星形成史
よみ方
ほしけいせいし
英 語
star formation history
説 明
星がいつ頃、どのくらいの金属量のガスからどのくらいの量で生成されたかという星形成の歴史のこと。星生成史ともいう。1つの星団や1つの銀河に対して考える場合が多いが、宇宙全体を対象とする場合もある。銀河や星団の星形成史の研究には二つの手法がある。
一つは、近くから遠くまでさまざまな距離(赤方偏移)にあるこれら天体の星形成率を観測から求めて、それを時間(ルックバックタイム)の関数として表す方法である。これは同じ天体の星形成史を見ているわけではないが、同種の天体毎にグループ分けするなどしてさまざまな情報を引き出すことができる。最後に述べる宇宙全体の星形成史はこの手法で求められる。
もう一つの手法は、天体に現在存在している星に刻み込まれている過去の「化石情報」から星形成活動の歴史を引き出すことである。これは銀河考古学と呼ばれることもある。星形成史の研究ができる星団はほぼ銀河系(天の川銀河)内のものに限られるため、星団の星形成史を調べるのはほぼこの手法に限られる。この手法では、銀河や星団の色、HR図、金属量、個々の星の運動状態などの観測データを解析する。例えば、ケンタウルス座オメガ球状星団(ω Cen)のHR図には転向点が複数見られる(図1)。このことだけでも、この球状星団では過去に何度か星生成活動が急激に起きた時期があったことがわかる。
1980年代半ばまでには、ハッブル系列に沿った銀河の色の違いおよびバルジとディスクの比は、星形成史の違いで大まかに説明できることが分かってきた。楕円銀河やS0銀河など早期型銀河は宇宙初期に活発に星を作り、時間とともに星形成活動が弱まってきた。一方、晩期型渦巻銀河では宇宙年齢を通じてほぼ一定の星形成活動が続き、不規則銀河ではむしろ現在に向かって星形成活動が高まってきた(図2)。
コンピュータによる恒星の進化の計算が進歩し、また観測技術が進歩するとともに星形成史の研究は大きく進歩した。星の進化の理論に基づいて、特定の金属量をもち同時に誕生した星の集団(Simple Stellar Population: SSPと呼ばれる)に対しては、誕生してから時間とともにどのような明るさとスペクトルを示すかを計算できる。従って、異なる時期に誕生したさまざまな金属量のSSPをコンピュータ内で作り、それらが銀河のなかにどのくらい含まれているかを仮定すれば、銀河全体としての明るさや色やスペクトルをコンピュータで合成できる。このコンピュータで合成されたスペクトルが観測されたスペクトルとよく合うように、組み込んだSSPに対する仮定を逐次近似的に修正することで、銀河の星形成史が推定できるのである(進化的種族合成法:種族合成法と銀河進化モデルも参照)。スペクトルの比較の際には星間吸収の影響なども考慮する。図3にこのようにして求められた銀河の星形成史の例を示す。
近年は大規模な銀河サーベイがなされている。スローンデジタルスカイサーベイによって得られた多数の銀河サンプルに対して星形成史を推定し、ハッブル系列および銀河の星質量との関連を統計的に調べた結果を図4に示す。
また、近傍から遠方まで銀河の星形成率が観測から求まるようになって、第一の手法で宇宙全体としての星形成史も求められるようになった。宇宙の平均星形成率は、観測された銀河の星生成率をもとに、赤方偏移ごとに、その時点で宇宙にある全ての銀河の星生成率を推定して、単位となる共動体積(1立方メガパーセク)あたりの値にしたものである。宇宙における星形成は赤方偏移z=10ころから次第に活発になり、z=2のあたりでピークを迎え、現在に向かって弱まっている。ただし、星間吸収の見積もりは難しく、z>2にある銀河の星形成率が過少評価されている可能性はある。宇宙の星形成率の変化を赤方偏移の関数として表した図は、最初にそれを提案したマダウ(Piero Madau)にちなんでマダウ・プロットと呼ばれる。
2020年02月26日更新
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