磁場中を荷電粒子がローレンツ力を受けて運動することにより電磁波を放射するメカニズムの名前。放射される電磁波の周波数はサイクロトロン周波数(ジャイロ周波数)であり、多くの天体ではこの周波数は非常に小さく観測対象にならない。しかし粒子のエネルギーが相対論的エネルギーになると、放射の指向性(ビーミング効果)が現れ基 本サイクロトロン周波数からその高調波成分を含む広域帯の連続スペクトルとなり、シンクロトロン放射と呼ばれる。宇宙ではさまざまな高エネルギー天体現象からシンクロトロン放射が観測されるが、電子のべき指数 p のエネルギー分布(エネルギーをEとして、E と E+dE にある電子の数密度が N(E) ∝ E-p からのシンクロトロン放射スペクトル P($\nu$) は、べき指数 $\alpha$ = (p-1)/2 のべき関数($ν$を周波数(振動数)としてP($\nu$) ∝ $\nu^{-\alpha}$)となり、磁場や電子の情報を推定するのに役立つ。べき関数型スペクトルを参照。
ショットキーバリアをもちいたダイオードで、通常のダイオードに比べて高周波数での特性が良い。電波天文学の初期には、冷却したショットキーバリアダイオードが周波数変換器として用いられたが、現在は、より低雑音のHEMT増幅器や超伝導ミキサーに代わられている。
金属と半導体が接触するときに、界面に仕事関数の差に相当するバリアが生じ、それをショットキー障壁(バリア)と呼ぶ。これによる整流作用を利用したものが
ショットキーダイオードである。
ある粒子が他の粒子との熱平衡の状態から外れること。初期宇宙の高温高密度時には、さまざまな粒子は頻繁に相互作用することによりエネルギーを交換し合い熱平衡状態になっている。膨張に伴って宇宙の温度が下がると粒子の密度が下がり、ある粒子は他の粒子とほとんど相互作用しなくなり独立に運動するようになって、他の粒子との熱平衡状態から外れる。これがその粒子の脱結合である。脱結合しているかどうかは、その粒子が他の粒子と相互作用する平均時間とその時点での宇宙年齢との兼ね合いできまる。平均時間が宇宙年齢より短かければ脱結合しておらず、長ければ脱結合しているとおおよそ判定できる。どのような粒子がいつ脱結合したかは、宇宙の進化を考える上で極めて重要である。
宇宙の温度が絶対温度で約200億度K(ビッグバンから1秒程度)の頃に、弱い相互作用(弱い力)の反応率(反応平均時間の逆数)がハッブルパラメータ(その逆数が宇宙年齢の目安)りも小さくなりニュートリノが脱結合した。その後の宇宙進化の過程で起きる脱結合で最も広く知られているのは、ビッグバンから約38万年後に起きた光子と物質(バリオン;実質上は電子)の脱結合である。
それ以前の宇宙は完全電離したプラズマ状態にあり、光子は自由電子とトムソン散乱によって相互作用して熱平衡状態にあり、まっすぐ飛ぶことができなかった。温度の低下とともに宇宙の主要元素である水素の原子核(陽子)が電子を束縛して中性水素になると、光子はまっすぐ飛べるようになる。
電子と水素原子の電離平衡を単純に考えると、それが起こるのは水素原子の電離エネルギーである13.6 eVに対応する温度15.8万度Kということになるが、実際にそれが起こるのは3000度Kの頃である。これは、宇宙のバリオン-光子比が nB/nγ ~ 5x10-10と、1に比べて圧倒的に小さいためである(再結合期を参照)。光子の数がとても多いので、宇宙の温度が電離エネルギーに対応する温度より低くても、高いエネルギーをもつ光子が存在しその数が無視できないからである。
このように、宇宙がプラズマ状態から中性水素原子で満たされるようになることを、宇宙の晴れ上がり、あるいは水素原子と電子の再結合(ただし、結合が起こるのは宇宙の歴史上このときが初めてである)、ないしは光子と物質の脱結合という。最終散乱面も参照。
恒星は核融合などによる熱運動の圧力、もしくは放射の圧力によって自己重力を支える。したがって、絶対温度がゼロになると潰れてしまうことになる。ところが半整数のスピンを持つフェルミ粒子はパウリの排他原理により、絶対温度がゼロでも有限の運動量(最大値をフェルミ運動量という)をもつ。この運動量が圧力(縮退圧)を生む。このようなコアを持つ星を縮退星と呼び、高密度になるので高密度星、あるいはコンパクト星とも呼ぶ。
白色矮星は電子による縮退圧で支えられる。これらより密度がさらに高い場合、フェルミ運動量も高くなる。電子のフェルミエネルギーが中性子と陽子の質量差に相当するエネルギーより大きくなると、電子は陽子に吸収されて中性子に変わる。中性子星はこのような中性子の縮退コアを持つ高密度星である。中性子星のコアの最深部では、クォークなどが縮退している可能性も考えられている。中性子星の質量には上限があり、それを超えると自己重力を支えられなくなり、重力崩壊してブラックホールになる。ブラックホールも高密度星と呼ばれることがある。
粒子検出器や電子回路において、計測される粒子数が少ない場合、その数はポアソン分布に従って統計的に変動するため、そのゆらぎが計数における雑音となる。これがショット雑音である。ポアソン分布のゆらぎの標準偏差は粒子数の平均値 N の平方根に比例するため、信号対雑音比は N/√N = √N で表される。ショットノイズ、あるいは散弾雑音ということもある。
光子指数を参照。
抵抗体内部の電子の熱運動によって生じる不規則な電位差による雑音。ジョンソン-ナイキスト雑音、熱雑音ともいう。1927年にこの現象を発見したジョンソン(J.B. Johnson)と、それを理論的に説明したナイキスト(H. Nyquist)の名前を冠して呼ばれる。雑音電力は抵抗体の温度に比例するため、低温にすることで低減できる。一般には、熱雑音という名前の方が広く知られている。ショット雑音も参照。
天体からの放射のスペクトルエネルギー分布の形を特徴づける定数。 X線などの高エネルギー領域で用いられる。
たとえば活動銀河核のスペクトルエネルギー分布は周波数 $\nu$ のべき関数型スペクトルで近似できることが多い。 通常は、スペクトルエネルギー分布を単位周波数当たりのフラックス(放射エネルギー流束)$f_\nu$ で表して、それを周波数のべき関数 $f_\nu \propto \nu^{-\alpha}$ で近似し、(慣例的に$-$符号を省略して)$\alpha$ をスペクトルの形を特徴づける定数とみなし、スペクトル指数という。 光子指数を用いる場合は、$f_\nu$ の代わりに単位周波数当たりの光子の個数 $N\,(=f_\nu/E\propto{\nu}^{-\alpha-1})$ を用い、 それをエネルギーのべき $N(E)\propto{E}^{-\it \Gamma}$ で近似する。 この $\it \Gamma$ が光子指数である。 ここで、$E=h\nu$ はその周波数の光子1個のエネルギー、$h$ はプランク定数である。 両者は表現方法が違うだけであり、$\it \Gamma=\alpha$+1 という関係で結ばれている。ただし、 $f_\nu \propto \nu^{\alpha'}$ として $\alpha'$ をスペクトル指数として定義することもあるので注意が必要である。
中性子星は自転しているためにパルス状の電磁波が観測されるが(パルサーの項目を参照)、そのパルス周期が瞬時に短くなり、その後ゆっくり以前の周期に近づいていく現象。
中性子星は内部のコアと外部のクラストで構成される (中性子星の項目を参照)。コアとクラストの結びつきが弱いことから、コアとクラストの回転の間にズレが生じており、コアの角速度がわずかに大きい。ただし、両者の回転速度の差が臨界値より大きくなると、コアがもつ角運動量がクラストに突然輸送されて両者の回転速度が等しくなる。これがグリッチの原因と考えられる。パルス周期の変化や緩和時間は、超流動物質の質量や超流動物質と通常物質との相互作用の性質を反映する(超流動コアの項目も参照)。なお、マグネターなどの強磁場を持つ天体では、磁場の圧力によるクラストの破壊もグリッチの原因として議論されている。
高エネルギーの宇宙線が地球大気に入射すると、大気の原子核と相互作用を起こし、パイオンなどの高エネルギーの2次粒子が発生する。2次粒子もさらに原子核と相互作用を起こすというように、連鎖的なカスケード反応により多数の2次粒子が発生する現象(電磁シャワーおよびハドロンシャワーを含む)が空気シャワーである。入射粒子のエネルギーが分割されて平均エネルギーが下がり、2次粒子のエネルギーが相互作用で新たに粒子を作れなくなると空気シャワーは減衰していく。地上に到達するのは約1015 eV 以上の宇宙線が起こす空気シャワーに限られる。空気シャワーアレイも参照。
屈折望遠鏡においては焦点は望遠鏡出射光側の1か所である(厳密には入射光側にも焦点ができるが通常使用しない)が、反射望遠鏡では反射鏡の組み合わせによって、望遠鏡筒に対していくつかの異なる位置に焦点ができる。これらはそれぞれ名前をつけて区別している(主焦点、ニュートン焦点、カセグレン焦点、グレゴリー焦点、ナスミス焦点、クーデ焦点など、詳しくはそれぞれの項目を参照)。なお、こうした望遠鏡焦点の名前は、焦点の位置に限らず、焦点形式あるいは焦点面の名前としても使われている。
ガンマ線を放出する天体。GeV (109 eV)領域のガンマ線を観測しているフェルミ衛星の最初のカタログには、1451個のガンマ線源が掲載されており、うち689個がブレーザー、2個が電波銀河、2個がその他の活動銀河、2個がスターバースト銀河、56個がパルサー、59個が超新星残骸、3個がX線連星系、などと同定されている。しかし、630個は既知の天体と同定されず、未同定天体と呼ばれており、その正体の解明が課題になっている。カタログには含まれないが、われわれの銀河系の円盤は広がったガンマ線源となっており、GeV領域では個々の天体の和より強度が大きい。また、大気チェレンコフ望遠鏡によってTeV (1012 eV)領域のガンマ線のみでとらえられているガンマ線源も百個程度ある。ガンマ線天文学も参照。
ガンマ線の観測により行われる天文学。熱的過程からは、エネルギーが足りないためにガンマ線は発生しない。数MeVまでのガンマ線は原子核の放射性崩壊からも発生するが、さらに高いエネルギーでは高エネルギー粒子の関与した過程から放射される。より低いエネルギーの光子とは異なり、光子の粒子的性質を利用して個々の光子を即時にとらえるタイプの検出器が観測に用いられる。地球大気による吸収のため、直接観測には人工衛星が用いられるが(コンプトンガンマ線衛星、フェルミ衛星を参照)、約100 GeV(GeV = 109 eV)以上のガンマ線は大気チェレンコフ望遠鏡、約10 TeV(TeV = 1012 eV)以上では高地の空気シャワーアレイを用いることで地上からも観測できる。2015年時点でGeV領域では3,000個を超えるガンマ線源が発見されている。
米国の核実験探知衛星 「Vela」が発見したガンマ線の突発現象。秒程度から数時間にわたってガンマ線がバースト的に放出され、その後数日間にわたりアフターグロー(残光)が観測されることもある。英語のgamma-ray burstを略してGRBとも呼ばれる。個々のガンマ線バーストは、GRBの後に発生時刻の西暦下2桁、月、日の6桁の数値をつけた名前で呼ばれる(例 GRB 970228)。同じ日に複数発生したときはA, B, C, ...とつける。ガンマ線バーストの継続時間の分布は長いものと短いものの二山分布になるため、継続時間2秒程度を境に、ロングガンマ線バースト、ショートガンマ線バーストと呼ぶことがある。
X線のアフターグローの観測からガンマ線バーストが天の川銀河(銀河系)外の現象であることが判明し、宇宙最大のエネルギーが解放される現象であることが判明した。ロングガンマ線バーストはIc型超新星爆発(通常の大質量星の爆発と異なり、爆発の前に水素やヘリウムの外層を吹き飛ばした恒星が起こしたもの)と考えられる。このタイプで星が非常に重い場合には極超新星爆発(ハイパーノバ)を起こすが、それと関連していることが確実視されるようになった。
一方ショートガンマ線バーストは、二重中性子星連星が合体して生じた重力波がLIGOとVIRGOによって検出されてキロノバが出現したときに発生したことが確認されたので、このような現象に伴うものと考えられている。
マルチメッセンジャー天文学、突発天体も参照。
プラズマ中で中性原子の電子が自身の束縛エネルギーに等しいエネルギーのイオンの束縛状態に移行する反応。
電子は通常高い励起状態に移行するので、基底状態に遷移するとき高いエネルギーの単色X線を放射する。そのため通常の熱的プラズマからの特性X線とは区別できる。荷電交換反応からのX線は、恒星、惑星状星雲から発見されている。また太陽系内では太陽風(イオン)が地球大気の電子、彗星の電子をとらえる荷電交換反応X線が観測されている。
可視光でも劇的に明るさを変えるクェーサーをいう。ブレーザーと呼ばれる天体の一種で巨大質量ブラックホールから放出される相対論的ジェットを真正面から見ているため、見かけの強度が増幅され、変動時間が圧縮されると考えられている。
高エネルギー粒子が物質中で原子核と相互作用すると、多数の2次粒子が発生する。高エネルギーの2次粒子群は、物質中を進行しながらさらに相互作用を起こし、その総粒子数をネズミ算的に増加させていく。この現象をカスケード(またはカスケードシャワー)という。もとのエネルギーが、平均エネルギーの小さい2次粒子に分割されると、相互作用を起こさなくなって総粒子数は減少していく。電子-陽電子やガンマ線によって電磁相互作用で引き起こされる電磁シャワーと、ハドロンによる強い相互作用で引き起こされるハドロンシャワーがある。前者はほぼ電子、陽電子とガンマ線のみであるのに対し、後者はハドロンを含むという違いがある。空気シャワーも参照。
街の明かりなどの人工光によって夜空が明るくなり、暗い天体が見えなくなる一種の公害の呼び名。1970年代から、世界的な流れとして、天文学者ばかりでなく、天文愛好家を含む市民からもその影響への懸念が表明され、軽減活動への取り組みが始まった。その後、天文観測だけでなく、人工光が動植物などに与える悪影響も指摘され、それらも光害に含まれるようになった。世界の多くの先進国で、都市化が進むにつれて光害も深刻さを増してきている。日本でも新月の夜に天の川が見えない地域が増えている。ネオンサインやサーチライトを使わない、街灯の傘を工夫するなどして光が空に漏れにくくするなど軽減策を条例で定めた地方自治体もある。1998年には当時の環境庁が、「光害対策ガイドライン」を定めた。電波天文観測でも同様の問題がある。
宇宙初期につくられる初期ゆらぎの種類の一種。断熱ゆらぎとは、異なる成分の空間的な密度ゆらぎがすべて一致するものをいう。したがって、たとえばある成分が最大密度を持つ場所では、他の成分もすべて最大密度を持っている。インフレーション理論においては、単成分スカラー場が密度ゆらぎの源となる簡単なモデルの場合に、断熱ゆらぎが生み出される。断熱ゆらぎは現在の観測データを最もよく説明できる簡単な初期ゆらぎである。このため、現在の宇宙モデルでは標準的な初期ゆらぎとして採用されている。
