天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

コースティックス

光線が重なり合い明るく見える包絡線のこと。
重力レンズ現象の用語としては、遠くにある光源から発せられた光の経路が、その途中にある天体の重力によって曲げられる重力レンズ現象において、光源面上で点状の光源(点光源)が無限大に増光される位置を結んだ曲線を指す。一般に、点光源がコースティックスを横切る際に、重力レンズのイメージ面で実際に観測される光の多重像が2個増減する。

どの慣性系から見ても、光の速度(真空中の光速度)は一定である、すなわち、光の速度は一定で、光を放出した物体や観測者の速度に依存しないという原理。アインシュタイン(A. Einstein)はこの原理を仮定して特殊相対性理論を構築し、1905年に公表した。

恒星ブラックホールなどの天体に周囲からガスが落ち込む場合、角運動量をもっているガスは主星にはまっすぐに落ちず、主星の周りにリングを形成し、 それが広がって円盤になる。これを降着円盤という。 質量M の点源の周りを円運動する粒子の回転速度$v$K、 角速度ΩK、 角運動量lKは、遠心力と重力とのつり合いの式より、

$$v_{\rm K} = \sqrt{\frac{GM}{r}}, \,\,\,\,\Omega_{\rm K} = \sqrt{\frac{GM}{r^3}}, \,\,\,\,\\\ell_{\rm K} \equiv r v_{\rm K}= \sqrt{GMr} $$

と書ける。
この回転をケプラー回転という。ここで r は中心までの距離、Gは万有引力定数である。速度、角速度とも、中心に近づくほど大きく、角運動量は逆に外側ほど大きい。内側ほど速く回っている回転円盤において粘性が働くと、内側のリングが外側のリングに対し回転方向にトルクを及ぼす。これで角運動量は内から外へと輸送される。角運動量を失ったガスは遠心力が減少するため、内側へと降着する。粘性はまた(回転運動の)運動エネルギーを熱エネルギーに転化させて円盤ガスを加熱する。こうして熱せられたガスが電磁波を出す。標準(降着)円盤モデルも参照。

質量降着の継続時間。質量降着で輝く天体のアウトバーストの継続時間に対応する。たとえば古典新星X線新星ガンマ線バーストなどの継続時間である。

地球から見て銀河面に垂直な方向。2つの方向のうち、赤緯が正の方を北銀極あるいは銀河北極と呼び、赤緯が負の方を南銀極あるいは銀河南極と呼ぶ。厳密な方向としては、1958年に国際天文学連合で決議された銀河座標系に準拠して呼ぶのが通例で、その定義により、1950年分点での赤道座標では、銀河北極は厳密に赤経12h49m、赤緯+27°24'、銀河南極は厳密に赤経0h49m、赤緯-27°24'である。これを 2000年分点の座標に変換すると、示した有効数字の精度で、北銀極は赤経12h51m26.s3, 赤緯+27°07'42''、南銀極は赤経0h51m26.s3, 赤緯-27°07'42''となる。銀河座標系銀河面も参照。

活動銀河核の大質量ブラックホールの周りに形成される低温で光学的に厚い(光学的厚さが大きい)物質。太いリング(トーラス)状になるのでこの名前がある。大質量ブラックホールへ周囲から質量降着してくる物質の一時的な溜まり場である。降着円盤トーラス(活動銀河核の)も参照。

相対性理論で用いられる用語。注目する時空上の点(事象)を原点として放射された光の束がなす四次元時空での円錐状の超平面。ミンコフスキー時空の原点からの光円錐は (ct)2-x2-y2-z2=0と表される。この光円錐の中の点と原点の間は、距離が時間差と光速度の積より短いため、情報が伝わることができる(時間的)。光円錐の外と原点の間では情報を伝えることができない(空間的)。相対性理論事象の地平線も参照。

銀河座標系を参照。

放射強度がどのように変化するかを表す放射輸送方程式

$$ \frac{1}{c}\frac{\partial I_\nu}{\partial t} +\boldsymbol{n} \cdot \nabla I_\nu =-\chi_\nu I_\nu+\chi_{\nu}S_\nu $$

$I_\nu$ は放射強度、$\boldsymbol{n}$ は放射の伝搬方向を表す単位ベクトル、$\chi_\nu$ は振動数 $\nu$ での単位体積あたりの減光係数で、吸収係数 $\chi_\nu^{\rm abs}$ と散乱係数 $\chi_\nu^{\rm sca}$ の和で書かれる)で、放射強度を増加させる割合を表す $S_\nu$ を(放射輸送方程式の)源泉関数と呼ぶ。 源泉関数は、考える問題によって異なり、局所熱力学平衡が成り立ち、等方散乱を仮定できる場合は

$$\chi_\nu S_\nu=\chi_\nu^{\rm abs}B_\nu(T)+\chi_\nu^{\rm sca}J_\nu$$

のように表される。 ここで、$B_\nu(T)$プランク関数$J_\nu$ は以下の式で定義される平均放射強度である。

$$J_\nu \equiv \displaystyle\oint I_\nu d\Omega/4\pi$$

ケプラー(Johannes Kepler;1571-1630)は近代天文学を切りひらいたドイツの天文学者。太陽系のまわりの惑星の公転運動に法則性があることを発見した。このケプラーの法則は、コペルニクス(Nicolaus Copernicus)に始まる太陽中心の宇宙観を確立するだけでなく、惑星運動の正確な予報を可能にし、後にニュートンが万有引力の法則を導く大きな契機となった。

シュトゥットガルト郊外の自由都市バイル・デル・シュタットに生まれ、プロテスタントのルター派のラテン語学校で初等教育を受けた。13歳でアーデルベルグ神学校、17歳でチュービンゲン大学神学部に進む。そこで数学と天文学の教授であるミカエル・メストリンに触発されて、天文学を深く学ぶようになり、コペルニクス説を支持した。1594年にグラーツ(現オーストリア)のプロテスタント神学校の数学と天文学の教師の職に就くとともに、州数学官として暦作成の任務も与えられた。当時の暦は占星術による予報を含むものであったが、ケプラーの予報は、寒波の来襲とトルコ軍の侵入を的中させ、その面で人々からの信頼を得ることになった。1596年に最初の著書『宇宙誌の神秘』を出版し、正多面体の組み合わせによる惑星軌道の理論を展開、この書がデンマークの偉大な天文学者ティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)の目にとまり、二人の交流が始まった。

神聖ローマ帝国の宮廷天文官であったブラーエの招きで、1599年にプラハに移り住み彼の助手となった。ティコの死後、ケプラーは宮廷天文官の地位を引き継いで彼の長年にわたる高精度の火星観測データを解析し、惑星は円ではなく楕円運動をすることを発見、惑星運行に関する重要な三つの法則(ケプラーの法則)を見出した。1609年の『新天文学』に第一と第二法則が、1619年の『世界の調和』の中に第三法則が述べられている。彼の楕円軌道論に基づく惑星表『ルドルフ表』(1627年)の誤差は太陽直径の1/3(10分角)で、コペルニクスによる惑星表『プロシャ表』より30倍も精度が高かった。ケプラーの天文学は広範囲にわたる斬新な研究からなっており、天文学と光学を結ぶ『天文学の光学的部分』(1603年)、『屈折光学』(1611年)などの著があり、屈折の法則、レンズの結像原理、実像と虚像、焦点距離と倍率など現代のレンズ光学の基本概念が議論されている。また、ガリレオ(Galileo Galilei)との交流の中で、新しい宇宙観を示す『星界の使者との対話』(1610年)を著わしている。さらに『新星について』(1604年)では、イエス誕生時に現われたといわれる「ベツレへムの星」に言及して、占星術の憶測と蒙昧を廃した議論を述べている。

ケプラーは40年間にわたるティコの精密な観測データを手に入れたかったが、ティコは生前にはそれを決してケプラーに渡そうとしなかった。ケプラーがプラハでティコの助手になったわずか1年半後にティコは54歳で急死した。このような背景から、ケプラーによって毒殺された可能性が議論されたことがある。1901年に彼の墓を掘り返して死因を調べた時に取り出したティコの口ひげが、1996年に粒子線による微量元素分析にかけられ、高濃度の水銀が検出されたと報告されたからである。しかし、2010年に再び彼の墓を掘り返す慎重な調査が行われ、調査チームは2012年に、毒殺を実証するのに十分な水銀あるいは他の毒物は検出されなかったと報告した。ケプラーの疑いは晴れたが、ティコとケプラーは友好的に共同研究を行ったという単純な話ではないと推測される。

 

参考:https://www.space.com/15787-johannes-kepler.html
https://www.bbc.com/news/science-environment-20344201

 

天体が電磁波(光子)を放射してエネルギーを失うために重力収縮する場合の収縮の時間スケールのこと。 天体が持っている熱エネルギーを放射により失う時間スケールである。 星などの通常の天体はその表面(光球面)温度に対応する黒体放射を放出するため、 エネルギー放出率(光度 $L$)は光球面の温度と表面積がわかれば計算できる。 したがって、天体内の全熱エネルギーをこのエネルギー放出率で割ると、 ケルビン-ヘルムホルツ時間($t_{\rm KH}$)が計算できる。 なお、(準)平衡状態にある天体においてはビリアル定理により天体の全エネルギーと天体の重力エネルギーの絶対値は同じ程度の大きさであるため、通常は簡単に

$$ t_{\rm KH}= \frac{GM^2}{RL} $$

としてケルビン-ヘルムホルツ時間を定義する。 ここで、$G$ は万有引力定数、$M、R$ は天体の総質量、半径である。 HR図上の林トラック上に存在するTタウリ型星は重力収縮で解放されるエネルギーで輝いているため、 Tタウリ型星の寿命(滞在時間)はケルビン-ヘルムホルツ時間に対応している。 主系列星である太陽などの核反応エネルギーで輝いている星はケルビン-ヘルムホルツ時間よりもはるかに長い寿命をもつことになる。

座標条件を参照。

ゲージ変換を参照。

銀河座標系を参照。

電磁気学における電磁ポテンシャルには任意関数分の不定性があり、この不定性を取り直す変換をゲージ変換と呼ぶ。電磁気学は U (1) ゲージ理論で記述されるので、この不定性すなわちゲージ自由度はスカラー関数値をとるが、SU (2) や SU (3) などの非可換ゲージ理論では、各ゲージ群の要素となるような関数自由度によってゲージ変換が表現される。また、相対論的宇宙論における一様等方時空の周りの摂動論では、摂動変数は背景となる一様等方時空の取り方の自由度だけ不定性を持つ。この背景時空の取り方の変更もゲージ変換と呼ばれる。ゲージ変換によって不変な量をゲージ不変量という。電場や磁場のような物理量はゲージ不変量である。

ゲージ粒子を参照。

素粒子の相互作用(素粒子間に働く力:四つの力を参照)の記述に際し、ゲージ変換に対して作用が不変であるという要請を取り入れた理論のことをゲージ理論と呼ぶ。変換群が U (1) 群のとき、可換ゲージ理論と呼び、電磁相互作用(電磁気力)がこれに相当する。一方, 変換群が非可換群のときは非可換ゲージ理論と呼び、これはヤン(C.N. Yang)とミルズ(R. Mills)により提唱された。今日では、電磁相互作用だけでなく、弱い相互作用(弱い力)、強い相互作用(強い力)、重力相互作用(重力)を合わせた4つの相互作用(力)がすべてゲージ理論で表現できることが知られている。ワインバーグ-サラム理論も参照。

激しい緩和を参照。

一般相対性理論では、時空の近傍の2事象間の4次元的間隔をそれらの間の座標差の2次式で表す。この2次式の係数をメトリックテンソル、あるいは単にメトリックという。2事象間の4次元的間隔は座標系の取り方によらずその値を変えないが、メトリックの各成分は座標系によって値を変える。

電荷をもたない球対称ブラックホール時空を表すシュバルツシルト解では、事象の地平面で計量(メトリック)のある成分が無限大になってしまい、一見事象の地平線で時空の特異点であるかのように見え、シュバルツシルト特異点と呼ばれたこともあった。実際には事象の地平面で時空の曲率は無限大にならず、事象の地平面は特異点ではない。1960年、クルスカル(M. Kruscal)とセケレス(G. Szekeres)は独立に、この時空に対して事象の地平面でメトリックのあらゆる成分が無限大にならないような座標系 $(u,v)$ を見出した。

この座標系に基づいてつくられた時空図をクルスカル図、またはクルスカル-セケレス図という。この座標系では事象の地平線では光の世界線は時空の至るところで ±1 の傾きをもち、因果関係が見やすくなっている。また、この座標系ではブラックホール時空を表すばかりでなく、ホワイトホール時空も同時に表す。この座標は解析接続できて事象の地平線の外側に2つの漸近的に平坦な領域が存在する。この時空図で表される時空を、「極大拡大されたシュバルツシルト時空」という。

双曲型偏微分方程式を数値計算により安定に解くための条件。波動が伝播する速度(波動の位相速度と流体の速度の和)を$v$計算格子の格子間隔を$\Delta x$とするとき、安定な解を得るための時間刻みは

$$\Delta t \leqq C \Delta x/v$$

に制限される。これをクーラン条件またはCFL(Courant-Friedrichs-Lewy)条件と呼ぶ。ここで$C$ はクーラン数と呼ばれる定数である。クーラン条件を満たさない場合、数値不安定が発生して計算が破綻してしまう。高解像度を得るために格子間隔を小さくすると、クーラン条件により時間刻みも小さく制限され、時間ステップ数も増える。陰解法と呼ばれる差分の方法を用いるとこの制限を回避することができるが、計算が複雑になる。差分法線形安定性も参照。