天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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平坦な回転曲線

渦巻銀河銀河円盤の広い範囲でガスや星の回転速度がほぼ一定であるため、グラフ上でほぼ平坦に見える回転曲線を指す用語。1979年代後半から1980年代前半にかけてルービン(Vera C. Rubin)たちが多くの渦巻銀河で観測して以来こう呼ばれるようになった。これは渦巻銀河がそれを取り巻く大きなダークマターハローに包まれていることを示す証拠である。

 

ベラ・ルービン天文台を参照。

チリのセロ・パチョンでサーベイ観測専用のシモニーサーベイ望遠鏡を運用する天文台。渦巻銀河平坦な回転曲線の観測からダークマターが存在することを実証した女性天文学者ベラ・ルービン(Vera C. Rubin)にちなんで2020年に命名された。ルービン天文台と呼ばれることもあるが、正式名称は NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory である。

シモニーサーベイ望遠鏡は口径8.4 m(有効口径は6.7 m)の広視野光学赤外線望遠鏡で、9.6平方度(満月45個分)という超広視野を 3.2 ギガピクセル(32億画素)のLSSTカメラでカバーする。このカメラは紫外線から近赤外線まで(波長320-1050 nm)をカバーする u,g,r,i,z,y の 6枚のフィルターを有し、イメージスケールは 0.2"/pixel である。天文台から見える全天の1バンドのサーベイを数夜で完了する。このサーベイを繰り返して10年間継続する。一夜の観測で得られるデータは20 TB(テラバイト)、1年では約7 PB(ペタバイト)に達する。この10年間のサーベイは、ルービン天文台の「時空間レガシーサーベイ(Legacy Survey of Space and Time: LSST)」と呼ばれる。2025年4月25日にファーストライトを成功させ2025年6月23日に初期画像を公開した。引き続き本格的なサーベイ観測を開始する予定である。

ルービン天文台による膨大なデータは天文学のあらゆるテーマに画期的なインパクトを与えると考えられているが、主要なテーマとしてホームページに書かれているのは以下のものである。
ダークマターの性質(The Nature of Dark Matter)
太陽系天体のカタログ化(Cataloging the Solar System)
変動する空の探査(Exploring the Changing Sky)
天の川銀河銀河系)の構造と誕生(Milky Way Structure & Formation)

当初大型シノプティック・サーベイ望遠鏡 (Large Synoptic Survey Telescope: LSST)計画と呼ばれていたルービン天文台計画は、2001年の decadal survey で取り上げられさまざまな予算で開発が進められてきた。2010年のdecadal survey で地上望遠鏡としては優先順位第1位となり、2014年にアメリカ国立科学財団(NSF)から完成に必要な予算が措置された。NSFの予算とLSSTコーポレーションが得た個人や財団からの寄付を基に、全米天文学大学連合(AURA)がLSSTの建設を統括した。観測サイトと望遠鏡の製作はアメリカ国立光学天文台(現在はアメリカ国立光学赤外線天文学研究所: NOIRLab)が、データセンターの構築は米国立スーパーコンピュータ応用研究所が行った。カメラは別途米国エネルギー省(DOE)の予算で、SLAC国立加速器研究所が製作した。2020年に天文台がベラ・ルービン天文台と命名されたのと同時に、LSSTという望遠鏡名称も、初期に多額の寄付をしたシモニー(Charles Simonyi )に因んでシモニーサーベイ望遠鏡となった。

ホームページ https://rubinobservatory.org/
画像閲覧用スカイビューワー https://skyviewer.app/


ベラ・ルービン天文台の紹介動画(英語)

https://www.youtube.com/embed/vBlFFEdfVVQ?si=MwXm1A1NNtVndv-R"


この動画は1100枚の画像を元に作られた。2つの銀河のクローズアップからはじまり、約1000万個の銀河へとズームアウトする。これらの銀河はルービン天文台の10年間の時空間レガシーサーベイで撮影される200億個の銀河の0.05%にすぎない。シモニー・サーベイ望遠鏡が視野の広さと分解能の高さをともに実現していることがよくわかる。
Credit: NSF-DOE Vera C. Rubin Observatory

https://www.youtube.com/embed/Gitit3LwQ20?si=itm5HlV3xblG0K9b"


ルービン天文台が公開した最初の画像のうち、おとめ座銀河団と三裂星雲(M20)と干潟星雲(M8)を含む天の川天域の画像を動画で示したもの。シモニー・サーベイ望遠鏡が視野の広さと分解能の高さをともに実現していることがよくわかる。
Credit: RubinObs/NOIRLab/SLAC/NSF/DOE/AURA | edited by Space.com's [Steve Spaleta]

https://www.youtube.com/embed/7gGltfcBUtQ?si=nGvNz-c87HGPxTn6"

ベラ・ルービン(Vera Rubin; 1928-2016)はアメリカの女性天文学者。多くの渦巻銀河平坦な回転曲線の観測によって、渦巻銀河がタークマターハローに包まれていることを観測的に実証した。
ベラ・ルービンは1928年ペンシルベニア州フィラデルフィアで、ユダヤ系移民の両親の二人姉妹の妹として生まれた。一家は1938年にワシントンD.C.へ移り住んだ。この頃からベラは星を眺めるのが好きで天文学に興味をもった。1948年にヴァッサー大学で唯一人の天文学コース卒業生となった後、プリンストン大学で学ぶことを希望したが、当時プリンストン大学は女性の大学院生を受け入れていなかったため、コーネル大学のベーテ、ファインマンらの下で物理学を学び修士号を得た。1954年にガモフの指導の下、当時ワシントンD.C.で天文学の学位を出していた唯一の大学であったジョージタウン大学で学位を得た。
その後同大学などに職を得たが、1965年にワシントン・カーネギー協会(現在のカーネギー研究所)の地磁気研究部門(Department of Terrestrial Magnetism)のスタッフとなり、そこで装置開発者のケント・フォード(Kent Ford)と知り合い二人は長年の共同研究者となった。ルービンらは約3億光年以内にある約200銀河の観測から、この広範囲の銀河が揃って宇宙膨張からずれた特異運動をしている(ルービン-フォード効果)という論文を1976年に発表した。サンプル銀河は光度階級分類のされているものを選び、フォードらが開発したイメージチューブ(映像増倍管)付分光器で視線速度を観測した。中性水素ガスの21cm線観測から得られていた視線速度も利用した。光度階級から求められた距離に対応するハッブル流の速度と観測された視線速度の差から特異速度を求めた。この論文は大きな議論を巻き起こした。現在では使ったサンプルのバイアスによる見かけ上の運動であったとされているが、銀河の大規模な特異運動研究の嚆矢であった。
ルービンは1963年にバービッジ夫妻らとともに渦巻銀河の回転曲線の観測を始めた。1970年代終わりから80年代前半にかけて多数の渦巻銀河の外縁部までの高精度の回転曲線をイメージチューブ分光器で観測し、どの銀河の回転曲線も銀河円盤では外側に向かって減少せず、ほとんど一定速度を保つ(グラフ上で平坦である)ことを示した。これがダークマターが存在する確かな観測的証拠としてルービンの名声を不動のものとした。彼女は1996年に英国王立天文学会からゴールドメダルを授与された。女性受賞者としては1828年のキャロライン・ハーシェル(Caroline Herschel)に続く二人目であった。
彼女は、女性差別の風潮が根強くあった中で多くの苦難を乗り越えて研究を続けたことでも知られている。23才で妊娠し、子育ての中で学位論文の研究を行った。女性を受け入れていなかったパロマー天文台で初めて観測を許された女性天文学者でもある。当時パロマー天文台には女性用トイレがなかったため、彼女は扉にある男性の絵にスカートを描いて使用したというエピソードもある。アメリカの科学雑誌「Discover」は2002年にルービンを、科学において最も重要な50人の女性の1人に選んだ。
ベラ・ルービン天文台も参照。
カーネギー研究所の追悼記事:
https://carnegiescience.edu/news/vera-rubin-who-confirmed-%E2%80%9Cdark-matter%E2%80%9D-dies

宇宙のスケールから見て、太陽系からそれほど遠くない宇宙空間を(場合によってはその中にある天体まで含めて)指す名称。近傍宇宙とも呼ばれる。天の川銀河銀河系)およびその中の諸天体が含まれることはもちろんだが、銀河系外の銀河については、その境界がどこまでか明確な定義はなく、研究分野や研究者によってかなり異なる場合がある。
国際天文学連合の部会Hは「星間物質と局所宇宙(Interstellar Matter and Local Universe)」と命名されている。そのホームページには次のように記されている。「部会Hが扱う研究は主に、我々の天の川銀河と近傍銀河(約15メガパーセク=5千万光年以内)の中にある恒星星間物質の研究である。」
部会Hの下にある委員会H1は「局所宇宙(The Local Universe)」と命名されている。そのホームページには次のように記されている。「委員会H1は'近傍での宇宙論'すなわち天の川銀河とその周辺にある銀河の研究を行う。異なる環境および大きく異なる質量を持つ銀河がどのように進化してきたのかを調べるのが第一の目標である。」
138億年にわたる銀河の誕生と進化に注目する場合は、現在の銀河と同じ性質と見なせる銀河の存在する範囲、すなわち銀河進化の影響が無視できる範囲を局所宇宙と呼ぶが、その場合には赤方偏移z=0.1(13億光年)程度あるいはもう少し遠くまで想定する場合もある。
局所銀河群局所超銀河団局所高温バブルは固有名詞であり、我々の銀河系がその中にあるという意味合いで「局所」が用いられている。
国際天文学連合部会H ホームページ
https://www.iau.org/science/scientific_bodies/divisions/H/
国際天文学連合委員会H1 ホームページ
https://www.iau.org/science/scientific_bodies/commissions/H1/

星団銀河など多数の星からなる天体の合成スペクトルエネルギー分布(SED)を、年齢と金属量の異なるさまざまな星団のSEDに重みを付けて組み合わせて再現する手法。天の川銀河銀河系)と大マゼラン銀河小マゼラン銀河内の多数の星団スペクトルを観測し、それをSEDライブラリーとして、銀河を構成する星の種族すなわち銀河の星生成史を推定するための古典的手法として用いられた。
コンピュータの発達により星の進化の計算精度が高くなり、ある金属量を持つガスから同時に生まれた星の集団(Simple Stellar Population: SSP)に対しては、初期質量関数星間吸収のモデルを仮定すれば観測されるSEDの進化を計算出来るようになったため、SEDライブラリーは実際の星団のSEDから、コンピュータで作成されたSSPのSEDライブラリーに置き換えられた。この新しい手法は当初は進化的種族合成法と呼ばれたが、近年では銀河進化モデルと呼ばれるようになっている。

日本の天文学者(1868-1945)。第2代東京天文台長(1919-1928)、第2・5・9代の日本天文学会長(1909-1919)を務めた。1888年東京帝国大学理科大学星学科の第1回の卒業生であり、その後イギリス・グリニッジやドイツ・ポツダムで天体物理学を研究した。帰国の翌年には教授として星学科の第2講座を受け持って天文学教育や東京天文台の運営に携わり、寺尾寿のあとをうけて第2代東京天文台長となった。研究としては日食観測に参加し、写真観測、小惑星の軌道決定、太陽大気、変光星などの研究も行った。

アタカマ・パスファインダー実験機を参照。

宇宙にある「もの」を総称する言葉として一般社会では広く使われているが、学術用語ではないのではっきりとした定義はない。あえて言えば、「宇宙の背景(宇宙全体の平均)から浮き出して、ある形を持って見分けられるものの総称」ということになろう。英語ではcelestial objectあるいはcelestial body であるが、astronomical object あるいはastronomical body とも言う。
多くの場合天体は、自らの重力によってある大きさにまとまっている。固体であるか気体であるかなど物質としての存在形態(物質の三態と四態を参照)や、密度の高低も問わない。それに加えて、超新星残骸双極分子流超銀河団などのように重力によってまとまっていなくても天体と呼ばれるものがある。ただし、特定の形を持たずに星間空間に薄く広がる星間物質は通常は天体とは言わない。また超新星宇宙ジェットガンマ線バーストなど、「もの」ではなく「現象」と考える方が良いものを天体に含めることもある。このように、天体という言葉を使うときに厳密さはあまり考えない。人工衛星や人工惑星、更には惑星探査機まで含む「人工天体」という言葉も使われている。
天体は恒星星団、星雲(ガス星雲)、銀河など種類毎に総称が付けられることが多い。高密度天体、高エネルギー天体、突発天体、系外天体(銀河系を参照)などのように、種類が違っても共通の性質をもとに総称が付けられることもある。
太陽系内には、太陽惑星太陽系外縁天体冥王星型天体小惑星衛星彗星などの天体がある。一般社会で「天体ショー」などと言うときには、明らかに「現象」である流星を含むこともある。銀河系(天の川銀河)内に見られる天体は、恒星、星団、星雲(ガス星雲)などである。宇宙には、銀河、銀河群銀河団クェーサーブラックホールなどの諸天体がある。

南米チリのアタカマ砂漠にある口径12mのサブミリ波電波望遠鏡。英語名 Atacama Pathfinder EXperiment の頭文字を取って APEX と呼ばれることが多い。ドイツのマックスプランク電波天文学研究所(MPIfR)、スウェーデンのオンサラ天文台(OSO)、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が共同で建設、運用している。アルマ望遠鏡のすぐ近くの標高5105mのチャナントール天文台にある。APEX Telescope Large Area Survey of the Galaxy (ATLASGAL)と呼ばれる銀河面のサーベイ観測で、南半球から見える天の川のダストの分布を明らかにした。
ホームページ: http://www.apex-telescope.org/
ATLASGALに関するESOプレスリリース:https://www.eso.org/public/news/eso1606/

南中を参照。

星間空間に存在する星間物質(ガス)以外の天体。どの恒星にも重力的に束縛されていない。太陽系彗星小惑星、岩石惑星などと同種のものが多いと思われるが、たまたま太陽系に侵入し、人類が観測した例はこれまでに3例しかないので、詳しいことはまだ分かっていない。

最初の例は、2017年10月19日に、ハワイのマウイ島ハレアカラ山頂にあるサーベイ観測のための専用望遠鏡Pan-STARRS1(PS1)により発見されたオウムアムアである。2例目は2019年8月30日にアマチュア天文学者によって発見されたボリソフ彗星である。さらに2025年7月1日にハワイ大学が運営する南米チリの「ATLAS(Asteroid Terrestrial-impact Last Alert System;小惑星地球衝突最終警報システム)」が3例目のATLAS彗星(3I/ATLAS)を発見した。発見時点では太陽から約7億km、地球から約5億kmほど離れたところにあり、太陽に向かってきている。2025年10月末に太陽に最接近(距離2億km)し、その後12月20日ごろに地球と最接近する。

ATLASのようなプラネタリーディフェンスの活動が盛んになり、さらに、オウムアムアを発見したPan-STARRS1に加えて、広い天域を高速・高頻度でモニター観測ができるトモエゴゼンのようなカメラによる観測や、ベラルービン天文台で行われる時空間レガシーサーベイ(Legacy Survey of Space and Time: LSST)が進めば、これまで見逃されていたかもしれない高速で移動する天体の発見数が増え、そのような天体の軌道決定もなされるようになる。

恒星間天体が多数発見され、それらの物理的・化学的性質の理解が進めば、太陽系外天体の形成環境の情報が次第に分かってくると期待される。隕石が地球外物質を地球に持ち込み、太陽系天体の組成を分析する機会を与えたように、恒星間天体は太陽系外惑星系で形成された物質を観測・分析する機会を与えてくれる恒星からの使者である。

オウムアムアに次いで2番目に発見された恒星間天体。2019年8月30日に、アマチュア天文学者のボリソフ(Gennady Borisov)がクリミア半島の施設で、自作の65 cm望遠鏡による観測で彗星らしく見える天体を発見した。各地の望遠鏡によるその後の観測から、この天体は双曲線軌道をもつ恒星間天体であることが確実視され、2019年9月24日、国際天文学連合(IAU)は、この天体をオウムアムアに続く2番目の恒星間天体として2I/Borisov(ボリソフ彗星)と命名したことを発表した(彗星としての名称はC/2019 Q4 (Borisov)である)。ボリソフ彗星は2019年12月7日頃に太陽に最接近し、その後は太陽系外に向かい再び太陽系に接近することはない。最接近時の太陽からの距離は約2天文単位(2 au)で、地球からの距離もほぼ同じである。
ボリソフ彗星は太陽系を33 km/sの速さで通過した。恒星遭遇か、巨大惑星との相互作用で太陽系外の惑星系(太陽系外惑星を参照)から散乱された天体の一つと考えられている。オウムアムアとは異なり、ボリソフ彗星は物質放出が確認されたので、史上初めて観測された星間彗星と言えよう。
超大型望遠鏡(VLT)によるスペクトルの観測で、彗星に含まれるニッケルと鉄の成分比や、NH2のオルソパラ比が太陽系の彗星とよく似ていることがわかった。また、VLTによる偏光観測ではボリソフ彗星のコマの光が一般的な太陽系彗星と比べ、高い偏光度(偏光を参照)を示すことがわかった。高い偏光度はこの彗星が始原的な天体であることを意味する。太陽系彗星ではヘール‐ボップ彗星の偏光度が高かったが、ボリソフ彗星の偏光度はヘール‐ボップ彗星より高く、より始原的であると示唆される。
アルマ望遠鏡(ALMA)による観測ではシアン化水素(HCN)と一酸化炭素(CO)が検出された。シアン化水素の存在量は太陽系の彗星とよく似ていたが、一酸化炭素の存在量は太陽から2 au以内で観測されたどの太陽系彗星よりも高く、平均的太陽系彗星の9-26倍のCOが含まれていることがわかった。したがって、ボリソフ彗星はCOの氷が存在する-250℃以下の非常に低温な環境で形成されたと思われる。COは彗星に普通に含まれている分子だが、その存在量は彗星ごとにバラツキがあり、その原因はわかっていない。もしCOの量が彗星の形成場所に依存するなら、ボリソフ彗星はCOの多い場所で誕生したことを意味する。
さらに、ALMAとVLTの観測では、ボリソフ彗星のダストは2 mm程度の大きさの粒であることがわかった。これに対して太陽系彗星のダストは2ミクロンから1 mサイズの不規則形状のふわふわしたものである。
このようにボリソフ彗星は太陽系彗星と似たところもあり、異なるところもある。彗星の物理的、化学的特性はその天体の形成環境を反映するものゆえ、ボリソフ彗星のような星間彗星をたくさん観測することによって、太陽系外の惑星形成環境の情報を手にすることができると期待される。
国際天文学連合のプレスリリース
https://www.iau.org/news/pressreleases/detail/iau1910/

 季節の変化は、地表面に入射する太陽エネルギーの変化による地表温度の変化が主な原因である(説明図1)。北緯約35度(東京付近の緯度)の地点において、南中時の太陽光の入射角度は、冬至で約32度、春分と秋分で約55度、夏至で約78度である。太陽光の入射角が小さい程、単位面積あたりに地表面に入射する太陽エネルギーは小さい。このため、冬至の頃には地面や海面が最も温まりにくく、夏至の頃には最も温まりやすい。このために、気温は冬に最も低く夏には最も高くなり、春と秋はその中間となる。ただし、昼間の長さが冬至の頃は最も短かく夏至の頃最も長いことも気温の変化に影響している。

季節の変化の最大の原因は太陽の南中時の高度(南中高度)の変化であるので、季節変化は地球の高緯度地域で最も顕著に見られ、中緯度帯ではほどよい変化となり、赤道付近ではそれほど顕著ではない。また北半球と南半球では季節が逆転する。東京(北半球の中緯度)が夏の時にシドニー(南半球の中緯度)は冬である。北極圏や南極圏では夏には真夜中でも太陽が沈まない白夜となり、冬には逆に正午でも太陽が沈んでいる状態の極夜となる。

中学校理科で学ぶ「季節の変化」の主要因について以下の二つの誤解が広く見られる。第一は、太陽と地球の距離の違いが原因であるという誤解である。太陽の周りの地球の公転軌道は太陽を一つの焦点とする楕円軌道であり、地球と太陽の間の距離は年間を通じて僅かに変わる。気温が夏に高く冬に低くなるのは、夏は冬に比べて地球-太陽間の距離が近いためと誤解されることがあるが、実際にはその逆である(説明図2)。地球-太陽間の平均距離(1天文単位)は約1億5000万kmで、近日点距離と遠日点距離の差は僅か500万km程度なので、年間を通じた地球-太陽間の距離の変化は±2%未満である。距離の違いによる入射エネルギーの違いは、南中高度の変化による違いと比べると極めて小さい。

第二は、日本と太陽の距離の違いが原因であるとする誤解である。説明図1の地球の拡大図を見て、赤道を基準にすると、夏至の頃は北半球の中緯度帯(日本)が太陽に近く、冬至の頃は遠くなるので、これが気温の変化の原因と誤解されることが多い。地球の赤道半径は約6400kmである。仮に冬至と夏至で、地球の半径分だけ日本と太陽の距離が変わったとしても、6400/150,000,000=0.00004 (=0.004%) なので、そのことによる入射エネルギーの違いは無視できるくらいに小さい。二至二分も参照。


「地軸の傾きと南中高度の違い」を説明するムービー。季節による太陽の南中高度の違いがわかる。(製作「CGムービー人理科」)
https://youtu.be/jOveW6_kAI4

2000年に始まった国連の「ミレニアム開発目標(MDGs)」が2015年に終了することを受けて、国連が新たに策定した持続可能な世界を実現するための行動計画。国連加盟193か国が2016年-2030年の15年間で達成することを目指している。正式名称は「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」であるが、簡略化して「持続可能な開発のための2030アジェンダ」あるいは「2030アジェンダ」と呼ばれることが多い。
アジェンダの「前文」は次のように始まる。「このアジェンダは、人類、地球そして繁栄のための行動計画である。これはまた、より大きな自由の下で世界がより平和になることを追求するものである。極端なものは言うまでもなくあらゆる形態と規模の貧困を撲滅することが、世界最大の課題でありかつ持続可能な開発のための不可欠な必要条件であると我々は認識する。」続いて、キーワードとして、人間(People)、地球(Planet)、繁栄(Prosperity)、平和(Peace)、連帯(Partnership)の「5つのP」が掲げられている。さらに解説に続いて、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)持続可能な世界を実現するための17のゴールとそれらの下にある169のターゲットが掲げられている。これが持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)である。

2030アジェンダ(この中にSDGsが書かれている)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101401.pdf (英文)
https://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/oda/sdgs/pdf/000101402.pdf (外務省による仮訳)

英国マンチェスター大学の付属天文台で、天文研究の拠点と複数の電波望遠鏡が設置されている。2019年にユネスコの世界遺産に認定された。マンチェスターの南方約20kmほどで、マンチェスターとロンドンを結ぶ幹線鉄道沿いにあるが、徒歩圏内には駅や町はない。マンチェスター市中心部からは車で40分ほどを要す。
敷地内には、主力となる口径76mのロベール望遠鏡と横長楕円形という独特の口径であるマークⅡ望遠鏡がある。また、英国内の7つのアンテナで構成するVLBIであるe-MERLINの本部や1平方キロメートル望遠鏡計画の本部も敷地内にある。
一般見学者のための施設「ジョドレルバンク発見センター」も構内にあり、2つの展示館(うち1つは軽食堂と売店を併設)、1つの講堂があるほか、世界の複数の地の樹木が植樹された公園がある。
ホームページ http://www.jodrellbank.manchester.ac.uk/

見かけの形状に基づいて銀河を分類する手法。銀河研究の初期から、写真乾板に写った銀河の画像を熟練した天文学者がルーペなどで詳細に観察して分類体系を提案してきた。この手法による形態分類が行われた銀河は1万個に満たない。
1930年代にハッブル(E. Hubble)が提案した音叉図に基づくハッブル分類が最も有名で、今日でも広く使われている(図1)。1950年代の終わりに、ドゥ・ボークルール(G. de Vaucouleurs)が渦巻銀河の渦巻腕の多様性を取り込んでハッブル分類を3次元的に表現したドゥ・ボークルール分類(改訂ハッブル分類とも呼ばれる)を提案した。ハッブル分類の改訂は、楕円銀河に箱型と円盤型という2種類があることが分かった1980年代後半以降にも提案されている(図2)。また、1976年にはデイビッド・ダンラップ天文台のシドニー・バンデンバーグが、銀河団中に貧血銀河が見られることから、レンズ状銀河(S0銀河)の位置づけを見直す改定DDO分類を提案した(図3)。
ハッブル分類とは少し異なる立場からの形態分類として、シドニー・バンデンバーグによるDDO分類、ヤーキス天文台のモルガン(W.W. Morgan)によるヤーキス分類などがある。1980年代以降、矮小銀河の研究が進み、形態分類には銀河の絶対等級が重要な要素の1つであるとの理解が得られてきた(図4)。
シュミット望遠鏡によるサーベイ写真乾板のディジタル化や、CCDを用いた大規模サーベイが可能になった近年では、何万個もの銀河のディジタル画像が利用できるようになった。そこで、人間がそれらを眼視検査するのではなく、銀河画像から抽出した定量的なパラメータで、従来の形態分類に相当する体系をつくるさまざまな研究がおこなわれている(図5)。
形態分類とは別に、銀河を見る角度による分類として、扁平な銀河円盤(ディスク)を持つ渦巻銀河とレンズ状銀河では、銀河円盤をほぼ真横から(円盤の垂線に垂直で円盤が最も薄く見える方向から)見る場合をエッジオン(edge-on:横向き)、それにほぼ垂直で銀河円盤を正面から見る場合をフェイスオン(face-on:正面向き)と呼ぶ。このように見えている銀河をそれぞれエッジオン銀河、フェイスオン銀河と呼ぶことがある(図6)。ただし、定量的な定義ではないのでことに注意する。

正式名称は東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所。東京大学附属東京天文台の観測所として1974年に長野県木曽郡三岳村(現木曽町)に開設された観測所。世界第4位の口径を持つシュミット望遠鏡(日本光学(株)製)が設置された。1988年、東京天文台が国立天文台に改組される際に、東京大学に残り、東京大学理学部附属の天文台となった。後に東京大学の大学院重点化に伴い、大学院理学系研究科附属の天文台となった。
日本に大型シュミット望遠鏡を建設することは、SAM(Stellar Astronomy Meeting)と呼ばれた研究者グループの強い希望であった。1961年から毎年夏に開催されていた「SAM夏の研究会」は、木曽シュミット完成後は木曽観測所が主催する「木曽シュミットシンポジウム」に引き継がれ、以来現在まで毎年夏に開催されている。
木曽シュミット望遠鏡の主鏡口径は150cm、補正板口径は105 cm、焦点距離は3300 mm、口径比F/3.1、イメージスケールは62.6''/mmである。米国イーストマン・コダック社製の14インチ(35.5cm)角の写真乾板で6度x6度の視野をカバーした。木曽観測所は、各種写真乾板測定機やデータ解析用計算機設備を有し、7000枚を超える撮影乾板は木曽観測所で保管された。1984年には天体画像処理システムSPIRALの開発が始まり、翌85年には画像処理室が新設された。木曽観測所の諸設備は全国共同利用に供され、観測のみならず乾板測定やデータ解析のために来所する研究者も多かった。2013年以降、シュミット望遠鏡のリモート観測システムが整備されてきた。最近は遠隔操作および自動観測が実施されている。シュミット望遠鏡は2016年度で共同利用を終了し、2017年度からはプロジェクト研究に使用されている。
可視光の検出装置が写真からCCDに代わりはじめた1980年代終わりから、木曽観測所でもCCDカメラの開発がはじまり、モザイクCCDカメラを含むいくつものCCDカメラが製作・使用された。最終的には2kx4kCCDを8素子並べたKWFCで一応の完成を見た。2019年10月からは、 2kx1kCMOSセンサーを84素子並べて広視野動画が撮影できるトモエゴゼンカメラが稼働している。
木曽観測所は天文教育・普及分野でも長年活動している。1989年にはコニカ(株)製の大型カラーフィルムで撮影した天体カラー写真スライドセットを製作(日本天文学会より販売)、91年には木曽シュミットによる写真をまとめた「KISOシュミットアトラス」を出版した。高校生に天体観測とデータ解析による研究体験をさせるプロジェクトの草分けである「銀河学校」は、1998年に木曽観測所ではじまったもので現在も継続している。また東京大学を含め、6~7大学の学生実習にも毎年活用されている。
木曽観測所ホームページ:http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/

東京大学大学院理学系研究科附属天文学教育研究センター木曽観測所が105cmシュミット望遠鏡用に開発した広視野動画カメラとデータ処理ソフトウエア群からなる観測統合システム。2019年10月より科学観測を開始した。地元にゆかりのある歴史上の人物「巴御前」からこの名前がついた。

トモエゴゼンカメラには84台のCMOSイメージセンサ(計1億9,000万画素)が搭載されており、木曽シュミット望遠鏡の直径9度という広い視野を覆い尽くす。ただし、センサーの間には隙間があるため、一度にカバーできる視野は20平方度(満月84個分)である。このカメラの最大の特長は、高感度かつ高速読み出しのできるCMOSイメージセンサーを用いているため、露光時間を0.5秒(2 fps)まで短くすることができる、すなわち可視光で空の動画を撮れる所にある。1晩の観測で得られるデータは最大30テラバイトにおよぶ。この観測データを即時に解析し過去のデータと比較することで、天体の明るさや位置の変化を高精度にとらえることができる。

トモエゴゼンカメラは木曽観測所内に設置されたオンサイト計算機群に直結されており、大規模データベースと機械学習モデルを搭載したソフトウエア群により制御およびデータ解析が行われる。最大30テラバイト/夜のデータは膨大なため全てを長期に保存することはできない。このため生データは取得から5日後に順次消去される。トモエゴゼンの解析ソフトウエアは観測データが消される前に科学的に意味のある情報のみを長期保存用のストレージへ保存する。研究者はこの長期保存用ストレージ内のデータに対して、さまざまな観点から解析を行う。

12,000平方度の空に対して1周回観測する全天サーベイと、特定の3,000平方度の空を約10周回観測する高頻度サーベイ、特定の20平方度の空を1時間連続で観測する動画モニタリングサーベイが毎晩、自律的に実施されている。サーベイの経路は雲の分布、気象状況、観測の進行状況などを考慮した数理最適化アルゴリズムによりリアルタイムに最適化される。全天サーベイの各サーベイポジションでは、1セットが18フレームで構成される2 fpsの動画データが取得される。同様に、高頻度サーベイでは1セットが12フレームで構成される2 fpsの動画データが、動画モニタリングサーベイでは1 fpsの動画データが取得される。

このサーベイにより超新星、恒星フレア矮新星などの突発現象や地球接近小惑星や微光流星などの高速移動天体が多数検出され、独自のアラートシステムや国際的なデータベースを通じて発信される。重力波、宇宙ニュートリノガンマ線バーストX線バーストなどのアラートを外部から受信した際は、自動でサーベイ観測を中断し、突発現象の発生領域に対して即時に追観測を実施する。トモエゴゼンは全地球測位システム(GPS)に同期されているため 0.1ミリ秒の精度で時刻を記録できる。そのため、離れた場所にある電波望遠鏡、X線望遠鏡、光赤外線望遠鏡などの望遠鏡との同時観測による、高速電波バーストX線連星系掩蔽現象のサブ秒スケールのタイミング解析が可能である。

トモエゴゼンのデータには空で発生するイベントが網羅的に含まれるため、地球高層大気の研究、宇宙機や宇宙デブリの状況の把握、リアルデータによる教育・普及など広範囲の分野間連携につながる宇宙科学の展開が期待される。トモエゴゼンが取得するデータおよびそこから抽出された情報は、木曽観測所に接続された学術高速ネットワークSINETを通じて、東京大学の柏キャンパスに設置されたデータ活用社会創成プラットフォーム mdx および国立天文台天文データアーカイブシステムSMOKA に逐次転送され、ウェブサイトより一般および共同研究者に公開されている。
トモエゴゼンホームページ:
https://tomoe.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/ja/
トモエゴゼンスカイアトラス:(毎日更新)
https://tomoe.mtk.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/skyatlas/?lang=ja
木曽観測所ホームページ:
http://www.ioa.s.u-tokyo.ac.jp/kisohp/

 

トモエゴゼンで撮影した地球接近小惑星2012 TC4の動画(波長400--650nmの可視光)。日本時間2017年10月11日20時40分36秒--21時04分36秒の間に撮影した2秒露光の画像720枚(総観測時間24分間)を200倍速で再生したもの。動画の左上から右下へ移動する点源が2012 TC4。移動する点源の明るさが周期的(約12.4分周期)に変動していることがわかる。本データ取得時の「地球中心」と「2012 TC4の中心」の間の距離は約420,000kmと推定される。
画像提供: 東京大学木曽観測所


トモエゴゼンによる天の川の旅(動画データのデモ)。惑星状星雲M27から1等星アルタイル(牽牛星)を経由して散開星団M11に到る。5倍速で動かしている。視野は31.7' x 17.8'で北が上。

https://www.youtube.com/embed/tczpqL5P_sc?si=Q_qOVpdEWavs_j-C"


「はやぶさ2」帰還の動画。2020年12月5日23時55分から00時08分の観測で得た動画データ。24倍速で再生。動画の上が北。31.7分角 x 17.8分角の領域をトリミング。中央を上から左下へ移動する点が「はやぶさ2」探査機。右上から中央下へ移動する微かな点が「はやぶさ2」から分離したカプセル。周囲の白い点は恒星。 はやぶさ2の位置: カシオペア座の方向。提供:木曽観測所

https://www.youtube.com/embed/Hmiw5FPL6W0?si=arhxfD4ZSuWuXwuT"

史上初めて観測された恒星間天体太陽系外から飛来した天体)。2017年10月19日、マウイ島のハレアカラ山頂にあるサーベイ観測専用のパンスターズ望遠鏡(Pan-STARRS1:PS1)によって発見された。
太陽からの脱出速度よりも速い速度と離心率 e=1.2 の双曲線軌道を持つことから、国際天文学連合(IAU)傘下の小惑星センター(Minor Planet Center)は2017年11月6日に、恒星間天体に対する新しい符合分類(I)を適用してその第1号となる 1I/2017 U1 ('Oumuamua)と命名した。ハワイ語で、Ouは「遠方へ、遠方から」、muaは「最初の、先だって」(繰り返しは強調)を意味するので、'Oumuamuaは「遠方から来た初めての使者(斥候)」の意味となる。オウムアムアは秒速87.3 kmという猛スピードで近日点(太陽から0.248天文単位(au)=約3710万km)を通過(9月9日)した後で、10月14日に地球から2400万kmのところを通過、その5日後に発見された。
このような特別な軌道や速度を持つ天体は初めてで、オウムアムアは最初は彗星として登録されたが、その後彗星活動が見られなかったため小惑星としての登録に切り替えられ、しかし、近日点通過の前後にオウムアムアの速度にケプラー運動からずれた加速が見られたことから、やはり彗星のような非重力効果による加速であろうと推測された。最終的にはオウムアムアは恒星間天体と位置付けられた。
可視光の観測ではオウムアムアの表面は太陽系外縁天体に似た赤みがかった色であり、彗星に見られるガスやダストの顕著な噴き出しは見られなかった。自転周期は7.3時間。自転による光度変化の観測から、長軸と短軸の比が10:1の非常に細長い葉巻状の形であると推定されたが、これは後に、軸対象で軸比が6:1の薄い円盤状の形(パンケーキ型)の形状の方が観測された自転による光度変化をよりよく説明できることがわかった。
オウムアムアは我々から遠ざかっており、もう観測することはできないが、オウムアムアの組成について提案されている説が2つある。一つは (1) 窒素氷の塊であるという説(N2 ice天体)、もう一つは (2) 水を豊富に含んだ氷天体(H2O-rich ice天体)であるという説である。
オウムアムアを窒素氷の塊であると考える(1)の説では、一酸化炭素(CO)や二酸化炭素(CO2)といったガスやダストの放出のような彗星活動が観測できなかった理由が説明可能である。太陽系内でも冥王星海王星の衛星トリトンなど窒素氷の表面を持つ天体が存在する。太陽系外でそのような天体の表面が巨大衝突(ジャイアントインパクト)で破壊され、飛び散った一つの破片がオウムアムアではないかと推測される。もしオウムアムアが窒素氷の塊ならば、表面のアルベドは0.64程度であり、このアルベドを元にオウムアムアの大きさを推定すると45 m × 44 m × 7.5 mとなる(これに対して、彗星核として標準的なアルベド(0.1)を仮定するとオウムアムアのサイズは115 m × 111 m × 19 mとなる)。
一方(2)の説では、オウムアムアは、水を豊富に含んだ氷天体が恒星間にいる間に低温の環境下で宇宙線照射を受けて水分子の一部から水素が放出され、水素分子がアモルファス氷の中に閉じ込められた構造をしていたと考える。そして、オウムアムアが太陽系を通過する間に温められた際、閉じ込められていた水素分子が解放されたと考えている。これは水が蒸発してダストを放出するほどの加熱ではなかったが、氷の結晶構造が変化して水素分子を解放し、これが非重力効果による加速の原因になったと考えられる。
オウムアムアのような天体が太陽系で発見される確率は現在のサーベイ観測体制では0.2個/年程度だが、ベラルービン天文台で行われる計画の時空間レガシーサーベイ(Legacy Survey of Space and Time: LSST)では、発見確率が1個/年程度に増加するという見積りがある。いずれにせよ、オウムアムアのような恒星間天体は太陽系外の惑星形成を窺い知る格好の材料であり、今後発見・観測が進むことが望まれる。