天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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VISTA望遠鏡

可視光から赤外線までの波長で広い天域のサーベイ観測を目的として、2008年にチリのパラナル天文台に設置された口径4mの望遠鏡。ロンドン大学クイーンメリー校を中心とする英国の18の大学が連合してヨーロッパ南天天文台(ESO)と協力して運用している。2010年から本格化した観測時間の大部分は、広視野赤外線カメラによる6種類のサーベイに使われている。
ホームページ:http://www.vista.ac.uk/

宇宙における星や銀河の存在環境に対して用いられる言葉。平均的な個数密度の環境を指す。
星の場合には、星団に属さないものをフィールド星(散在星)という。銀河の場合には、銀河団銀河群に属さないものがフィールド銀河(散在銀河)である。ボイドはフィールドより低密度の環境である。
銀河の赤方偏移サーベイが進み、宇宙の大規模構造が詳しく調べられると、平均的な個数密度の環境を定義することが難しいことがわかり、フィールド銀河という言葉は近年あまり使われなくなっている。

族(小惑星の)を参照。

アメリカ国立電波天文台が運用している開口合成型の電波干渉計で、超大型電波干渉計群を意味する英語Very Large Arrayの略。本格運用の開始は1980年。米国ニューメキシコ州ソコロから約80 km西に位置する。口径25 mのアンテナ27台で構成され、周波数74 MHzから50 GHz(波長0.7~400 cm)が観測可能。最大基線長は36 kmで、最高角分解能0.04秒角に達している。
この波長域の望遠鏡として世界第一級の性能を保ち続けており、銀河中性水素原子輝線、クェーサー電波銀河などに存在する活動銀河核から放出されるジェット、天の川銀河銀河系)内の星形成領域や超新星残骸など、あらゆる天体を観測対象としさまざまな成果を挙げてきた。 2012年には電子機器の大改修を行い、大幅な機能向上を果たした。それに伴い、電波天文学の祖であるジャンスキー(Karl  G. Jansky)の名を冠したカールジャンスキーVLA(JVLA)と改称している。
2015年頃から、VLAの感度と分解能を10倍にする次世代VLA計画(next-geneartion Very Large Array: ngVLA)が構想され、2020年現在も進行中である。
ホームページ:https://public.nrao.edu/telescopes/vla/
ngVLAのホームページ:https://ngvla.nrao.edu/

特定の範囲の電磁波を取り出す光学素子。天文学におけるフィルターは、厳密に波長帯を切り分ける必要性から誘電体多層膜を用いた干渉フィルターが多く用いられるが、可視光でのおおまかな広帯域測光の場合には安価な色ガラスによる吸収フィルターを用いることも可能である。波長幅が中心波長の数分の1の場合には広帯域フィルター、数百分の1の場合には狭帯域フィルターと呼ばれる。通常、広帯域フィルターの中心波長と波長幅は測光システムの種類により決められているものを用いる。このほか、特定方向の直線偏光成分だけを通す偏光フィルター、特定の波長を境に反射と透過により光を分けるダイクロイックミラー、波長によらず反射と透過により光量を分けるビームスプリッター(1:1に分けるものは特にハーフミラーという)、波長によらず一律に光量を落とすための減光フィルター(NDフィルターとも言う)などがある。

2006年の国際天文学連合(IAU)の総会決議に基づく惑星の定義により、大きな天体ではあるが、軌道上を代表している天体でないものを準惑星と呼ぶことになった。
1. 太陽を周回し、
2. 十分大きな質量を持つために自己重力が固体に働く種々の力よりも勝る結果、重力平衡形状(ほぼ球状)を持ち、
3.その軌道近くから(衝突合体や重力散乱により)他の天体を排除した天体である、
というIAUによる惑星の定義のうち、3. を満たさない天体で、衛星でないものとして準惑星は定義されている。これまで、小惑星ケレス冥王星エリスのほかに、2つの大きな太陽系外縁天体マケマケ(2005 FY9)、ハウメア(2003 EL61)が準惑星として認められている。ハウメアは球からはずれた形状をしており、厳密には2. の条件を満たしていない。
小惑星ケレスが準惑星にも分類されることになったので、準惑星は異質の天体を含むことになった。日本学術会議では、物理学委員会傘下の「太陽系天体等の名称に関する検討小委員会」での審議に基づいて、学校教育現場における「準惑星」の分類名の使用を推奨していない。
2008年にオスロで開催された国際天文学連合の執行委員会で、太陽系外縁天体の中で準惑星の定義を満たすもの(冥王星、エリス、マケマケ、ハウメア)を冥王星型天体と呼ぶことが決まった。今後観測が進めば新たに冥王星型天体が見つかることも予想される。
日本学術会議対外報告
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t35-1.pdf (第一報告:2007年)
http://www.scj.go.jp/ja/info/kohyo/pdf/kohyo-20-t39-3.pdf (第二報告:2007年)
国立天文台アストロトピックス
http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000304.html (2007年)
http://www.nao.ac.jp/nao_topics/data/000387.html (2008年)

惑星のうち、岩石や鉄を主成分とするものを地球型惑星と呼び、水素とヘリウムを成分として多く含むものを木星型惑星と呼ぶ。木星型惑星のガス成分は、原始惑星系円盤のガスを取り込んだものと考えられる。太陽系の惑星の場合、水星金星、地球、火星は地球型惑星であり、木星土星天王星海王星は木星型惑星である。木星型惑星のうち、天王星と海王星では水素とヘリウムの重量比は木星や土星ほど多くないためこれらを区別して、木星と土星のことを巨大ガス惑星、天王星と海王星を巨大氷惑星と呼ぶことも多い。

電磁波光子)によるエネルギー輸送のこと。天文学では、主にプラズマや中性ガスなどで構成される媒質中での電磁波の伝搬に関して、そのエネルギー輸送率に着目して記述することが多い。電磁波(光子)によるエネルギー輸送過程を記述する方程式は放射輸送の方程式と呼ばれる。

着目する方向($\Omega$)の長さを表す座標を $s$ [m] とし、その方向に垂直な単位面積を考える。この面を単位立体角、単位時間、単位振動数あたりに通過する放射強度$I_\nu$ [ J s-1 m-2 Hz-1 sr-1] とすると、この放射強度が座標 $s$ [m] が増加する方向にどのように変化するかを表すのが放射輸送の式であり、以下の式で表される。

$$
\frac{1}{c}\frac{\partial I}{\partial t}+\frac{\partial I}{\partial s}= - \kappa_\nu I_\nu + \varepsilon_\nu(\Omega)$$

ここで、 $c$ は光速、 $\kappa_\nu$ は放射の吸収係数$\varepsilon_\nu(\Omega)$ は媒質のこの方向への放射係数である。
この式は光子についてのボルツマン方程式そのものであり、エネルギー輸送について現象論的に導くことができる。相対論的な現象などの特別な場合を除けば、この左辺第1項の時間微分項を無視した定常問題を考える場合が多い。

なお、天文学では伝統的に放射(光子の束)のことを輻射(ふくしゃ)と呼んでいたため、輻射輸送、輻射輸送方程式という言葉もまだ使われている。

アメリカ国立電波天文台によって運営されている、VLBI観測専用の電波観測装置である。口径25 mの素子アンテナ10台で構成される。アンテナ設置場所の西端はハワイ島マウナケア、東端はヴァージン諸島セイントクロイであり、その間の基線長は8000 kmにもなる。波長0.3-90 cmをカバーし、1993年の観測開始以降、特に活動銀河核ジェットの高解像度観測で成果を挙げている。また、はるか衛星を用いたスペースVLBI観測の際には、主要な地上観測局として重要な役割を果たした。
ホームページ:http://www.vlba.nrao.edu/

横軸に時間、縦軸に緯度をとった図面内に太陽黒点の出現する場所を記録していくと、11年ごとに時間とともに黒点の出現緯度が中緯度から赤道に向かって近づくパターンが現れる。これを発見者であるドイツのシュペーラー(G. Spörer)にちなんでシュペーラーの法則(Spörer’s law)と呼ぶ。
後にキャリントン(R.C. Carrington)のほうが早い時期に発見していたことがわかり、キャリントン-シュペーラーの法則と呼ばれることがある。約11年ごとに繰り返すこのパターンは、その形状から蝶形図(butterfly diagram)と呼ばれている。蝶形図はモーンダー(E.W. Maunder)がその形状を明らかにしたことから、モーンダーの蝶形図とも呼ばれる(Maunder 1922, MNRAS, 82, 534)。

スペクトル線による吸収が恒星大気構造に与える効果。連続吸収に加え、多数のスペクトル線の存在により星の内部からの放射が大気中で遮られると、大気内部の温度が上がる一方、表面の温度が下がる。この効果を毛布効果あるいはスペクトル線毛布効果という。紫外線から可視光域にかけては多数の原子スペクトル線が存在しており、星の大気ではこの波長域の光は幅広く吸収を受ける。また、低温度星では分子により多数の吸収線が生じる。この効果は化学組成に強く依存するため、化学組成は恒星大気モデル計算の重要なパラメータとなる。恒星大気モデルも参照。

周縁減光を参照。

電離 放射線の測定装置の一つ。金属円筒の中心に細い針金を張り、メタンやアルゴンなどの混合ガスを詰めたもので、円筒の陰極に対して針金の陽極に高電圧を印加して用いる。計数管に入射した放射線がガスをイオン-電子対に電離すると、イオンは陰極に、電子は陽極に向かって移動する。陽極近傍の強い電場により電子は大きなエネルギーを得て、ガス分子を電離し、電子を生じる。こうしてイオン-電子対の数はねずみ算的に増加し、増幅作用を起こす(なだれ増幅)。最終的に得られる信号の大きさは最初のイオン-電子対の数に比例するため、放射線のエネルギー損失を測定することができる。ガイガー-ミュラー計数管蛍光比例計数管も参照。

電磁波を波長または周波数成分に分解して測定することにより、対象の組成や温度、密度などを調べること。光学や物性、化学、医学などの幅広い分野で用いられる。電磁波の吸収と放射は、波長(周波数)について連続的に起こる成分(連続吸収あるいは連続光)に加え、特定の波長について生じるスペクトル線として現れる。これを分解して測定するのが分光器であり、どの程度細かく波長(周波数)に分解できるかという分光器の基本性能は波長(周波数)分解能と呼ばれる。波長に分解する分散素子としてはプリズム回折格子が早い段階から用いられたが、その後干渉計を用いたフーリエ分光器などでさまざまな波長の分光が行われるようになり、現在ではガンマ線から電波まであらゆる波長の電磁波が分光の対象となっている。天体分光学も参照。

超大型望遠鏡(VLT)を参照。

可視光や赤外線などで太陽を見ると中心部から周縁に向かうほど暗くなっていることをいう。これは光球(太陽大気)の温度が中心から外側に向かって低下しているためである。波長によって減光の程度は異なる。太陽以外の他の恒星でも見られる。たまに周辺減光とも書かれるが、これは以下の用語と混同されやすいので避ける方が良い。周辺減光とは、カメラの広角レンズなどで視野の周辺の光量が減少して暗くなることを指す。

彗星の中で、周期的な軌道をもつもの。一般には、軌道周期が200年よりも短い短周期彗星を指す。この値は、軌道長半径で34au(天文単位)で、海王星冥王星の間に対応する。周期彗星の名前は、先頭に通し番号をつけて、P/のあとに基本的には発見者の名前を書く。ハレー彗星、エンケ彗星が通し番号の1番、2番で、それぞれ1P/Halley、2P/Enckeと表す。通し番号がついている周期彗星は約250天体、通し番号が付加されていない周期彗星も200を越えている。そのなかには、分裂破壊などで消滅した彗星もあり、P/のかわりにD/という形で表記される。たとえば、3番目に確認された周期6.6年の彗星ビエラは、1845年に分裂して、1852年に確認された以降は観測されていないため、3D/Bielaと表記されている。

ハロルド・バブコック(Harold Delos Babcock; 1882-1968)はアメリカの天文学者。カリフォルニア大学バークレー校を卒業し、ウィルソン山天文台で1907年から1948年まで研究した。後期には息子のホーレス・バブコック(Horace W. Babcock; 1912-2003)もウィルソン山天文台に勤務し、二人は太陽観測用のブルース望遠鏡や塔望遠鏡を用いて、協力して太陽の磁場を観測した。1953年にホーレスがゼーマン効果を利用して太陽表面の磁場を観測する太陽マグネトグラフを発明し、それを用いて二人は太陽表面磁場の分布図を描いて、太陽の磁場が周期的に反転することを発見した。また恒星にも強い磁場を持つものがあることを発見した。ホーレスはまた、1953年に補償光学の可能性を初めて指摘した。ハロルドは1953年に、ホーレスは1969年にブルース・メダル受賞。

 

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/129

https://phys-astro.sonoma.edu/node/130

ハマソン(Milton Humason;1891-1972)はアメリカの天文学者。しばしばヒューメイソン、フーマソンまたはフマーソンと表記されることもある。ミネソタ州ダッジセンター生まれ、14歳で学校を中退、ウィルソン山天文台の工事現場で資材を運ぶラバ使いとして働いていた。1917年、ウィルソン山天文台の守衛として雇われたのをきっかけに、その静かな態度とスキルが当時の台長ヘール(J. E. Hale)に認められ、高校卒業の資格も持っていなかったが、スタッフとして採用された。その後次第に頭角を現し、天文台完成後は優秀な観測天文学者となり、微光銀河の写真観測で活躍、宇宙物理学の発展に大きな役割を果たした。特に、1928年に測定した銀河のスペクトルの赤方偏移は、1929年にハッブル(E. Hubble)がハッブル-ルメートルの法則を発表する一助となった。1950年、スウェーデンのルンド大学から名誉博士号を授与された。

1956年にはメイヨール(N. Mayall)とサンデージ(A. Sandage)とともに、当時の銀河の観測データを総まとめにしてハッブル定数を決定した論文を書いた。1960年に非周期彗星C/1960 M1、1961年に近日点が火星軌道より遠い彗星C/1961 R1(ヒューメイソン彗星)を発見している。

惑星の磁場は、惑星内部にある電気伝導度を持つ流体の運動によって生成され維持されていると考えられる。この流体が磁場中で対流を起こすと電流が生じ、その結果、新たな磁場が生成される。それがもとの磁場を強め電流のオーム散逸を上回る場合、磁場は維持される。このようなメカニズムをダイナモ作用という。
地球型惑星のうち現在でも磁場が維持されているのは地球水星である。このため、地球と同様に水星でも核の一部は融けていると考えられる。現在の火星には磁場はないが、表面の地殻に残留磁化があり、過去に地球と同様の磁場が存在していた時期があったことを示唆している。金星も現在は磁場がない。金星の場合、地表温度が高く磁性が失われるキュリー温度に近いので残留磁化は確認されていない。このため金星で過去に磁場が存在したかどうかはわからない。
木星型惑星である木星土星天王星海王星は、いずれも磁場を持ち、それに伴うオーロラの観測もされている。特に木星の磁場は最も強く、磁気双極子モーメントで表すと地球の約2万倍になる。磁気軸と回転軸との関係は惑星間で大きく異なっている。特に天王星と海王星では両軸の方向が大きくずれているだけでなく、磁気双極子モーメントの中心が惑星中心から大きくずれている。これは磁場を生成する流体運動が惑星の中心付近ではなく、惑星半径の半分より外側の領域で起こっていることを反映していると考えられている。