天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ファブリー-ペローエタロン

2枚の反射平面を、微小間隔を空けてお互いに向かい合わせて配置した光学素子。向い合わせに置かれた反射面間での多重反射によって、反射面間で光干渉を生じさせ、以下に示す干渉条件を満たす波長の光だけを透過する。干渉条件を満たさない波長の光は入射側に反射される。 干渉条件は、光の波長の整数倍が、2枚の反射面での光反射による光路差と等しくなることから求められる。反射面間の間隔を d 、反射面間に封入される物質(通常は空気もしくは真空)の屈折率を n 、反射面の法線方向に対する光の入射角度を θ とすれば、mλ=2dn cos θ と書ける。ここで m は整数である。反射面間の間隔 d を変えることで、透過する光の波長を変えることができる。この性質のため、透過波長可変型の干渉フィルター(チューナブルフィルター)として用いられることもある。

上の干渉条件を見てもわかるとおり、ファブリー-ペローエタロンの透過率は、波長に対して周期的になる。透過率の隣り合うピーク間の間隔のことをフリースペクトル範囲と呼ぶ(フィネスの項の図参照)。観測する波長幅がこの範囲を超えると隣の透過率ピークからの光が混じる。よって、通常はフリースペクトル範囲より狭い狭帯域フィルター(次数選択フィルターと呼ぶ)で観測波長範囲を区切る。また、反射面の反射率によって、透過率ピークの幅と、ピークとピークの間の透過率が変わる。反射率が低いと干渉条件を満たさない光も透過することができるようになるからである。反射率が高いほど透過率ピークは狭くなり、ピーク間の透過率は下がる。つまり、より純度の高い単色光を得ることができる。透過率ピークの半値幅(FWHM)Δλ とフリースペクトル範囲 l との比 l/Δλフィネスと呼ぶ。フィネスが大きいほど、鋭く尖った透過曲線を持つことになる。

ファブリー-ペローエタロンを分光素子として用いる分光器

巨大衝突ということも多い。

1.  惑星形成過程で起きる、他より格段に大きくなった微惑星原始惑星)同士の衝突。

2. 月の起源の最有力である説で想定する地球と火星サイズの天体の高速衝突(巨大衝突説を参照)。

 

光電測光器の光電子増倍管の光電面に望遠鏡の主鏡像(入射瞳)を結ばせるために挿入するレンズ。眼視観測の際の接眼レンズに相当する。望遠鏡焦点面にできる天体の実像は、望遠鏡の追尾誤差や大気ゆらぎなどのために動いてしまうことがある。一方、主鏡像は、天体によって照らされた主鏡からの光を見ているため、天体像の動きと関係なく常に均質である。よって、主鏡像を光電面に結像させると、光電面は、追尾誤差や大気ゆらぎなどによる天体像のゆらぎと無関係に常に一定の光量で照らされることとなり、高い測光精度を得ることができる。

VSOP衛星計画の第1号機として、宇宙科学研究所が開発し打ち上げた世界初の本格的スペースVLBI衛星である。大型精密展開構造機構の研究を主要な目的とした工学実験衛星として、1989年に開発が開始された。そして、1997年2月12日にM-Vロケットによる打ち上げに成功し、その後2005年まで運用が続けられた。金属メッシュ鏡面を組み合わせた有効径8 mの大型展開アンテナと3つの周波数帯(1.6 GHz, 5 GHz, 22 GHz)の受信機システムにより、日本国内のVLBI観測網やVLBAなど海外の地上局とも共同してスペースVLBI観測を行い、多くの活動銀河核から吹き出されるジェットの超高解像度イメージを取得した(最高解像度は1000万分の1秒)。これらは、ジェットの時間変動やジェット内の磁場構造の解明に貢献した。ミッション全般に関しては、宇宙科学研究所を中心に、国立天文台アメリカ航空宇宙局(NASA)も協力した。2005年11月30日運用を停止した。
https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/halca.html

速度分散がゼロの天体の集団が、お互いの重力で自由落下(重力収縮)して崩壊するのにかかる時間のこと。自由落下時間ともいう。
ある銀河が距離 R だけ離れた質量 M の銀河集団に引きつけられて落下する場合を考えると、その加速度は GM/R2 となり、速度ゼロから出発して距離 R を進むのに要する時間は、概ね 2R3/GM となり、これが崩壊時間である。このような系では崩壊後、この時間の約1.5倍の時間でビリアル平衡といわれる力学的な平衡状態に達すると考えられている。

星自身が膨張と収縮を繰り返すために明るさが変化する星。セファイドミラ型変光星では星全体がほぼ球対称形を保ったまま膨張と収縮(動径振動)をしており、基準振動を行うもののほか、半径方向に複数の節をもつ倍振動をしているものもある。脈動は、収縮膨張に際してガスの不透明度が変化することによって励起される(カッパ (κ) 機構)と考えられている。セファイドやミラ型変光星のように変光周期と星の光度の間に相関がみられるものがあり、それらは距離指標として用いられる。一方、星の表面の一部が膨張し、ほかの部分が収縮する非動径振動が検出される例も増えており、太陽型振動星、高速振動Ap星、ケフェウス座β 型星などが知られている。脈動変光星の種類と特徴を表に示した。星震学も参照。

脈動変光星の表

出典:神戸栄治「星の振動の観測」、シリーズ現代の天文学第7巻、野本・定金:佐藤編『恒星』1.4節 表1.4(日本評論社)

ホットジュピターを参照。

還流は環流と書くこともある。もともとは回転する星の熱力学的考察からその存在が推論された、星の子午面内を循環して熱を運ぶ流れ。太陽に関しては、局所的日震学の手法などにより、表面付近の浅い層で極向きに最大20 m s-1程度の速さの流れが、緯度60度くらいまでの範囲で実際に測定されている。この子午面還流はまた磁束も運び、この輸送がダイナモ機構において重要であるという考え方が現在、主流になっている。

光子の運動量に起因する圧力。光圧ともいう。圧力はランダムに運動する粒子の衝突時の運動量変化に対応する力で、光子とガス粒子間の衝突の場合が放射圧となる。すなわち、ガスが光を吸収あるいは散乱すると放射の力を受けることになる。放射圧 PR は温度 T に対して PR=4σT 4/3cσシュテファン-ボルツマン定数c は光速)のように温度に強く依存するため、高温の大質量星ほど放射圧が重要であり、恒星の明るさ(光度)の最大限界(エディントン限界光度)を決めるほどの影響を及ぼす。

ブラックホールなど高密度星周辺に形成された降着円盤放射する強烈な光の圧力(放射圧)によって、ジェットプラズマガスを駆動するメカニズムである。
放射圧加速には、円盤や風を構成するガスの温度が1万K 程度で有効に働く線吸収加速と、もっと高温でガスがほぼ完全電離している場合に働く連続光加速(コンプトン加速)がある。

銀河同士が合体した痕跡を残している銀河のこと。合体銀河とも言う。マージャーはまた、銀河同士が合体することを指すこともある。相互作用の際の強い潮汐力によって星やガスがはぎ取られてできる尾(テイル)状の構造などがしばしば見られる。
銀河が密集し、かつ銀河間の相対速度がそれほど大きくない、銀河群のような環境で最も頻繁に起こると考えられている。また、宇宙が小さかったころには現在よりマージャーの頻度は高かった。マージャーは銀河が質量を増やして成長していくプロセスに重要な役割を果たしたと考えられている。ほぼ同じ程度の質量の二つの銀河の合体をメジャーマージャー、自分の質量の1/4程度以下の小さな銀河との合体をマイナーマージャーと呼ぶ。
合体銀河では、角運動量を失ったガスが中心部に落ち込み、スターバーストを引き起こすことが多いと考えられている。このようなガスを持つ銀河の合体をウェット(濡れた)マージャーと呼ぶことがある。一方、ガスを持たない銀河同士が合体する場合はスターバースト現象は起こらず、ドライ(乾いた)マージャーと呼ばれる。銀河合体も参照。

放射の性質を特徴づけるような温度のことを放射温度と呼ぶ。考えている場合によって、色温度を指す場合や、輝度温度を指す場合がある。

エドウィン・ハッブル(Edwin Hubble; 1889-1953)はアメリカの天文学者。渦巻星雲が銀河系天の川銀河)と同規模の恒星の大集団(銀河)であることを発見し、さらに銀河の速度-距離関係を見つけて宇宙が膨張していることを実証した。アメリカのミズーリ州に生まれ、奨学金でイギリスに留学し、シカゴ大学ヤーキス天文台で星雲の研究で学位を取得した。

宇宙の大きさと渦巻星雲の正体に関する大論争を聞いて、その解決の鍵は渦巻星雲中のセファイドの観測にあることを確信した。渦巻星雲とは、天球上で天の川から離れた場所で見られる淡いぼんやりした天体で、微かに渦巻き模様が見られることからこの名前で呼ばれていた。当時は渦巻星雲の距離がわかっていなかったので、その正体も不明で大論争のきっかけとなった。ハッブルはウィルソン山天文台で渦巻星雲の写真観測を行い、1923年についに渦巻星雲の一つであるアンドロメダ星雲M31)中にセファイドを発見して、周期-光度関係からその距離決定に成功した。その結果、M31は銀河系の外にある島宇宙であることが明らかとなり、島宇宙は後に銀河と呼ばれるようになった。これは「銀河の発見」とも言われるが、人類の認識する宇宙の広がりを100倍以上も拡げる画期的な発見であった。

さらにハッブルは、24個の銀河の距離をセファイドなどの観測から決定し、すでに公表されていたヤーキス天文台スライファー(V. Slipher)による赤方偏移(4個は同僚のハマソンによる値)から求めた後退速度との関係を調べた。その結果、銀河までの距離と後退速度とが比例する(遠方の銀河ほど距離に比例する速い速度で我々から遠ざかる)という関係を1929年に発見した。これは宇宙が膨張していることを示すもので、それ以降「ハッブルの法則」と呼ばれてきた。ところが、この関係はベルギーの宇宙物理学者でカトリックの神父でもあるルメートルが(G. Lemaître)1927年にベルギーの学術雑誌にフランス語で書いた論文にも記述されていたので、国際天文学連合(IAU)は2018年に、「宇宙膨張を表す法則は今後ハッブル-ルメートルの法則と呼ぶことを推奨する」という決議を採択した。

ハッブル-ルメートルの法則の比例定数はハッブル定数と呼ばれ、ハッブル自身も最初の数値を求めて以後、パロマー天文台の200インチヘール望遠鏡も使って、改良に努めた。1953年の急逝によってハッブルの構想はサンデージに引き継がれた。1936年にハッブルがエール大学出版会から出版した「The Realm of the Nebulae」(邦訳「銀河の世界」戎崎俊一訳;岩波文庫)は、初めての体系的な銀河の教科書として、銀河天文学のバイブルとも言える存在である。王立天文学会ゴールドメダル受賞。ハッブル宇宙望遠鏡(HST)はハッブルを記念して命名された。

1995年より国立天文台三鷹キャンパス内に設置された重力波検出器基線長300 mのファブリー-ペロー型マイケルソン干渉計である。国立天文台三鷹キャンパスがある多摩地域にちなんで「TAMA」、基線長から「300」と名づけられた。
将来のkmスケールの干渉計に必要な技術開発、特に装置全体の熱雑音を抑えると同時に精度の高い干渉縞を得るため、低温技術を用いた設計がなされた。われわれの天の川銀河銀河系)を含む局所銀河群からの重力波を検出するため、世界に先駆けて本格的な観測を行った。
ホームページ:http://tamago.mtk.nao.ac.jp/spacetime/tama300_j.html

プラズマ中で磁力線が集まって束になっている(局所的には)円柱状の領域。その内部では磁場が強く、外部では弱くなっている場合に磁束管として考える。重力下にあるプラズマ中の磁束管には磁気浮力が働き、パーカー不安定によって浮上することもある。太陽黒点は、こうして浮上した磁束管の断面だと考えられている。

中心天体の重力を受けて楕円軌道を描く天体について、一周期で平均した公転角速度を平均運動と呼ぶ。中心天体の周りを公転する2つの天体の公転周期の比、したがって平均運動の比が1:2や2:3など簡単な整数比となっている状態(尽数関係)のことを、平均運動共鳴という。平均運動共鳴には、軌道を不安定化させる場合と、安定化させる場合とがある。前者では繰り返し受ける重力作用の結果、不安定となるのに対し、後者では共鳴関係の結果、二天体が近接遭遇を避けるような配置になっているため安定化される。前者の例としては、木星との平均運動共鳴の結果、不安定化して取り除かれたと考えられる、小惑星帯のカークウッドの間隙がある。安定化の例としては、海王星との共鳴軌道の位置にある、冥王星を含む共鳴外縁天体、木星と2:3の平均運動共鳴の位置にあるヒルダ群小惑星、木星と1:1の平均運動共鳴にあるトロヤ群小惑星などがある。

磁場による電磁波の偏光面の回転を指す。電磁波の伝播経路上に進行方向と平行な磁場成分があると、右回りと左回りの偏光をもった電磁波の分散関係が違ってくる。そのため伝播するにつれ右回りと左回りの偏光をもった波の波長がずれて偏光面の回転角度の違いが生じる。これをファラデー回転またはファラデー効果という。
天文学的に興味がある電波領域では、ある天体が放出した波長$\lambda$ の直線偏光の電波が磁場を含む星間ガスを通過して距離$L$のところで観測されたとすると、偏光面の回転角は次のように書ける。

$$\hspace{-4.9cm}
\Delta \theta = \lambda^2 \frac{e^3}{2\pi m^2_{\rm e} c^4} \int^L_0 n_{\rm e} B_{//}\, dx $$

$$=0.81 {n_{\rm e}}\ [{\rm cm}^{-3}]{B_{//}}\ [{\mu{\rm G}}]\times{L}\ [{\rm pc}]{\lambda}^2\ [{\rm m}]^2 \ {\rm rad}$$

$$\hspace{-4.9cm}={\rm RM}\,\lambda^2\ [{\rm m}]^2\ {\rm rad}$$

ここで最初の式はcgsガウス単位系で書かれており、$n_{\rm e}$ は星間ガス中の自由電子の数密度、$B_{//}$ は電波の伝播方向の磁場成分、$c$$m_{\rm e}$ および $e$ は、それぞれ光速度電子の質量および電気素量(素電荷)を表す( [~] 内はその量を測る単位を表している)。このようにファラデー回転角は波長の2乗に比例するが、その比例係数 ${\rm RM}$を回転量度(rotation measure)と呼ぶ。
たとえば観測から$\Delta \theta$が測定され、分散量度

$${\rm DM}\equiv \int_{\rm 0}^{L}n_{\rm e}\ [{\rm cm}^{\rm -3}]\ dx\ [{\rm pc}]$$

を推定できれば、回転量度${\rm RM}$を分散量度 ${\rm DM}$ で割って$B_{//}$の平均的な値を求めることができる。

宇宙のスケール因子の発展方程式に対する空間曲率項の寄与は、スケール因子の2乗に反比例して減少する。一方、エネルギー密度の寄与は放射優勢期はスケール因子の4乗、物質優勢期は3乗で減少する。宇宙創生後現在までに130億年以上膨張を続けてきたにもかかわらず、曲率項の寄与はエネルギー密度の寄与よりも小さい。これは宇宙が生まれた際に曲率項がエネルギー密度の寄与に比べて数十桁も小さく、宇宙空間がはじめから実質的に平坦でなければ実現できない。これは物理的には極めて不自然なことである。これがビッグバン宇宙論における平坦性問題である。これは別の言い方をすると、ビッグバンからプランク時間が経過した後、時空が古典的になった時点において、宇宙の曲率半径が当時の地平線よりも30桁も大きくなければならなかった、ということなのである。

ハギンス(William Huggins;1824-1910)はイギリスの天文学者。王立天文学会の会員で、学会から観測機器も貸与されていたが、自身は繊維業の経営者であり、ロンドン郊外の私設天文台で観測を行なっていたので、実質的にはアマチュア天文学者といえる。ドイツのキルヒホッフ(G. Kirchhoff)とブンゼン(R. Bunsen)のスペクトル分析法に刺激されて、望遠鏡に自作の分光器をつけて眼視、のちに写真で天体のスペクトルを観測する方法を開発した。ガスは輝線を示す一方、星は吸収線を示すことから、たとえばアンドロメダ銀河は星でできた天体であり、オリオン大星雲はガスでできた天体であることを判別するなど、天体のスペクトルに見られる輝線や吸収線の意味を明らかにして、恒星星雲が地球上にある元素と同じ元素からできていることを示した。また、スペクトル線のずれが天体の運動によるドップラー効果によるもので、その偏移が視線速度を表わしていることを発見した。天文学に物理や化学の実験を持ち込み、天体物理学というあらたな分野の開拓者の一人となった。

夫人のマーガレットも協力しており、女性天文学者である。1867年と1885年に王立天文学会ゴールドメダル、1898年にコプリ・メダル、1904年にブルース・メダルなどを受賞している。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/176