距離指標を参照。
望遠鏡焦点面上の天体像を複数の短冊状に分割して、分光器の入射スリットに導入する光学素子。ボウエン-ウォルラーベン型とリチャードソン型に大別される。ボウエン-ウォルラーベン型は焦点面に配置した細長い斜平面鏡群と対向するプリズムまたは反射鏡により、二次元像を短冊状にスライスしてスリット上に一列に再配置する光学系で、恒星分光だけでなく拡がった天体の分光に用いることもできる。リチャードソン型は、一対の円柱レンズを用いて星像に非点収差を発生させ、各レンズの曲率中心をスリット幅分ずらすことによって非点収差像を順次シフトさせ、スリットからあふれた星像の光を最終的にはスリットに導入する光学系で、主に恒星分光に用いられる。
降着円盤内の降着流のモデルの一つで、移流が優勢なもの。英語のAdvection-Dominated Accretion Flowを略してADAFともいう。(乱流や熱拡散などを伴わない流れを移流という。)
高温で低密度のガス流は放射冷却が効かないので中心に向かって降着するにつれてガスはさらに高温になる。すると粘性が大きくなり角運動量の輸送効率が高まる。こうして降着速度は自由落下速度くらいまで大きくなる。重力エネルギーの解放により発生した熱は、放射で失われるのではなく、高速ガス流に乗って中心天体へと運ばれる。放射が非効率的な降着流(放射非効率降着流)を一般にRIAF(radiatively inefficient accretion flow)というが、ADAFはその一種である。
太陽などの天体が放射する光の放射強度の波長(または周波数)分布を黒体放射で近似したときの、その黒体放射の温度のこと。色温度が高くなると青く見え、低くなると赤く見える。太陽光の色温度は有効温度5780Kと概ね一致する。
屈折率と色分散の異なる複数のガラスを用いて、像位置色収差と倍率色収差を複数の波長で打ち消すように設計したレンズ系。1733年に英国のホール(C.M. Hall)がクラウンガラスとフリントガラスを用いて初めて色消しレンズを発明したが特許出願をしなかった。特許は1758年にドロンド(J. Dollond)が取得した。フラウンホーファー(J. von Fraunhofer)が色消しレンズを用いた望遠鏡の実用化に貢献した。
大部分の銀河は中心部から外側に行くにつれて色が単調に変化する。多くは外側ほど青いが、矮小銀河などでは逆の傾向のものも存在する。このような、動径方向の色の(単調な)変化のことを色勾配という。一般に色は色指数(等級差)で表示され、赤い色ほど値が大きい。したがって、動径が増すにつれて色が赤くなる場合を正の勾配、青くなる場合を負の勾配と呼ぶ。色勾配を生じさせる主な原因は、動径方向における星の金属量の変化(金属量勾配、重元素量勾配)と星の平均年齢の変化(年齢勾配)である。金属量が多く、平均年齢が高いほど、色は赤くなる。楕円銀河の負の色勾配は主に、外側ほど金属量が低くなる金属量勾配によるものである。星の平均年齢は外側ほどむしろ高く、金属量勾配の効果をやや打ち消しているらしい。一方渦巻銀河は金属量も年齢も外側ほど低い傾向があり、負の色勾配を生じさせる。ただし星の年齢と金属量を互いの影響を受けずに正確に測ることは容易ではないため、結果の解釈には注意も必要である。
測光システムにより定義される異なるバンドで測定された等級の差。短い波長帯での等級から長い波長帯での等級を引いた値で(等級は明るいほど小さくなるため)、色指数が小さいほど高温で青く(シリウスはB-V=0.00)、大きいほど低温で赤い天体(ベテルギウスはB-V=1.85)となる。通常の主系列星は、Bバンド(青)からVバンド(緑)付近でスペクトルの強度が最大となるため、B-V の値がよく用いられる。より高温の超巨星などではUバンド(近紫外域)を、より低温の赤色巨星などではRバンド(赤)やIバンド(近赤外域)を含めた色指数が有効となる。黒体放射も参照。
レンズ光学系では、媒質の屈折率が色(光の波長)により一定でないことから、ザイデル収差の他に色収差が生じる。鏡のみの光学系には色収差は存在しない。色収差には軸上色収差(像位置色収差、縦色収差などともいう)と倍率色収差(横色収差ともいう)がある。
軸上色収差は光軸と平行に入射する光線に対して、光軸上でレンズの焦点位置(焦点距離)が色によって変わるために生じる。倍率色収差は光軸に対して傾いた入射光に対して、焦点の光軸からの位置(高さ)が色によって変わることによって生ずる。その結果、物体像の大きさ(倍率)が色によって変わるのでこの名前が付けられている。軸上色収差はレンズの前に絞りをおいて、レンズのF値を大きくすることで、焦点深度が深くなり、目立ちにくくすることができる。一方倍率色収差はレンズの中心を通る光線でも発生するので、絞りでは軽減できない。色消しレンズも参照。
天体固有の(真の)色と観測される色の差。天体からの光は、星間ダストなどの星間物質や地球大気による吸収・散乱の影響により、観測されるまでの間にいくらかの光が失われる。この効果を減光と呼ぶが、波長の短い青い光ほどより多く減光されて実際よりも赤く観測されることから赤化とも呼ばれる。夕日が赤くなるのは地球大気による赤化が原因である。赤化の度合いが色超過であり、赤化の原因となる星間ダストのタイプを仮定することで色超過を減光量に変換することが可能である。色超過を決定するためには天体固有の色を推定する必要があるが、スペクトルに含まれる吸収線の特徴や、星団内での多数の星の色指数の分布(二色図)などから、天体固有の色を推定することが可能である。
楕円銀河の絶対等級と色の間に見られる直線的な強い相関のこと。明るいものほど赤い。色-等級関係の傾き(等級の変化に対する色の変化)は緩やかであり、関係式の周りの分散は非常に小さい。色-等級関係が傾いている主な原因としては、明るい楕円銀河ほど重元素量が多いことが挙げられる。分散の小ささは、同じ明るさの楕円銀河は極めて性質が似通っていることを示唆する。色-等級関係を過去にさかのぼって観測することで、楕円銀河の形成時期などを探ることができる。レンズ状銀河(S0銀河)にもほぼ同様の色-等級関係が見られる。
天体の色と等級の関係を図示したグラフのこと(図参照)。対象天体がほぼ同じ距離にあると考えられる場合などには観測される等級そのものである見かけの等級を用いることもあるが、それ以外の場合には等級として絶対等級を用いる。恒星や銀河を対象として示すことが多い。天体の特徴によって色-等級図上での位置が変わるので、それを利用して天体の分類をすることができる。恒星の分類に用いられるHR図は、元来は横軸がスペクトル型を用いるものを指すが、星間減光による影響が無視できる場合には、観測データがより得やすい色-等級図で代用することも多い。このため、恒星に対しては色-等級図をHR図として紹介することもある。
天文学における色補正とは、異なる測光システム間での等級の変換を色指数を用いて行うことを指す。たとえば、天体のスペクトルが滑らかであると仮定すれば、V等級とB-Vの値からBバンドとVバンドの間で定義された、別の測光システムのバンドの等級を算出することが可能である。一般社会での色補正は、画像の色情報に何らかの変換を加えてできるだけ肉眼で見たときの自然な色に近づける(もしくは際立たせる)ことを指す。
ドゥ・ボークルール則を参照。
イタリア宇宙機構(Italian Space Agency(ASI))とオランダ宇宙プログラム機構(Netherlands Agency for Aerospace Programs(NIVR))がドイツの協力を得て開発したX線・ガンマ線 衛星。1996年4月に高度600 km、軌道傾斜角3.9°の略円軌道に打ち上げられた。0.1-200 keVの広いエネルギー範囲をカバーする狭視野観測装置と、2-30 keVの範囲で 20°× 20°の広視野カメラを備え、ガンマ線バーストからのX線アフターグローを初めて1分角の精度で検出するなどの成果を挙げ、ガンマ線バーストの起源が天の川銀河(銀河系)外の天体であることの解明に大きな役割を果たした。2002年5月に運用停止、2003年4月に大気圏に再突入した。「Beppo」はパイオン(パイ中間子)の発見に貢献したイタリアの物理学者オキアリーニ(Giuseppe Occhialini)の愛称である。
ホームページ:https://www.ssdc.asi.it/bepposax/
因果律とは、一般には原因と結果の関係を意味するが、物理学においては以下のように表される。
4次元時空間において時刻と3次元的位置の4パラメータで指定されるある世界点から過去と未来に向かって光を全方向に向かって仮想的に飛ばすと、光の届く部分と届かない部分に時空間は二分される。その境界を光円錐という。ある世界点で起こる事象はその点に対して過去側の光円錐内の情報のみによって決定され、光円錐外や未来の光円錐内の情報にはよらない。これが物理学における因果律である。このことは、光速以上の速さでは情報の伝達は起こらないことと、時間は過去から未来に向かって進むことの帰結である。
ミリ波電波天文学研究所を参照。
全地球測位システムを参照。
多環式芳香族炭化水素を参照。
ミニスパイラルを参照。
天の川銀河(銀河系)の中心に位置するブラックホールに対応する天体。いて座Aと呼ばれる電波源の中にあり、電波、近赤外線、X線で観測され、点状で強度変動を示す。いて座A*周囲の恒星の運動を10年程度継続的に観測した結果、多くの恒星がいて座A*の周囲を公転していることがわかり、その運動から、いて座A*の質量は太陽の約400万倍であることがわかった。長年にわたってこれらの恒星の運動をそれぞれ独立に観測した、ドイツのマックス・プランク研究所のゲンツェル(Reinhard Genzel)とアメリカのカリフォルニア大学ロサンゼルス校のゲーズ(Andrea Ghez)は、ブラックホールの理論的研究を行ったイギリスオックスフォード大学の名誉教授であるペンローズ(Roger Penrose)と共に2020年のノーベル物理学賞を受賞した。
2019年4月10日に、おとめ座銀河団(距離約5500万光年)にある巨大楕円銀河M87の中心にあるブラックホールシャドウ(影)の画像を世界で初めて公表したイベントホライズンテレスコープ(EHT)は、2022年5月12日にいて座A*のブラックホールシャドウの画像を公開した。二つのブラックホールはともに2017年に観測されていたが、いて座A*は時間変動がある天体であったために複雑なデータ解析が必要で、解析に長い時間を要した。
太陽質量の約400万倍のブラックホールとはいえ、天の川銀河全体の質量は太陽の1000億倍以上あるので、中心から離れた所にある天の川銀河内のほとんどの天体がいて座A*だけの重力に引かれてその周囲を公転しているという、太陽系のようなイメージは力学的には正しくない。なお、ブラックホールである、いて座A*が光って見えるのは、ブラックホール周囲にある降着円盤からの放射であると考えられている。いて座Aも参照。
天の川銀河(銀河系)中心にあるブラックホール「いて座A*(Sgr A*)」へのズームインと、Sgr A*の周りの星の10年間にわたる軌道運動のデータ。ドイツの Max-Planck Institute for Extraterrestrial Physics (MPE)の研究者を中心とするチームが、ヨーロッパ南天天文台(ESO)の超大型望遠鏡に補償光学装置を付けて星間吸収の少ない近赤外線で観測した。
https://www.youtube.com/embed/DRCD-zx5QFA
銀河系中心核にあるブラックホール(いて座A*)の周りを運動する星の軌道。1995年から2016年にかけて撮影された画像から作られたアニメーション。S0-2の星の公転周期は16.17年で、観測期間はそれより長く、1公転以上が記録されている。ケプラー運動として解析するとブラックホールの質量は太陽質量の400万倍となる。なお、銀河系中心までの距離を8.6 キロパーセク(= 2万8千光年)とすると、0.1秒角は0.004パーセク(= 約5光日)に相当する。
(クレジット:このアニメーションは、W. M. Keck 望遠鏡で得られたデータから、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)のアンドレア・ゲーズ教授と彼女の研究チームによって製作されたものの一つである。)
These images/animations were created by Prof. Andrea Ghez and her research team at UCLA and are from data sets obtained with the W. M. Keck Telescopes.
出典 https://www.astro.ucla.edu/~ghezgroup/gc_edit/Latest/animations.html
Sgr A*の増光を観測した赤外線画像。画像の1辺は1秒角で、2時間の観測から作成したアニメーション。代表色表示で、青がHバンド(波長1.8ミクロン)、緑がK'バンド(2.1ミクロン)、赤がL'バンド(3.8ミクロン)に割り当てられている。増光時の色がはじめて記録された画像である。
(クレジット:このアニメーションは、W. M. Keck 望遠鏡で得られたデータから、カリフォルニア大学ロスアンジェルス校(UCLA)のアンドレア・ゲーズ教授と彼女の研究チームによって製作されたものの一つである。)
These images/animations were created by Prof. Andrea Ghez and her research team at UCLA and are from data sets obtained with the W. M. Keck Telescopes.
https://youtu.be/L8-rBciP4CM
銀河系(天の川銀河)のブラックホールSgr A*へズームイン(国立天文台)https://www.youtube.com/embed/XY_j2M_1FiU
