極高エネルギーの宇宙線は、宇宙マイクロ波背景放射(CMB)と衝突してエネルギーを失うため、約1020 eV付近を境にして、それ以上では急激に地球への到来数が減るはずであるとする予想。
このことはCMBの発見後ただちに、CMBの光子が宇宙線陽子に及ぼす効果として、グライセン(K. Greisen)、ザツェピン(G.T. Zatsepin)、クズミン(V.A. Kuzmin)により指摘された(1966年)。この現象をそれを指摘した研究者にちなんでGZKカットオフ(あるいはGZK限界)という。
エネルギーが 約7×1019 eV ×(ε/10-3 eV)-1以上のとき(εは光子のエネルギー)、宇宙線陽子は6メガパーセク(Mpc)に1回程度の確率でCMBの光子との間で光-パイオン(パイ中間子)生成反応を起こす。その際 10-20%(パイオンと陽子の質量比程度)のエネルギー損失を受けるので、数回の相互作用でもとの宇宙線陽子は大半のエネルギーを損失し、30-100 Mpc (=1-3億光年)より長い距離を飛来できない。このため、この距離より遠方から飛来して観測される宇宙線陽子に約1019 eV 以上のエネルギーを持つものはほとんどなくなり、そこでエネルギースペクトルが急激に減少することになる。
2003年10月に、宇宙開発事業団、航空宇宙技術研究所と宇宙科学研究所の三機関を統合して発足した独立行政法人。日本の宇宙航空分野の研究開発とその技術・知識を社会のさまざまな分野に活かす活動を行っている。東京都調布市にある本社の他、全国各地及び世界にも多数の事業所・施設を有している。2015年4月には国立研究開発法人となった。通称はJAXA。
ホームページ:http://www.jaxa.jp/index_j.html
伝統的な天体の距離測定法につけられた名称。天体までの距離に応じて異なる手法を次々につないで遠方の距離を測る様子が、あたかも「はしご」をつないで高いところまで届く様子に似ていることからつけられた呼び名(図1)。最終目標は宇宙の大きさを決めるハッブル定数を決定することである。
最初のステップは、地球と太陽の間の平均距離(1天文単位 =1 au)の決定である。1 au はレーダーで惑星までの距離を直接測り天体力学を利用して決める。第2ステップでは、年周視差などの手法で、太陽近傍にある恒星の距離を決める。これを基にして、精度の高い1次距離指標と呼ばれるセファイド(種族Ⅰ)やこと座RR型変光星(種族Ⅱ)の距離を決め絶対等級を決める。第3ステップでは、セファイドを用いて、標準光源法により近傍の銀河までの距離を決める。第4ステップでは、距離の決められた近傍銀河を基準にして、惑星状星雲や球状星団の光度関数、銀河の面輝度ゆらぎ、およびタリー-フィッシャー関係やDn-σ関係のような距離指標関係式など2 次距離指標を利用して遠方銀河の距離を決める。
近年ハッブル宇宙望遠鏡によるセファイドの観測が40 Mpc(1.3億光年)まで届くようになり、Ⅰa型超新星の母銀河の距離をセファイドで決めることができるようになり、Ⅰa型超新星が距離はしごに重要な役割を果たすようになった(図2)。また約24 Mpc(8000万光年)の距離にあるNGC 4258の水メーザーの観測から、年周視差と同様の幾何学的方法により正確な距離が決められたことから、年周視差とセファイドのはしごをつなぐアンカーとしてNGC 4258が注目を集めている。ガイア衛星のデータ解析が完了すれば、銀河系内の多数のセファイドとこと座RR型変光星の距離が年周視差で正確に決められるので、距離はしごの最初のいくつかのステップは簡略化されることになろう。また、スニヤエフ-ゼルドビッチ効果や重力レンズを使った距離測定、さらには2015年に初めて観測された重力波による距離決定など、従来の「距離はしご」の枠組みに収まらないさまざまな距離決定法が登場して、「距離はしご」そのものは少しずつ形を変えてきているが、重要な天文学の概念である。
宇宙の相対的大きさの時間的変化を表す関数。宇宙のスケールファクターとも呼ばれる。$a(t)$ で表し、現在 $(t=t_0)$ での値を1に規格化することが多い。スケール因子は宇宙全体の時間進化を記述するための基本的な量である。
膨張宇宙において、十分離れた距離にある任意に選んだ2つの銀河の距離 $r(t)$ はスケール因子に比例して大きくなる。すなわち、$r(t)=a(t)\chi$ と表される($\chi$は固有距離である)。ここで $\dot{r}(t)=\dot{a}(t)\chi=v(t)$ は、観測的には銀河の後退速度に相当する。ここで変数記号の上のドットは時間微分を示す($\dot{r}(t)={\rm d}r(t)/dt$ など)。ハッブル定数とスケール因子の関係は次のようになる。
$$\frac{v(t)}{r(t)}=\frac{\dot{a}(t)}{a(t)}\equiv{H(t)}$$
はハッブルパラメータと呼ばれるが、その現在における値 $H(t=t_0)\equiv{H_0}$ がハッブル定数である(ハッブル-ルメートルの法則 $v=H_0\thinspace{r}$ を参照)。
遠方銀河からの光は宇宙膨張によって波長が伸び、スペクトルが赤方偏移して見える。波長の伸びは、光が出発した時点におけるスケール因子の逆数に比例する。このため、光が出発した時刻におけるスケール因子の値は観測可能な量である。また、角径距離や光度距離など、宇宙論的に重要な観測量はスケール因子の時間変化により定まる。
宇宙空間における銀河の分布には特徴的な疎密が見られる。大部分の銀河は、銀河団及び銀河団をつなぐフィラメント状構造に属しており、このフィラメントに囲まれるようにしてボイドと呼ばれる低密度の領域が存在する。銀河団とそれらをつなぐフィラメント状構造およびボイドが織りなす構造のことを宇宙の大規模構造という。
宇宙の大規模構造は、せっけんの泡がくっつきあっている様子に似ていることから泡構造とも呼ばれる。一つの泡(ボイド)の大きさは数10メガパーセク(数10 Mpc=1億光年)にも及ぶ。フィラメントでつながれた銀河群、銀河団などは更に大きな超銀河団を構成する。
大規模構造は、宇宙の誕生時に存在した微小な量子ゆらぎが、インフレーションによって空間的に何十桁も拡大し、その後の時間経過と共に大規模構造に成長していったと考えられている。なおインフレーション後にあった物質分布の揺らぎのみでは大規模構造はできず、冷たいダークマターの存在が大規模構造形成に大きな働きをした。局所超銀河団、ラニアケア超銀河団、インフレーション理論、2MASSも参照。
宇宙の大規模構造形成のシミュレーション。ダークマターハローの形成・進化(Ⅲ. 網目構造・ボイド構造の形成)」[クレジット] シミュレーション:石山智明 可視化:中山弘敬 国立天文台4次元デジタル宇宙プロジェクト
https://www.youtube.com/embed/qiprMBDnUFU?si=GChe9IaYO1sKe90S"
自由-自由放射を参照。
地平線とは一般には、遠方を見渡したときの地表と空の接する線、すなわちある点から見渡すことのできる距離の上限を表すものであるが、宇宙論的な地平線は以下のようにいくつかの異なる種類がある。
1. 粒子の地平線(particle horizon)
宇宙開闢(かいびゃく)後のある時刻までに因果関係を持つことのできた距離の上限、すなわち光が届くことのできた距離を粒子の地平線という。通常のビッグバン宇宙論で想定されるような減速的膨張宇宙では粒子の地平線は光速に時刻を掛けた程度の値を持つ。一方インフレーション宇宙論のように加速的膨張が起こると粒子の地平線はスケール因子に比例して急激に増大する。
2. ハッブル地平線(Hubble horizon)
ハッブルパラメータの逆数で与えられる、宇宙膨張時間内に因果関係を持ちえた距離の上限、すなわち光が届いた距離がハッブル地平線(ハッブル長、ハッブル半径ともいう)である。膨張宇宙の各時代毎に起こるさまざまな現象が、どのスケールまで一様に起こり得るかを表すのがハッブル地平線である。スケール因子が時間のべき乗で増大する宇宙では、ハッブル地平線の大きさは光速に時刻を掛けた程度である。
3. 事象の地平線(event horizon)
そこより先で起こる事象は永久に観測できない、という境界面のこと。たとえばシュバルツシルトブラックホールの重力半径より内側で起こる事象は外側の観測者からは見えないので、重力半径の球面がこのブラックホール時空の事象の地平線に相当する。宇宙論の場合は、減速的膨張または収縮する宇宙には事象の地平線は存在しないが、加速膨張する宇宙では、十分遠方で起こる事象は時間が経っても見ることができないので、事象の地平線が存在する。たとえば、ド・ジッター時空では、ハッブル長以上離れた点の事象は永遠に観測できないので、各点からハッブル長離れた面が、その点に対する事象の地平線となる。これをド・ジッター地平線ともいう。粒子的地平面、地平線問題も参照。
宇宙の晴れ上がりとは、ビッグバンによる宇宙誕生の約38万年後、赤方偏移にしてz = 1090の頃に、たとえて言えば、「濃い霧がかかったようになにも見えなかった状態から霧が晴れてくっきり景色が見える状態」へと宇宙の状態が変化したことを指す用語である。この用語は佐藤文隆氏の提案によるもので英語の定訳はない。英語ではこの時期を表す再結合期(recombination epoch)あるいはその原因となった光子の脱結合(photon decoupling)などが用いられる。
ビッグバン直後の宇宙は超高温・高密度であったが、宇宙膨張とともに温度と密度が下がり約38万年後には温度は数1000度K(絶対温度)になっていた。その当時の宇宙に存在した原子はほとんどが水素とヘリウムであったが、それらはすべて電離して水素原子核(陽子)とヘリウム原子核と原子核に束縛されていない自由電子とからなるプラズマ状態にあった。このため光子は自由電子によってトムソン散乱を受け、まっすぐ進むことができなかった。これはちょうど霧や雲の中で光が散乱され直進できないことになぞらえられる。宇宙の温度が下がって5000度K程度になるとまずヘリウム原子核が2個の電子を捕獲しヘリウム原子となり、その後4000度K程度になると水素原子核が電子を捕獲し始める。これを電子の再結合という。再結合によって自由電子が減っていくことで光子は散乱される相手を失い物質の束縛から解放されていく。宇宙の温度が3000度K程度になった時点で自由電子はほとんど原子核に束縛される。これを電子と光子の脱結合といい、脱結合後の光子は直進できるようになる。こうして宇宙の晴れ上がりが起きる。宇宙の晴れ上がりは宇宙の再結合期とも呼ばれる。なお、「再結合」という言葉は、一般には中性の原子が電離で電子を失ったあとで再び電子を捕獲するプロセスに対して用いられる言葉であるが、ここではもともと電離状態にあった原子の初めての電子捕獲に対して用いられている。
宇宙にある多数の光子が電子から最後に散乱を受けるのは宇宙の歴史から見ればごく短い時間の間に一斉に起きるので、我々から見ればある時刻(距離)に対応する薄い球面である。これを最終散乱面という。宇宙マイクロ波背景放射は最終散乱面から我々に届いた放射である。そのためそこには宇宙の晴れ上がり時点の宇宙の物理状態(およびそこから我々までの間で光子が通過した宇宙空間)の情報が刻み込まれている。
脱結合後でも、電離度にすると1万分の1程度のわずかな自由電子が残っている。残った自由電子は始原ガス雲の重力収縮の際に冷却を担う水素分子をつくる触媒となり、始原星(初代星)の生成に役立つことになる。
宇宙の晴れ上がり直後から物質密度の粗密を種としてバリオンからなる天体と宇宙の大規模構造の形成がはじまるが、しばらくは天体がなく真っ暗な時代が続く。これを宇宙の暗黒時代と呼ぶ。ある時点で最初の星(初代星)ができその集まりである初代の銀河ができ、それらの発する光により宇宙が明るくなりはじめる。この時期を宇宙の夜明けと呼ぶ。2025年時点で、測光データから134億光年より遠方の宇宙(赤方偏移 z=10 以上;誕生後約4億年より若い宇宙)にあると推定される銀河は100個を越えている。これからすると宇宙の夜明けは今から135億年前(宇宙誕生の3億年後)ころと推定される。この「宇宙の夜明け」と対比して、宇宙全体の星形成率が最も激しくなる時期を「宇宙の真昼」とも言う。
星形成史、マダウ図、原始銀河、宇宙の再電離も参照。
宇宙にはビックバン起源の放射である宇宙マイクロ波背景放射(CMB)だけでなく、別の起源による背景放射がさまざまな波長域で検出されいる。これを総称して宇宙背景放射という。たとえば、X線の波長領域では人工衛星の観測により宇宙X線背景放射(CXB)が観測されており、その起源はROSAT、XMM-ニュートン衛星、さらにチャンドラ衛星といった最近の衛星観測によりX線を出す多数の点光源(活動銀河核)であると考えられている。赤外線の領域ではCOBE衛星により宇宙赤外線背景放射(CIB)が観測されており、個別の赤外線源(ダストを多く含む星生成銀河や遠方銀河など)からの放射によるものと考えられている。他の波長域でも背景放射が存在するが、宇宙マイクロ波背景放射が最も高いエネルギー密度を持っている。可視光の背景放射が暗いことはオルバースのパラドックスのきっかけとなった。
COBE衛星を参照。
時空の位相的欠陥の一種で、宇宙論的なスケールに広がる一次元のひも状の物体のこと。コスミックストリングともいう。通常は端を持たないため無限の長さを持つか閉じたループをなし、光速に近い速度で運動しながら、交差によって組み替えを起こしながら進化する。長いストリング(ひも)からは宇宙膨張時間に対して常に一定の比率で閉じたループが形成され、ループは重力波を出して崩壊するため、宇宙ひもは常に宇宙のエネルギー密度に対して一定の比率を占めることになる。したがって、宇宙の進化とともにスケール不変な密度ゆらぎを生成する。
位相的欠陥は対称性の自発的破れを伴うスカラー場の相転移に伴って生成しうるが、宇宙ひもは特に、回転対称性が破れるような、相転移後の真空多様体が単連結でないときに生成しうる。異なる真空を閉曲線でつないでいくと、必ずしもそれを1点に収縮させることができず、その中心にエネルギーの高い領域がひも状に形成されるからである。大統一理論のエネルギースケールで起こった相転移によってできた宇宙ひもにより現在の宇宙の構造が形成された、とする説はかつて精力的に研究されたが、現在では宇宙マイクロ波背景放射の非等方性の観測により、この説は棄却されている。その一方、より低いエネルギーのストリングがもたらす観測的影響は現在も研究されている。しかし、パルサーのタイミングデータに基づく重力波背景放射の振幅の制限から、ストリングのエネルギースケールには強い制限が課されるようになってきているため、これを回避するメカニズムが必要とされる。
重力ポテンシャルのような$1/r$ の形を持つ関数を展開するときに現れる多項式のこと。
具体的には
$$
P_n(x)=\frac{1}{2^nn!}\frac{d^n}{dx^n}(x^2-1)^n
$$
と書ける。たとえば、
$$P_0(x)=1,\,\,\,P_1(x)=x,\,\,\,P_2(x)=\frac{3x^2-1}{2}$$
である。漸化式
$$(n+1)P_{n+1}(x)-(2n+1)xP_n(x)+nP_{n-1}(x)=0$$
あるいは
$$
nP_n(x)=x\frac{dP_n}{dx}-\frac{dP_{n-1}}{dx}$$
から求めることもできる。
地球大気の影響をまったく受けないで天体観測を行うために、大気圏外に打ち上げる人工衛星搭載の望遠鏡。天文衛星や宇宙天文台とも呼ばれ、固有名がつけられるものが多い。太陽系の惑星や惑星間空間の探査を目的とするものは惑星探査機あるいは宇宙探査機と呼ばれる。天体から地球に届く電磁波のうち、可視光、赤外線、電波の一部を除いて残りは地球大気に吸収されてしまう。また、大気を透過する波長帯であっても、大気からの(熱)放射が大きな背景雑音となる、透過率の変動により超高精度な測光観測は困難、大気ゆらぎにより天体像が乱される、などさまざまな大気による影響がある。このような影響を完全に避けるためには大気圏外に出る必要がある。
同様の目的で利用される航空機や気球、ロケットに搭載した望遠鏡に比較して、宇宙望遠鏡は最もコストや開発期間がかかるが、最も成果の期待できる手法である。人工衛星の軌道としては、地球を周回する低軌道(太陽同期軌道が含まれる)や長楕円軌道に加えて、観測条件の必要に応じて太陽を周回する地球追随太陽周回軌道、ラグランジュ点 L2 なども選択される。
宇宙の晴れ上がりの時点(宇宙誕生後約38万年)から届く黒体放射。熱い火の玉状態であった初期宇宙からの光子が、宇宙膨張とともに温度を下げながら、マイクロ波の波長域にピークを持つ黒体放射として現在の宇宙を満たしている。この放射が宇宙マイクロ波背景放射である。その温度が絶対温度で3 Kに近いことから3K放射あるいは英語名(Cosmic Microwave Background Radiation)を略してCMB(シーエムビー)ということもある。
ガモフ(G. Gamow)によって1946年に理論的に予言されていたが、米国ベル研究所のペンジアス(A. Penzias)とウィルソン(R.W. Wilson)がそれを偶然発見したことが1965年に報告された。1989年に打ち上げられたNASAのCOBE衛星による観測から、CMBが温度 2.725±0.001 Kの完璧な黒体放射であることが示された。これは光子が放射された時点の宇宙の温度にして約3000 Kに対応し、初期宇宙において物質と放射が熱平衡状態にあったことを示す確証となった。COBE衛星はまた、長年探し求められていたCMBの温度ゆらぎ(天球上の場所ごとのCMBの黒体放射温度のばらつき)を検出したが、それは10万分の1 というわずかなものであった。
CMBの温度ゆらぎは、宇宙の構造形成の種となった密度ゆらぎに対応する。温度ゆらぎのパターン(パワースペクトル)には多くの宇宙論パラメータの情報が含まれているために、その後地上からの気球観測や人工衛星によるCMBの詳細な観測が次々と行われた。2001年に打ち上げられたNASAのWMAP衛星はCMB観測の感度と角分解能を大きく向上させた。さらに、2009年にESAが打ち上げたプランク衛星は、低周波観測装置 (LFI) と高周波観測装置 (HFI)の2台で30 GHzから857 GHzにわたる9つのバンドをカバーし、それまでにない高感度(温度ゆらぎで10-6レベル)と高い角分解能(5分-30分角)で2012年までCMBの強度と偏波を観測した。最終結果の論文は2018年に出版された。
宇宙背景放射も参照。
天文学では、星の距離を求める手法を一般的に「視差」と呼ぶ慣習がある。実視連星では何らかの方法で星の質量が推定できれば、公転周期からケプラーの法則(第3法則)を用いて軌道長半径が求められる。この値と、天球上での見かけの長半径(角距離)を比較すると距離が求まる。この手法を力学視差と呼ぶ。
天文学では、現在観測されている状況が力学的平衡状態にあると仮定して、その運動とつり合う重力を生じさせるだけの質量を求めることが多い。このようにして求めた質量を力学質量という。力学的運動と重力しか考えない場合には、ビリアル質量と一致する。
水素原子で電子が主量子数 n=1 の基底状態のエネルギー準位とそれよりも上の準位の間で遷移することによる一連の輝線あるいは吸収線の総称である。主に紫外線の領域にあり、1906年にアメリカのライマン(S. Lyman)によって発見された。n=2,3,4,… との間での遷移によるスペクトル線はそれぞれ Lyα(波長121.6 nm)、Lyβ(102.6 nm)、Lyγ(97.3 nm)、… と書かれる。n=∞ と n=1 の間の遷移に対応する波長はライマン端といわれ、91.2 nmである。再結合線、バルマー系列、パッシェン系列、ブラケット系列も参照。
なお、水素原子以外の原子でも、電離して電子が1個となった場合(水素状原子という)、主量子数が n=1 の基底状態のエネルギー準位にそれよりも上の準位から電子が遷移するときに放射される線スペクトルをライマン系列や同様の輝線名で呼ぶことがある。この場合は、波長は水素の場合とは異なる。
正の実効的な宇宙項があれば、一般的な初期条件から出発しても、その宇宙項の決める宇宙膨張時間のあいだに指数関数的膨張すなわちインフレーションがはじまる、という仮説のこと(インフレーション理論を参照)。インフレーション以前の宇宙は一般に非一様かつ非等方であったと考えられるが、この仮説は、インフレーションを引き起こすもとになる宇宙項の役割を果たすエネルギーが十分あれば、そのような一般的な時空から宇宙が創生してもインフレーションが起こり、宇宙が一様等方化されることを意味する。これは仮説であって定理ではないので、厳密に成り立つわけではないが、
空間曲率の符号が至るところ負またはゼロであれば確実に成り立ち、正の点があってもあまり大きな値を取らなければ成り立つことが知られている。
非線形光学結晶を用いて2つのレーザー光を混合し、それぞれの周波数の和にあたる短波長のレーザーを発生させるもの。すばる望遠鏡ではレーザーガイド星生成のためのナトリウムD線(波長589 nm)のレーザーを、波長1064 nmと波長1319 nmの2つのNd:YAG赤外線レーザーを混合して発生させるシステムを理化学研究所と開発した。
