天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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視差楕円

地球の公転運動によって近距離の星が天球上を1年かけて動く楕円のこと。年周視差を参照。

天体の視線速度の時間変化を表す曲線。連星系のように周期的な視線速度変化を示すものは、位相ごとに視線速度をプロットしたものを指す。

星の光が星間物質中のダストにより吸収や散乱を受け、本来の色よりも赤くなること。一般に波長の短い光ほど吸収や散乱の影響を強く受けるため、色指数が大きくなる。その量はBバンドとVバンドでの星間減光の差、E(B-V)= A(B)- A(V)、によって表されることが多い。単位は等級である。U-B、B-Vの二色図では、星間赤化を受けた星は赤化の量に応じて赤化ベクトル、E(U-B)/E(B-V)~0.7、の方向へ動く。星間減光も参照。

半導体(または絶縁体)において、価電子帯の電子が不足した状態(相対的に正の電荷をもっているように見える)を正孔(hole)というが、光子や荷電粒子により価電子がエネルギーを得ると正孔が生じ、自由電子と正孔の対(電子-正孔対)が作られる。気体の電離には電子-イオン対あたり数10 eVを要するのに対し、半導体の場合、電子-正孔対を1個作るのに要するエネルギーは、シリコンでは3.64 eV ゲルマニウムでは2.96 eVと小さい。そのため、粒子のエネルギー損失当たり作られる電荷の数が電離より桁違いに多く、統計的見地から優れているため、エネルギー分解能の高い検出器を作ることができる。

星団をなしていない恒星のこと。フィールド星ともいう。天の川銀河のバルジ円盤部にある星は星団をなしているものもあるが、そうでないものも多く、夜空に見える3等星くらいまでの星はほとんどが散在星である。散開星団が起源で、それがばらばらになって生じた星のほか、最初から散在してできた星もあると予想されているが、詳しいことはわかっていない。

電磁波をプリズムや回折格子などの分散素子に通して得られる波長ごとの強度分布を示す画像やグラフのこと(電磁波以外の信号や 人文社会科学などでも様々な対象に対してスペクトルという言葉が 用いられるがここでは触れない)。
電磁波をスペクトルに分けることを分光するという。 太陽の光をスリットを通してプリズムに入射させると、虹のような色の帯(図1左)が見られる。これが太陽光のスペクトルである。 白色に見える太陽の光は、実際にはさまざまな色の光が混ぜ合わさっている。色の違いは光の波長の違いによる。波長が短い光は青っぽく見え、波長の長い光は赤っぽく見える。光の強度を縦軸にとり波長を横軸にとって、光の強度を波長の関数として表したもの、すなわち色の帯を定量的に表現した図1右もスペクトルと呼ぶ。波長と振動数およびエネルギーは互いに関係している(電磁波を参照)ので、横軸は波長の代わりに振動数またはエネルギーをとる場合もあるが、いずれもスペクトルである。グラフなどによる定量的表現は、光の強度分布に特に注目する場合にはスペクトルエネルギー分布と呼ばれることがある。
図1のように、光の強度が波長に対してなめらかに変化するものは連続スペクトル、特定の波長で特に強かったり弱かったりする部分を含むものは線スペクトルと呼ぶ。強い部分は輝線、弱い部分は吸収線で、合わせてスペクトル線と呼ばれる。輝線を含むスペクトルを輝線スペクトル、吸収線を含むスペクトルを吸収線スペクトルということがある。図2(a)に示す白熱電球からの光は黒体放射に似た連続スペクトルで、電球の温度によってスペクトルは異なる(温度 が高いほど青い光の相対強度が強い)。(b)に示すように、ナトリウム(Na)を含む物質を加熱してナトリウム原子を含むガスを作り、白熱電球からの光を背景にしてそのガスを見ると吸収線が現れる。一方、(c)のようにナトリウムガスの光だけをプリズムに通すと、同じ波長のところ に輝線が見られる。 ここに示した例はナトリウム(Na)のD線と呼ばれるもので、波長 589ナノメートル付近にある接近した2本の線(波長589.0 nmと589.6 nm)からなる。
吸収線や輝線の波長は原子に固有のものである。スペクトル線の波長からどのような原子が存在するかを知ることもできる。これをスペクトル線を同定するという。また、同じ原子の複数のスペクトル線の強度、あるいは異なる原子のスペクトル線の強度の解析から、ガスの温度や密度などが推定できる。ガスに分子が含まれている場合は、多くの吸収線(あるいは輝線)が狭い波長範囲に密集して、バンド(帯)と呼ばれる特徴を作る(バンドスペクトルを参照)。 このように、スペクトルは発光源の物理状態や元素組成を知る上で極めて重要なものである。
天文学では、天体の光をプリズムなどを使ってスペクトルに分ける観測を分光観測と呼ぶ(これに対して、ある波長範囲のすべての光を合わせた強度を測定する観測を測光観測と呼ぶ)。天体から発せられる光は、可視光以外の電磁波の広い波長範囲にわたっている。スペクトルは可視光だけでなく、電磁波全体に適用される概念である。同じ概念でも波長帯によって少し呼び名が異なる場合もある。たとえば、連続スペクトルに関与する成分は、可視光では連続光というが、電波では連続波という。

電波天文学においては歴史的に、アンテナ温度と呼ばれる量と関連づけるために、レイリー-ジーンズの近似式を用いて換算した輝度温度が広く用いられてきた。この事情を背景に、レイリー-ジーンズの近似式がよく成り立たない場合、プランクの法則を用いて求めた輝度温度のことを特に、等価輝度温度と呼ぶ。

天体内部の核融合によりエネルギーを作りだし、自ら輝いている天体。みかけの位置がほとんど変わらないことから、惑星と区別して恒星と名づけられたが、実際には空間内を運動しており(視線速度固有運動を参照)、明るさがかなり変化するものもある。太陽も恒星の一つである。恒星は大部分が水素とヘリウムからなるガス球であり、その中心で起きる熱核融合反応で発生する熱エネルギーが中心のガスを高温にし、その圧力で自分の重さを支えているので、つぶれずに安定に輝いている。水素からヘリウムを合成する反応の起きる期間はもっとも長いが、中心の水素がなくなると、さまざまな核反応が段階的に起き、内部構造も変化する。太陽質量の8倍より大質量の恒星は最後には大爆発(超新星爆発)を起こす。恒星の進化を参照。
総称としてのも参照されたい。

 

スペクトルとほぼ同じ意味であるが、波長あるいは振動数(周波数)の関数としてグラフで表現される電磁波の強度分布に注目する場合に使われる用語。研究分野ではSEDと省略されることが多い。
多数の星からなる銀河の紫外-可視光-近赤外域のSEDからは、その銀河を構成する星の種類、すなわちその銀河の星生成史を推定できる。現在星生成活動が活発に行われている不規則銀河(SmやIm型)のSEDでは紫外線波長域の連続光の強度が強く、電離ガスからの輝線が見られる。一方、星生成活動が起きていたのはずいぶん昔で現在はほとんど星を作っていない楕円銀河(E型)のSEDでは、紫外域の連続光は弱く、4000Åブレイクがはっきりと見え、年齢の古い晩期型星からの放射が強くなり、赤から近赤外線波長域にかけての連続光が強くなる。4000Åブレイクの強さは、主要な星生成活動が止まってからの経過時間の指標となる。
可視光波長域だけでなく、電波から高エネルギーガンマ線まで広い波長域をカバーするSEDからは、その天体で起きているさまざまな物理現象を理解するための重要な手がかりが得られる。

連星のうちで、2つの星が互いに影響を及ぼすくらいに接近した系。ロッシュモデルも参照。

微弱な電波の強度を測定する際に、受信機の利得が変動すると受信機出力から入力信号強度を正確に測定することが困難となる。そこで放射強度が一定の雑音発生器(ディッケ放射計)と測定したい信号と交互に測定し、受信機利得が変動する時間よりも短い時間間隔で切り替えることで、受信機の利得変動の効果を最小化する測定方法。 ディッケ放射計を人工電波源とすると、大気の放射や吸収の変動の影響は補正できないので、それらの影響の少ない低周波数の観測で用いられる。ディッケ(R. Dicke)が考案したのでこの名がつけられた。

ディッケスイッチを用いて、雑音発生器からの強度が既知の雑音と測定対象との比較を行うことで電波強度を測定する装置。受信機の利得変動の影響を小さくできる。ただし、この効果が有効に働くには、2つの入力の強度がほぼ等しい(理想的には完全に一致する)必要がある。したがって、測定すべき信号とほぼ等しい雑音信号を安定した強度で発生させる雑音源が必要となる。電波天文学の場合には、天体からの信号よりも、受信機や地球大気が発生する雑音の方がずっと大きいため、ディッケ放射計で用いる雑音源の強度は天体によらず一定の物を用いても十分に機能する。

カナダのブリティッシュコロンビア州のビクトリア市郊外にある天文台。1918年に開設され1995年以降はヘルツベルグ天体物理学研究所の本部でもある。1918年に完成した口径1.85mのプラスケット望遠鏡と1961年完成のグラブ-パーソンズ社製の1.2m望遠鏡がある。プラスケット望遠鏡は、世界最大の望遠鏡を目指したが、ファーストライトでは、ウィルソン山天文台の100インチフッカー望遠鏡にわずかに遅れをとった。両望遠鏡とも、さまざまな改良を続け新たな観測装置の開発も行われ現在でも活躍している(プラスケット望遠鏡の主鏡は当初72インチ(1.82m)であった)。カナダのオタワに1902年から1970年の間あったドミニオン天文台(Dominion Observatory)と区別するときはドミニオン天体物理天文台という。
ホームページ:
https://nrc.canada.ca/en/research-development/nrc-facilities/dominion-astrophysical-observatory-research-facility
https://astro-canada.ca/l_observatoire_federal_d_astrophysique-the_dominion_astrophysical_observatory-eng

スペクトル中の輝線吸収線を合わせた呼び名。原子中の電子が2つのエネルギー準位の間を遷移するときに生じる。光子からエネルギーを吸収すると低い準位にあった電子が高い準位に遷移する。逆に、電子が高い準位から低い準位に遷移する場合は光子を放出する。いずれの場合も光子のエネルギーは、2つの準位間のエネルギーの差に等しいので、決まった波長の光を吸収したり放出したりする。同じ原子であっても、エネルギー準位には複数のものがあるので、スペクトル線の波長も複数あるが、どれもその原子固有の波長である。原子が異なれば異なる波長のスペクトル線が生じる。このため、スペクトル線の波長がわかれば、どの原子がそのスペクトル線を生じたのかがわかる。輝線と吸収線のどちらが観測されるかは、光源、物質(ガス)、および観測者の位置関係による。

地球が1日に1回、西から東に自転していることによって、天球が天の北極と南極を結ぶ軸を中心に、東から西に、ほぼ1日に1回転するように見える現象。日周運動の見え方は、地球上の緯度によって変わる。北半球の中緯度(北緯約35度)にある日本では、天の赤道周辺にある恒星やその他の天体は、東から上り南の空を通って西に沈み、ほぼ1日経つとまた東から上る。天の北極近くの星(周極星)は地平面下に沈むことなく円を描く。赤道上では天体は地平面から垂直に上り、垂直に沈む。北極と南極では、日周運動による星の軌跡は、地平面に平行な線となる。恒星に対する地球の自転周期は、23時間56分4.09秒(1恒星日)なので、同じ場所では同じ星が南中する時刻は、1日に約4分早くなり、1年で24時間早くなってもとに戻る。これを反映して太陽は、天球上を黄道に沿って、西から東に1年で1周する。これらの1年周期の見かけの運動を年周運動と呼ぶ。天の極も参照。


北の空での日周運動

https://youtu.be/EQO51YQzKIk


日周運動の理解に役立つムービー(製作「CGムービー人理科」)
https://youtu.be/nteXV2Oem3c

赤道座標系を参照。

地上望遠鏡で観測する場合、大気ゆらぎによる天体像の重心位置の移動を補正するために用いられる小型の鏡。振動鏡という場合もある。鏡の向きを高速で変化させられる仕組みを持っており、天体像の重心位置を高速で測定した結果をフィードバックして鏡の向きを高速制御(100 Hz程度)し、天体像が揺れ動かないようにして解像度を上げる。この方法は、補償光学の最も低次のモードである。ティップ-ティルト鏡として、望遠鏡の副鏡や第3鏡を用いる場合もあるが、観測装置の中に専用の鏡を用意する場合もある。

自発的対称性の破れを起こしてゼロでない真空期待値を持つことによって、結合している他の場(フェルミ粒子、ゲージ場)に質量を与える役割を果たすスカラー場のこと。素粒子の標準模型に出てくるヒッグス場は SU(2) の二重項を持ち、それが真空期待値を持つことによって、クォークレプトンゲージボソンWボソンZボソン)に質量が与えられる。このヒッグス場の励起状態であるヒッグス粒子は、2012年7月に欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突加速器(LHC)によって発見され素粒子の標準理論が検証された。

 

地球の自転による0.3"程度の光行差

天文学で用いられる距離の単位。記号は au である(以前は、AUなどとしていたが小文字が正式となった)。地球と太陽の間の平均距離にほぼ等しく、

1.495978707×1011m15000km

である。国際天文学連合(IAU)による1天文単位の定義は以下のように変遷してきた. 1976年のIAU総会では、質量が無視できるほどの粒子が摂動を受けずに太陽の周りを完全な円軌道で周期

2π/k(k=0.01720209895)365.2568983

で回る半径と決定された。この場合、地球の楕円軌道の長半径aとの関係は、

a=1.00000261au

となる。2009年のIAU総会では、「1天文単位=1495億9787万700±3メートル」(±3は誤差)と発表された。さらに、2012年のIAU総会では、1天文単位は1495億9787万700メートルと定義して、数値を固定することが決定された。1 auを見込む角度が1秒になる距離が1パーセク (pc)である。1パーセクは3.26光年である。