天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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グリズム

grating prismからの造語。プリズムの表面に回折格子を施したもの。目的波長の光が回折格子により曲げられる分をプリズムにより戻して直進させる光学素子。波長分散は回折格子とプリズムの分散の和となる。天体観測装置内の平行光束中の瞳位置にグリズムやフィルターを交換配置できると直進光学系で分光観測撮像観測を切り替えて行うことができるので、近年多用されている。

原子またはイオンの基底状態や励起状態の準位のエネルギーおよび電子の角運動量について表した図。横軸に合成軌道角運動量量子数や合成全角運動量量子数などをとり、縦軸をエネルギーとして各準位の位置が主量子数とともに表され、準位間の遷移が起こりうるところは線でつないで遷移エネルギーが記載されている。名称は20世紀前半のドイツの天体物理学者グロトリアンに由来する。最も単純な水素原子のグロトリアン図を示す。

ビッグバン元素合成において創られる元素。ビッグバン後約1秒から約10分までの初期宇宙で生成される水素(1H)(もともとあった)、重水素(D=2H)、三重水素(トリチウム:T=3H)、ヘリウム(3H, 4He)と、微量のリチウム(7Li)とベリリウム(7Be)を指す(元素記号の左上の数字は質量数)。ただし、放射性元素(不安定元素)であるT (半減期12.3年)と7Be(半減期53日)はそれぞれ、3Heと7Liに放射性崩壊する。従って、ビッグバン元素合成の後に残る安定元素(の原子核)は、H、D、3He、 4He、7Li である。
これに対して恒星の中で生成される炭素(12C)とそれより重い元素を重元素または金属と呼ぶ。ただし、「重元素」は水素とヘリウムより重い元素全てを指す場合も多いので注意が必要である。

X線を照射された原子から二次的に放出されるX線領域の電磁波。複数の電子を有する原子にX線が照射され、X線がK殻の電子をはじき飛ばし、穴のあいたK殻に外殻のL殻にある電子が落ちてきてそれらの準位のエネルギー差に相当する光子がX線として放出される場合に、放出された光子(電磁波)を Kα 線と呼ぶ。L殻ではなく、M殻から電子が落ちてきた場合を Kβ 線と呼ぶ。 Kβ 線は Kα 線よりエネルギーが高いため短波長となる。同様に、L殻の電子がはじき飛ばされて、その外側のM殻などの軌道から電子が落ちてくる際に出る光子はL線と呼ばれる。このように、X線の照射後に二次的に放出される光子を蛍光X線と呼ぶ。蛍光X線を用いて物質の成分や特性を(非破壊)分析する手法は蛍光X線分析法と呼ばれる。フレアX線フレア(星の)も参照。

物体に光を当てたとき、吸収された光の波長と異なる波長で発光する現象。天文学においては、紫外線やX線を吸収して励起状態となった分子や原子またはイオンがより下の準位に遷移する際に発する輝線放射を指す。準位間のエネルギー差によって輝線の波長が決まるため、そのスペクトルを調べることにより、光源となるガス雲にどのような物質が含まれているかがわかる。また、関連する複数の輝線の強度比を調べることで、ガスの温度や密度、ガスを励起している紫外線のスペクトルに関する情報などを得ることができる。星間分子雲からの中性鉄原子からの蛍光輝線放射などが確認されている。

天文学においては、天体構造を分離して識別できる最小角度を指す。角分解能を参照。

空気関数とも言う。エアマスを参照。

天文学では一般にヘリウムより重い(原子番号が大きい)元素を金属と呼ぶ。重元素と呼ぶことも多い。ただし、以下に述べるように、炭素とそれより重い元素を金属と呼ぶ場合もある。このように天文学における「金属」は、化学をはじめとする他の学問分野での意味とは定義が異なるので注意が必要である。化学でいう金属とはまったく異なる化学的性質を持つ元素も天文学では金属と呼ぶ。たとえば、酸素、炭素、窒素、硫黄なども天文学ではすべて金属に含まれる。
ビッグバン元素合成により、水素とヘリウム、およびほんの僅かのリチウムとベリリウムが合成された。それより重い(原子番号の大きい)元素のうち、炭素から鉄まではほぼすべて恒星内部での熱核融合反応によって合成された。鉄は最も安定な原子核であるので、それより重い元素を恒星の内部で合成することはできない。鉄より重い元素は、超新星爆発や二重中性子星連星の合体などの爆発的な過程におけるs過程r過程で合成されたと考えられている。天文学ではビッグバン元素合成で作られた元素(軽元素と呼ぶ)と、宇宙最初の星(初代星)ができて以来星の活動によって合成された元素(重元素=金属)を区別して扱うと便利なことがあるので、炭素より原子番号の大きい元素を金属と呼ぶ場合もある。この場合、ヘリウムと炭素の間にあるリチウム、ベリリウム、ホウ素(主に宇宙線星間ガス中の原子の衝突で作られる)は微量であることもあり金属に含めない。

恒星星間物質元素組成のうち、金属が占める割合。重元素量ともいう。ただし、ここでいう金属は天文学で用いられる意味であり、リチウムよりも重い元素全てを指す。通例、太陽での組成比を基準として、それに対する比の常用対数で表す。特定の天体の元素組成は厳密には元素ごとに異なるが、金属での相対比は概ね変わらないと仮定し、観測に基づく見積もりが容易な酸素、炭素、窒素、鉄などの水素に対する割合を金属量とすることが多い。金属は恒星内部での核融合反応で生じているので、金属量が少ない天体ほど、ビッグバン以降に恒星の一部となった経験が少ない「汚れの少ない」物質で構成されていると考えられる。

銀河が時間とともに姿や形を変えていくこと。銀河進化の骨格をなすのは星生成による星の増加であるが、それとともに質量や形態や色などのさまざまな属性も変化する。銀河進化を調べる最も直接的な方法は過去の(すなわち遠方の)銀河を観測することである。天の川銀河銀河系)など近傍の銀河については、その中の星の分布や重元素量などを詳細に調べて進化の過程を探ることができる。これを銀河考古学という。階層的集団化モデルによると、銀河は、ダークマターハローが集合合体によって成長するとともに、その中で冷えたガスから星生成が起こることで進化したと考えられている。このモデルに適切な肉付けをして、さまざまな観測事実を一貫性を持って説明するのが銀河進化モデルの目標である。なお、銀河の進化に限らず、天文学で用いられる進化という用語は、生物学における進化とは異なることに注意する。天文学における進化は、生物学においては個体の成長に対応する。たとえば、「星の進化」は正確には「星の一生」である。生物学の「進化」に対応する概念は天文学にはない。
銀河の進化に限らず星の進化など、天文学で用いられる「進化」は生物学の用語とは異なる意味で用いられることが多い。星生成質量集積も参照。

銀河進化を記述するモデル。その物理的基礎となるのは、原始密度ゆらぎから生まれたダークマターハローが集合合体によって成長するという、階層的集団化モデルである。最初のダークマターハローは星を含んでいなかったが、流入したガスが冷えて星生成が起こり、星が次第に増加したと考えられている。以上の描像は1970年代に提案され、その後、観測技術やコンピュータ技術の発展を受けて精密化されてきている。超新星爆発活動銀河核によるガスの加熱など、新しい物理過程も追加された。
銀河進化モデルから銀河の光度や色、スペクトルを計算する際は、かつては銀河系天の川銀河)と大マゼラン雲小マゼラン雲内の星団のスペクトル(SED)をライブラリとする種族合成法という手法が用いられたが、近年はコンピュータで計算されたスペクトルのライブラリを用いる進化的種族合成法が用いられている。観測技術の進歩により紫外線から赤外線にわたる銀河のスペクトルが観測できるようになり、大きな赤方偏移を受けた宇宙初期の銀河から現在の銀河まで、星生成史を銀河進化モデルによって推定することが出来るようになった。銀河進化モデルにはなお、観測との矛盾や物理的に不明確な部分が残っているが、この分野の研究は現在急速に発展している。
銀河進化のある側面にだけ注目した単純なモデルも用いられることがある。たとえば、一定質量のガスが単純な規則にしたがって星に変換されていくというクローズドボックスモデル(ワンゾーンモデルともいう)というモデルは、非現実的ではあるが、星生成史やそれに伴う化学進化を考察するには有効である(こうしたモデルのほうが歴史は古い)。

球状星団銀河ハローの密度分布を記述する球対称なモデルの一つ。 物理的意味づけの明確なモデルである等温モデルを、系の大きさと質量が有限になるように修正したものである (等温モデルは系の大きさと質量が無限大になるという欠点がある)。 系の内側では等温モデルとほぼ一致するが、外縁部では等温モデルよりも密度が急速に低下し、潮汐半径$r_t$ と呼ばれる半径でゼロになる。 キングモデルの自由変数は潮汐半径とキング半径(コア半径ともいう)$r_0$ である。 $c \equiv \log\, (r_t/r_0)$ を集中度という。 $c=\infty$ のとき等温モデルに厳密に一致する。 キング(I.King)の1966年の論文で広く知られるようになった。

高エネルギーの宇宙線が引き起こす空気シャワー現象をとらえるために間隔をおいて多数の荷電粒子検出器群を配列した装置。シャワー粒子の主成分は電子陽電子ガンマ線であり、粒子検出器にはプラスチックシンチレーション検出器比例計数管水チェレンコフ検出器などが用いられる。ミューオン測定を目的とした吸収層を持つ検出器群や、さらに特殊な検出器を加える場合もある。ピエールオージェ実験テレスコープアレイも参照。

一定の空の方向に観測される銀河の数を指し、一般に1平方度の中にある銀河数を単位等級当たりの数(deg-2 等級-1)にして等級の関数として表す。観測される銀河計数は、膨張宇宙の単位共動体積に含まれる銀河の数で決まり、また共動体積は宇宙の密度パラメータ宇宙項に依存するので、これらの膨張宇宙パラメータを決定するのに用いられる。

望遠鏡の向きや姿勢に関係なく、常に固定された場所に結像するように設定された望遠鏡焦点。赤道儀式望遠鏡であれば極軸上に、経緯台式望遠鏡であれば方位軸上に設定される。極軸もしくは方位軸上で結像するように、望遠鏡主鏡から後に複数枚(通常は3-5枚)の鏡を設置して天体からの光を導く。その光路中に必要に応じて透過光学系(レンズ系)を挿入することもある。
クーデ焦点は常に固定されているために非常に安定性が高く、高分散分光器などの大型観測装置が設置されることが多い。ただし、焦点までの光の導入に多くの光学系を経由するために、それぞれでの光量損失が大きなものとなる。また、主鏡から焦点までの距離が長く、必然的に焦点距離が長くなる。典型的な合成口径比はF/30からF/50である。このため、天体像は大きく拡大され、高空間分解能観測には適したものとなる半面、像面は暗くなるという欠点を持つ。焦点(望遠鏡の)も参照。

見かけの等級絶対等級との差。距離引数ということもある。単位は等級である。見かけの明るさは距離が遠くなると、その2乗に反比例して暗くなるため、距離指数はその天体までの距離の対数で表現され、

$$\mu=m-M=5 \log_{10} r-5 $$

となる。ここで、$\mu$ は距離指数、$m$見かけの等級$M$絶対等級$r$パーセク(pc)単位での天体までの距離。また、対数は常用対数である。したがって、距離1 pcなら距離指数は-5、距離10 pcなら距離指数は0、距離100 pcなら距離指数は+5となる。星間減光があると、見かけの明るさはより暗くなるため、実際に観測される見かけの等級から距離指数を求める場合には、星間減光に応じた補正が必要となる。分光視差も参照。

銀河の距離の推定に使われる指標のこと。真の明るさや大きさがわかっている標準光源や銀河のさまざまな観測量間の相関関係などがある。宇宙の距離はしごを構成する手段である。精度は高いが近傍の銀河までしか適用できない1次距離指標と、精度は落ちるが遠くの銀河にも適用できる2次距離指標に分けられる。1次距離指標には、種族Ⅰのセファイドと種族Ⅱのこと座RR型変光星(RRライリ)がある。セファイドは極めて明るいので40メガパーセク(40 Mpc=約1.3億光年)程度の距離にある銀河まで観測でき、天の川銀河銀河系)内と銀河系外の距離はしごをつなぐ非常に重要な距離指標になっている。2次距離指標には、新星超新星球状星団などのセファイドより明るい標準光源、および銀河自身の観測量の間の相関関係である距離指標関係式などが含まれる。近年はハッブル宇宙望遠鏡により高精度観測が行われているⅠa型超新星が遠方まで届く重要な距離指標となっている。標準光源法も参照。

銀河の距離の推定に用いられる、銀河の観測量の間の経験的な相関関係。距離に依存して変わる観測量(見かけの明るさや大きさ)と距離に依存しない観測量(回転速度や色)の間に強い相関があれば、距離指標関係式になる。渦巻銀河の明るさと中性水素21cm線の速度幅(回転速度の2倍に相当)の間の相関であるタリー-フィッシャー関係や、楕円銀河の明るさと速度分散の間の相関であるフェイバー-ジャクソン関係及びその発展形であるDn-σ関係などが知られている。距離指標関係式はあくまでも経験則であり、どの銀河に対しても普遍的に成り立つ保証はない。その意味で、セファイドの周期-光度関係などの1次距離指標よりも信頼性は劣る。

宇宙の距離はしごを参照。

吸収した光と同じ波長で原子や分子から放出される蛍光(シンチレーション光)。吸収した光により電子が高いエネルギー準位に移り、その後もとの準位に戻るときに吸収したエネルギーと同じエネルギーの光子を放出する。蛍光放射も参照。