天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

相対論的ビーミング

速度 $v$光速度 $c$ に極めて近く、大きなローレンツ因子

$$\gamma = \frac{1}{\sqrt{1-(v/c)^2}}$$

(典型的には $\gamma \sim 10$)をもつジェットは、相対論的な光行差によって光線が前方へ集中し、前方の $\sim 1/\gamma$ ラジアン以内の方向に放射が集中する。これを相対論的ビーミングという。これにドップラー効果が加わって、ビーム方向から見ると、エネルギーが高くなり、強度変動の時間も短縮される。ビーミングも参照。

光速を $c$、粒子の速度を $v$ として $\beta=v/c$ を定義し、これが1に近い( $\beta \lesssim 1$)場合を相対論的粒子という。ローレンツ因子 $\gamma=1/\sqrt{1-\beta^2}$ を定義すると、静止質量 $m_0$ の相対論的粒子のエネルギーは $m_0\gamma c^2$ で与えられる。これが静止粒子のエネルギー $m_0c^2$ よりはるかに大きい粒子が相対論的粒子である。

相対論的な荷電粒子はシンクロトロン放射逆コンプトン散乱による放射チェレンコフ光の放射を行う。質量の小さい電子は加速されやすいので相対論的粒子になることがしばしばある(相対論的電子を参照)。

天体からの電磁波連続スペクトルの形状を表す数値。天体のスペクトルが指数関数で近似できるとき、単位振動数あたりの電磁波の強度を $f_\nu$、振動数を$\nu$ として、$f_\nu\propto\nu^{\alpha}$ と近似するときの $\alpha$ をスペクトル指数と呼ぶ。ただし、$f_\nu \propto \nu^{-\alpha}$ として定義することもあるので注意が必要である。また、単位波長あたりの強度を$f_\lambda$ として、$f_\lambda\propto \lambda^\alpha$、あるいは$f_{\lambda}\propto \lambda^{-\alpha}$ と定義する場合もある。スペクトル指数は、その放射がどのようなメカニズムで出されたかを知る重要な手がかりとなる。

荷電粒子が蛍光物質に当たったときに放射されるシンチレーション光(蛍光)を、光電子増倍管などの光センサーを用いて電気信号として取り出す仕組みの粒子検出器。蛍光物質(シンチレータ)としては、透明な結晶(無機シンチレータ)や、プラスチックや有機物の液体(有機シンチレータ)が用いられる。液体シンチレーション検出器も参照。

2004年11月20日にデルタIIロケットによって高度600 km、軌道傾斜角20.56度の略円軌道に打ち上げられたガンマ線バースト観測衛星。NASAのエクスプローラー計画、MIDEX(Medium-class Explorer)の一つとして、アメリカ、イギリス、イタリアによって共同開発された。ミッション名は"The Swift Gamma-ray Burst Explorer"。
Swift(スイフト)は複数の波長を観測できる宇宙望遠鏡で、観測機器として、コーデッドマスクを備えたバーストアラート望遠鏡、反射式X線望遠鏡と極端紫外反射望遠鏡を搭載し、ガンマ線X線紫外線から可視光の各領域で、ガンマ線バーストとそのアフターグロー(残光)を観測することができる。
Swiftは機器の一つで空を監視しており、ガンマ線バーストの発生を検知すると、位置を数分角の精度で決定し、約15秒以内に地上へ通報するとともに、モーメンタムホイールを利用して、地上からの管制なしに衛星をその方向に向けることができる。この素早く向きを変える様子から「Swift」(アマツバメ)と命名された。
スイフト衛星の科学責任者でったニール・ゲーレルズ(Neil Gehrels)が2017年に亡くなり、NASAは2018年 1月10日 に、ゲーレルズの業績を記念してスイフト衛星の正式名称をニール・ゲーレルズ スイフト天文台(Neil Gehrels Swift Observatory)とした。
ホームページ:https://swift.gsfc.nasa.gov/

1986年に回帰したハレー彗星に接近して観測するため、1985年7月2日にヨーロッパ宇宙機関(ESA)が打ち上げた探査機。1301年に出現したハレー彗星を描いたイタリアの画家ジオットにちなんで命名された。1986年3月14日にハレー彗星の核から600kmまで接近して彗星核の撮像に成功して、ダストの成分分析などを行った。最接近の瞬間ダストの大粒子が衝突して、アンテナが地球から逸れたため、地球との交信が一時的に途絶えた。その後、カメラ以外の観測機器は駆動することがわかり、1992年7月、グリッグ-シェレルップ彗星に200kmまで接近して観測を行った。

磁場中の電子は磁力線の回りを円運動(加速度運動)し電磁波放射する。電子の速度が遅い場合をサイクロトロン放射、光速に近い相対論的な場合をシンクロトロン放射と呼ぶ。
低エネルギー光子の場合、光子は自由電子を振動させ、その振動が電磁波を再放出する。したがってその波長(エネルギー)はもとの光子とおなじである。この過程をトムソン散乱という。その断面積は光子のエネルギーによらず一定で、トムソンの断面積という。
高エネルギー光子の場合は電子にあたえる運動量とエネルギーが大きくなり、その分だけエネルギーが減少した光子が再放出される。
これをコンプトン散乱といい、そのエネルギーと反応断面積の関係がクライン-仁科の公式である。
逆に運動する電子に光子が衝突すると、これらの逆過程がおこり光子はエネルギーを獲得し、高エネルギー光子に変わる。これを逆コンプトン散乱と呼ぶ。
シンクロトロン放射によって生成された光子がもとの電子に衝突することによってより高エネルギーの光子となる現象をシンクロトロン-自己コンプトン放射と呼ぶ。
活動銀河核からの宇宙ジェットから放出されるX線ガンマ線はこのプロセスによるものと考えられる。

光速に近い速度の荷電粒子(主に電子)が磁力線の周りを円運動しながら進むときに放出される電磁波。シンクロトロン放射光は連続スペクトルを示し、指向性が強く、偏光度が高い。活動銀河核の中心にあるブラックホール周辺からのジェットはシンクロトロン放射で電波を出している。相対論的電子も参照。

X線星にみられる擬似周期的なX線強度の時間変化。QPOと呼ばれる。強度変化には周期性があるが不安定であり、パワースペクトルに幅が現れる。低質量X線連星では、5-55 Hz程度の周期をもち、パワースペクトルの幅の広いものと、200-1200 Hz程度の周期で多くの場合二対みられるもの(kHz QPOと呼ばれる)がある。QPOの原因はよくわかっていないが、降着円盤中の物質や中性子星の回転が関係していると考えられる。ブラックホール候補のX線星にもQPOが観測されるが、振動数は15 Hz以下と低い。激変星も参照。

励起を参照。

超新星爆発時に形成される爆風は周囲の星間物質を圧縮して、衝撃波面を形成する。荷電粒子は磁場との散乱により衝撃波の上流と下流を往復するうち統計的にエネルギーが増加していく。このような加速過程を衝撃波加速(あるいは統計加速)といい、宇宙線の加速機構として有力とされている。最初にこの機構を論じたフェルミ(E. Fermi)にちなんでフェルミ加速とも呼ばれる。超新星残骸SN 1006の観測で、実際にこの加速が起きていることが示された。宇宙線加速も参照。

シュバルツシルト(K. Schwarzschild)はアインシュタイン方程式を、中心にのみ質点があり、その周囲の空間は等方的という条件で解いた。それがシュバルツシルト解(1916)である。それによると位置 r に置いた時計の刻む時間の間隔 $\tau$ と、無限遠方の観測者が計る時間の間隔 dt の間には、
$d \tau=\left( 1-\frac{R_{\rm S}}{r} \right)^{1/2} dt$ という関係が成り立つ。この式で RS をシュバルツシルト半径という。
シュバルツシルト半径に近づくと、時間経過が遅くなるように見え、速度はいつまでも光速度を超えない。さらにr < RS では、上式の比例係数は虚数となり物理的な意味を失う。この領域では、いかなる光線も RS より外側には出られず、外側からは永久に知ることのできない領域となる。そこでシュバルツシルト半径を事象の地平線と呼ぶ。事象の地平線と中心の質点を併せた概念がブラックホールである。中心の質点の質量がMのとき RS = 2GM/c2 となる。ここで G は万有引力定数、c真空中の光速度である。
2019年4月10日にイベントホライズンテレスコープが、おとめ座銀河団にある巨大楕円銀河M87の中心にあるブラックホールシャドウを観測したと発表した。ブラックホールシャドウの視直径はシュバルツシルト半径の5倍程度と考えられている。

ある温度と密度を持つフェルミ粒子の集団において、粒子の運動エネルギー分布が、エネルギーの低い量子状態から順に埋まった分布となっていることを(完全)縮退という。この縮退が生む圧力が縮退圧である。

スピン角運動量の大きさであるスピン量子数$s$が半整数(1/2, 3/2, …)であるフェルミ粒子(電子中性子など;素粒子の図1参照)に対しては、パウリの排他原理により、1つの量子状態に2つ以上の粒子が存在できない。このため、たとえ絶対温度が0 Kであっても全ての粒子が完全に静止することは許されず、有限な運動量を持つ粒子が存在する。このときの最大運動量を持つ粒子の運動量をフェルミ運動量といい、対応するエネルギーで表現する場合はこれをフェルミエネルギーと呼ぶ。スピン量子数が整数であるボース粒子光子ヒッグス粒子など)では、位相空間内で同じ場所を占める粒子数に制限がないためこの現象は起こらない。

縮退圧は温度に依存せず、密度のみによって決まる。赤色巨星の中心核や白色矮星では電子が縮退状態になっており(電子縮退)、電子の縮退圧が自己重力に抗して星を支えている。電子の縮退圧で支えられる白色矮星の質量の上限がチャンドラセカール限界質量である。また中性子星では、中性子の縮退圧が星の重力を支える要因となっている。高密度星も参照。

地心視差を参照。

高密度星を参照。

宇宙ジェットを参照。

アフターグローを参照。

電磁波をその粒子性から見たたときの粒子の名称。電磁気力を媒介する粒子。量子力学で記述されるミクロな世界では、すべての素粒子は波動と粒子の性質を兼ね備えている。これを波動と粒子の二重性(wave-particle duality)という。光子の質量はゼロで、真空中を光速度で伝播する。電磁波ド・ブローイ波長も参照。

ジョセフソン接合は、薄い絶縁膜(Insulator)を超伝導膜(Superconductor)ではさんだ3層から構成され、頭文字をとってSIS接合とも呼ばれる。ジョセフソン接合には電子または超伝導電子対(Cooper pairと呼ばれる)のトンネル効果によって電流が流れ、図のような電流電圧特性(I-V curve)をもつ。ジョセフソン(B.D. Josephson)によって1962年に理論的に導かれた(B.D.Josephson, 1962, Physics Letters, 1, 251-253)。超伝導ミキサーも参照。

一様な磁場があるところに電子が入射してくるとローレンツ力を受けてらせん運動を行う。その運動の磁場に垂直な平面への射影は円運動になる。このとき、電子の電荷をe、質量をm、磁場の強さをBとすると円運動の振動数$\nu$$\nu=eB/(2\pi m)$となり、電子の円運動速度によらない値となる。これをサイクロトロン周波数またはラーモア周波数という。また、円運動の半径をラーモア半径という。ただし、電子の速度が大きくなり、運動エネルギーが大きくなると相対論的効果によって電子の実際の公転運動の周波数はサイクロトロン周波数からずれてくる。