぎんがだん

英 語

Laniakea Supercluster

説 明

我々の天の川銀河銀河系)を含む広がり約5億光年の空間内にある銀河からなる超銀河団。従来から知られていた局所超銀河団を含む更に大きな超銀河団である。2014年にタリー(B. Tully)、クルトワ(H.Courtois)、ホフマン(Y. Hoffman)、ポマレデ(Pomarède)によって同定され名付けられた。ラニアケアはハワイ語で、’lani’は「天(heaven)」、’akea’は「広々とした、果てしない(spacious, immeasurable)」を意味する。
従来の銀河団や超銀河団、あるいはボイドといった宇宙の大規模構造は多くの場合、赤方偏移サーベイで得られた銀河の赤方偏移を距離の指標として、天球上の位置と距離、すなわち三次元空間内の銀河の位置に基づいて同定されてきた。赤方偏移zが1よりもずっと小さい所では、赤方偏移は視線速度(宇宙膨張による見かけの後退速度と銀河の特異速度の視線方向成分の和)に比例する。後退速度をハッブル定数で割ったものが距離である。後退速度は銀河までの距離に比例して大きくなるので、ある程度より遠方の銀河では、特異運動速度が後退速度に比べて小さくなるので、ハッブル定数の不確かさに影響されない形で銀河の空間分布を表すために座標軸の単位を視線速度にすることが一般に行われている。
一方、三次元空間内の銀河の位置だけでなくその運動も含めて大規模構造を同定する方法もある。銀河の距離が赤方偏移と独立に決定できれば、その銀河の場所でのハッブル流の速度が分かるので、視線速度からハッブル流の速度を差し引けば銀河の特異速度(の視線方向成分)を知ることができる。銀河の特異運動は物質(主にダークマター)の場所による濃淡に起因する。物質密度の高いところは周辺から銀河が落ち込み、低いところからは銀河が外向きに出て行くが、理論モデル(重力不安定性理論)を使えば密度の濃淡と特異運動の関係がわかる。このため、さまざまな位置にある多数の銀河の特異速度の観測から、理論モデルを介して密度の高低、すなわち重力ポテンシャルの高低のパターンを再構築できるのである(おとめ座銀河団への落ち込み運動を参照)。
タリー達は自らの観測結果も含めて、全天にある8000以上の銀河の赤方偏移(後退速度)と精度の高い距離をまとめたデータベース(Cosmicflows-2、以下「赤方偏移カタログ」と呼ぶ)を構築した。このカタログから得られた銀河の特異速度の解析からラニアケア超銀河団を同定したのである。密度分布を再構築する手法も、従来の手法よりノイズ(特異運動の誤差)の影響を受けにくいものを用いた。結果は図1-図3に示されている。重力ポテンシャルの谷で銀河が落ち込んでくる部分をタリー達は「盆地(basin)」と呼んでいる。
図1はラニアケア超銀河団を二つの方向から見た図である。図は超銀河座標系(単位は視線速度)で表されており、SGZ=0の位置でSGX軸とSGY軸が示されている。銀河系は原点(SGX=SGY=SGZ=0)にある。軸の目盛1000 km s-1が約13.3 Mpc(4300万光年)に相当する。薄青色の面は銀河系周辺で内向きに落ち込む局所的な特異運動が見られる盆地の境界を示す。特異速度の向きを示す流線は黒色で描かれ、「じょうぎ座(Norma)銀河団」の近くに収束して終わる。赤方偏移カタログにある個々の銀河は、ラニアケア超銀河団内での主要な構成要素が分かるよう色分けされている。緑色は以前から知られている「局所超銀河団」、オレンジ色は「グレートアトラクター(巨大引力源)」の領域、紫色は「くじら座-インディアン座(Pavo-Indus)フィラメント」、マゼンタ色は「ろ座-エリダヌス座(Fornax-Eridanus)雲」である。いくつかの主要要素には名前が書いてある。それらのうち「じょうぎ座銀河団」、「うみへび座(Hydra)銀河団」、「ケンタウルス座(Centaurus)銀河団」、「おとめ座(Virgo)銀河団」、「へびつかい座(Ophiuchus)銀河団」、および A2870、A3581、A3656の三つの銀河団は、ラニアケア超銀河団に含まれる個別の銀河団である。一方、「シャプレイ(Shapley)銀河団」、「ヘルクレス座(Hercules)銀河団」、「かみのけ座(Coma)銀河団」、および「ペルセウス座(Perseus)-うお座(Pisces)銀河団」はラニアケア超銀河団の外の集団である。外側の黒い円は、解析において、局所的な流れと、解析領域のスケールを超える大規模構造による流れを分けた境界を示す。二つの図は同じものを二つの方向から見たものである。
図2はラニアケア超銀河団を超銀河座標の(SGX, SGY)平面に投影した図である。色は銀河の密度に対応しており、赤から青へと密度が低くなる。赤方偏移カタログにある個々の銀河は白い点で表されている。ラニアケア盆地(Laniakea basin)に流入する流線は白色で描かれている。オレンジ色の等高線はこれらの流線の存在する領域の境界を示している。この領域は、後退速度にして約12,000 km s-1(約160 Mpc=5.2億光年)の広がりを持ち、太陽質量の約1017倍の質量を含んでいる。
図3は、ラニアケア超銀河団を含む16,000 km s-1 (約200 Mpc=6.5億光年)にわたる領域の大規模構造(=密度分布)を描いた図である。物質密度の等高面が三色で示されている。密度分布は観測データの多い中心部では細かな構造まで描かれているが、観測データの少ない外側に行くにつれて、一様な宇宙の平均密度に近づいてゆく。しかしながら、黒い細線で描かれている流線はかなり外側まで描かれている。すべての流れは結局シャプレイ銀河団に吸い込まれてゆく。ペルセウス座(Perseus)-うお座(Pisces)領域からの流れは十分なデータのないうさぎ座(Lepus)領域を通る円弧状のルートを経由している。
発見論文:https://www.nature.com/articles/nature13674 (open access)
タリー達のグループのプロジェクト’Cosmic Flows’のホームページ:
https://www.ip2i.in2p3.fr/projet/cosmicflows/


ラニアケア超銀河団の発見論文に附随している解説動画(英語;字幕なし)
Tully, R. B. et al., 2014, Nature, 513, 71 (open access)

https://youtu.be/rENyyRwxpHo


ラニアケア超銀河団の解説動画(英語解説字幕のみ)

https://youtu.be/Hbt9TF2Z-Kc

2019年08月17日更新

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    図1 ラニアケア超銀河団を二つの方向から見た図。
    Tully, R. B. et al, 2014, Nature, 513, 71 (open access)
    図2 ラニアケア超銀河団を超銀河座標の(SGX, SGY)平面に投影した図。
    Tully, R. B. et al, 2014, Nature, 513, 71 (open access)
    図3  ラニアケア超銀河団を含む16,000 km s-1 (約200 Mpc=6.5億光年)にわたる領域の大規模構造(=密度分布)。
    Tully, R. B. et al, 2014, Nature, 513, 71 (open access)