天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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宇宙論的赤方偏移

宇宙膨張によって遠方の銀河のスペクトルに見られる赤方偏移

原子核は陽子中性子(総称して核子と呼ぶ)で構成されるが、これら核子どうしを結合して原子核を形作らせている力を核力という。湯川秀樹は中間子理論により核力を説明したが、その実体はグルーオンが媒介してクォーク間を結びつける強い力(自然界の基本的な四つの力の一つ)である。

コンパクト天体を参照。

中性子星を含む連星系。両方の星が中性子星である二重中性子星連星も含むほか、片方が中性子星であって、もう一方がブラックホール白色矮星、あるいは通常の恒星である連星を含む、幅広い連星系に対して用いられる。X線連星系も参照。

X線放射する単独パルサーであり、その放射エネルギーを回転エネルギーでは賄い切れない特異な天体。連星系を形成している証拠もないことから、質量降着もエネルギー源として考えにくい。多くは超新星残骸の中心で発見されることから数千から数10万年の年齢であることが示唆される。表面温度はその年齢から予想されるよりも高いという特徴も持つ。近年、バーストを引き起こすことが明らかになり、同様の振る舞いを見せる軟ガンマ線リピーターと合わせて、磁場をエネルギー源とするマグネターの種族を形成していると考えられている。

パルサー、特にミリ秒パルサーのパルス放射は非常に安定な周期を持つことから、この周期を精密に測定することでパルサーと地球との間を伝播する重力波による周期変化を検出することが可能である。単体のパルサーだけでは天体固有の周期変化との区別が困難であるが、複数のパルサーの信号を解析することで、個々の天体固有の変化との区別が可能である。このような重力波の検出方法はパルサータイミングアレイと呼ばれる。この方法により、波長が地球スケールより非常に長くて地上や人工衛星で検出が困難な重力波、たとえば銀河中心核ブラックホールの合体に伴う重力波、初期宇宙相転移などに起因する重力波が検出可能である。

グリニッジ王立天文台を参照。

正規分布を参照。

コンプトンガンマ線衛星に搭載されたGeV領域ガンマ線の検出器。スパークチェンバーとNaIシンチレーション検出器を用いたカロリメータ、および反同時計数検出器を備え、ガンマ線を検出器内で起こした対生成過程でつくられた電子陽電子およびそのカスケードシャワー粒子の飛跡をスパークチェンバーでとらえてガンマ線の入射方向を、カロリメータでカスケードシャワーの電離損失を測定してガンマ線のエネルギーをそれぞれ再構成する。1999年に発表された第3カタログには271個のガンマ線源が掲載されている。同定されたガンマ線源で最も多いのはブレーザー型の活動銀河であるが、約半数近くは未同定となっている。
ホームページ:https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/cgro/egret/

はやぶさ探査機の詳細観測とサンプルリターンのターゲットになった小惑星。1998年に発見され1998 SF36の仮符号がつけられ、後に正式に登録されて、日本のロケット開発の先駆者である糸川英夫にちなんでイトカワ(25143 Itokawa)と命名された。地球接近小惑星のアポロ群に属するスペクトル型S型の小惑星である。細長い三軸不等で大小二つの塊がくっついたような形をしており、大きさは535×294×205 mである。自転周期は12.1時間、公転周期は1.5年である。
はやぶさ探査機によって持ち帰られたサンプルの研究から、以下のようなイトカワの歴史が明らかになった。46億年前の太陽系誕生初期に直径20 km以上のイトカワの母天体ができた。内部温度は約800℃まで上がった後ゆっくり冷えた。その後他の小天体の衝突で母天体はばらばらになったが、破片の一部が重力で集まってイトカワができた。宇宙風化作用で表面の色が次第に黒くなり現在に至っている。また、地球に数多く落下する普通コンドライト隕石はS型の小惑星にその起源があることも分かった。

はやぶさ2探査機の詳細観測とサンプルリターンのターゲットになった小惑星。1999年に発見され1999 JU3の仮符号がつけられ、後に正式に登録されてリュウグウ(162173 Ryugu)と命名された。浦島太郎の伝説などから竜宮(龍宮)にちなんでこの名前になった。
リュウグウは地球接近小惑星アポログループに属する小惑星である。スペクトル型がC型の炭素質小惑星で、はやぶさ探査機のターゲットとなったS型の小惑星イトカワ(Itokawa)と比べるとより始原的な天体で、有機物や含水鉱物をより多く含んでいると考えられている。反射率が低く(アルベドで4.6%)、太陽系でも最も黒い天体の1つである。直径は約900 mで、はやぶさ2探査機による観測で、全体的にはほぼ球形だが、そろばん玉のような形をしていることがわかった。自転周期は約7.6時間、公転周期は約1.3年である。
2014年12月3日に宇宙航空研究開発機構(JAXA)により打ち上げられたはやぶさ2探査機は、2018年6月27日にリュウグウに到達した。2018年9月21日にはミネルバ2というローバをリュウグウに向けて投下した。リュウグウ表面で移動中にミネルバ2が撮影した写真が翌22日に送られてきて、着地に成功したことが確認された。はやぶさ2本体は2019年2月22日にサンプル採集のための最初のタッチダウンに成功した。さらに4月5日にリュウグウ表面に直径約10 mのクレータを作り、7月11日には2回目のタッチダウンを行ってクレータ内部からサンプルを採取した。2019年12月にはやぶさ2はリュウグウを離れて地球帰還の途につき、ほぼ1年後の2020年12月に地球に帰還接近し、12月6日未明、サンプルが入ったカプセルを切り離し、カプセルはオーストラリアの砂漠で無事回収された。
はやぶさ2がリュウグウから持ち帰った約5.4グラムの砂や小石は、世界の研究機関に配布され分析が進んでいる。日米の研究チームの分析により、15種類以上のアミノ酸が検出されたことが2022年6月6日に報道された。スターダスト計画(NASA)により持ち帰られた彗星塵と隕石のいくつかからはアミノ酸が見つかっているが、初代のはやぶさが訪れた岩石質の小惑星「イトカワ」や月からはアミノ酸は見つかっていなかった。今回のリュウグウの物質の分析により、小惑星ではじめて生命の源となるアミノ酸の存在が確認されたことになる。
リュウグウとはやぶさ2探査機に関する最新のニュースは以下のサイトを参照。
http://www.hayabusa2.jaxa.jp/

以下の動画に示す3Dデータについては日本プラネタリウム協議会の「リュウグウ3Dデータの公開について」を参照。
https://planetarium.jp/ryugu/


日本プラネタリウム協議会が製作したリュウグウの動画
(リュウグウ形状モデル+可視光ベースマップ+地名)
クレジット:JAXA/会津大/神戸大/東京大/高知大/立教大/名古屋大/千葉工大/明治大/産総研

https://www.youtube.com/embed/E7-cLerCAe8

小惑星彗星、流星体(流星を参照)など太陽系小天体のなかで、近日点距離が1.3au (au は天文単位)以下で地球軌道に接近する軌道を持つ天体の総称。地球近傍天体、近地球天体などと呼ばれることもある。また、英語の頭文字をとってNEOと略称されることもある。地球接近小惑星も参照。

反転分布を参照。

宇宙ジェットの流れが細く絞られる現象のこと。日本語では「収束」という。トロイダル磁場などによって荷電粒子の流れが磁気的に細く絞られる場合と、星間空間のガス圧などによって流体力学的に細く絞られる場合がある。

光学系において、レンズや凹面反射鏡などを用いて平行光線ビームを得る(コリメートする)こと。分光器においては、対象からの光を分散素子に入射させる前にコリメートするのが一般的である。コリメートするレンズなどをコリメーターと呼ぶ。オートコリメーションも参照

局所超銀河団の銀河がおとめ座銀河団の重力に引かれて落ち込んでいる運動のこと。多数の銀河の距離と視線速度後退速度)を測定し、視線速度がハッブル流からどれくらいずれているかを調べる過程で1980年頃に発見された。天の川銀河銀河系)の場所での落ち込み速度は200-300 km/sと推定されている。銀河系も局所銀河群の銀河とともにおとめ座銀河団に引かれて落ち込んでいるが、両者の距離は宇宙が膨張している(ハッブル流がある)ので広がっている。落ち込み運動の影響は、おとめ座銀河団の周辺にある銀河で、後退速度がハッブル流より遅くなる(宇宙の膨張速度が遅くなっているように見える)効果として現れる(図1, 2, 3)。さらに1986年には、宇宙マイクロ波背景放射に対する局所銀河群の運動速度は、おとめ座銀河団への落ち込み運動と、うみへびーケンタウルス座銀河団が、局所超銀河団を引き寄せている速度の合成で説明されるとして(図4)、局所超銀河団より大規模な領域で銀河が揃った運動をしていることが指摘され、それ以後超銀河団より大きなスケールでの大規模な銀河の特異運動(bulk motionあるいはstreaming motionと呼ばれる)が活発に研究されるようになった。ラニアケア超銀河団も参照。

コリメーション(宇宙ジェット)のこと。

宇宙ジェットを参照。

素粒子に質量を与えるスカラー場(ヒッグス場)とその励起状態であるヒッグス粒子(電荷0、スピン0のボソン)の存在が1960年代半ばに提唱された。自発的対称性の破れにより真空期待値をもつようになったヒッグス場とゲージ粒子の相互作用により質量が生み出されるメカニズムをヒッグス機構と呼ぶ。フェルミ粒子とヒッグス場との相互作用は、湯川結合と呼ばれる別の機構である。ヒッグス粒子の存在が実証され、ヒッグス粒子と素粒子(ゲージ粒子とフェルミ粒子)の結合の強さが、その素粒子の質量に比例すれば、これらのメカニズムが正しいことが示される。
長年探し求められていたヒッグス粒子は、2012年7月に欧州原子核研究機構(CERN)の大型ハドロン衝突加速器(LHC)によって発見され、これによって現在の素粒子の標準模型の正しさが確認された。ヒッグス粒子は力の統一理論において、弱い力電磁気力の統一に関わる粒子でもある。湯川機構の正しさも現在検証が行われている。
1964年にヒッグス機構とヒッグス粒子などを理論的に提唱したイギリスのヒッグス(P. Higgs)とベルギーのアングレール(F. Englert)は、2013年にノーベル物理学賞を受賞した。

天文学では角度を精密に測定することがとても重要になる。天球上での天体の見かけの位置は天球座標系で表されるが、その座標は角度である。それに対応して、天球上での天体の見かけの大きさおよび二点間の距離(角距離)も角度で表す。

国際単位系(SI)では角度の単位はラジアンであるが、これは一般社会ではなじみが薄い。社会で広く用いられている角度の単位は「度」、「分」、「秒」であり記号はそれぞれ「°」、「'」、「''」である。時間の単位と混同する恐れのあるときは、「分」は「分角」あるいは「角度分」、「秒」は「秒角」あるいは「角度秒」ということがある(3分角、6秒角、など)。天文学分野でも角度はラジアンではなく12°42'30.6''のように度・分・秒(あるいは12.7085°のように小数点を付けた度で表すことが多い。ただし、見かけの大きさ(角度 $\theta$)と距離( $d$ )から天体の真の大きさ( $D$ )を求める公式

$$D=d\times\theta$$

における $\theta$  の単位はラジアンでなければならない。

1°は半円周を見込む角度( $\pi$ ラジアン)の1/180と定義されているので、$\pi$ラジアン=180°である( $\pi$ は円周率)。「分」と「秒」は時間と同じ60進法に従っている。すなわち、1'は1°の1/60、1''は1'の1/60(1°の1/3600)である。1''より小さい角度は10進法で、0.1''、0.01''等のように表記する。千分の1秒を「ミリ秒」、百万分の1秒を「マイクロ秒」と呼ぶことがある。

赤道座標系では、赤経を角度ではなく時間で表すことが多い。これは天体の観測に便利だからである。この場合の単位は時計と同じく「時(時間)」、「分」、「秒」である。角度との対応は、24時間が360°に対応するので、1時間=15°、1分=15'、1秒=15'' となる。例えばこと座のベガ(織女星)の国際天文準拠系(ICRS)による赤道座標は
赤経 183656.s33635
赤緯 +38° 47' 01.''2802
と表される。

太陽と月の見かけの大きさ(視直径)はともに約30'(0.5°)である。両者の真の直径は約400倍違うが、地球からの距離も約400倍違っているので、見かけの大きさがほぼぴったり同じになる。地球を回る楕円軌道上でが地球から大きく離れた位置で日食が起きると、月の見かけの大きさが太陽の見かけの大きさより僅かに小さくなり、皆既日食は起きずに金環日食が起きる。

最先端の天文学では角度の測定はマイクロ秒(100万分の1秒)の精度を目指している。2019年4月に発表されたイベントホライズンテレスコープによるブラックホールシャドウの周りの明るい光子球の直径は約42マイクロ秒であった。この角度は月面に置いた野球ボールを見込む角度にほぼ等しい。

角度・長さ・時間の換算表は本辞典の「有用な諸データの表」にもある。
https://astro-dic.jp/about/table/
角度・長さ・時間の換算
https://astro-dic.jp/conversion-of-angle-length-time/