ファン・デ・フルスト(H. C. van de Hulst;1918-2000)はオランダの天文学者。中性水素原子が電波を放出することを予言して電波天文学を開拓した。
ユトレヒトに生まれ、ユトレヒト大学で微粒子の光散乱で学位を取り、第2次世界大戦中に、ライデン大学のオールト(J.H. Oort)の提案に触発され、星間にある中性水素原子が波長21cmの電波を吸収あるいは放出することを1945年に予測した。この21cm線は1951年にアメリカのユーイン(H.I.Ewen)とパーセル(E.M. Purcell)、オランダのミュラー(C. Alex Muller)とオールトによって検出されている。1946年から1948年にかけてヤーキス天文台で研究した後、ライデン大学で教員となり、オールトやミュラーとオランダのチームを率いて、オーストラリアのチームとともに北天から南天までの天の川銀河の大域的な中性水素ガス分布を示し、その渦巻き構造を明らかにした。1984年までライデン大学で働き、1952年から教授となった。太陽コロナや地球大気などの研究を行い、国際宇宙空間研究委員会(COSPAR)、ヨーロッパ宇宙研究機構(ESRO)、ヨーロッパ宇宙機関(ESA)などの国際研究機関にも力を注いだ。
参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1486
ファン・マーネン(Adriaan van Maanen;1884-1946)はオランダ出身のアメリカの天文学者。しばしばヴァン・マーネンとも記される。フリースラント州スネークの裕福な家庭に生まれ、ユトレヒト大学でカプタイン(J. Kapteyn)に学んだ。1911年、ユトレヒト大学でPh.D.を取得してアメリカに渡り、ヤーキス天文台で無給で働いた後、ウィルソン山天文台での職を得た。
星雲、銀河、微光星を、大望遠鏡により観測し、固有運動、視差検出の研究をした。渦巻銀河M101をはじめ、いくつかの渦巻銀河の回転運動が検出されたと報告し、「大論争」に大きな影響を与えたが、後に否定された。測定器の視野周辺の光学収差による系統誤差が間違いの一因であったとされる。
1917年、うお座の方向約14光年に連星系に属さない、単独の白色矮星を発見、以後ファン・マーネン星と呼ばれている。
元素や原子核が特にエネルギーが低く安定になる原子番号や中性子数のこと。元素の場合はほかの原子と反応をしにくい希ガス(He, Ne, Ar, Kr, Xe, Rn)の原子番号 2, 8, 18, 36, 54, 86が魔法数である。原子核の場合は、陽子や中性子の数が 2, 8, 20, 28, 50 の原子核はエネルギーが特に低く安定なので、これらが魔法数と呼ばれる。陽子や中性子の数が多くなると魔法数は陽子と中性子で異なり、陽子は82(鉛)が魔法数であるのに対し、中性子は126が魔法数である。特別に安定な元素や原子核が現れる理由は量子力学により説明される。
ある時間内に太陽で観測される電波強度の周波数スペクトルを時間方向に並べた図。太陽電波強度の周波数スペクトルの時間変化を一枚の図から読み取れるようにしたもの。これにより、フレア発生時にメートル波帯で観測される電波バーストが時間とともに周波数を変化させていく様子をとらえることができる。放射される電波の周波数は、局所的なプラズマ周波数およびその高調波であり、電子密度の関数として記述される。一方、大気モデルの電子密度は高度とともに減少するため、観測される電波の周波数変化から太陽大気中を擾乱源が高度方向にどのように移動していったかを推定することができる。電波バースト(太陽の)も参照。
地球大気の上層で、気体を構成する原子や分子が、太陽放射や宇宙線などにより電離している層のこと。電離層とも呼ぶ。地表からの高さはおよそ60 kmから1000 kmくらいまで。地表に近い方からさらにD領域(90 km程度まで)、E領域(130 km程度まで)、F領域(それ以上)などと分けることもある。短波帯の電波を反射して、長距離通信を可能にしているのはF領域の上部である。
プラズマを構成する粒子においてランダム運動の速度分布が熱平衡状態に達していないプラズマ。
ある考えている系の中で粒子同士が十分に衝突して熱平衡状態に達するまでの時間が、系の寿命や進化の時間に比べて長いプラズマは非熱的プラズマである可能性がある。無衝突プラズマも参照。
電離圏を参照。
3開口(素子)の干渉計で同時に取得した3基線の複素可視度の積のこと。現実の干渉計では、大気ゆらぎや遅延線の誤差などによって複素可視度に位相誤差が生じる。2つの開口の組み合わせで得られる単一の複素可視度ではこの誤差の影響を避けられない。しかし3つの開口の場合は、その組み合わせで得られる3つの複素可視度の積については位相誤差がちょうどキャンセルされ誤差のない値を得ることができる。この積のことを閉位相という。これは、素子1,2,3の位相誤差をそれぞれ Φ1, Φ2, Φ3 とすると、素子1,2 の組み合わせにおける誤差はΦ1-Φ2、素子2,3の組み合わせにおいてはΦ2-Φ3、素子3,1 の組み合わせにおいてはΦ3-Φ1となり、これらの和がゼロとなるためである。
時刻標準を知らせるための信号。古くは太鼓や鐘、午砲などがあったが、現在では電波による無線報時信号が使われている。無線報時には短波標準電波報時と長波-超長波標準電波報時がある。国内では、長波標準電波(JJY)が情報通信研究機構(NICT)により運用されており、電波時計などはこの電波を受信して時刻を補正している。現在ではインターネットによる時刻情報提供サービス(NTPサービス)も導入され、コンピュータの時刻同期などによく用いられている。
また、全地球測位システム(GPS)の信号には、衛星に搭載した原子時計の示す時刻と、地上の原子時計とのずれの情報が含まれており、ここからも正確な時刻を取り出すことができる。とくに高精度な時計比較にはこの時刻がよく使われている。
デシメートル波やメートル波(波長0.1-10 mもしくは周波数30-3000 MHz)の電波で太陽を観測するときに、太陽フレアなどの爆発(バースト)現象に伴って、電波強度が短時間(〜1秒)に上昇する現象。 放射される電波の周波数の時間変化(動スペクトル)に現れる特徴でI型からIV型に分類されている。
I型バーストは、フレアとはあまり関係はなく、活動的な黒点領域上空で発生する電波放射である。個々の放射の周波数中心からの周波数幅は1-5 MHz程度、継続時間は0.1秒から10秒程度であるが、現れる周波数領域は30-200 MHzの範囲に広がり、全体の継続時間が数時間から数日に及ぶことからノイズストームと呼ばれることがある。その発生メカニズムはよくわかっていない。
II型バーストは、フレアに伴って放出されるCME(コロナ質量放出)が生み出した衝撃波がコロナや惑星間空間を伝播する際に5-30分にわたって励起される放射であり、その電波の周波数は衝撃波の位置でのプラズマ周波数およびその2倍か3倍の高調波である。この衝撃波は惑星間空間に向かって約1000 km s-1で伝わり、これに伴って放射される電波の周波数が約1 MHz s-1の変化率で低下する。
III型バーストは、太陽フレアの初期フェーズに現れる高エネルギー電子が磁力線に沿ってコロナ上部へと移動していく際に励起される放射であり、その周波数はII型バーストと同様に擾乱位置のプラズマ周波数およびその2倍か3倍の高調波である。約20 MHz s-1というIII型バーストの周波数変化率から求められる移動速度は、105 km s-1と光速の1/3にも達する。
IV型バーストは、コロナ中の磁場に閉じ込められた高エネルギー電子によるシンクロトロン放射(または磁気制動放射)で、フレアの初期フェーズから1時間程度のあいだ、広い周波数にわたって連続スペクトルをもつ放射として観測される。IV型バーストには電波源が太陽から離れていくものも観測されており、それは高エネルギー電子を閉じ込めたまま惑星間空間へ放出される磁気ループ状のCMEであろうと考えられている。惑星間空間擾乱も参照。
放射によるエネルギー輸送や運動量輸送を取り扱う流体力学。一般に、放射過程は流体に対してエネルギーや運動量の輸送を担うため、放射輸送過程と流体力学過程は密接に関係する。放射圧や放射流束が流体の力学運動に直接影響を及ぼす場合には、流体力学の方程式と放射輸送過程を同時に解く必要があり、放射流体力学を用いる必要がある。放射流体力学の基礎方程式は、放射輸送方程式のほかに、流体力学の基礎方程式に放射流束項や放射圧の項などが加えられる。ブラックホールなどの高密度天体や強い紫外線を放射する大質量星周囲の流体の運動を解く際に使われる。
木星、土星、海王星とともに巨大ガス惑星の一つである。軌道長半径は約19天文単位(au)、質量は地球質量の約15倍、自転周期は約17時間、平均密度は約1270 kg m-3(1.27 g cm-3)である。天王星は自転軸が軌道面に対して98度傾いており、ほぼ横倒しの状態で公転している。
大部分が水、アンモニア、メタンの氷からできており、中心には岩石からなる小さなコアがあると考えられている。外層は水素とヘリウムを主成分とする大気であるが、これらが主成分である木星や土星とは異なり、天王星では大気は少ない。このため木星や土星とは区別して、天王星およびそれと似た構造を持つ海王星の2つを巨大氷惑星と呼ぶことも多い。他の巨大惑星とは異なり、天王星には目立つ大気模様はほとんど存在しない。天王星の磁場の中心は天王星自身の中心からずれており、磁場の軸も自転軸から約60度ずれている。
木星のような巨大ガス惑星は、十分大きくなった氷原始惑星が、周りの原始太陽系円盤ガスを捕獲して形成される(太陽系形成論)。しかし天王星や海王星の領域では太陽から遠く材料物質が少なかった上、公転周期が長いこともあって集積に時間がかかり、十分なガス捕獲が起きる前に星雲ガスが消失してしまった。このため氷を主成分とする惑星になったと考えられる。天王星、海王星は現在よりも太陽に近い場所で形成後、現在の位置に移動したと考えられている(ニースモデル)。
天王星の自転軸が横倒しとなっている原因については、形成後に巨大天体の衝突を受けたという説があるが、詳しいことは明らかではない。
1781年3月、ウィリアム・ハーシェルによって発見されたが、最大5.3等級と肉眼で見える明るさになることもあり、ハーシェル以前にも恒星として20回以上観測されていた。新惑星に対し、ハーシェルはイギリス国王にちなみ「ジョージの星」と、フランスのラランドは「ハーシェル」という名を提案したが広く認知されず、ボーデが提案した、ギリシア神話の天空の神「Οὐρανός」(ウーラノス)に由来する「Uranus」(ウラヌス)が広く使われるようになった。なお「天王星」という訳語は中国起源である。天王星には5つの比較的大きな衛星を含めて、2023年8月末時点で27個の衛星が確認されており(すべてに国際天文学連合IAUによって登録番号がつけられている)、シェイクスピアかアレキサンダー・ポープの作品中の登場人物名がつけられている。これらの組成は氷と岩石が混じったものであると考えられている。また細い環が複数見つかっているが、これらは天王星による恒星の掩蔽現象の観測の際に、期せずして発見されたものである。その後、ボイジャー探査機が詳しい観測を行い、環の一つでは、その細い形状を維持していると思われる、羊飼い衛星も確認された。1986年にボイジャー2号が天王星をフライバイして以降、探査機による天王星探査は行われていない。今後、新たな探査が期待される天体である。
宇宙全体を平均して、単位共動体積あたり、どれだけの星が単位時間内に生まれているかを表す値。1立方メガパーセクあたりの星形成率で表し、$[M_{\odot}\,{\rm Mpc}^{-3}\,{\rm y}^{-1}]$ の単位が用いられる。この値を赤方偏移 z の関数として表した図はマダウ図と呼ばれ、宇宙の星生成史を表す。
ハッブル宇宙望遠鏡(HST)による深宇宙探査の進展と、2022年から観測を開始したジェイムズウエッブ宇宙望遠鏡(JWST)の初期観測から、宇宙の星生成史の研究が宇宙の夜明け近くまで迫りつつある。
大規模な隕石の衝突に伴い、地球表面物質が蒸発したものが上空で急冷されて固化した天然のガラス質物質である。起源は隕石衝突であるが、材料はほとんど地球物質である。チェコ産のモルダバイトは宝石として利用されている。これは、1500万年前に形成されたドイツ南部のリースクレーターの衝突の際に生成されたと考えられている。ミリメートル以下のガラスの球粒が、同時期に堆積した広範囲の海洋底堆積物に含まれていることがあり、マイクロテクタイトと呼ばれる。これも大きな衝突の記録と考えられている。白亜紀と第三紀境界の地層にも含まれており、恐竜の絶滅と隕石衝突を結びつける証拠の一つとされている。
鉄ニッケル合金を主成分とする隕石。隕鉄とも呼ぶ。天体での溶融を経験した隕石で、溶融のため金属鉄成分が沈降して集積したものと考えられる。ケイ酸塩鉱物結晶が多く含まれるものは石鉄隕石と呼ぶ。鉄隕石は、ニッケルやゲルマニウム、ガリウム、イリジウムなどの含有量によって、10あまりのグループに分類される。それぞれ異なる小天体に起源をもつと考えられている。ニッケルの含有量により少ない方からヘキサヘドライト(ニッケル含有量が4.5–6.5%)、オクタヘドライト(6.5-13%)、アタキサイト(13%以上)に分類される。鉄隕石の中では最も多いオクタヘドライトの断面には、2種類の鉄ニッケル合金(カマサイトとテーナイト)によるビドマンシュテッテン構造(ウィドマンシュテッテン構造とも書かれる)が見られる。ニッケル量が少なくカマサイトのみで構成されるヘキサヘドライトには、ビドマンシュテッテン構造は見られない。
約5万年前に鉄質の小天体が衝突して形成されたと考えられるアリゾナのバリンジャークレーターの近くのディアブロ峡谷で、1891年に隕石の破片が多数見つかり、ディアブロ隕石と呼ばれている。鉄隕石のオクタヘドライトに分類される。
太陽フレアが発生し、それにより増大したX線や紫外線による大気の電離効果のために、地球の昼側にある電離層のD層の電子密度が増加し、長距離通信に使用される周波数3 MHzから30 MHzの短波帯に通信障害が発生すること。1930年にドイツのメーゲル(E.H. M”ogel)により発見された。1935年にアメリカのデリンジャー(J.H. Dellinger)により太陽活動との関係が見出されたためデリンジャー現象と呼ばれることが多い。
月は地球を周回する衛星である。公転周期は約27.3日であるが、地球から見た満ち欠け(月の位相)の周期は約29.5日である。平均距離は38万 kmで、これは地球の重力圏の半径(ヒル半径)の約4分の1、太陽までの距離の400分の1である。月の半径は1738 km、扁平率は1/776で地球よりも球に近い。質量は7.34×1022 kgで地球の0.0123倍である。平均密度は3344 kg m-3 で他の地球型惑星よりも低く、金属中心核の重量比が10%よりも小さいと推測されている。
天球上での視直径は、月は太陽と並んで大きい。平均視直径は月は31分5秒で太陽の31分59秒より小さいが、月は地球の周囲を楕円軌道を描くために視直径の変動は大きく、最大視直径、最小視直径はそれぞれ33分32秒、29分28秒になる。そのため、月が太陽を隠す皆既日食も、リング状に太陽が残る金環日食も起きることになる。
月は地球との潮汐力のために、自転周期と公転周期が同期した潮汐ロックの状態にあり、常に同じ面(表)を地球に向けて公転している。月の公転軌道が楕円軌道であることと、月の公転面に対して地球と月の赤道が傾いているために、見かけの秤動が起きて地球から観測できる表面は50%を越える。しかし、裏側の大部分は探査機による観測により初めて明らかにされた。月の表側は、海と呼ばれる玄武岩が衝突盆地に噴出して埋めた暗色の地域が多い。一方で、月の裏側には海は少なく、斜長岩を主成分とする高地が広がっている。高地の表面は衝突クレーターで覆われており年代は38億年より古い。高地の衝突クレーターや海の衝突盆地が形成された激しい衝突の時期を隕石重爆撃期と呼ぶ。一方、海の火山活動は35-40億年前が活動のピークであるが、表側で13億年前、裏側でも25億年前まで溶岩の噴出は続いた。
月の地殻の厚さは、アポロの着陸地点において、アポロの地震計データからは30-60 km、かぐや探査機の重力探査からは45 kmという値が得られている。表側と比較すると裏側の地殻は厚く100 kmを越えるところもある。南極エイトケン盆地内部でも25 km以上の厚さの地殻が存在する。表と裏側の地殻厚さの違いは、マグマオーシャンからの固化により斜長岩地殻が形成される段階で生まれたのか、その後の衝突過程や地質過程で生まれたのかはまだ解明されていない。アポロの月震計からは深さ900-1000 km程度のところに震源をもつ深発月震が地球との潮汐作用で発生することがわかった。それよりも内側の下部マントル、コアの領域は溶融している可能性がある。地震の反射波から中心核の大きさが同定されたという主張もあるが、月震データのノイズは大きく議論が分かれている。月の金属核が(存在しても)小さいこと、マグマオーシャンが生成されたことを、うまく説明できる月起源モデルが巨大衝突説(ジャイアントインパクト説)である。アポロ計画、マグマオーシャン仮説も参照。
2022年の元日から大晦日までの「月の満ち欠け」の様子を1時間間隔で再現した約5分間の動画。月までの距離(中央の横線)の単位は地球の直径(28と32はそれぞれ約356,400 kmと406,700 km に相当する)。左下が、秤動によって地球から見えている月の面が周期的に変わる様子。
Video credit: NASA’s Goddard Space Flight Center
Data visualization by Ernie Wright (USRA)
Producer & Editor - David Ladd (AIMM)
Music provided by Universal Production Music: “Build the Future”- Alexander Hitchens
NASAの元サイト https://svs.gsfc.nasa.gov/4955
https://www.youtube.com/embed/c4Xky6tlFyY
太陽表面に見られる、大きさ約30000 km、寿命20時間程度の対流運動パターン。
尾(彗星の)を参照。
大きさを持った天体が別の天体から重力を受けるとき、重力の大きさが場所によって異なる。これが原因で天体表面の海や天体自身の形状が変化することを潮汐という。また潮汐の原因となる、天体の各部分に働く重力と天体の重心に働く重力との差のことを潮汐力と呼ぶ。
地球の場合、主として月と太陽から潮汐力を受けている。潮汐力の大きさは、重力を及ぼす天体の質量に比例し、その天体との距離の3乗に反比例する。地球の場合、太陽から受ける潮汐力は月からの潮汐力の約半分である。地球の自転に伴う潮汐力の変化により、ほぼ1日に2回の潮の満ち干が起きる。
潮汐力を受けて変形した惑星から受けるトルクにより、衛星の軌道半径は変化する。衛星の公転角速度と惑星の自転角速度が等しくなる軌道半径(共回転半径)より内側では衛星軌道半径は減少し、外側では増加する。同じ効果により惑星の自転角速度も変化する。一方、惑星近傍を公転する衛星の場合、衛星表面の惑星に近い側と遠い側で惑星から受ける重力の大きさに差があるため、衛星は惑星から潮汐力を受ける。このため、衛星の自転角速度は公転角速度に近づくように減速または加速される。惑星近傍の衛星の多くでは潮汐作用の結果、両者が一致し、衛星が惑星に対して常に同じ側の面を向ける状態となっている。これを潮汐ロックと呼ぶ。また衛星が楕円軌道上にある場合、潮汐力により衛星内部は加熱され(潮汐加熱)、衛星軌道の離心率は減少し円に近づく。惑星のごく近傍では潮汐力の効果により天体が破壊されうる(ロッシュ限界)。
潮汐作用は惑星-衛星系に限らず、中心星の近傍を公転する太陽系外惑星のほか、星団や銀河同士の重力作用においても重要となる。潮汐摩擦も参照。
