天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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放射年代測定

放射性元素放射性崩壊を利用して親元素と娘元素の比から岩石や化石などの年代を測定すること。この方法で測定した年代は放射年代と呼ばれる。

対象とする親元素がある測定対象に固定されて移動しなくなった出発時点(たとえば生物が死んだときや鉱物が結晶化したとき)から、親元素の娘元素に対する比は対象の中で減少し続ける。推定したい時間の長さに適した半減期を持つ放射性元素を利用して、出発点から現在までの経過時間を推定することができる。炭素(14C)から窒素(14N)への崩壊(半減期約5730年)やカリウム(40K)からアルゴン(40Ar)への崩壊(半減期約12.8億年)などがよく用いられる。前者は放射性炭素年代測定と呼ばれ、地層中から出土した有機物などに広く適用されている。

恒星内部での対流は、放射でエネルギーが運ばれるのに必要な温度勾配(放射温度勾配∇rad)が断熱温度勾配(∇ad)よりも大きい時(∇rad > ∇ad)に起こる。恒星内部構造のモデルを計算する際、対流-放射層境界を、∇rad = ∇ad の場所(球殻)に設定するのが最も単純であるが、∇rad = ∇ad の位置は、流れの加速度がゼロとなる地点で、流れが止まる場所ではないので、実際の対流層境界はそこからある程度放射層に入り込んだ場所であることが想像できる。この現象が対流オーバーシューティング(convective-overshooting)である。この距離を理論的に知ることは困難なので、その場所での圧力変化スケール長(pressure-scale-length)の~10%くらいの距離のオーバーシューティングがあることを仮定することが多い。実際には、オーバーシューティングは時間的にも場所的にも定常的ではない。例えば、対流核の境界では大きな対流渦の運動により境界が歪められ、その時間変化により内部重力波(IGW)が発生する。それは恒星表面まで伝播し振幅の非常に小さい不規則な変光を生じる。それらは、TESS衛星による精密な測光観測により、大質量主系列星で観測されている。

恒星内部では、放射によるエネルギー輸送に必要な温度勾配(放射温度勾配; ∇rad)が断熱的温度勾配(∇ad)よりも大きくなった時、静水圧平衡にある放射層が不安定となり、対流が起こる。対流はエネルギー輸送だけでなく、ガス混合も効率よく行うため、対流領域のほとんどの領域で元素組成が均一に保たれる。しかし、∇rad がガスの不透明度(opacity) κ に比例し、κ がガスの元素組成に依存することから、対流層内部と放射層との間で元素組成が異なる場合、単純な境界には物理的矛盾が生じることがある。その場合には、放射層と対流層の間に半対流(semiconvection)層が挟まれていると仮定される。半対流層内では混合が核融合のタイムスケールで非常にゆっくり起こり、∇rad = ∇ad となるように元素組成に勾配が形成されている考える。このような半対流は大質量主系列星の対流中心核、および中小質量星のヘリウム燃焼中心核(セファイドループ星、クランプ星、水平分枝星)の境界などで現れる。特に、ヘリウム燃焼核の場合は半対流によって、その外側のヘリウムが対流核内に取り込れて核燃焼に使われるので進化のタイムスケールが長くなる。

ELTを参照。

量子力学において、粒子が持つ固有のスピン角運動量の大きさを決定する量子数。フェルミ粒子では半整数(1/2, 3/2, …)、ボース粒子では整数(0, 1, …)である。スピン量子数は通常は記号 s で表され、単にスピンの大きさという場合もある。換算プランク定数をかけると角運動量の次元になる。

磁気変光星とも呼ばれ、表面に1 kGから40 kG程度(kG=キロガウス=0.1テスラ)の強い磁場を持つ変光星である。磁場は、それらの星の進化のごく早い時期に形成された化石磁場と考えられているが、その形成過程はよく理解されていない。磁場は主に双極磁場で、その極軸は自転軸と傾いているため、観測される磁場の強さは自転周期で変化する。また、強い磁場の存在により、外層の乱流が抑えられるため、放射圧による元素の拡散が磁力線の影響のもとで起こる。そのため、ヘリウム(He)、ケイ素(Si)、カルシウム(Ca)、チタン(Ti)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、希土類元素、などが集積する層および表面領域ができ、化学特異星として観測される。そのような不均一な元素分布によって光の透過が均一でなくなるため、見える半球面で明るさが異なり、自転の周期で変光が観測される。自転周期は2日弱から10年以上の場合まである。そのような長周期の変光のほかに、比較的温度の低いA型星には、短周期(数分-20分)の変光が観測されるものもある。この短周期変動はpモード非動径振動に起因するもので、このような変光を示すA型特異星roAp星(高速振動A型特異星)と呼ばれる。

プランク定数 h2π で割った値を持つ物理定数(π は円周率)。記号 (エイチバーと発音)で表す。すなわち、

h2π=1.05457182....×1034Js

換算プランク定数はディラック定数と呼ばれることもある。

OGLE(Optical Gravitational Lensing Experiment)は大マゼラン銀河、および、我々の銀河バルジの多くの星を長期間頻繁に測光することにより、中性子星矮星、および太陽系外惑星によって起こされる重力レンズ現象を見つけるとともに、脈動、(惑)星食などで起こる変光を観測するプロゼクトである。1992年から現在まで、チリのラスカンパナスに設置されているワルシャワ大学の1.3m望遠鏡で観測が続けられている。

これまでに、数多くの太陽系外惑星、矮新星脈動変光星食連星が観測されるとともに、新しいタイプの脈動変光星グループである青色大振幅型変光星(BLAP;Blue Large Amplitude Pulsators)の存在を明らかにした。

ホームページ: https://ogle.astrouw.edu.pl

ルイス・ラザファード(Lewis Morris Rutherfurd;1816–1892)は、アメリカ合衆国の法律家・天文学者。ニューヨークに生まれ、マサチューセッツ州のウィリアムズ大学を卒業し、法律家としてニューヨークで開業した。1849年には弁護士をやめ、科学(特に天文学)の研究に転じ、分光研究と天文写真の分野の先駆者となった。研究のための装置、写真の測定につかうマイクロメーターや回折格子を刻む機械、写真観測に適した設計の望遠鏡などを開発した。
これらの装置をつかって、太陽や月や惑星や5等星までの恒星星雲の質の高い天体写真を撮影した。1862年から分光観測を始め、恒星のスペクトルを使った分類法に注目、これらはセッキ(P. A. Secchi)らによって発展させられることになった。1863年に創立されたアメリカ芸術科学アカデミーの創立会員の一人であり、1873年ランフォード賞を受賞している。

トーマス・ライト(Thomas Wright;1711-1786)は、イギリスの天文学者、数学者。造園デザイナーでもあった。ダラム州バイアーズ・グリーンに生まれ、幼い頃言語に障害があったたため、自宅で教育を受けた。その後、ゲーツヘッドで数学と航海術を学び、1730年にサンダーランドに学校を設立した。海軍の有力者の知己を得てロンドンで、有力者の家の家庭教師や建築、造園の設計者として働いた。後に故郷に戻り、ウェスタートンに小さい天文観測所(Wright's observatory)を建設した。
1750年に出版した『宇宙の新理論 新仮説』(An original theory or new hypothesis of the universe)で、天の川は、恒星の多く集まっている平面の部分を中から見ていると述べている。星雲にも興味を持ち、別の銀河の存在を示唆した。後に星雲論を唱えるカント(I. Kant)に影響を与えた。

 

レイリー卿を参照。

レイリー卿、第3代レイリー男爵ジョン・ウィリアム・ストラット(John William Strutt, 3rd Baron Rayleigh;1842-1919)は、イギリスの物理学者。しばしばレイリー卿ストラットまたはレーリー卿とも記される。エセックス州のラングロード・グローブで生まれたが、幼少期は病弱で、勉学はたびたび中断された。ケンブリッジ大学のトリニティ・カレッジで数学を学んだ後、エセックス州の自邸、ターリング・プレイスで研究を始めた。1879年にケンブリッジ大学キャヴェンディッシュ研究所長、1887年に王立研究所教授、1905年王立協会会長となった。
古典物理学の広範な分野に業績があり、1871年に波長より十分小さい粒子による光の散乱を表す式を導いた(レイリー散乱)。回折格子にも興味を持ち、分解能に精密な定義(レイリーの解像限界)を与えて分光器の発展に貢献した。また1885年には表面を伝わる弾性波の一種であるレイリー波を発見、1892年大気分析の過程で未知の気体に気づき、1894年にウィリアム・ラムゼー(W. Ramsay)と共にその正体がアルゴンであることを突き止めた。1900年には黒体放射のエネルギーを与える式を古典物理学から導いたが、後年ジーンズ(J. Jeans)によって定数の誤りが訂正されたのでレイリー-ジーンズの法則と呼ばれている。この他にも流体力学(レイリー数)や流体界面での現象(レイリー-テイラー不安定)、毛細管現象の研究などがある。「気体の密度に関する研究、およびこの研究により成されたアルゴンの発見」により、1904年のノーベル物理学賞を受賞した。

半規則的変光星(semiregular variables)は長周期(数十〜数千日)の赤色巨星または赤色超巨星の脈動変光星で、それらの周期と光度曲線は不規則な変化を示す。半規則的変光星はさらに細分化されており、赤色巨星で、周期は安定しているが脈動振幅が周期ごとに大きく変化するSRa型、逆に周期が大きく変化するSRb型、赤色超巨星のSRc型(ベテルギウスなど)、さらに比較的温度の高いスペクトル型K,G,Fの超巨星変光星SRd型などに細分されている。

MACHO, OGLE(Optical Gravitational Lensing Experiment) の重力レンズ現象探査プロゼクトによる長期間の測光観測により、大マゼラン銀河(LMC)に多数の半規則的変光星が観測された。それらはA,B,C',C,D系列などと呼ばれる比較的幅の広い周期光度関係を持つことが知られている。このうちC系列は赤色(超)巨星の基本動径脈動系列で、ミラ型変光星に対応している。それよりも周期の長いD系列はLSP(long secondary periods)系列とも呼ばれ、基本脈動よりも長い周期の原因はよくわかっていない。

 

ヴィクトール・フランツ・ヘス(Victor Franz Hess;1883-1964)はオーストリア出身の物理学者。宇宙線の発見によってノーベル物理学賞を受賞した。
シュタイヤーマルク州ペガウ近郊で生まれ、1910年にグラーツ大学で学位を得た。ウィーン大学などで放射線の研究を行い、1912年に気球に乗って高度と放射線の強さの関係を測定、上空に行くほど放射線強度が増加することを見出して、放射線が宇宙起源であることを示した。この功績で1936年のノーベル物理学賞を受賞した。ちなみに、宇宙起源の放射線を「宇宙線」と名づけたのはロバート・ミリカン(Robert A. Millikan)である。
1925年にグラーツ大学の教授に、1931年にはインスブルック大学教授に任命され、新設された放射線学研究所の所長となったが、ナチスの台頭を嫌い、1938年にアメリカへ渡ってニューヨークのフォーダム大学の教授となった。1944年にアメリカの市民権を得(英語名はヴィクター・フランシス・ヘス;Victor Francis Hess)、1964年にニューヨークで没した。

 

デカルト(Rene Descartes;1596-1650)は近世哲学の祖といわれるフランスの哲学者、自然科学者。「近代哲学の父」とも称せられる。フランスの貴族の家に生まれ、1606年にイエズス会の学院に入りスコラ学を学んだ。一方で、啓蒙主義思想の影響を受け、数学を通じて合理的思想を育てた。1618年に学院を出て、三十年戦争に旧教派として従軍、その後ヨーロッパ各地を遍歴しながら自らの哲学を構築した。主にオランダで活動していたが、1650年にスウェーデン女王クリスティナに招かれて当地に赴き、そこで亡くなった。

デカルトは、哲学にも数学と同様な確実に証明できる原理があるべきだと考え、先入観を除いて思考を進めようとした。徹底的な懐疑から出発した結果、自己の存在は疑う余地がないとの結論に達し、「我思う故に我あり(cogito, ergo sum)」という有名な命題を得た。さらに、自然と人間精神を峻別し、自然現象を機械論的に対象化する二元論の立場をとった。真空を廃し、すべての空間には連続でいくらでも細かく分割できる微細物質が詰まっているとして、遠隔操作としての力を否定し、物体の運動の原理を、空間における渦動にあるとした。ロバート・フックはこの考え方を受け継ぎ、デカルトの宇宙に満ちている微細物質をエーテル(aether, ether)と呼び、光とはエーテルの中を伝わる振動であるとした。この運動論は後に否定されたが、彼の解析幾何を手法とする自然現象の探究と、二元論的な認識法は、近代科学の指導的原理となった。著書に『世界論』(宇宙論)Le Monde、『方法序説』Discours de la méthode、『情念論』Les passions de l'ameなどがある。

なお、デカルトのラテン語名はレナトゥス・カルテシウス (Renatus Cartesius) であり、デカルト格子(Cartesian grid)など、デカルトの名がついたものにカルテシアン(Cartesian)という表現が用いられる。

 

オリオン星雲のこと。天球上で大きく明るく見えるため、「大」星雲と呼んでいるが、これは太陽系からの距離が近いためで、この種の天体として特別に巨大というわけではない。

アルフレッド・ファウラー(Alfred Fowler;1868-1940)はイギリスの天文学者。ヨークシャーで生まれ、ノーマル・スクール・オブ・サイエンスで力学を学んだ。1885年、太陽物理観測所研究生として働き始め、インペリアル・カレッジで天体物理学の教官(後に助教授)に任命され、1920年に正教授となり、亡くなるまで同校で働いた。1919年からは王立天文学会の会長と国際天文学連合の初代事務総長を努めた。
分光学の権威で、 スペクトル線を使って太陽黒点の温度がその周辺より低いことを初めて明らかにしたり、電離ヘリウムのスペクトル線を実験室で初めて発見するなどし、電離ガス全般のスペクトルの理解に大きく貢献した。1915年王立天文協会ゴールド・メダル、1918年ロイヤル・メダル、1934年ブルース・メダル受賞。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/153

 

物体の形やその存在を認識する目の能力。対象物の細部をどれだけ見分けられるかで数値化される。見分けられるもっとも小さな構造に対する視角を角度の分(角度表示を参照)で表した数値の逆数が視力である。すなわち視力は以下の式で定義される。

視力=1÷見分けられる最小視角(単位は分)

したがって、1分角を見分けられる人の視力は1.0である。人間の視力は2.0程度までであるが、天文学の観測装置の能力を人の視力に例えるととてつもなく大きな数値となる。例えば、空間分解能1秒なら視力60、1ミリ秒なら視力6万となる。M87銀河の中心核と銀河系天の川銀河)の中心核(いて座A*)にあるブラックホールのシャドウを可視化したイベントホライズンテレスコ-プの視力は300万(分解能20マイクロ秒)にも達する。

視力測定の標準指標として用いられるのは、パリで活動したスイス人眼科医のエドムンド・ランドルトによって開発されたランドルト環である(図参照)。外径7.5 mm、内径4.5 mm、切れ目の幅1.5 mmの黒い円環を5 mの距離から見て、切れ目(視角1分)の向きが判定できれば視力1.0とされる。

 

カッパ(κ)機構 (kappa mechanism) とは、恒星内部から外側に向かう放射エネルギーの流れ効率の変化によって恒星の脈動が自発的に引き起こされる機構をいう。カッパ(κ)とはガスの不透明度(opacity)のことなので、opacity mechanism といわれることもある。

通常のガスの状態では、不透明度は温度が上昇すると減少し、エネルギーが流れやすくなる。そのため、微小振動で圧縮され温度が上昇した層では、エネルギーが失われ、次に起こる膨張が弱くなり、微小振動は減衰する傾向となる。しかし、恒星のガスを構成する元素またはそのイオンが不完全電離の状態となっている層では、温度が上昇した際、不透明度が逆に大きくなるか、または、減少が抑えられる。そのような層では、圧縮の際に不透明度が増大し、エネルギーの流れが堰き止められ、その層に吸収される。そのエネルギーは次に起こる膨張を強くするので脈動を少しずつ成長させる効果を持つ。星全体として、減衰効果よりも成長効果の方が優っているとき、かっぱ機構による脈動が発生する。

図に示されているように、恒星内部で高温になるにつれて重い元素の不完全電離層が現れ、不透明度と温度の関係に’コブ’が現れる。原理的には、各不完全電離層でカッパ機構が働くが、内部深くの密度の高い場所では熱交換のタイムスケールが長いため脈動は断熱的に起こり、影響は非常に小さい。逆に、密度が非常に小さい表面近傍では熱交換のタイムスケールが非常に短く、ガスの不透明度の変化に関わらず、脈動の間に熱が自由に通過してしまいカッパ機構は働かない。熱的タイムスケールがおおよそ脈動の周期程度となっている(表面からより少し内側に位置する)層で、ある元素が不完全電離の状態となっている場合に、カッパ機構によって脈動が起こる。そのため、星の表面温度によって、どの元素のカッパ機構が重要であるかが決まる。例えば、HR図上でセファイド不安定帯のなかに位置する、セファイドRRライリ型脈動星などはは数万度の層にあるHe+ の不完全電離層のカッパ機構で起こり、B型星のベータセファイド、低速脈動B型(SPB)星の脈動は数十万度での鉄の不完全電離層のカッパ機構で起こっている。さらに、O型星のDOV(PG1159)星の脈動は数百万度にある炭素酸素の不完全電離層のカッパ機構で起こっている。

低速脈動B型星のこと。