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オルバースのパラドックス

高

よみ方

おるばーすのぱらどっくす

英 語

Olbers' paradox

説 明

宇宙が膨張しておらず(静的で)無限の大きさを持っているとすれば、無限遠方まで見ればどの方向を見ても星が空を覆い尽くして空の表面輝度は星の表面と同じになり、空は夜でも昼間のように明るいはずだが実際にはそうなっていない。これがオルバースのパラドックスである。
このような疑問は17-19世紀にかけて、ケプラー、ハレー、ド・シェゾー、オルバースらが提示したが、定常宇宙論を唱えたヘルマン・ボンディが著書『宇宙論』(1952年)でオルバースの1823年の著作のみを引用してこれを「オルバースのパラドックス」として紹介した。以後この名前で広く呼ばれているが、スイスの天文学者ド・シェゾーはオルバースよりも80年ほど前にこのパラドックスを定量的に論じている。
20世紀になって、星の分布する空間である銀河系天の川銀河)が有限の大きさであることがわかり、オルバースのパラドックスの前提である「星の分布する空間は無限」という前提が崩れたのでパラドックスは一旦回避されたかに見えた。しかし今度は星(恒星)を銀河に置き換えると(星は銀河の中にある)、宇宙空間が無限とすれば同じパラドックスが問題となる(これをここでは「現代版オルバースのパラドックス」と呼んでおく)。
ところが、ビッグバン宇宙論が確立したことにより、宇宙は静的ではなく膨張しており、その年齢が有限(138億年)であることもわかった。宇宙に銀河(星)が最初に誕生したのはビッグバンから2-3億年後くらいと考えられているので、光の速度の有限性から、我々から観測できる銀河は有限の空間内にある有限個である。観測データから、銀河の大きさとこの空間内にある銀河の個数密度を推定してみると、銀河が空を覆い尽くすことはないことがわかる。従って空の明るさは銀河の表面輝度と同じになることはない。さらにこの有限の空間は有限の時間にも対応しており、われわれが観測するのは銀河が誕生してから現在までという有限の時間(138億年よりは短い)に銀河が放った光(電磁波)である。これはさまざまな波長で宇宙を満たす宇宙背景放射として観測が進んでいるが、夜空を明るくする強度より桁違いに弱い(ただし、宇宙マイクロ波背景放射は銀河が誕生する以前に宇宙を満たしていた放射で、銀河による背景放射とは別のものであることに注意)。
膨張宇宙を前提とした現代版オルバースのパラドックスの議論では、夜空が暗いことの主な原因を、宇宙膨張の効果で遠方の銀河から届く光が赤方偏移して、エネルギーが小さくなることであるとする考えもあった。しかし定量的な計算をした結果、銀河の数が有限であることおよび銀河が光を放つ時間(銀河の年齢)が有限であることの効果に比べて赤方偏移の効果はだいぶ小さいことがわかった。星間物質銀河間物質による吸収の効果、銀河分布の非一様性(宇宙の大規模構造)の効果が議論されることもあるが、これらの効果はパラドックスの回避には本質的に重要ではないことがわかっている。
したがって、膨張宇宙で現代版オルバースのパラドックスが回避される(夜空が明るくない)主な理由は、宇宙膨張の効果ではなく、宇宙の年齢が有限であるため観測できる銀河の数が有限でその年齢も宇宙年齢より短いことである。宇宙には夜空を明るくするほど多くの星(銀河)が存在していないという端的な言い方もできる。

 

 

2022年05月01日更新

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    * オルバースのパラドックスを説明する図
    膨張していない宇宙で星間吸収がないとすれば、遠方の星から空の単位面積あたりに届く光の強度は星までの距離の2乗に反比例して弱くなる。一方、もし星の密度が一様であれば、天球上の単位面積内で、各距離(実際にはその距離を中心とする微小な距離範囲)にある星の数は距離の2乗に比例して増大する。両者を掛けたものがその距離にある星々から届く光の天球上での表面輝度になるが、光の強度が弱くなる効果と星の数が増える効果が打ち消し合って表面輝度は距離に依らない一定の値を取ることになる。従って近い星も遠い星も表面輝度に同じ寄与をするため、遠い星まで考えれば夜空はどの方向を見てもどんどん明るくなる。オルバースは、どの視線上でも星が重なり合って、空は星の表面と同じ明るさで輝くと推測して夜空が暗いことに疑問を投げかけた。
    オルバースのパラドックスのイメージ動画
    https://en.wikipedia.org/wiki/Olbers%27_paradox