天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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仮想天文台を参照。

(Weakly Interacting Massive Particle) 冷たいダークマターの候補とされる仮説上の粒子。電磁相互作用強い相互作用は働かず、重力相互作用弱い相互作用のみ働くものと考えられている。
安定で電荷を持たず、弱い相互作用のみに関与し、質量が数10 GeV以上と重いため、これまで未発見の粒子であると考えられる。宇宙初期の高温高密度状態で生成され、宇宙が膨張するにつれて熱平衡から外れ、宇宙の質量の大きな部分を担うダークマターとなり、宇宙の構造形成に関与しているとされる。超対称性理論で予言されるニュートラリーノなどがその候補とされている。加速器による探索や、宇宙線中に直接探索する実験、WIMPが対消滅して発生するガンマ線ニュートリノなどの二次粒子中にその痕跡を間接的に探す実験などが行われているが、これまでの探索では発見されていない。

Gamma-ray Large Area Space Telescopeの頭文字をとった呼び名。 フェルミ衛星を参照。

宇宙背景放射の異方性を測定するために2001年に打ち上げられたアメリカの人工衛星。背景放射の研究者David Wilkinsonにちなんで、Wilkinson Microwave Anisotropy Probeと名付けられた。宇宙マイクロ波背景放射(CMB)の強度分布を5つの周波数帯(23, 33, 41, 61, 94GHz)で測定し、COBE衛星の45倍の感度と33倍の角分解能でCMB温度ゆらぎの全天地図を作成した。また、WMAPはCOBE衛星のDMR検出器にはなかったCMBの偏光成分も測定する能力を有した。WMAPは2003年2月に初年度のデータと解析結果、2006年3月に3年間の結果、2008年5月に5年間の結果、2010年1月に7年間の結果を公表し、これまでになく精度の高い宇宙論パラメータを発表した。その後、2010年8月に最後の科学データを取得してミッションを終了した。
ホームページ:https://map.gsfc.nasa.gov/

2016年2月17日にH-IIAロケット30号機で打ち上げられた日本のX線天文学 衛星。打ち上げ前はASTRO-Hと呼ばれていた。宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米国、欧州との共同で開発され、軟X線望遠鏡2台と、硬X線望遠鏡1台を搭載し、X線マイクロカロリメータを用いた軟X線超精密分光望遠鏡システム、広い視野を持つX線CCDカメラ、高精度イメージング能力を持つ硬X線ガンマ線検出器を備えていたが、試験観測が始まっていた3月26日に異常回転が発生し、衛星は分解し、運用は断念された。試験観測のデータからは、ペルセウス座銀河団乱流速度の観測など、X線マイクロカロリメータの高いエネルギー分解能を活かした成果も得られた。
ホームページ:http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/hitomi.html

ヨーロッパ宇宙機関(ESA)が1999年12月に打ち上げたX線天文衛星で、ニュートン(I. Newton)の名を冠している。軌道傾斜角40度、遠地点高度99,000-114,000 km、近地点高度6,000-22,000 km、軌道周期48時間の長楕円軌道に投入されている。3台のX線望遠鏡を搭載し、焦点面には1台の背面照射型CCDカメラと、反射型回折格子を用いた分光器を備えた2台の前面照射型CCDカメラを設置して、0.1-15 keVのエネルギー範囲をカバーし、1 keVで1500 cm2という大きな有効面積と6秒角の角分解能を持ち、精度の高いX線観測を可能にするとともに、口径30 cmのモニター光学望遠鏡も搭載している。2019年5月現在も観測を継続している。
ホームページ:https://www.cosmos.esa.int/web/xmm-newton

天の川銀河内の天体は、第1近似としてその中心の周りを一定速度で円運動していると考えられる。太陽位置で、この運動を示す仮想点を局所静止基準(LSR)と呼び、これに対して太陽系が持つ運動のずれを太陽運動といい、その方向を太陽向点と呼ぶ。実際には、定義通りの局所静止基準を十分な精度で確実に得ることができないため、太陽の周りの星々は平均的な動きを局所静止基準と仮定して、これ対するずれを観測から得て太陽運動としている。しかしながら,観測対象として選択する恒星の種類によって多少異なる値が得られることがわかっている。

しかし、それでは観測から天の川銀河の運動を導く際に研究者ごとの違いが出てきてしまうので、これを避けるためにα$_ \odot$(B1900.0)=18h, δ$_\odot$(B1900.0)=+30°(ヘルクレス座の方向)に向かって、20 km s-1 であるとする提案が Kerr and Lynden-Bell (1986, MNRAS, 221, 1023)によってなされており、多くの電波天文学の論文で採用されている。これを直交座標で表すと、銀河中心方向をU、銀河回転方向をV、銀河北極方向をWとして、太陽運動は (U,V,W)=(+10.3, +15.3, +7.7) となる(単位はkm s-1)。Kerr and LyndenBell の原論文の数値には直交座標への変換に僅かな誤りがあり、ここに掲げた値が再計算値である(Ando et al. 2011, PASJ, 63, 45参照)。

X線によって分子雲解離された領域。
電離光子がガスを電離して形成される領域が電離領域であるが、天体から放射される電離光子が周囲のガスを電離すると、天体の周りに電離領域が形成される。水素を電離する13.6eVのエネルギーよりも高いエネルギーの紫外線の多くは電離領域内で吸収される。
しかし、エネルギーがはるかに高いX線はその高い透過能力により電離領域の外まで伝播し電離領域の外側の中性原子や分子ガス領域にまで到達し、分子を励起あるいは解離する。このようなX線による解離や励起が起こっている領域をX線解離領域と呼ぶ。
このような領域は活動銀河核から放射される近赤外域の水素分子やFeⅡ輝線の起源として、衝撃波に伴う衝突励起紫外線による蛍光放射に次ぐ3つ目の励起機構と考えられている。光解離領域も参照。

太陽運動の方向。太陽の周りの星々は平均的な動きとして天の川銀河の中心の周りをほぼ円運動している。これを完全な円軌道で近似したとき、その円運動する仮想の天体を局所静止基準(LSR)と呼ぶ。それに対する太陽の運動を太陽運動といい、その方向を太陽向点という。電波天文学では赤道座標系で、$α_\odot$(B1900.0)=18h, $δ_\odot$(B1900.0)=+30° であるとして局所静止基準が定義されており、これをJ2000.0 分点に換算すると、$α_\odot$(J2000.0)=18h03m50s.280, $\delta_\odot$(J2000.0)=+30°00'16''.83となる。この値は太陽運動の速度と合わせて、天体をLSRから見た速度と太陽中心から見た速度の間の変換に使われる。

協定世界時+9時間で定められる日本の標準時を法律上は中央標準時、一般には日本標準時(JST: Japan Standard Time)と呼ぶ。後者(JST)が広く用いられている。もともと時刻は平均太陽時に代表されるように天文学的に定められるものであったことから、国立天文台(NAOJ)が中央標準時を決定し、情報通信研究機構(NICT)が偏差を算出、通報するという関係になっている。 しかし、現在では両機関がそれぞれ原子時計を運用し、衛星レーザー測距(SLR)や超長基線電波干渉計(VLBI)の観測を通じて国際原子時や協定世界時の決定に寄与しており、両者の時刻に差異はない。したがって、実際に無線報時信号により提供される時刻は、情報通信研究機構が管理する原子時計群により生成される協定世界時に9時間を加えたものになっている。
なお、中央標準時が法律上の正式名称であるが、「中央」となっているのは1896(明治29年)から1937(昭和12)年まで、「中央標準時」と「西部標準時」があったことの名残である。

主にTタウリ型星などの前主系列星のX線強度が急激に増加する現象。弱輝線Tタウリ型星は可視光よりもX線観測による方が見つけやすいため、1990年に打ち上げられたROSATなどのX線天文衛星による全天サーベイ観測が、弱輝線Tタウリ型星を探査する有効な手段となった。X線でのフレア的な変光は、Tタウリ型星の磁場構造や惑星系のもととなる星周円盤(原始惑星系円盤)からのTタウリ型星表面へのガスの降着が深くかかわっていると考えられており、Tタウリ型星のごく近傍の物理環境を知る手がかりを与えている。

X線は物質透過力が高いため、面にほぼ垂直に入射する構造の反射鏡は作れず、小角度で入射したときの全反射現象を利用して集光する。X線に対する金属の屈折率は真空の屈折率より少しだけ小さいため、全反射が起こるが、その臨界角(金属面とX線のなす角)は1度程度と非常に小さい。このことを利用した斜入射型X線反射望遠鏡は、X線が全反射条件を満たすような小角度で鏡面に入射するように作られる。

X線の反射面には金や白金がコーティングされ、回転放物面と回転双曲面の2つの反射鏡で2回反射させ、光軸外での像の収差を小さくしたウォルターI型と呼ばれる光学系がしばしば用いられる(上図参照)。反射鏡の表面に間隔 $d$ で多層の反射膜を作ると、X線の反射面に対する入射角を $\theta$ として、ブラッグの条件

$$n\lambda=2d\sin\theta(nは整数)$$

を満たす波長($\lambda$)のX線は干渉によって強め合う(ブラッグ回折)ため、X線領域での反射率を高めることができる(多層膜X線反射鏡)。また、近年のスパッタリング技術の向上により、0.3 keV程度以下の軟X線から極端紫外線に対しては、大きな原子番号を持つ反射層と、小さな原子番号を持つスペーサ層を交互に周期的に積み重ねた多層膜を直入射鏡に成膜(製膜)して、直入射型X線反射望遠鏡を構成することができるようになった。スーパーミラーも参照。

水銀灯やナトリウムランプなど、ガス中の放電により励起されて出る輝線放射。天文学においては分光観測を行うときの波長校正に用いられる。可視光ではトリウム、近赤外線ではアルゴンを封入した放電管が用いられることが多い。

南極の氷の下に設置された高エネルギー宇宙ニュートリノ望遠鏡。氷の中でニュートリノが相互作用して作り出す荷電粒子から発せられる微弱なチェレンコフ光を、透明な耐圧容器に封じ込めた光センサー(光電子増倍管)で検出することにより、ニュートリノの到来方向やエネルギーの情報を得て、高エネルギーニュートリノ天文学を推進している。1 km3の巨大な検出体積を持ち、約100 GeVを超える高エネルギーのニュートリノを検出できる。

2006年から一部の運転を開始し、2010年に完成した。2013年に太陽系外からの初めての高エネルギー(約1 PeVの)ニュートリノ事象の検出を報告した。2017年に観測したIceCube-170922Aというニュートリノ事象は、ガンマ線を放射するブレーザーTXS0506+056の方向を示していた。これはブレーザーが高エネルギーニュートリノ放射源の一つであることを示唆する。2023年には銀河面からのニュートリノの検出を報告した。

高エネルギーニュートリノは、主に宇宙線が周囲の物質や放射と相互作用して生まれる。電荷を持つ宇宙線と違って星間磁場で曲げられずにまっすぐ放射源から飛んでくるので、宇宙線の起源を同定するのに適している。

現状の装置に比べて感度を約5倍以上、観測装置の体積を約10倍に拡大するIceCube-Gen2(第2世代アイスキューブ)の計画が立案されており、それに向けて現在「IceCube Upgrade」として既存装置の改良が行われている。完成は2030年代の前半を予定している。
ホームページ:https://icecube.wisc.edu/

絶対温度が0度の電子縮退圧により支えられる天体(白色矮星や大質量星中心の縮退した鉄のコアなど)が安定して存在できる質量の上限値。単にチャンドラセカール質量とも言う。チャンドラセカール限界質量の値は天体の化学組成による。その天体を構成する原子の原子核中の核子陽子中性子)の総数(質量数)を電子数で割った値を電子1個あたりの平均分子量(ヘリウムや炭素の場合は2で、さまざまな原子が混じっている場合はそれらの平均値となる)と言い、それをμeとすると、チャンドラセカール限界質量は太陽質量の約1.46(2/μe)2倍となる。白色矮星や鉄のコアがこの質量を超えると、質量に応じて最終的には中性子星やブラックホールになる。このことを発見したチャンドラセカール(Subrahmanyan Chandrasekhar)は、1983年のノーベル物理学賞を受賞した。

等輝度線を参照。

等波面離角を参照。

アルバート・アインシュタイン(Albert Einstein; 1879-1955)はドイツ生まれのユダヤ系アメリカ人物理学者。ガリレオニュートンとともに宇宙観の形成に大きく貢献し、20世紀最大の科学者とも称せられる。

チューリッヒ工科大学(当時)を1900年に卒業後、臨時教師として働き、後ベルンの特許庁に勤めた(1902〜1909)。この間に重要な研究が相次ぎ、1905年に三つの重要な論文が発表された(「奇跡の年」とも言われる)。一つはプランクの光量子に関するもので、そのエネルギーが振動数に比例することが古典的な電磁気学や熱力学の理論と矛盾するように思われていたことに対し、アインシュタインは光に量子の性質を与えることで説明した。これによって、光電効果が素直に解釈できるようになった。二つ目は特殊相対性理論で、物理法則がどの基準系においても同じ形式になること、および、光速度はどの基準系でも同じ値であることの2点を要請し、古典的な運動ならびに電磁場の相対性を解釈し直した。また、1905年末には質量とエネルギーが等価であることを示した。これらにより、長年の論争の対象であったエーテル仮説を捨て、マイケルソン‐モーリーの実験ならびにフィッツジェラルド‐ローレンツ収縮を新たに説明することができた。三つ目の論文は統計力学に関するもので、ボルツマンやギッブスによって研究された分野を発展させ、ブラウン運動を説明した。

その後、量子論への重要な貢献を行ない、特殊相対性理論を加速度を含む形式へ発展させようとした。1907年、重力による加速度と力学的な加速度を区別することはできないという等価原理を発見、後の一般相対性理論の基礎となった。1908年にベルン大学の講師、1909年にはチューリッヒ大学の教授になった。1911年、太陽近傍をかすめて通る遠方の星の光は太陽の重力で曲げられることを予言した。これは、アインシュタインの重力理論の実験的検証につながるもので、重要な研究だった。1912年頃、アインシュタインの重力の研究は、グロスマン、レビ・チビタ、リッチ・カルバストロなどの数学者の助けを借りて、新しい段階へ入った。彼はその重力理論を一般相対性理論と呼んだ。1914年ドイツに戻り、プロシャ科学アカデミーの研究職およびベルリン大学教授を兼務した。また、カイザー・ウィルヘルム物理学研究所の所長職も兼務し(1914〜1933)、1915-16年に一般相対性理論の一連の論文を出版した。この中には重力波の存在も予測されており、2015年9月に米国の重力波検出器「LIGO」が世界で初めて重力波を検出した際には、「アインシュタインからの最後の宿題が100年ぶりに解かれた」と話題になった。

1919年、イギリスの日食観測隊が太陽縁辺での光線の屈曲を確認し、一躍世界のマスコミの寵児となる。1921年、初めてアメリカを訪問した際には講演会にあふれんばかりの聴衆が集まった。同年、光電効果の研究によりノーベル物理学賞を受賞したが、1922年の日本訪問の途上にあったため、授賞式には欠席した。1922年パリ、1923年パレスチナを訪問し、1924年波と物質との統一に関する研究を行なってから、1925年南米を歴訪。1926年イギリス天文協会のゴールドメダルを受賞した。
1927年ソルベー会議で、ボーアと量子論をめぐっての有名な論争が行なわれた。彼は、コペンハーゲン流の波動関数の確率解釈に反対した。1932年、アメリカのプリンストン大学滞在中、ドイツでナチスが台頭したため帰国を断念し、以後アメリカにとどまり、1940年帰化した。プリンストン高等研究所では物理法則の統一化を目論んだが、成功することなく1955年、入院先のプリンストン病院で死去、満76歳であった。アメリカの原子爆弾開発は、アインシュタインからルーズベルト大統領へ宛てた、ドイツの核兵器開発の危険性を訴える手紙がきっかけになったといわれているが、彼は一貫して平和主義者であった。死後3ヶ月を経て、戦争の根絶や科学技術の平和利用などを訴えるラッセル-アインシュタイン宣言がバートランド・ラッセルにより発表されている。

 

ニューヨーク・タイムズによる追悼文
https://archive.nytimes.com/www.nytimes.com/learning/general/onthisday/000314onthisday_bday.html
ラッセル-アインシュタイン宣言
https://www.pugwashjapan.jp/russell-einstein-manifesto

アメリカの高エネルギー天文衛星(High Energy Astronomical Observatory)シリーズの2番目となるX線天文学衛星で、HEAO-2と呼ばれた。1978年11月13日にフロリダから、高度ほぼ500 km、軌道傾斜角23.5度の略円軌道に打上げられ、アインシュタインと名づけられた。1981年4月まで観測を続け1982年3月25日、大気圏に再突入し、寿命を終えた。多重層(4層)の反射式X線望遠鏡を初めて搭載、焦点面にマイクロチャンネルプレート(高分解能撮像装置(HRI))、位置検出型比例計数管(IPC)、半導体検出器(SSS)などを設置した。有効エネルギー帯は0.2-3.5 keVに限られていたが、従来の数百倍の感度と撮像能力を持ち、超新星残骸銀河銀河団からの拡散X線の発見とその撮像観測や微弱なX線天体、とくに通常の恒星からのX線検出に初めて成功した。
近傍の渦巻銀河の腕の部分から、恒星質量のエディントン限界光度を凌ぐ超大光度X線源を発見した。これは太陽質量の数百倍の中質量ブラックホール、あるいはマイクロクェーサージェット方向から観測しているものと解釈されている。
ホームページ:https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/einstein/heao2.html

原子や分子など、ガスを構成する粒子が電磁波を放射・吸収する素過程についてアインシュタインが導入した現象論的な係数で3種に分けられる。差が $\Delta{E}$である2つのエネルギー準位間での状態変化に伴い放射・吸収される電磁波は、エネルギー $\Delta{E}$をもつ光子1個の放射・吸収と考えるべきで、その周波数 $\nu$$\Delta{E}=h \nu$ となることが、光電効果に対する考察から示される。この考えに基づくと、ガスの放射・吸収に伴う放射強度の変化は、低エネルギー準位にいる粒子数と放射強度の両方に比例した吸収と、高エネルギー準位にいる粒子数に比例した放射を合わせたものと考えられる。前者を誘導吸収、後者を自発放射と呼ぶ。ところが、このモデルを統計熱力学の結論と組み合わせると、低エネルギー準位にいる粒子数と放射強度の両方に比例した放射も起こる必要があるとアインシュタインが1916年に指摘した。これを誘導放射と呼ぶ。これら3つの過程に対応し、自発放射に関する比例係数をアインシュタインのA係数、誘導放射と誘導吸収に関する比例係数をアインシュタインのB係数と呼び、3つをまとめてアインシュタイン係数と呼ぶ。誘導吸収と誘導放射とのB係数の違いは添え字で区別するのが慣例である。

以上の定義からわかるように、粒子1個に対する確率と考えるとA係数は、時間の逆数の物理次元をもち、B係数は、時間の逆数と放射強度の逆数の積の物理次元をもつ。熱平衡状態での放射は黒体放射となるので、同じエネルギー準位間での放射・吸収に関する3つのアインシュタイン係数の間には以下に示す関係がある。

$$A=\frac{8 \pi h \nu^3}{c^3}B_{21}, \hspace{1cm}g_2 B_{21}=g_1 B_{12}$$

ここで、$A$ はA係数、$B_{12}$ は吸収のB係数、$B_{21}$ は誘導放射のB係数、 $g_1$$g_2$ はそれぞれ低エネルギーおよび高エネルギー準位の縮退度。また、$h$プランク定数$c$ は真空での光速、$\nu$ はこの遷移で放射・吸収される電磁波の周波数、すなわち、$\Delta{E}=h \nu$ がエネルギー準位差。