天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ヘリウム燃焼

3つのヘリウム原子核(4He )が融合し、炭素(12C )が作られる熱核反応。この反応が進むと12C と4He が融合して酸素(16O )も合成される。恒星進化論ではこの反応も含めてヘリウム燃焼と呼ぶ(燃焼を参照)。炭素の形成過程は三重アルファ反応と呼ばれる。

暴走的なヘリウム燃焼(燃焼を参照)。主系列星のような恒星内部での核燃焼の安定性は、核燃焼が活発になると星が膨張して温度が下がり、核燃焼が抑えられることにより保たれている。ところが、小質量星(太陽質量の2倍程度以下)が主系列を終える段階では、ヘリウム中心核の密度が高まり、電子が縮退した状態になる。この状態では星は電子の縮退圧で支えられるため、赤色巨星段階の水素殻燃焼によりヘリウム中心核が成長し、ヘリウム燃焼が始まって温度が上昇しても圧力が変化しないため膨張が起こらず、ヘリウム燃焼の暴走が起こる。これがヘリウムフラッシュである。この暴走は電子縮退が緩むほどに高温になるまで続き、その後は安定的なヘリウム燃焼の段階(水平分枝星またはクランプ星)に移行する。

宇宙空間でメーザーで光って見える天体のこと。主として、
1. 大質量星形成領域である電離水素領域(HII領域)に付随した分子雲
2. 晩期型星赤色巨星赤色超巨星)周囲の分子ガス
3. 活動銀河核の一部
である。
OH、H2O、SiO、CH3OHなどの分子が強いメーザーを放射するが、他の分子でも弱いメーザーを放射するものがある。メーザーが起きるためには、反転分布となる必要があるが、そのエネルギーの供給源としては赤外線放射や水素分子による衝突が考えられる。ただし、後者の場合は 107-1010 cm-3 の高密度ガスが必要である。非熱的放射であるメーザーは放射している物体の温度に比べて輝度温度が極めて高く、107 Kに及ぶものもある。逆に、これを利用して、超長基線電波干渉計(VLBI)による観測対象となる。

皆既日食の皆既日食の開始直前と終了直後に見られる現象。太陽を隠している月の表面には凹凸があるため、皆既日食の開始直前と終了直後には月の深い凹部からのみ太陽の光球が見える。明るい光球が現れるとこの1点を中心として点状に輝き、その外側にある淡いコロナは見えなくなるが、他の部分は内部コロナがリング状に見えているため、全体として美しいダイヤモンドの指輪のように見えるのでこの名がある。ベイリーの数珠も参照。

太陽系の中心に位置する恒星スペクトル型はG2V型の主系列星で、およそ46億年前に水素燃焼段階に到達した(主系列星として誕生した)と考えられている(燃焼も参照)。表面温度は約6000度、中心の温度は約1500万度である。中心で起こる水素の核融合反応で、3.85×1026 Wの明るさで輝く。半径は 6.96×108 m、質量は 1.99×1030 kgである。磁場を持っており、黒点や活動領域の出現、フレアの発生などといった磁気活動を示すが、活動のレベルには強弱があり、11年(または22年)の周期性がある。中心核で発生するニュートリノも検出されている。また、表面には粒状斑超粒状斑などの対流運動パターンが見られるほか、(主に)音波振動である5分振動も見られ、日震学の基礎データとなっている。太陽周期活動太陽ニュートリノ問題も参照。

移動天体や変光天体を見つけるための測定装置。点滅比較計と呼ばれることもある。同じ天域を異なる時刻に(同じ望遠鏡で、できれば同じ露光時間で)撮った2枚の写真乾板を、光路を切り替えることにより同じ視野に交互に導く。移動天体は位置がずれて見え、明るさの変わった星は(両乾板で星像サイズが異なるので)同じ位置で点滅(blink)するように見える。移動も変光もしていない天体は、視野の切り替えによって見え方が変わらないので、移動天体や変光天体が容易に検出できる。乾板測定機も参照。

一般相対性理論における近似法の一つで、重力場が弱い場合のアインシュタイン方程式を、ニュートン近似から出発し、物質の速度の光速に対する比(v/c)を展開パラメータとして逐次近似を進めていくことにより解く方法。二重中性子星連星連星ブラックホールから放出される重力波を計算する手段として用いられている。

ピッカリング(Edward Charles Pickering;1846-1919)はアメリカの天文学者。対物プリズムを考案し分光連星を発見した。
ボストンで生まれ、ハーバード大学を卒業、マサチューセッツ工科大学で10年間物理学を教授した。その後、30歳でハーバード大学天文台に移り、台長として星のスペクトル分類の大プロジェクト(ドレーパー星表、ヘンリー・ドレーパー星表)を指揮した。そのために天文台内に大量の写真乾板を測定する女性測定グループ(コンピュータ)を作った。このプロジェクトから星のスペクトルのハーバード分類法を、キャノン(A.J. Cannon)等とともに確立した。またペルー、アレキパのボイデン天文台で撮影された小マゼラン銀河大マゼラン銀河変光星の研究をリービット(H. Leavitt)に指示し、セファイド周期-光度関係の発見につながった。アマチュア天文家も支援しており、変光星観測者協会AAVSOの共同設立者でもある。1886年と1901年に王立天文学会ゴールドメダル、1888年にヘンリー・ドレーパー・メダル、1908年にブルース・メダル受賞。

火星観測などに貢献したウィリアム・ヘンリー・ピッカリング(W.H. Pickering)は弟。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1455

太陽を起源とする高エネルギー粒子。電子陽子、あるいはイオンが太陽フレアや太陽コロナ衝撃波で加速され、数keVから数GeVの運動エネルギーを持って地球に飛来する。また、加速された荷電粒子が周囲の物質と衝突して生じるガンマ線中性子も太陽フレア時に観測される。太陽風も参照。

日常生活に用いられる1年は365日あるいは366日であるが、年によって変わるのは不便である。日常的な年と天文学的な計算の便を兼ねるために考案されたのがベッセル年であり、ほぼ1太陽年の長さに等しい。
具体的には平均太陽の赤経が18h40m(280°)となる瞬間に始まり、再びこの値に戻るまでの時間を1年として定義する。最初にこの値を用いたドイツの天文学者ベッセル(F. Bessel)にちなんで名付けられている。ベッセル年の初め(ベッセル年初)は現在の太陽暦の年初に近い。1984年以前には、天体の運動理論、座標系の元期(B1900.0, B1950.0など)、および時間の単位として用いられた。

ベッセル年の長さは厳密には一定にはならず不便であるので、現在では長さの一定なユリウス年を使うことが多い。

太陽系の天体の中で海王星よりも外側にある天体の総称。単に外縁天体という場合もある。2006年にプラハで開催された国際天文学連合(IAU)総会で定義された。エッジワース-カイパーベルト天体、散乱円盤天体、オールトの雲に含まれる天体を指す。冥王星も含まれる。英語の和訳として海王星以遠天体と呼ばれることもある。太陽系外縁天体は、広い意味では、海王星トロヤ群天体やケンタウルス族天体(木星と海王星の間の軌道を公転する小天体)まで含むこともある。この両者は、cis-Neptunian object(海王星以内天体)と呼ばれており、英語では区別されている。
太陽系外縁天体のうち大きなものは「冥王星型天体」(英語ではPlutoid)と命名された。2019年2月現在、冥王星型天体は、冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアの4つである。2006年のIAUプラハ総会での太陽系天体の定義に関しては以下を参照。惑星も参照。
日本学術会議対外報告
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t35-1.pdf (第一報告:2007年)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t39-3.pdf (第二報告:2007年)
国立天文台アストロトピックス
https://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000304.html(2007年)
https://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000387.html(2008年)

電離を参照。

ニュートン(I. Newton)による1687年の著作。『自然哲学の数学的諸原理』と訳されることが多い。自然哲学とは、純粋に思弁的な哲学ではなく、自然界の法則を実験的に探求する現在の物理学に近い。運動の法則や万有引力の法則を体系的に論じた古典的な著作である。

格子溝の断面が鋸歯状の形状を持つ回折格子の、格子溝断面の格子面に対する角度。回折格子は、各々の格子溝による反射波の干渉によって分散(波長ごとに反射方向が異なること)を実現するので、 平面の回折格子(ブレーズ角が0°に相当)だと分散の起こらない 0次光(反射の法則を満たす回折方向)が最も強度が強くなる。そ こで、格子溝面を傾けて目的の回折方向(波長や干渉の次数などに 依存する)での強度を最大にするようにする。このためには、入射光と回折光が回折格子溝面に対して反射の法則を満たすようにブレー ズ角を設定する。ブレーズ波長分光器も参照。

太陽以外の恒星の周りを公転する惑星、つまり太陽系以外の惑星のこと。天文学分野では、太陽系外惑星との混同を避けるため、単に系外惑星と呼ぶことも多い。英語では extrasolar planet や exoplanet と呼ばれる。
太陽以外の恒星の周りを回る惑星の発見に天文学者は18世紀末から長年取り組んできた。1992年にはパルサー(中性子星)の周りを回る地球程度の質量の天体が3つ発見されたが、太陽系外惑星探査の元年は太陽型恒星まわりの巨大惑星が発見された1995年と考えられる。この年ジュネーブ大学のマイヨール(Michel Mayor)とケロー(Didier Queloz)は、ドップラー法によって、ペガスス座51番星の周りをわずか4.2日の周期で公転する、木星の0.45倍の質量を持つ惑星(51 Peg b)を発見した。それ以降、発見数は飛躍的に増加し、2023年10月時点で5500個以上の系外惑星が確認されている。
惑星は恒星とは異なり水素を燃焼して自ら輝くことがないため(惑星自身の熱放射はあるので赤外線では自ら輝いていることに注意)、惑星の明るさは一般に恒星の数桁以上も暗いので、明るい星のごく近傍にある暗い惑星を検出することは難しい。このため系外惑星の検出は主に惑星の存在が中心星にもたらすさまざまな効果を観測する間接法によっている。最も古くからあるドップラー法に加え、アストロメトリ法トランジット法重力マイクロレンズ法パルサータイミング法などがある。トランジットを起こす惑星の場合、トランジット法から得られる惑星の大きさの情報とドップラー法から得られる惑星の質量の情報を合わせると惑星の密度を推定できる。
明るい星の光を隠して惑星を撮像する直接撮像法は、2008年に初めて海王星軌道程度を公転する惑星の検出に成功した。近年、差分撮像法偏光法など新しい技術も開発されている。2009年に打ち上げられたケプラー衛星はトランジット法により約4800個の太陽系外惑星候補を発見し、そのうち約2800個が確認されている。
これまでに発見された惑星系は、木星土星と同等の質量で軌道長半径が0.1 au(天文単位)以下であるホットジュピター(または灼熱巨大惑星)と呼ばれるもの、あるいは軌道の離心率が非常に大きいエキセントリックプラネットと呼ばれるものが多数見つかるなど、太陽系とは大きく異なっており、従来の太陽系形成論の修正と拡張が必要となっている。ケプラー衛星の成功を受けて、スペースからの太陽系外惑星探査はTESS衛星に引き継がれている。2020年には、TESS衛星のデータをきっかけに、白色矮星WD1856+534の周りを周期1.4日で公転する木星とほぼ同じサイズの惑星(褐色矮星の可能性もある)が発見された。ガイア衛星の測光データからトランジット法で二つの太陽系外惑星が見つかった。ガイア衛星のアストロメトリデータは太陽系外惑星の候補検出にも有効である。
太陽以外の恒星の周りを回る最初の惑星を発見したマイヨールとケローは2019年度のノーベル物理学賞を受賞した。浮遊惑星も参照。
太陽系外惑星のデータをまとめたサイト:http://exoplanet.eu/

格子溝の断面が鋸歯状の形状を持つ回折格子を用いた分光器で、 分散光の強度が最も強くなる波長。入射角や回折の次数などの分光器の設定に依存する。回折格子単独の仕様として表記されるブレー ズ波長は、入射角と出射角が等しいリトロー配置の1次光に対しての波長で定義される。ブレーズ角分光器も参照。

$\boldsymbol{F}$ が位置だけの関数であるポテンシャル ${\it \Phi}(\boldsymbol{r})$ を用いて、 $\boldsymbol{F}=-\nabla {\it \Phi}$ のように表されるとき、この力は保存力であるという。言い換えれば点Aと点Bの間で力 $\boldsymbol{F}$ がなす仕事がその経路によらず、

$$\int_{\rm A}^{\rm B} \boldsymbol{F}\cdot d\boldsymbol{s}={\it \Phi}({\rm A})-{\it \Phi}({\rm B})$$

となるとき $\boldsymbol{F}$ は保存力であるということができる。クーロン力や万有引力(重力)のように、力が距離の2乗に反比例する逆2乗力は保存力の例である。速度 $\boldsymbol{v}$ で運動する電荷 $q$ に働く磁場 $\boldsymbol{B}$ によるローレンツ力  $\boldsymbol{F}=q \boldsymbol{v} \times \boldsymbol{B}$ は保存力ではない。

太陽を周回する天体のなかで、惑星準惑星を除く天体の総称である。小惑星彗星のほか、エッジワース-カイパーベルト天体など太陽系外縁天体冥王星、エリスなどの準惑星を除く)も含まれる。また、惑星間ダストも広い意味では太陽系小天体に含まれる。一方で、惑星や準惑星を周回する衛星やリング粒子は、太陽系小天体には含まれない。太陽系も参照。

太陽から流出する太陽風の勢力圏を太陽圏という。太陽風は太陽系外縁部で天の川銀河銀河系)内の星間物質星間磁場と衝突し、終端衝撃波(termination shock)を形成する。この外側をヘリオシース(heliosheath)または内部ヘリオシース(inner heliosheath)と呼び、この領域では太陽風は亜音速にまで減速されている。減速した太陽風はさらに外側で星間物質と完全に混ざり合い、太陽風の勢力圏は終了する。この境界面をヘリオポーズ(heliopause)と呼ぶ。ヘリオポーズのすぐ外側にある星間物質をvery local interstellar medium(略してVLISM)、その領域を外部ヘリオシース(outer heliosheath)と呼ぶこともある。
アメリカ航空宇宙局(NASA)のボイジャー探査機1号は2004年12月に太陽から94天文単位の距離で終端衝撃波面を、2012年8月に121天文単位でヘリオポーズを通過した。ボイジャー1号とは異なる方向に向かったボイジャー2号は2007年8月に84天文単位の距離で終端衝撃波面を通過し、2018年11月に119天文単位でヘリオポーズを通過し太陽圏を脱出した。 ボイジャー探査機の「その場」(in situ)観測に加え、アメリカ航空宇宙局(NASA)のInterstellar Boundary Explorer(IBEX)探査機による地球近傍での電気的に中性な星間物質の観測により、太陽圏の形は非対称的で歪んだものであると考えられている。

ヒッパルコス(Hipparchus;B.C.190-B.C.120頃)は古代ギリシャの天文学者。古代最高の観測天文学者とされる。ニカイア(現在のトルコ、イズニク)に生まれ、ロードス島で長年天体観測をした。三角法を発展させて三角関数表をつくり、天球上の球面三角形の問題を解いた。天動説だが、離心円と周転円を使った太陽運行理論を研究し、月運行論から日食の予報を試みた。このとき単純な地球中心説は成り立たないことを確認している。星数850の星表プトレマイオス(Ptolemaeus)の『アルマゲスト(Almagest)』に収録されて、以後ヨーロッパ世界では長期にわたって標準的なものとなった。この星表を使って、恒星の固有運動が1718年にハレーによって発見されている。

また、バビロニアの記録とアレクサンドリアでの150年前のデータおよび自分の観測から歳差現象を発見し、その大きさを100年間で約1度と推定した。星の等級を定め、アリスタルコスの地動説に反対し、占星術を否定した。ヨーロッパ宇宙機関の位置観測衛星、ヒッパルコス衛星は、彼の名にちなんで命名された。