天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ロスランド平均不透明度

光の振動数に依存する吸収係数を、振動数に対して平均をとったもの。熱の輸送率に対する平均をとるために、プランク関数の温度微分を重みとして掛け、振動数に対して調和平均をとる。これにより、星内部の放射によるエネルギー輸送は温度勾配で決まる形に書ける。単に不透明度とも呼ばれ、与えられた元素組成に対して密度と温度の関数として変化し、高温で低密度の環境では電子散乱による不透明度が卓越し、より低温かつ高密度では電子の自由-自由遷移(制動放射)、束縛-自由遷移束縛-束縛遷移(線吸収)過程などが寄与する。

電磁波(光)を波長ごとのエネルギー強度の分布に分解すること。得られたものをスペクトルという。 分光学分光観測も参照。

アングロオーストラリア天文台を参照。

オランダ王国の電波天文学の研究所。本部はフローニンゲンから南南西へ40kmほど離れたドゥビングロー近郊の町レーにある。1949年に太陽および天の川が発する電波を観測研究するために設立され、世界的にも永い歴史を誇る電波天文学研究所の1つ。WRSTとLOFARを運用し、SKAの建設にも大きく関わっている。1950年代に建設したドゥビングロー25m電波望遠鏡も有名。1990年代に、オランダ国内の光学天文学研究機関と統合し、現在の体制の基礎ができた。
ホームページ:https://www.astron.nl/

天体からの光を波長ごとに分けて(分光して)、スペクトルを取得する観測のこと。分光観測を行うために用いる装置のことを分光器と呼ぶ。分光観測は、天体の物理状態(温度、密度)や化学組成、運動状態などを知るために必須の観測手法である。天体の波長ごとの明るさを正確に測りながら分光することを分光測光観測、波長ごとの偏光度を測りながら分光することを偏光分光観測と呼ぶ。分光測光観測や偏光分光観測では、それぞれ分光標準星、偏光標準星などを分光してデータの校正を行う。

ホイル(Fred Hoyle;1915-2001)はイギリスの天文学者。定常宇宙論を提唱したほか、星の内部におけるヘリウム燃焼理論、元素の起源論、生命パンスペルミア説を唱えた。イギリス西ヨークシャー州ブラッドフォード近郊で生まれ、ケンブリッジのエマニュエル・カレッジに進学し、1939年にケンブリッジのセントジョンズ・カレッジのフェローに選ばれた。終戦後の1945年にはケンブリッジ大学の数学講師、1967年にケンブリッジの理論天文学研究所の所長となった。

星への星間物質降着をリットルトン(R. Lyttleton)とともに扱った後、星のヘリウム燃焼で炭素と酸素ができる反応で、原子核に新らしいエネルギー準位があることを見つけて三重アルファ反応の理論をつくった。星による元素の起源をバービッジ夫妻(J. & M. Burbidge)とファウラー(W.A. Fowler)とともにB2FH論文にまとめた。1947年にはボンディ(H. Bondi)、ゴールド(T. Gold)とともに宇宙の構造と性質を説明するモデルとして「定常宇宙論」を提唱した。この理論は、宇宙が膨張していることを基礎としているが、物質も同時に作られているから、密度は常にどこでも一定としている。ガモフらの理論を揶揄した「彼らは宇宙がどでかい爆発(ビッグバン)から始まったなどと言っている」との発言をガモフが気に入って、自分たちの理論をビッグバンとしたのは有名な話である。(後年ホイルは揶揄する意味は微塵もなく、とっさに思いついたものと語っている。)さらにホイルは、ベーテ(H. Bethe)による水素ヘリウム転換説を発展させ、炭素や酸素、鉄の生成、そして、超新星爆発による重元素の生成と第二世代の星の形成まで考えている。

多数の科学啓蒙書の執筆でも知られており、『天文学の最前線』(1968)、『宇宙の本質』(1975)など、多くの著書がある。また、生命の起源については宇宙起源のパンスペルミア説を主張し、ウィクラマシン(C. Wickramasinghe)と共著の『生命(DNA)は宇宙を流れる』『生命はどこからきたか』などがある。SF作家としても有名で、『暗黒星雲 (The Black Cloud)』(1957)、『秘密国家ICE (Ossian's Ride)』(1959)、『アンドロメダのA (A For Andromeda)』(1962/共著:ジョン・エリオット)など、多くの著作を手がけた。

1970年にブルース・メダル、1974年に王立協会ロイヤルメダルを受賞し、1972年にはナイトに叙せられている。

 

追悼記事:http://news.bbc.co.uk/2/hi/uk_news/1503721.stm
https://www.nature.com/articles/35095162

 

アナログ型電波分光計の一種。英語名の頭文字を採ってAOSと呼ぶことも多い。受信した電波の電気信号を逆圧電効果を持つ素子(トランスデューサ)に入力して、生じた振動で結晶内に進行する超音波を発生させる。この音波が入力電圧と同じスペクトルを持つようにすれば、音波に対応する疎密が、様々な格子定数を持つ回折格子の重ね合わせを生じることとなる。そこで、ここに単色光(レーザー光)を照射すると格子パターンに応じた回折像が生じ、それが入力信号のスペクトルとなるため、可視光の撮像素子を使うと電波分光器とすることができる。比較的簡単な構造で、比較的広い周波数帯域幅と多くの分光点数(チャンネル数)を実現することができることが利点だが、温度によって結晶内の音速が変化すると特性が変化することや、広い帯域幅を得るには音波の減衰が少ない透明な結晶が必要であるなどの欠点もある。

主系列星には真の明るさ(絶対等級)とスペクトル型(あるいは色指数)との間に密接な関係がある(HR図を参照)。この性質を利用し、スペクトル型あるいは色指数を観測することによって、星の真の明るさ(絶対等級 $M$)を推定し、それを観測された見かけの明るさ(見かけ等級 $m$ と比較することにより、

$$m-M=5\,{\rm log}_{10}\,r-5$$

の式から星までの距離 $r$ (pc)が求まる。この方法を分光視差法と呼ぶ。分光視差は $m-M$ のことであるが、これは一般には距離指数と呼ばれている。光度階級の概念を併用すれば、主系列星以外にもこの方法を適用できる。天文学においては通常の視差(異なる地点から見た物体の角度の違い)に加えて、天体の距離を知る手段となるものを広く視差と呼ぶ。

中緯度の偏西風帯で励起され、大気中を西に進んで、1日程度で地球を一周する波。波長は数千kmにもなる。1日以上の時間スケールの気象の変化に重要な影響を与える。この波を維持する復元力は、コリオリ力が高緯度ほど大きいことによる効果である。アメリカで活動した気象学者ロスビー(C-G. Rossby)が発見したのでこの名がある。

ハッブル(E. Hubble)が考案した銀河の形態分類体系(ハッブル分類)を表現する図。1936年に出版された『The Realm of the Nebulae』(エール大学出版会; 邦訳『銀河の世界』戎崎俊一訳、岩波文庫)に掲載されている。音楽で使う音叉を横にした形をしているところからこの名前が付いた。左側の音叉の足に相当する部分に、楕円銀河(記号E)扁平度にしたがって配置され、右側の二本の腕に相当する部分の一本には渦巻銀河(S)、もう一本には棒渦巻銀河(SB)が、渦巻腕の巻き込みの強さに従って配置されている。腕の分かれ目に相当する位置には、当時まだ見つかっていなかったレンズ状銀河(S0:エスゼロ)が置かれている。銀河はこの音叉図で、左の丸い楕円銀河から右の開いた渦巻銀河へと進化すると考えられた時期があった。この考えは誤りであるが、音叉図で左にあるほど早期型、右にあるほど晩期型という呼び方は現在でも広く行われている。

スウェーデンのヨーテボリから45 km離れたオンサラにある国立の電波天文台。チャルマーズ工科大学が運営している。1949年に設立され、口径20 mのミリ波望遠鏡と口径25 mの低周波用の望遠鏡を持つ。また外国と共同で南米チリなどにも望遠鏡を設置している。星形成領域天の川銀河、系外銀河などの研究を行うとともに、超長基線電波干渉計(VLBI)にも参加している。
ホームページ:http://www.chalmers.se/en/researchinfrastructure/oso/Pages/default.aspx

宇宙マイクロ波背景放射の放射温度はほとんど等方的(全天でほぼ同じ温度)であるが、場所(方向)ごとにわずかに高低があってゆらいでいる。これを温度ゆらぎという。放射温度の等方性は宇宙が大きなスケールで一様等方であることを示す証拠である。しかし完全に一様等方な宇宙には構造が生まれることがない。したがって背景放射の温度にはわずかな非等方性(温度ゆらぎ)があるはずである。1992年、COBE衛星による観測でこの温度ゆらぎが初めて見つけられた。それ以来、多くの観測が積み重ねられてきた。温度ゆらぎの中には宇宙の歴史や状態に関する豊富な情報が含まれている。このため、宇宙論全般の研究や、インフレーション理論などを通じて初期宇宙モデルや素粒子モデルを構築する研究などにも、有用な観測的情報を与えている。

カーブラックホール時空のこと。

電波干渉計を構成する基線の感度分布を、方向の関数として表したもののこと。フリンジとはもともとは干渉縞を指す言葉で、たとえば2台のアンテナから送信された電波が作る干渉パターンがそれにあたる。電波干渉計における基線の感度パターンもまたフリンジと呼ばれるのは、電波干渉計が電波を受信する装置であり、送信と受信とは時間反転の関係にあるという意味で対等のものだからである。

ボウエン(Ira Sprague Bowen;1898-1973)はアメリカの天文学者。しばしばボーエン、ボーウェンとも記される。ニューヨークに生まれ、シカゴ大学で物理学の学位を得、ウィルソン山天文台パロマー天文台の台員になった。ガス星雲スペクトルに見られる緑色の輝線はハギンズ(W. Huggins)によって発見され、ネブリウムという仮想元素に帰せられていたが、これが2階電離した酸素原子の禁制線[OⅢ]であることを、1927年に明らかにした。また、パロマー天文台の初代所長を1948年から1964年まで務めた。1957年にブルースメダル、1966年に王立天文学会ゴールドメダル受賞。
ちなみに、当時同様に未知だった太陽コロナの輝線は、コロニウム元素によると想定されていたが、1930年代にエドレン(B. Edlén)とグロトリアン(W. Grotrian)によって高階電離した鉄元素であることが明らかにされている。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/139

ヒーバー・カーチス( Heber Doust Curtis;1872-1942)はアメリカの天文学者で、古典学者、言語学者でもある。ミシガン州マスキーゴンで生まれ。ミシガン大学で古典語を修め1894年にラテン語の教授に就いたが、この頃から天文学に転向し1902年にヴァージニア大学で天文学の学位を取得、リック天文台のスタッフに参加する。1910年頃から視線速度を用いる渦巻星雲の研究を始めた。1917年に、ある渦巻星雲中に新星が見つかったのを契機に過去の星雲の写真を系統的に調査し、渦巻星雲が多数の星の集団である「島宇宙」、すなわち現在でいう銀河であることを確信した。1920年にアメリカ国立科学院で行なわれた、天の川銀河銀河系)の大きさと渦巻星雲の正体に関するシャプレーとの「大論争」は有名である。ピッツバーグ大学のアレゲニー天文台長、ミシガン大学天文台長を歴任した。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1977年に打ち上げた2機の外惑星探査機。9月5日に打ち上げられたボイジャー1号は、木星(1979年3月5日)、土星(1980年11月12日)を探査、それに先立ち8月20日に打ち上げられたボイジャー2号は、木星(1979年7月9日)、土星(1981年8月25日)に加えて、天王星(1986年1月24日)、海王星(1989年8月25日)を探査した。
ボイジャーには、カメラ、分光器、プラズマ計測器、ダスト計測器など多数の観測機器が搭載され、多くの発見がなされた。その中でも、木星の衛星イオの火山活動、エウロパの表面に刻み込まれた複雑なリッジ状地形、土星の衛星エンセラダスとハイペリオンや天王星の衛星ミランダとアリエルの複雑な表面地形、海王星の衛星トリトンの大気、木星と海王星の塵のリング、海王星の大暗斑とメタンの雲などが特筆すべき新発見である。
ボイジャー1号は2004年12月に太陽から94天文単位の距離で終端衝撃波面を、2012年8月に121天文単位でヘリオポーズを通過した。ボイジャー1号とは異なる方向に向かったボイジャー2号は2007年8月に84天文単位の距離で終端衝撃波面を通過し、2018年11月に119天文単位でヘリオポーズを通過した。打ち上げから41年経って2機とも太陽圏を脱出した。
2018年時点で、ボイジャー1号、2号はそれぞれ太陽から約216億km、179億kmの地点を太陽系の外側へ航行中で、ともに交信は保たれている。オールトの雲の内側に到達するのは約300年後、オールトの雲の外側に出て太陽系を脱出するのは3万年後と予想されている。ただし、地球との交信用の原子力電池は2025-2030年頃に寿命が尽きるとみられている。
ホームページ:http://voyager.jpl.nasa.gov/

自然界で働く力を作用毎に整理して、素粒子(基本粒子)に働く力として最終的にまとめられた強い力弱い力電磁気力および重力の四つの力のこと。強い力と弱い力は、電磁気力よりも強い、あるいは弱いという理由でこの名前がついた。強い力と弱い力はそれぞれ、強い相互作用、弱い相互作用と呼ばれることもある。このうちで、日常生活において私たちに感じられる力は電磁気力と重力のみで、強い力と弱い力は原子核の大きさ程度以下でしかその働きは見えない。

強い力はクォーク同士をくっつけて陽子中性子を作ったり、陽子と中性子をくっつけて原子核を作ったりする時に使われる。弱い力は素粒子の種類を変える力である。電磁気力は電気の力と磁気の力を総称したものであり、重力は質量を持つ全てのものの間に働く引き合う力で、「万有引力」とも呼ばれる。

これらの力の大きさは大きく異なっている。電磁気力の大きさを1とすると、強い力は100、弱い力は1/1000、重力は桁違いに弱く10-38である。電磁気力に比べて重力がとても大きな力と私たちに感じられるのは、電磁気力では引き合う力と反発し合う力が打ち消し合う場合が多いが、重力は引き合う力のみであり、さらに、その力が質量が大きいほど大きくなるため、地球表面では大質量の地球の大きな重力が全てのものを引っ張っているからである。また、プラス/マイナスの電荷を持った二つのクォークが陽子/中性子の中に、あるいはプラスの電荷を持った複数の陽子が原子核の中に留まっていられるのは、電磁気力に比べて強い力の方が大きいためである。

強い力は8種のグルーオン、弱い力は3種のウィークボソン(正負の電荷を持つWボソンと電荷を持たないZボソン)、電磁気力は光子、そして重力は重力子(未発見)という、それぞれゲージ対称性(ゲージ理論を参照)をもつボース粒子によって媒介される(粒子をキャッチボールのように交換しあうことで力が作用する)。

素粒子の統一理論では、四つの力はプランクエネルギーと呼ばれる 10 19 GeV(GeV=109 eV;eVは電子ボルト)程度以上という超高エネルギーではもともと一つの力だったと想定されている。この力が宇宙の進化につれてまず重力と大統一力に分かれ、次に 10 16 GeV程度で大統一力が電弱力と強い力に分かれ、100GeV程度で最終的に電弱力が弱い力と電磁気力に分かれて現在の宇宙にみられる四つの力となる。最初の力の分化についてはわかっていないが、大統一理論によると、強い力と電弱力の分化と弱い力と電磁気力の分化は、それぞれ違う種類のヒッグス粒子が真空に凝縮して真空の相転移を起こすことが原因と考えられている。電弱力を分化するヒッグス粒子は2012年に発見された。

2つの恒星が重力的に結合した恒星系(連星系)を形成しているもの。2つの恒星が互いに影響を及ぼすくらいに接近している場合を近接連星系という。2つの恒星がともに観測されている実視連星、スペクトル線の変動から認識される分光連星、および公転運動のなかで一方を隠すことによって明るさが周期的に変化する食連星に分類される。実視連星の場合、明るいほうの天体を主星、暗いほうを伴星と呼ぶ。連星は恒星の半数以上を占めるほど頻度が高いとみられている。連星の周りに恒星が存在しているものもあり、多重連星と呼ばれる。
連星系をなす一方ないしは両方が、白色矮星中性子星ブラックホールなどコンパクト天体の場合は、さまざまな特有の現象が起きるために、連星パルサー連星ブラックホールなど固有の名称がつけられることがある。特に連星の両方ともが同種のコンパクト天体の場合、二重パルサー連星二重中性子星連星二重ブラックホール連星のように「二重」を前につけて呼ばれる。


20太陽質量と15太陽質量の近接連星の進化の想像図
クレジット ESO/L. Calcada/M. Kornmesser/S.E. de Mink

https://www.youtube.com/embed/pDDjEkGjV9U?si=hulwV7JjzFM3c9vR"

電子などの荷電粒子や紫外線X線検出器の一種で、内径 10-100 μm、長さ2 mm程度の鉛ガラスの細管を多数束ねて平板上にし、両端に1 kV程度の電圧をかけた装置。穴に電子が入射すると、電圧で加速されて管壁にぶつかり、2次電子を放出して増幅される。紫外線、X線の検出には管の内面に適当な抵抗値を持つ半導体物質を焼き付けておき、光電子を発生させる。高い位置精度が得られるため、イメージ増幅器として用いることができる。光電子増倍管も参照。