電磁波の放射を考える際に、電荷分布が特定の方向に沿って振動する成分に対応するもののこと。一般の電荷分布変動を、その空間対称性に基づいて展開することを多重極展開と呼び、物体全体が電気的に中性の場合には、その最低次の振動に当たる。電荷分布自体の双極性に対応する電気双極子モーメントと、その振動によって生じる電流に対応する磁気双極子モーメントがある。分子の場合、全体は電気的に中性であるが、電荷分布と質量分布の重心が異なる場合には、その質量中心周りの回転によって双極子放射を生じることになる。電気双極子放射も参照。
重力の強い領域から放出された電磁波の波長が, 放出された時点での波長より長くなって観測される現象。この現象の最初の実験は、1960年にパウンド(R. Pound)とレブカ(G. Rebka)によって高さ22.5メートルの塔を利用して行われた。その結果、理論の予想値と10%の精度で一致することが確認された。この現象は等価原理から説明することができることから、パウンドとレブカの実験は等価原理の検証であり、一般相対性理論の検証とはならない。赤方偏移も参照。
微小間隔離れた物理量の対を双極子と呼ぶ。電磁気学の場合、絶対値が同じで符号が違う電荷の対を双極子と呼び、電荷の絶対値と間隔の長さの積を双極子モーメントという。
電磁気学以外では一般に、考えている物理系の内部の1点を原点として、系内の各点に対してその点での物理量と原点からの座標(距離ではないので正負の値を取ることに注意)をかけてすべての点に対して和をとった量を双極子モーメントという。物理量が質量密度の場合には双極子モーメントがゼロになる点がその系の重心となる。このように、正の値しか取らない物理量の双極子モーメントからその系の特別な意味を持つ原点を決めることができる。
一般相対性理論は重力定数という次元を持ったパラメータを含むため、繰り込み不可能で、量子化は困難である。超弦理論がこれに応える理論であると考えられているが、重力の量子化は未だ完成していない。量子重力理論も参照。
放射圧加速を参照。
分子の回転準位間の遷移のこと。分子の回転のエネルギーは量子力学では量子化され、エネルギー固有値は回転量子数(角運動量の量子数)J やそれの回転対称軸への射影である K などで表される。これらの量子数の値によって異なるエネルギー準位(回転準位)が生じ、その準位間の遷移によってエネルギー差に相当する周波数の電磁波を放射する。回転遷移に由来する電磁波は主として電波領域にある。最も簡単な2原子分子のうち一酸化炭素(CO)のような異核分子においては、電気双極子モーメントの回転によってエネルギー準位と電磁波放射が生じる。水素分子(H2)のような等核分子においても電気四重極子モーメントによる回転遷移によって弱い放射が発生する。電気双極子放射、電気四重極子放射も参照。
一般相対性理論などの相対論的な重力理論一般に予言される重力場の波動的振動。流体力学における重力波(gravity wave)とは別のものである。
一般相対性理論では、重力波は物質の四重極モーメント以上の高次モーメントの時間変化から放射される横波で、 その伝播速度は光速度に等しい。プラスモードとクロスモードと呼ばれる2つの偏光があり、 振動方向は45度違っている。1984年にパルサー連星PSR1913+16 における重力波放射による公転軌道周期の減少が観測され、 その減少率が一般相対性理論の予言と一致することから、重力波の存在は間接的に証明された。
重力波は電磁波を用いた通常の天文学的手段では観測できないブラックホールの形成過程、宇宙初期など超強重力場中における天体現象を 観測する唯一の手段であり、アメリカ、ヨーロッパ、日本、インドなどで大型レーザー干渉計を用いた重力波検出器(重力波望遠鏡ともいう)が建設された、あるいは建設中である。
このうちアメリカで建設されたLIGO (Laser Interferometer Gravitational-WaveObservatory)で、2015年9月14日、400メガパーセク(400 Mpc=13億光年)の彼方で太陽質量の約36倍と29倍の二重ブラックホール連星が合体して太陽質量の62倍のブラックホールができた時の重力波が初めて直接検出された。その後2017年8月までに二重ブラックホール連星の合体に伴う重力波が3回観測された。これらの重力波の発生源は、検出の年月日をつけてGW150914、GW151226、GW170104、GW170814と呼ばれている。この4回の重力波の発生源となった連星をなすブラックホールの質量は太陽質量の20倍を超えるものが多く、また合体後のブラックホールの質量はどれも太陽質量の20倍以上、最大のものは62倍である。さらに、2019年5月21日にはそれまでの記録を大幅に超える事象(GW190521)が観測された。GW190521では、太陽質量の85倍と66倍のブラックホールが合体して142倍のブラックホールが生成され、太陽質量の約8倍に相当するエネルギーが重力波として放出された。従来X線で観測されている天の川銀河(銀河系)内のブラックホールは太陽質量の10倍以下のものがほとんどなので、このような大質量のブラックホールの形成過程についても謎が生じている。
2017年8月17日に観測された5例目の重力波(GW170817)は二重ブラックホール連星の合体ではなく二重中性子星連星の合体によるものであった。銀河系から40メガパーセク(40 Mpc=1.3億光年)という近距離にある銀河NGC4993で、二つの中性子星が合体して重力波が発生してキロノバという大爆発が起きたことがすべての波長の電磁波で観測された。この観測から、キロノバでr過程により実際に金属(重元素)が合成されたことがほぼ確実と考えられるようになった。
その後も重力波の観測は進み、2021年までに観測された重力波は90例に達した。今後観測例が増えることを想定して、名称にはGW200322_091133のように観測時刻もつけるようになった。
イベントホライズンテレスコープ、マルチメッセンジャー天文学も参照。
重力波イベントの検出記録(LIGO-Virgo-KAGRA Collaboration)
https://www.ligo.org/detections.php
2020年3月までに検出された重力波イベントのカタログ
https://www.ligo.org/detections/O3bcatalog.php
はじめて検出された重力波 GW150914 を発生させた二つのブラックホールの合体のシミュレーション
https://www.youtube.com/embed/-vYJdh8wALg?si=u9XESE0-lCVD9TLH"
中性子星とブラックホールの合体を描いた動画「Neutron star-black hole merger」
(提供:Carl Knox, OzGrav - Swinburne University)
https://www.youtube.com/embed/dACjwnMhUJg
合体するブラックホールとその周りの空間のゆがみ。
クレジット: SXS (Simulating eXtreme Spacetimes) プロジェクト https://www.black-holes.org/
https://www.youtube.com/embed/1agm33iEAuo
二重中性子星連星の合体のシミュレーション。重力波の周波数の変化を耳で聞こえる音の変化として表現している。
https://www.youtube.com/embed/_C5Bl_hE8fM?si=L5iooW_jUjYpzR0w"
一般相対性理論では空間の曲がりの効果のためにニュートン重力に比べ重力場中で電磁波の伝播速度が遅くなる。
1964年、アメリカの物理学者シャピロ(I.I. Shapiro)は、レーダーから発射された電波が太陽近傍を通過して惑星にぶつかり、反射して再び地球に戻ってくるまでの往復の時間を測ることでこれを検証することを提唱した。この信号の往復時間の重力による遅れをシャピロ遅延という。初期の観測では水星や金星が用いられたが、惑星表面の地形がよく知られていないなどから、観測結果は一般相対性理論の予言と20%の誤差で一致したにすぎなかった。しかしその後、マリナーやバイキング探査機といった火星探査衛星や火星を使った観測によって、一般相対性理論の予言との一致は、0.1%に達している。
一様な外部磁場をかけた場合に、原子のエネルギー準位が分裂して、電磁波のスペクトル中の吸収線や輝線が移動したり、分裂して複数の線が現れる現象のこと。吸収線や輝線のエネルギーの変化量が磁場強度に比例するときは一次のゼーマン効果、2乗に比例するときは二次のゼーマン効果と呼ぶ。星間空間の磁場強度を測定する際に、中性水素原子の21cm輝線・OH分子の輝線・吸収線、CN分子の輝線などのゼーマン分裂が観測されている。なお、ゼーマン効果の観測では、右円偏波と左円偏波成分の差がストークスVプロファイル(ストークスパラメータを参照)に相当し、そのプロファイルから視線方向の磁場強度を測定することができる。シュタルク効果も参照。
特殊相対性理論は座標系をローレンツ変換によって変換した際に基礎物理法則が共変になるように構成され、さらに重力まで考慮された一般相対性理論は一般座標変換に対して物理法則が共変になるように構成される。いずれも時間座標と空間座標が変換によって混ざり合うので、時間、空間を分け隔てなく扱う4次元的な記述が必要になる。このような4次元座標空間において粒子の軌跡を描いたのが世界線である。したがって、ある空間座標に静止した粒子の世界線は、時間軸に平行な直線になる。
- 分子の回転エネルギーは量子力学では量子化されるが、そのエネルギー固有値である角運動量量子数のこと。記号 J で表す。一般には、その回転対称軸への射影を表す量子数 K と合わせて離散的なエネルギー準位が決まる。2つの異なる原子からなる異核2原子分子の場合には、対称性から K の違いが生じないため、回転量子数 J とエネルギー準位とは1対1に対応する。その例として一酸化炭素分子の場合を図に示す。このような準位間での遷移が起こると電磁波が放射される。
流体に働く重力と圧力勾配がつり合っている状態を静水圧平衡にあるという。
たとえば通常の恒星は静水圧平衡にあると考えてよく、ガスの状態方程式と組み合わせることで温度と密度の分布が計算できる(エムデン解)。銀河団を満たしている高温ガスも、近似的にはその圧力勾配がダークマターを含む全質量による重力と静水圧平衡にあると考えられている。逆にこれを利用して銀河団のダークマターの質量が推定できる。
中心部でのヘリウム燃焼を終え、中心核の周りでヘリウムや水素の殻燃焼を行う段階にある中小質量星がHR図上で形成する系列。質量が太陽の約8倍より小さい場合には、ヘリウム燃焼で生じた炭素と酸素からなる中心核で電子が縮退し、次の核融合反応が起こらない。かわりに、ヘリウム層の外側で水素の殻燃焼が生じ、星は膨張する。これにより、HR図上で赤色巨星分枝に近い系列が形づくられ、漸近巨星分枝と呼ばれる。この段階の星は英文の頭文字からAGB星と呼ばれることが多い。水素殻燃焼の結果、ヘリウム層の質量が大きくなると、ヘリウム燃焼が暴走的に起こる(ヘリウム殻フラッシュ)。ヘリウム層の質量が減るとフラッシュは収まり、水素殻燃焼が再び始まる。漸近巨星分枝の星ではこのサイクルが繰り返し起こり、その生成物である炭素や重元素(s過程元素)が表面に現れることがある。これにより、漸近巨星分枝星(AGB星)はスペクトル型として、M型星のほか、炭素が相対的に過剰な炭素星やS型星などになる。
電磁流体力学によれば、電気伝導度が十分に高い(すなわち磁気拡散が小さい)流体においては、流体素片を貫く磁力線が、流体とともに動くようにふるまう。この状態のことを、磁場(もしくは磁力線)が凍結しているという。電気伝導度が低く(すなわち磁気拡散が大きく)なると、凍結が解けて磁力線が流体をすりぬけるようになる。
両極性拡散も参照。
荷電粒子が原子核に近づくと、そのクーロン場内で加速度運動を行い電磁波が放出される。この現象およびそれによる放射を制動放射と呼ぶ。電子のエネルギーを $E$、電磁波の周波数を $\nu$ とすると、制動放射のスペクトルは $0 \le \nu \le E/h$($h$ はプランク定数)の範囲でほぼ平坦である。
電磁波の放射に伴い電子は次第にエネルギーを失う。周りの物質が完全電離状態にある場合、原子核の荷電数を $Z$、その数密度を $N\,{\rm m}^{-3}$ として、相対論的な電子(ローレンツ因子 $\gamma=E/m_{\rm e} c^2\gg 1$)のエネルギーの変化率は、
$$
- \left ( \frac{dE}{dt} \right )
= \frac{3}{2\pi} \sigma_{\rm T} c \alpha Z(Z+1) N
\left [ \log_e \gamma + 0.36 \right ] E
$$
と表される。ここで、$\sigma_{\rm T} = 8\pi e^4/3 m^2_{\rm e} c^4$ はトムソン散乱断面積 ($0.665 \times 10^{-28}\,{\rm m}^2$、$e$ は電気素量(素電荷)、$m_{\rm e}$ は電子の質量、$c$ は光速度)、$$\alpha = e^2/hc $$ は微細構造定数(1/137.036)である。自由-自由放射、熱制動放射も参照。
荷電粒子が磁場に巻きつきながら移動する運動。強さ $B$ の一様磁場の場合、 この運動は磁場方向に自由に運動し、磁場と垂直な面ではcgsガウス単位系を用いると周波数 $Ω_{\rm c}=eB/mc$(SI単位系では $Ω_{\rm c}=eB/m$)の円運動となる。 この周波数をジャイロ周波数といい、円運動の半径 $r_{\rm g}=v_{⊥}Ω_{\rm c}$ をジャイロ半径という。 ここで $v_{⊥}$ は磁場と直交する速度成分。正の電荷を持つイオンは磁場方向から見て時計回り(右巻き)、電子は反時計回り(左巻き)に運動し、それによってつくられる電流は背景磁場を弱める 方向となる。
多数の質点が万有引力の法則で運動する系を扱う問題。質点が2つの場合が二体問題、3つの場合が三体問題で、多体問題という場合にはより多くの質点の系を指すことが多い。また、太陽系の惑星の数くらいを扱う場合を少数多体問題と呼んで、恒星の集団としての星団や銀河など非常に多い数の質点系を扱う場合(N体問題ともいう)と区別することがある。
多体問題は三体問題と同様に解析的に解くことはできないから、計算機により数値的に解くことが必要である。
素粒子や核子などの基本粒子から構成される複合体の質量はもとの基本粒子の質量和より小さい。この質量差を質量欠損という。最も顕著な質量欠損は原子核反応にみられる。
原子核の質量と、それを構成する核子が自由な状態にあったときの質量の和との差は、原子核の結合エネルギーの大きさである。原子核反応に伴うエネルギー放出Eは欠損した質量を m、光速度を c とすればE=mc2 である。核融合反応で解放されるエネルギーは質量欠損に相当する。
この関係は原子核反応に限定されず、質量欠損はより広い概念である。
球面鏡を主鏡とし、その曲率中心においた非球面の補正板によって広視野撮像を可能とした望遠鏡。シュミットカメラと呼ぶこともある。明るい口径比と数度角にわたる視野を持ち、主にサーベイ観測のために使用される。ドイツの光学技術者シュミット(B. Schmidt)によって1931年に発明された。
球面鏡は曲率中心に対して完全に対称であるため、曲率中心を通る光は球面鏡によって入射角度によらず同じように結像される。よって、曲率中心の位置に入射瞳(入射絞り)を置くと、入射角度によらず一様に結像する光学系を作ることができる。対称性により、このような光学系には、原理的にコマ収差や非点収差がない。言い換えれば非常に広い視野を持つ光学系が実現できることになる。しかし、球面鏡には球面収差があり、良像を得ようとすれば入射瞳を非常に小さく絞らなければならない。シュミットは、球面鏡の曲率中心に、中央部が凸レンズ、周辺部が凹レンズとなっている薄い補正板を置いて、焦点面で球面収差を除去することのできる望遠鏡を考案した。これがシュミット望遠鏡である。補正板は非球面板で、その曲面はおおよそ中心からの距離に対する4次式で表せる。ただし、より正確には偶数次項の高次多項式となる。シュミット望遠鏡は非常に広い視野を持つが、焦点面が球面となるため、検出器をその球面に沿うように配置するか、写野平坦化レンズを併用しなければならない。
1948年に完成したパロマー天文台のパロマーシュミット望遠鏡は、補正板口径122cmで14インチ(35.6cm)角の写真乾板で6.6度四方の空をカバーした。翌年の1949年から56年にかけて、アメリカ地理学協会の出資によってパロマー天文台から見える北天の全天サーベイ(パロマー天文台スカイサーベイ)を行った。その後、1960年にドイツのタウテンブルグのカール・シュバルツシルド天文台に口径134cmの望遠鏡ができ、シュミット望遠鏡の機能も備えた。その後1973年には南天のサーベイを目的に補正板口径122cmのUKシュミット望遠鏡と100cmのESOシュミット望遠鏡ができた。また1974年には木曽観測所に口径105cmのシュミット望遠鏡ができた。2009年に完成した中国のLAMOSTは伝統的なシュミット望遠鏡ではないが、補正板を反射鏡にした一種のシュミット望遠鏡と言える。
量子力学的なスピンの励起状態を表す温度。
量子力学によると粒子の自転角運動量に相当するスピン角運動量の微視的状態は離散的なレベルに分かれる。その各レベルへの分布確率は熱平衡状態ではボルツマン分布に従う。そのボルツマン分布に現れる温度パラメータが励起温度である。熱平衡状態にない場合でも、各エネルギー準位への分布の比が、熱平衡状態での励起状態の分布の比と同じになる温度パラメータのことを励起温度と呼ぶ。天文学で通常使われるスピン温度は水素原子に対する励起温度である。水素原子核(陽子)のスピンの向きに対して、電子のスピンが平行になっている状態は反平行になっている状態よりもエネルギーがわずかに高い。このスピンが平行になっている原子の数と反平行になっている原子の数の比に相当するボルツマン分布の温度(励起温度)をスピン温度と呼ぶ。
なお、低温かつ低密度のガス中では十分な頻度でガス粒子の衝突が起こらないため、スピン温度は運動温度と等しいとは限らない。
