天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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P-V図

位置-速度図を参照。高校教育課程における気体の圧力と体積の関係を示すP-V図とは別のもの。

通常、Intergovernmental Panel on Climate Changeの略号であるIPCCの呼称が広く用いられている。人為的な気候変動のリスクに関する最新の科学的・技術的・社会経済的な知見をとりまとめて評価し、各国政府に助言と忠告を行うことを目的として、国際連合環境計画(United Nations Environment Programme: UNEP)と国際連合の専門機関にあたる世界気象機関(World Meteorological Organization: WMO)が1988年に共同で設立した政府間機構である。IPCCには第1(科学的根拠)、第2(影響と適応)、及び第3(緩和)の3つの作業部会があり、数年おきに、それぞれの作業部会の報告書に続いて「統合報告書」が公表される。最新のものは2021-22年に公表された3つの部会の第6次報告書(AR6)である。報告書の作成と査読には、世界中の千人規模の研究者が参加している。IPCCが直接各国に政策提言をすることはないが、地球温暖化の防止対策の科学的基礎を作る組織として大きな影響力を持っている。2007年のノーベル平和賞をアル・ゴア氏とともに受賞した。
● 第5次報告書
2013年から2014年にかけて公表された第5次報告書(AR5)は以下のURLにある。
原文(英文):http://www.ipcc.ch/report/ar5/wg1/
日本語訳(環境省):http://www.env.go.jp/earth/ipcc/5th/
日本語訳(気象庁):https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar5/index.html
● 1.5℃特別報告書
2018年10月に開催された第48回総会では、将来の平均気温の上昇幅が産業革命以前の水準から1.5℃と2℃の場合の影響の違いは大きく、ここ数年で世界各国が何をすべきかがとても重要であることを指摘する「1.5℃特別報告書」を採択した。これに関する環境省の報道発表と資料は以下にある。
https://www.env.go.jp/press/106052.html
1.5℃特別報告書 政策決定者向け要約(SPM)の概要:
https://www.env.go.jp/press/files/jp/110087.pdf
● 第50回-51回総会
2019年8月に開催された第50回総会では「土地関係特別報告書」が、また同年9月の第51回総会では「海洋・雪氷圏特別報告書」が受諾された。それぞれの報告と政策決定者向け要約(SPM)の概要は以下にある。
- 第50回総会:https://www.env.go.jp/press/107068.html
土地関係特別報告書SPMの概要:
https://www.env.go.jp/content/900514094.pdf
- 第51回総会: https://www.env.go.jp/press/107242.html
海洋・雪氷圏特別報告書SPMの概要:
https://www.env.go.jp/content/900514290.pdf
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/special_reports/srocc_overview.pdf
● 第6次評価報告書(AR6)
2021年8月に公表されたIPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)において、IPCCは気候の現状に対し、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている。」とした。さらに「気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの側面の現在の状態は、何世紀も何千年もの間、前例のなかったものである。」とも表現している。
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/index.html
- 第1作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)と参考資料
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/IPCC_AR6_WGI_SPM_JP.pdf
https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/ipcc/ar6/index.html
http://www.env.go.jp/press/109850/116630.pdf
- 第2作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)と参考資料
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/ar6wg2_spm_0318.pdf
https://www.env.go.jp/earth/ipcc/6th/AR6_WG2_sankou.pdf
- 第3作業部会報告書の政策決定者向け要約(SPM)暫定版
2022年4月4日同時発表:文部科学省、農林水産省、気象庁、環境省
https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220404001/20220404001-1.pdf
https://www.meti.go.jp/press/2022/04/20220404001/20220404001.html
この報告書は、「既存の温暖化ガス削減計画では気温上昇を1.5度未満に抑えられない。2020年代末までに削減政策をさらに強化しなれば2100年には気温は3.2度程度上昇する。」として再生可能エネルギーの普及や化石燃料からの脱却など、需給両面で各国に対策と投資を迫る内容となっている。


IPCC第6次評価報告書 第1作業部会(自然科学的根拠)報告書に関するYouTube動画(英語)
https://www.kikonet.org/info/links/ipcc-ar6 も参照

https://www.youtube.com/embed/e7xW1MfXjLA

原子核が1個または複数の中性子を捕獲して、より重い原子核に変わる反応。熱核融合反応では作ることができない鉄より重い元素(超重核)は、恒星の内部のs過程や、重力崩壊型超新星爆発の際のr過程と呼ばれる中性子捕獲反応で合成されると考えられている。中性子捕獲元素も参照。

アインシュタインの提唱した一般相対性理論の基礎方程式で次のように表される。

$$G_{\mu\nu}=\frac{8\pi G}{c^4} T_{\mu\nu}$$

ここで、 $G$$c$ は万有引力定数と光速度を表す。左辺は、時空の幾何学的構造を表すアインシュタインテンソル $G_{\mu\nu}$ で、それはリッチテンソル $R_{\mu\nu}$ と計量テンソル(メトリックテンソル) $g_{\mu\nu}$ およびスカラー曲率$R$を用いて、

$$G_{\mu\nu}=R_{\mu\nu}-\frac{1}{2}g_{\mu\nu}R$$

と書ける。右辺はエネルギー運動量テンソル $T_{\mu\nu}$$8\pi G/c^4$ 倍である。すなわち、この方程式は宇宙に存在する物質のエネルギーと運動量が、重力定数を介してその容れ物である宇宙の幾何学的構造を決定する、という形になっている。

なお、テンソルとは時間と空間3次元の計4次元からなる時空での座標系の変換に対して、その成分がある特定の変換をする多成分量であり、その成分を添え字で表す。たとえばアインシュタインテンソルは添え字が2つあるので2階のテンソルで、添え字 $\mu$, $\nu$ は時空間の4つの座標成分を取る。

時空の幾何学を完全に記述する量は、4つの添字を持った4階のリーマンテンソル $R_{\mu\nu\alpha\beta}$(曲率テンソルともいう)と呼ばれ、その独立な成分は4次元では20個ある。アインシュタインテンソルは、リーマンテンソルから作られる添え字2つを持った量で、独立な数は4次元では10個となる。アインシュタイン方程式から物質がなければアインシュタインテンソルのすべての成分は0になるが、このことは必ずしも時空が平坦であることを意味しない。時空が平坦であるのは、リーマンテンソルの20個の成分が全て0の場合である。物質がなくても時空は曲がることができる。たとえばブラックホールや重力波を表すアインシュタイン方程式の解は、物質が存在しない状況での解である。

ここではアインシュタイン方程式に宇宙項を加えなかったが、宇宙項 $\Lambda g_{\mu\nu}$を左辺に加えたものをアインシュタイン方程式という場合もある。

超長基線電波干渉計を参照。

地球外知的文明探査(Search for Extraterrestrial Intelligence)の略号。セチと発音する。当初は地球外文明との交信(Communication)を目指したのでCETIと呼ばれていた。交信のために地球から電波のメッセージ(アレシボメッセージ)を発信したこともあったが、電波天文学の技術進歩に伴い、交信に限らずさまざまな計画が進められ名前もSETIと改称された。
科学的なSETIの活動は、1959年のコッコーニ(G. Cocconi)とモリソン(P. Morrison)がネイチャー誌に発表した論文から始まるといえる。彼らは、地球外文明が通信を行うとすれば、宇宙に普遍的に存在する中性水素原子の出す波長21cmの電波を使うであろうと述べた。これを受けて、1960年にアメリカの天文学者ドレイク(F. Drake)がオズマ計画を実行した。アレシボ天文台はこの活動に深く関わっている。
1984年には、「宇宙における生命の起源、特徴、およびその普遍性を探索し、理解し、説明する」ことを目的とする非営利法人の「SETI研究所」が、アメリカのカリフォルニア州に設立され、SETIの活動の中心となっている。SETI専用の観測時間枠があるアレン電波干渉計を建設し、第一期計画の42台のアンテナは2008年から稼働している。
2016年からは、ブレイクスルー財団からの援助を受けて、ブレイクスルー・リッスンと呼ばれるSETIのための電波観測および可視光観測が10年計画で進んでいる。
1999年に始まったセチ・アット・ホーム(SETI@home)プロジェクトは、初期の代表的な公開の分散コンピューティングプロジェクトで、家庭にあるパソコンでSETIのデータ解析に協力するものであった。このプロジェクトは2020年に休止したが、20年間で170万人以上の参加者が自分のコンピュータの空き時間を提供した。
ホームページ:http://www.seti.org/

鉄より重く、中性子捕獲とベータ崩壊の繰り返しにより形成される元素。中性子捕獲元素の形成過程にr過程s過程の2種類がある。中性子捕獲がベータ崩壊に比べ速く(rapid)進行するのがr過程、遅く(slow)進行するのがs過程である。核図表で中性子過剰領域にある元素はr過程で、安定線上の元素はs過程で作られる。鉄より重い元素の中には、中性子捕獲元素のほかに陽子捕獲と逆ベータ崩壊の繰り返し(p過程とrp過程)により形成されるものがある。RIビームも参照。

成層圏赤外線天文台を参照。

重力レンズによって作られる遠方天体のリング状の像。重力レンズを引き起こす天体(銀河クェーサー銀河団)と同じ視線上の真後ろに点光源がある場合に完全な円環の像ができる。この円環の半径がアインシュタイン半径である。銀河団による重力レンズ像では、完全な円環ではないが円弧状の銀河の像(アーク)が多数見られることがある。

星間ガスの主要な3成分のうちの1つで、中性水素原子からなるガス。HIガスともいう。星間空間では典型的には数密度が数個cm-3程度で温度は100 K程度である。天の川銀河では水素分子ガスに比べると、中心から離れたところに分布している。21cm線で観測することが多い。中性水素原子も参照のこと。

天体の急激な増光現象をいう。可視光に限らず、電波X線ガンマ線 放射などの急激な強度の増大も含む。

新星超新星変光星などで見られる現象である。矮新星激変星白色矮星を含む連星系で、
相手の恒星からの星風の増加や降着円盤の不安定性によって起こる。同様に中性子星ブラックホール連星系の場合はX線新星として観測される。古典新星の新星爆発とX線バーストはそれぞれ白色矮星と中性子星に降着した物質の突発的な核融合反応で起こる。ガンマ線バーストも参照。

天の川銀河の中心付近にある分子ガス雲の複合体。英語の頭文字からCMZ(しーえむぜっと)と呼ぶことも多い。銀河面に沿って、中心から半径200~300パーセク(200~300 pc=1000光年)程度の範囲に数十pcの厚さで円盤状に広がっており、ガスの総質量は1×108 $M_{\odot}$。回転運動から得られる観測領域内の力学質量は 2×109$M_{\odot}$ なので、領域内では星に対するガスの質量は5%程度である。円盤状とはいっても対称性は悪く、銀河中心より銀経で東側に分布が偏っている。銀経で東側が手前にある棒状の構造をしているとの研究結果もある。この領域にある分子雲は円盤部にある分子雲に比べて、密度で1桁程度、温度で数倍から1桁程度は高い。速度分散も数倍は大きく、外圧も考えないとビリアル平衡にはない。高温ガスや磁場が外圧として働いていると推定されている。

年齢の高い恒星の系に現れる異常に高温(青色)の恒星。球状星団矮小銀河天の川銀河銀河系)のハローなど、一般に年齢の高い恒星からなる系では、太陽質量程度以上の星はすでに進化が進み、主系列を離れている。しかし、こういった系でも少数ながらF型あるいはA型星に相当するほど温度が高く(色が青く)主系列付近に位置する星がみられることがある。これらの星の起源としては、連星系において伴星から質量を受け取ったり、星団内で星が合体したりすることによって星の質量が増加した可能性が考えられている。青いさまよい星、ブルー・ストラグラーともいう。スペクトル型(星の)も参照。

宇宙航空研究開発機構・宇宙科学研究本部(現・宇宙科学研究所)が中心となって開発した赤外線天文衛星。2006年2月22日にM-Vロケットで高度約750 km の太陽同期軌道に打ち上げられた。口径68.5 cm の炭化ケイ素でできた主鏡を持ち、観測装置として遠赤外線サーベイヤーFIS(感度波長: 50-180 μm )と近・中間赤外線カメラIRC(感度波長: 1.7-26.5 μm)を搭載した。全天の94%をカバーする赤外線マップを完成させ、130万個の赤外線天体のカタログを作成して公開した。これまでに知られている天体と対応しない赤外線源を数多く発見した。サーベイ観測による赤外線源カタログの更新は赤外線天文衛星IRAS以来24年ぶりのことで、波長範囲が拡がり、解像度・感度ともにはるかに高いものとなった。また、天の川銀河銀河系)内や銀河での星生成、星の一生の最後、宇宙の果ての銀河などについての成果も挙げた。

2007年8月26日に液体ヘリウムが枯渇して完全運用(サーベイ観測を含む)が終了し、それ以降は機械式冷凍機による冷却でも使用できる近・中間赤外線カメラによる観測を継続したが、2011年5月に電力異常が発生、6月に科学運用を終了した。同年11月、あかり衛星がスペースデブリになることを防止するために、スラスタを使って約700×450kmの楕円軌道への軌道変更を行った。これにより大気抵抗で25年以内に大気圏に再突入することになった。11月24日に電波発信停止作業を行い5年9ヶ月にわたる運用を終了、2023年4月11日に予定通り北大西洋上空で大気圏に再突入した。

ISO衛星スピッツアー宇宙望遠鏡宇宙望遠鏡も参照。ちなみに、あかり衛星のプロトタイプモデルは、名古屋市科学館の天文館5階展示室「宇宙のすがた」で公開されている(http://www.ncsm.city.nagoya.jp/cgi-bin/visit/exhibition_guide/exhibit.cgi?id=A511)。

ホームページ:https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/akari.html

ドイツがアメリカとイギリスの協力のもとに1990年6月に打ち上げたX線および極紫外線衛星。名前はRöntgen Satelliteに由来する。視野2度でエネルギー分解能を備えた検出器か、視野38分角で角度分解能2秒の検出器のいずれかを用いるX線望遠鏡(0.1-2.5 KeV)と、5度の視野を持つ極紫外線望遠鏡(62-206 eV)を備えていた。打ち上げ後半年は全天サーベイ観測を行い15万個以上の天体を含むかつてない精度とサンプル数のX線全天カタログを作った。超新星残骸などの高角分解能観測も行い多くの成果を上げた。1999年2月まで観測を行った。2011年10月23日にベンガル湾上で大気圏に再突入した。
ホームページ:https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/rosat/rosgof.html

冷たいダークマターの候補となる素粒子の一種。量子色力学(QCD)におけるCPの破れの問題を解決するために導入された粒子である。ここで、Cとは電荷の符号を反転する変換、Pとは空間座標を原点に対して反転させる変換である。実験的に確認された物理法則は高い精度でCP変換に対して対称であることが知られているが、この理論でそれを実現するには、クォークの質量行列の位相角と、理論自体がもともと持っているCPの破れのパラメータが高い精度で相殺していないといけないので、不自然である。ペッチャイ(R. Peccei)とクイン(H. Quinn)はこれを新たに導入した対称性によって説明することに成功したが、その際に現れるのがアクシオンである。アクシオンはボース粒子であり、その質量は10-38 g(グラム)程度の極めて小さな値を取る可能性が高い。

ボロメータを参照。

銀河の中心にあるブラックホールとその周囲の構造のこと。銀河の中には中心が点状に強く輝いているものがあり、観測的にはこの点状天体を銀河中心核と呼ぶ。特に、広がりに比べて明るさが通常の恒星の集積では説明できないほど明るい場合、これを活動銀河核と呼ぶ。活動銀河核では大量の星間ガスが中心に位置する超大質量ブラックホールに流れ込んで降着円盤が形成される。この降着円盤が内部摩擦などによって加熱され、可視光だけでなくさまざまな波長の電磁波を放出する。このため、可視光で明るい点が見えなくても、降着円盤からの放射が検出されれば活動銀河核と分類するようになった。
活動銀河核を持つ銀河としては、セイファート銀河クェーサーなどが有名である。

屈折率の異なる二種類の硝材で作った2枚のレンズを組み合わせて、二つの波長で色収差をなくするように設計された色消しレンズ

日本で4番目のX線天文学衛星として、1993年2月に打ち上げられ、2001年3月まで観測を行った。4台の多重薄板型X線望遠鏡(XRT)を備え、焦点面には検出器としてX線CCD電荷結合素子)カメラ(SIS)と位置検出型ガス蛍光比例計数管(GIS)を2台ずつ搭載し、0.4-10 keVの広いエネルギー範囲で、画像を撮りながら同時に高精度のエネルギースペクトルを取得できることを特長とし、天の川銀河銀河系)から遠方宇宙までさまざまな天体の観測を行った。
ホームページ:https://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/asca.html