天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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Wボソン

自然界に存在する四つの力(相互作用)は、どれもフェルミ粒子(フェルミオン)間にボース粒子(ボソン)が交換されることで引き起こされる。Wボソンは弱い力(弱い相互作用)媒介するスピン1で ±1の電荷をもったボーズ粒子。正の電荷をもったものを W+、負の電荷をもったものをW-と書く。陽子の約80倍の質量をもつ。その存在は、弱い力(弱い相互作用)と電磁気力(電磁気相互作用)を統一する電弱理論の枠組みの中で1960年代後半にグラショウ(S. Glashow)とワインバーグ (S. Weinberg)、およびサラム  (A. Salam)によって予言され、1983年に発見された。弱い相互作用の代表例である中性子のベータ崩壊におけるWボソンの役割については、中性子の項を参照。弱い相互作用は、W+とW-のほか電気的に中性のZボソンの3つのボソンによって媒介される。

陽子とともに原子核を構成する電気的に中性の粒子。中性子と陽子を合わせて核子ということがある。質量は約1.675×10-27 kgで陽子よりわずかに大きい。中性子は原子核中では安定であるが、自由な中性子は平均寿命約15分で陽子に崩壊し、電子と反電子ニュートリノを放出する(ベータ崩壊)。素粒子の標準理論では、中性子はアップクォーク1つとダウンクォーク2つからできていて、ベータ崩壊はダウンクォークがW-ボソンを放出してアップクォークに変わり、そのW-ボソンが電子と反電子ニュートリノに変わるとして理解される。

天文学では中性子とその反応は、重元素の合成や中性子星など重要な役割を果たす。

正の電荷の単位となる粒子で中性子とともに原子核の構成要素。陽子と中性子を合わせて核子ということがある。質量は中性子より僅かに軽い約1.673×10-27 kg。陽子と中性子は電荷の違い以外は、その性質がよく似ているので核子という一つの粒子の別の状態と考えることができる。核子間に働く力は核力と呼ばれるが、約10-14 m という短距離で働き、陽子-陽子間、陽子-中性子間、中性子-中性子間を同じ強さで強く結びつけている。核力はパイ中間子によって媒介される。パイ中間子の存在は1935年に湯川秀樹によって予言された。
現代的な観点では核子もパイ中間子の基本粒子ではなく、クォークと呼ばれる基本粒子から構成されることが分かっている(素粒子を参照)。クォークには電荷が+2/3のアップクォーク、チャームクォーク、トップクォーク、電荷がー1/3 のダウンクォーク、ストレンジクォークボトムクォークの6種類あって、アップクォークとダウンクォーク、チャームクォークとストレンジクォーク、トップクォークとボトムクォークでペアを作っている。陽子はアップクォーク2つとダウンクォークが1つ、中性子はアップクォーク1つとダウンクォーク2つからできている。

惑星探査機を参照。

レプトン族と呼ばれる素粒子の一種で負の電荷の単位となる基本粒子。陽子中性子とともに原子を構成する。質量は約9.10×10-31 kg。素粒子はスピンが半整数のフェルミ統計に従うフェルミ粒子(フェルミオン)と整数のボーズ統計に従うボース粒子(ボソン)があるが、フェルミ粒子は強い相互作用をもつクォークと持たないレプトンに分類される。クォークとレプトンは各々6種類あり、それぞれ2つずつペアを組んで、3つの世代に分かれる。第一世代のクォークとしてアップクォークとダウンクォーク、レプトンとして電子、電子ニュートリノがあって、現在の宇宙に存在する物質の構成要素となっている。
なお第二世代のレプトンとして、ミューオン、ミューニュートリノ、第3世代のレプトンとしてタウオン、タウニュートリノがあり、世代が高くなるにつれ質量が大きくなる傾向がある。

惑星、主に地球を周回する軌道上に存在する人工天体。地球のなど自然の衛星との区別が明白な場合には単に「衛星」とも表記される。軌道上を回っていても、使用済みロケットの残骸や人工衛星の破片などは宇宙ゴミ(スペースデブリ)として区別される。惑星以外の軌道を周回する人工天体は一般に宇宙探査機と呼ばれて区別される。
人工衛星の軌道は高度(平均海面からの距離)、軌道傾斜角、軌道離心率などの軌道要素により特徴づけられる。地球周回軌道の場合、高度で分類すると低軌道(2000 km以下)、中軌道(2000 kmから35,800 km(地球同期軌道)まで)、高軌道(地球同期軌道より外)に分類され、軌道離心率で分類すると円軌道(離心率が0に近い)、楕円軌道(離心率が0より大きく1未満)などに分類される。軌道傾斜角が90度近いものは極軌道と呼ばれる。大きいものはロケットにより打ち上げられて目的に応じた軌道に投入される。宇宙望遠鏡惑星探査機も参照。

パルサー星雲を参照。

磁気単極子を参照。

太陽日とはいわゆる「1日」のことである。太陽の動きに基づく時刻(太陽時)で測った1日、すなわち太陽が一度南中してから次に南中するまでの時間を視太陽日(あるいは真太陽日)と呼ぶ。黄道上の太陽の動きはケプラーの法則(第2法則)から分かるように、季節によって僅かに変化する。したがって視太陽日の長さも季節によって変わる。一方、季節によらず一様な時刻系である平均太陽時で測った1日を平均太陽日と呼ぶ。平均太陽日を基準とすると、視太陽日の長さは季節により±30秒程度の幅で変動する。視太陽時と平均太陽時の差は均時差と呼ばれる。

1日は時間の素朴な概念のベースであり、歴史的には1日を分割することで1時間・1分・1秒といった単位が誕生した。現在では1秒は原子時計により正確に刻まれるため、逆に1日の長さを測ることができる。地球の自転速度はさまざまな要因で変化するために、1日の長さも毎日わずかに変化する。このずれを補正するのがうるう秒の役割で、国際原子時(TAI)にこの補正を行った協定世界時(UTC)が現在の時刻標準となっている。
暦(れき)も参照。

放射線が液体中で損失するエネルギーをシンチレーション光(蛍光)として測定するシンチレーション検出器の一種。液体シンチレータ測定器ともいう。液体の溶剤に有機物を溶かしたものであり、溶剤としてはキシレン、トルエンなどが、有機物はターフェニルやPOPOP(ベンゼンの一種)などが用いられる。発光スペクトル光電子増倍管の感度に合うよう長波長側に移動させるため、蛍光物質を波長シフター成分として加えることもある。大容量で均一なものを作ることが容易であり、発光量も多くできる利点がある。溶媒に溶解できる放射性物質を計測する場合は計数効率をほぼ100%にすることができる。最近は液体キセノンを用いた液体シンチレータがカロリメータとして開発され用いられている。

国際単位系の略称。

天体の情報を体系的にまとめたリスト(表)のこと。星のカタログは星表と呼ばれることが多い。最も古い星表は紀元前129年に完成したと言われるヒッパルコス星表で、1000個あまりの恒星の位置と明るさの光度階級が記載されている。最も明るい星を1等、肉眼でやっと見える星を6等としたこの光度階級が現在の星の等級の起源となった(ヒッパルコス衛星によるヒッパルコス星表とは異なることに注意)。観測が進むにつれて、星とは異なってぼんやりと広がって見える天体(今日の言葉では星雲、星団、銀河)も多数見つかりそれらをまとめたカタログ(初期の有名なものはメシエカタログNGCカタログICカタログ)も作られた。銀河だけを掲載した最初のカタログはシャプレーとエイムズによるシャプレー-エイムズカタログである。現在ではさまざまな種類の天体毎に多数のカタログが作られている。一般に、天体カタログはサーベイ観測を基に作られる。
フランスのストラスブール天文データセンターでは、18,000近い天体カタログから天体を検索し、カタログと掲載データをオンラインで見ることができる各種サービスを提供している。
ストラスブール天文データセンターホームページ http://cds.u-strasbg.fr/
カタログ一覧 http://cdsarc.u-strasbg.fr/cats/cats.html

荷電粒子が物質中を通過するとき、その物質を構成する原子を励起または電離することによりエネルギーを失う現象、あるいはその際失われるエネルギーをいう。電離損失を表す式はベーテ(H. A. Bethe)とブロッホ(F. Bloch)により求められており、物質の原子番号Zと質量数Aの比Z/Aおよび荷電粒子の電荷の2乗に比例し、また荷電粒子の速さにより変化する(速さが遅いとき電離損失は速さの2乗に反比例し、速さが真空中の光速度に近づくとほぼ一定になる)。

天体の位置を表すために用いられる座標系。赤道座標系黄道座標系銀河座標系超銀河座標系など天球上に張られた天球座標系と、観測者から見た地平座標系がある。

パイオンを参照。

ハドロンのうち、クォークと反クォークの対から構成される中間子の一種で、最も軽い中間子であり、正、負の電気素量(素電荷)をもつ荷電パイオン($\pi^+$$\pi^-$: 質量は2.49x10-28 kg)と、電荷をもたない中性パイオン($\pi^0$:質量は2.41x10-28 kg)の3種からなる。パイ中間子とも呼ばれ、スピンをもたないボース粒子である。不安定な粒子であり、荷電パイオンは平均寿命26ナノ秒でほとんどの場合ミューオンとミューニュートリノに崩壊し、中性パイオンは平均寿命 8.4x10-17 秒で2個のガンマ線に崩壊する。中間子の存在は湯川秀樹により核力の担い手として予言された。

ハッブル-ルメートルの法則を見よ。

ステラジアンを参照。

共通の標準時を使う地域全体のこと。地方時標準時を参照。

 

共通重心の周りを公転している二つの天体の一方または両方が、潮汐の影響により自転周期と公転周期が等しくなっている状態を指す言葉。同期自転とも言う。この状態では、天体が常に相手に同じ面を向けて回転する。

もっとも身近な例は地球である。月の自転周期と公転周期はほぼ同じ約27.3日であるために、月は常に地球に同じ面(表)を向けており、裏は見えない(ただし、さまざまな理由から全表面の約60%は地球から見ることができる;秤動を参照)。木星の四つのガリレオ衛星も木星とほぼ同期自転しており潮汐ロックの状態にある。また、冥王星とその衛星カロンも潮汐ロックにより同期自転している。太陽系外惑星ホットジュピターで公転周期が1日程度以下のものは主星と潮汐ロックの状態にあると考えられている。