水素原子が示すメーザー発振を利用した時計。1日以内の短期的な安定度に優れ、超長基線電波干渉計における各素子アンテナの周波数標準として利用されている。
ラム圧を参照。
電子と陽電子が対消滅する際に出す511 keVのガンマ線。対消滅ガンマ線を参照。
対生成を参照。
シリコンウェハー上にストリップ(帯)状の電極を実装し、個別に読み出すことにより、荷電粒子の通過位置を精密に測定できる検出器。フェルミ衛星のLAT検出器やAGILE衛星のGRID検出器で、ガンマ線が引き起こす電子-陽電子 対生成の飛跡検出に用いられている。
高エネルギーのガンマ線、電子または陽電子が物質中で引き起こすカスケードシャワー(粒子の増殖現象)。ガンマ線による電子-陽電子対生成と、電子-陽電子の制動放射という電磁相互作用の繰り返しで粒子数が増大し、粒子の平均エネルギーが下がると電離損失が勝るようになり減衰していく。空気シャワー、ハドロンシャワーも参照。
地球上のある場所にとどまっている限り地平線の向こう側を見ることができないのと同様に、宇宙でもある距離以上の場所とは因果関係を持てない。これは、相対性理論の要請により光速以上で情報が空間中を伝わらないことに起因する。
因果関係を持てる範囲の境界となる球面を宇宙の地平線、または地平面という。ある任意の場所と時刻において、それより過去からの情報を得ることのできるその時刻の空間的範囲の境界を粒子的地平線という。宇宙の年齢は有限であるため、宇宙が始まってからある時刻までに光の到達できる距離が、その時刻の粒子的地平線の半径となる。現在の粒子的地平線の半径は共動距離にして約14ギガパーセク(14 Gpc=460億光年)である。
一方、ある任意の場所と時刻において、それより未来に情報を受け取ることのできるその時刻の空間的範囲の境界を事象的地平線という。減速膨張しつづける宇宙では、どのような遠方の情報でもいつかは届くため事象的地平線の半径は無限大になる。一方、指数関数的に加速膨張する宇宙では、十分遠方の情報が急激な膨張に阻まれていつまで経っても届かなくなり事象的地平線の半径が有限の値になる。
高密度の電離ガスにおいて、電子の運動エネルギー分布が、エネルギーの低い状態から許容される最も高い状態まですべて埋まった分布となっていること。量子力学の不確定性原理により、ある大きさのエネルギー(運動量)以下の運動の状態の数は単位体積あたり有限で、パウリの排他原理によりフェルミ粒子である電子は、2つ以上の粒子が同じ場所で同じ運動状態をもつことができない。赤色巨星中心核や白色矮星では電子が縮退した状態になり、この縮退圧より星の重力を支える。縮退圧は密度のみに依存し温度によらないため縮退状態にあるガスは高温になっても膨張して温度を下げることができず、核融合反応が暴走し、赤色巨星中心核でのヘリウムフラッシュや、チャンドラセカール限界質量を超えた白色矮星での炭素フラッシュを引き起こす。
古典ビッグバン宇宙論では宇宙は常に減速的な膨張をするため、スケール因子を時間のべきで表した場合、そのべき指数は必ず1より小さくなる。一方、粒子の地平線もハッブル地平線も時間に比例して増大するので、より遠くの座標距離にある点が時間とともに次々と地平線内に入ってくることになる。こうして今初めて見えてきたが、今まで因果関係を持ったことのなかったはずの領域が、私たちの周囲と同じ性質を持っているのはなぜか、というのが地平線問題である。より定量的にいうと、宇宙マイクロ波背景放射は空の全方向から等方的に2.73Kの熱放射として観測されるが、このマイクロ波光子が最終散乱した宇宙の晴れ上がり当時の地平線は現在の天球上の角度にして約2度に過ぎない。全天を約2度の領域に分割すると1万個にもなる。これだけの数の因果的に独立した領域が、当時同じ温度を持っていたというのである。これが地平線問題である。インフレーション理論、地平線(宇宙の)も参照。
蒸着を参照。
中性子星内部のコアの領域では、密度が非常に高いために中性子が超流動状態になっていると考えられている。これを超流動コアと呼ぶ。
よく知られている超流動は、スピン1/2のフェルミ粒子が対をつくって合成スピン0となると、あたかもボース粒子のように振る舞い、粘性がほとんどなくなる状態である(スピン角運動量も参照)。これは1S0 超流動と呼ばれ、主にクラスト領域の内側部分の中性子はこの状態になっている(中性子星の項の断面模式図参照)。しかしながら、コアの領域では中性子は 3P2 超流動というスピン1の状態になっていると理論的に予想されている。なお陽子は比較的密度が低いために 1S0 超伝導になっている。これらの超流動は、パルサーのグリッチとも深く関わっていると考えられている。
粒子とその反粒子が衝突して、ガンマ線あるいはほかの粒子に変換される現象。対生成の逆。対消滅ガンマ線も参照。
天文学で用いられる距離の単位。光が1年間かかって進む距離。 1光年=9.46×1012 km。
天文学では正式には距離の単位としてパーセク (pc)や天文単位(au)を用いるが、光年の方がなじみやすいので一般には広く用いられている。それらの対応は以下のようになっている。
1光年 = 0.307 pc(パーセク)= 6.32×104 au
1 パーセク(pc) = 3.26光年= 2.06×105 au
粒子と反粒子が対消滅する際に放出されるガンマ線。たとえば電子と陽電子が衝突すると、2個あるいは3個のガンマ線が生成される。静止状態で対消滅しガンマ線が2個生成される場合には、電子(陽電子)の静止質量エネルギーと同じ511 keVのガンマ線が、運動量保存則をみたすように、それぞれ反対方向に放出される。
高エネルギーガンマ線が原子核近傍などの電磁場中で粒子と反粒子に変換される現象。対消滅の逆。ガンマ線のエネルギーは生成される粒子と反粒子の静止質量エネルギーの和(たとえば電子と陽電子であれば1.022 MeV)以上でなければならない。
宇宙最初の星や銀河の形成、宇宙の再電離、太陽系外惑星の形成や生命の起源などの解明を目指すアメリカ航空宇宙局(NASA)の宇宙天文台。ハッブル宇宙望遠鏡の後継機。
相対する辺の距離が1.32 mの六角形をした軽量化ベリリウム製のセグメント鏡を18枚合わせて6.5 mの主鏡を構成する。打ち上げ時には主鏡が3つに折りたたまれており、打ち上げ後にサンシールド(日よけ)などとともに展開される。観測可能波長は0.6-28 μmで、NIRSPEC、 NIRCam、MIRI、FGS/NIRISSの4台の観測装置を搭載し多様な観測が可能である。NASAの二代目長官ジェイムズ・ウェッブ(James E. Webb)にちなんで命名された。
JWSTは2021年12月25日にラグランジュ点 L2(地球からの距離150万km)を目指してギアナ宇宙センターからアリアン5型ロケットで打ち上げられた。2022年1月9日までに折り畳んだ状態で打ち上げられた主鏡やサンシールドなどの展開作業が完了した。
その後のコミッショニング作業は順調に進み、4月28日までに全ての装置の調整が完了し解像度が確認された。そして2022年7月12日(日本時間)にNASAはファーストライト画像を公開した。
○2022年7月12日(日本時間)に公開されたJWSTのファーストライト画像
https://www.nasa.gov/webbfirstimages
(Image credit: NASA, ESA, CSA, and STScI)
(1) カリーナ星雲(Carina Nebula、イータカリーナ星雲、りゅうこつ座)
カリーナ星雲(Carina Nebula、散光星雲)中にある星形成領域NGC3324の近赤外カメラ(NIRCam)と中間赤外装置(MIRI)による合成画像。画面上方にはみ出ている大質量の若い高温の星々からの紫外光と恒星風によって、星間ガスの低密度領域が削られ、山脈と渓谷が入り交ざったような景観を呈する。宇宙の断崖(Cosmic Cliffs)として知られる。高温の星が作り出した泡状の空洞(画面上半分)が拡がると、周囲の星間ガスとダストが圧縮され、不安定な領域が重力崩壊して星が生まれる。距離はおよそ7,600光年。
(2) ステファンの五つ子(Stephan’s Quintet、多重銀河、ペガスス座)
ステファンの五つ子の近赤外カメラ(NIRCam)と中間赤外装置(MIRI)による合成画像。見かけ上五つの銀河からなる多重銀河であるが、物理的に相互作用しているのは四つの銀河(NGC7317、NGC7318A、NGC7318B、NGC7319)であり、ヒクソンコンパクト銀河群92(HGC92)とも呼ばれる。距離は2億9000万光年。もっとも左側にあるNGC7320は前景の銀河。視野の大きさは満月の約1/5、1億5000万ピクセルからなる。およそ1,000枚の画像を合成したもの。ステファンの五つ子では銀河の相互作用や合体の詳細を見て取ることができ、銀河進化の理解を深めると期待される。ステファンの五つ子はペガスス座にあり、1877年にフランスの天文学者エドアルド・ステファン(Edouard Stephan)によって発見された。
(3) 南のリング星雲(Southern Ring Nebula、NGC3132、惑星状星雲、ほ座)
惑星状星雲NGC3132の近赤外カメラ(NIRCam)と中間赤外装置(MIRI)による合成画像。通称、南のリング星雲(ほ座)。惑星状星雲は死につつある星から吐き出されたガスとダストの雲。どのような分子が存在し、星雲内のどこに集中して分布するかが明らかにされると期待される。距離はおよそ2,500光年。中心にあるのは白色矮星と恒星の連星。
(4) WASP-96 b(太陽系外惑星、ほうおう座)のスペクトル
太陽系外惑星WASP-96 bの近赤外撮像・スリットレス分光器(NIRISS)によるスペクトル(ほうおう座)。水(H2O)の存在が確認できる。WASP-96 bは銀河系で確認されている5,000個以上の太陽系外惑星の一つ。質量は木星の約半分、直径は約1.2倍、表面温度は540℃以上と推定される、太陽系には見られない灼熱の巨大ガス惑星である。太陽とよく似た主系列星の周りを、太陽系で言えば水星軌道の約1/9の位置にある軌道上を公転している。公転周期は3.5地球日。距離はおよそ1150光年。
(5) SMACS J0723.3-7327(略称SMACS0723、遠方銀河団、赤方偏移z=0.39、とびうお座)。
とびうお座にある遠方銀河団SMACS J0723.3-7327(SMACS0723と略称;赤方偏移z=0.39, 約42億年昔の姿)の6バンド合成カラー画像(1辺は約2.4分角)。赤外線カメラNIRCamによって計12.5時間露光された。重力レンズ効果を受けて弧状にゆがんだ遠方銀河の画像がたくさん見える。画像中の明るい星に見られる線条は回折スパイクである。ウェッブ・ディープ・フィールドの最初のものとされている。この画像は、ホワイトハウスでバイデン大統領立ち会いの下公開された。
○ JWSTの観測装置
近赤外カメラ:Near Infrared Camera (NIRCAM)
https://webb.nasa.gov/content/observatory/instruments/nircam.html
近赤外分光装置:Near Infrared Spectrograph (NIRSPEC)
https://jwst.nasa.gov/content/observatory/instruments/nirspec.html
中間赤外装置:Mid-Infrared Instrument (MIRI)
https://webb.nasa.gov/content/observatory/instruments/miri.html
精密ガイド装置と近赤外撮像・スリットレス分光装置
Fine Guidance Sensor/Near-Infrared Imager and Slitless Spectrograph
(FGS/NIRISS)
https://jwst.nasa.gov/content/observatory/instruments/fgs.html
宇宙望遠鏡も参照。
ホームページ:https://www.jwst.nasa.gov/
ジェームズウェッブ宇宙望遠鏡が展開していくCG映像 週間科学ニュース
https://www.youtube.com/embed/Sf_nPpK1-6Q
Wall Street JournalによるJWSTの紹介ビデオ(Illustration: Adele Morgan/WSJ)
https://www.youtube.com/embed/rI4alFk5agQ
JWSTの調整作業の進捗と研究課題を紹介する動画(解説は英語)
https://www.youtube.com/embed/roj4oi-ND2s
ラグランジュ点L2の回りのJWSTの軌道を示すアニメーション
https://www.youtube.com/embed/6cUe4oMk69E
くつろぐ音楽とともに見るジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による宇宙の画像(@Relaxicity)
https://www.youtube.com/embed/pinoqCfpjik?si=-iU6BqCP1BaMx3ja"
非常に強いX線を放射するコンパクト天体。超高輝度X線源とも言う。近傍の渦巻銀河の腕の部分には、異常に強いX線の点源がしばしば存在することが、1979年に打ち上げられたアメリカのアインシュタイン衛星で発見された。それらは連星ブラックホールと酷似したX線スペクトルを示すが、光度は 1032.5-33.5 W と、天の川銀河(銀河系)内のブラックホール連星を1-2桁もしのぐ。したがってエディントン限界光度の考えから、それらは太陽質量の数百倍の質量をもつ中間質量(中質量)のブラックホールである可能性が指摘されている。一方、恒星程度の質量のブラックホールが相対論的ジェットをもち(マイクロクェーサー)、そのビームを正面から観測しているという説もある。いくつかの超大光度X線源から周期的なパルス放射が発見されたことから、一部はエディントン限界光度を超えても何らかの機構で質量降着が起きている中性子星連星であることがわかっている。X線源も参照。
屈折率nの媒質中での光速(位相速度)は $c/n$(cは真空中の光速度)になるため、高エネルギーの荷電粒子がこれより速く媒質中を進むと、荷電粒子周囲の電磁場が後に取り残され、波面が重なって衝撃波を生じる。この衝撃波がチェレンコフ光である。
速さ $v=\beta\,c$ ( $\beta<1$)で走る荷電粒子からのチェレンコフ光の放出角度 $θ$ は $\cosθ=1/(nβ)$ で表される。1934年この現象を説明したロシアの物理学者チェレンコフ(P.A. Cherenkov)の名を冠して呼ばれる。大気チェレンコフ望遠鏡、水チェレンコフ検出器も参照。
空気シャワー中の高エネルギー荷電粒子が大気中の窒素分子を励起あるいは電離すると、励起された窒素分子やイオンは紫外から青色のシンチレーション光(蛍光)を放出して基底状態に戻る。このシンチレーション光を望遠鏡により集光し、像としてとらえる宇宙線観測法。1960年にグライセン(K. Greisen)と菅浩一により提唱された。空気中での光の到達距離は数10 kmに及び、粒子を直接とらえる空気シャワーアレイよりも検出有効面積を大きくとることができるため、頻度の少ない、1019 eV を超えるような超高エネルギー宇宙線観測に用いられている。ピエールオージェ観測所、テレスコープアレイも参照。
観測者に対して真空中の光速に迫るような高速で動いているため、相対論的効果が無視できない電子のこと。たとえば、磁場中で動いている電子はローレンツ力を受けてらせん運動を行い、電磁波を放射するが、電子の速度が真空中の光速に比べて十分遅い場合には、それが生じる線スペクトルはサイクロトロン周波数の整数倍となる。これをサイクロトロン放射という。しかし、電子の速度が大きくなるにつれて線スペクトルの周波数間隔は次第に狭まり、光速に近い場合には隣接する線スペクトルが重なり合って連続的なスペクトルとなる。こちらはシンクロトロン放射と呼ばれる。相対論的粒子も参照。
