天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ダイナモ作用

ダイナモ機構を参照。

恒星の振動から内部構造を探る星震学の研究と、太陽系外惑星の探査という2つの目的のために、フランスを中心とする国際協力で開発された天文衛星。ヨーロッパ宇宙機関(ESA)により、2006年12月27日打ち上げられた。口径30 cmの望遠鏡で、恒星の明るさを極めて高い時間分解能で精密に測定した。2009年には、初めての太陽系外の岩石惑星CoroT-7bを発見した。星震学の分野でも重要な研究成果を挙げた。2012年11月まで観測を行った。
ホームページ:https://www.esa.int/Science_Exploration/Space_Science/COROT_overview

金属や酸化物などを蒸発させて、対象素材の表面に付着させて薄膜を形成する方法のこと。真空中で膜物質を飛ばし素材に物理的に付着させる物理気相成長法(PVD; Physical Vapor Deposition)と、膜物質を含むガスの化学的作用を用いて素材表面に膜を成長させる化学気相成長法(CVD; Chemical Vapor Deposition)に大別される。CVDはICなどの製造過程で用いられる。反射鏡など金属膜の蒸着には主にPVDが用いられる。天体観測で用いる反射鏡は、ガラス材にPVDにより金属膜を蒸着したものが一般的である。PVDはさらに真空蒸着とスパッタリングに分けられるが、天体望遠鏡主鏡などの大型鏡の膜形成に用いられるのは真空蒸着である。

真空蒸着は、高真空(約10-4 Pa)にした容器の中に素材を設置し、膜材を蒸発させ、素材表面に衝突させることで反射膜を形成する。高真空にするのは、膜材を空気分子などと衝突させずに直進させるためと、沸点を下げて膜材の蒸発を容易にするためである。蒸発させる膜材の量や蒸発時間などを調節することで、形成する膜厚の微妙なコントロールをすることができる。また、蒸発した膜材は真空中を直進するので、膜材の蒸発装置と素材表面の配置を工夫すれば、素材全体にわたって均質な厚みの膜を形成することができる。

光赤外観測用の天体望遠鏡主鏡では、研磨したガラス材表面に100 nm程度の厚みの金属を蒸着する。赤外線用の鏡の場合には、膜厚を数100 nmまで厚くして赤外線の膜透過を防ぐ。反射膜をあまり厚くしないのは、形成膜の不均一性によって光学性能が下がるのを避けるためである。膜材としてよく用いられるのはアルミニウム、銀、金であるが、このうち、取り扱いが簡便で可視光から赤外線まで幅広い波長域で良好な反射率を有するアルミニウムが一般的である。銀は特に可視光においてアルミニウムよりも高い反射率を有するが、酸化に弱く、表面の酸化防止膜がなければすぐに劣化してしまう難点がある。金は600 nmより短い波長域では反射率が悪いが、赤外線領域においては98%以上の反射率を有し、化学的には極めて安定なので、赤外線用途に広く用いられている。ただし、金はやわらかく傷つきやすいため、保護膜をつけることも多い。反射望遠鏡も参照。

北天を中心とした全天の約1/4の天域の可視光による撮像分光サーベイで、天文学史上最も重要なサーベイ観測プロジェクトの一つとされる。過去最大の銀河赤方偏移サーベイでもある。
プリンストン大学のジェームズ・ガン(James E. Gunn)らによって構想され、1991年に米国のアルフレッド P. スローン財団からの資金援助を受けて、米国の7機関によって開始された。1992年には日本参加グループが8番目の参加機関として加わった。望遠鏡と観測装置などの建設期間中にドイツのマックスプランク天文学研究所が参加し、9つの参加機関で2000年よりサーベイ観測が開始された。
観測には、米国ニューメキシコ州のアパッチポイント天文台に建設された口径2.5mの専用広視野望遠鏡が用いられ、撮像サーベイと分光サーベイが並行して行われた。撮像観測は視野2.5度の大型モザイクCCDカメラを用いて可視域全域をカバーする5つのバンド(u, g, r, i, z)で行われ、そのデータから選ばれた分光対象天体が、640本の光ファイバーを持つ多天体分光器で分光された。観測データはシカゴ近郊のフェルミ加速器研究所へ送られ、新たに開発されたSDSS専用のパイプラインソフトウェアで解析され、一定期間後に順次公開された。観測データの公開が始まると参加希望機関が増え、後にレガシーと呼ばれるようになった約8000平方度をカバーする当初構想の観測が終わる2008年には、参加機関はさまざまな国から25機関に上った。
レガシーサーベイにおいて、撮像サーベイで検出された天体は2.3億個、分光された天体は、銀河93万個、クェーサー12万個、天の川銀河銀河系)の星46万個である。レガシーサーベイのすべてのデータは世界に公開されており、インターネットを通してダウンロードできる。このデータを用いた研究は、太陽系から宇宙論まで、天文学のあらゆる分野に及んでいる。
レガシーサーベイの成功を受けて、SDSSはさまざまな研究目的を掲げた新たなサーベイへと発展した。対象を銀河系や超新星に絞った第2次サーベイ(SDSS-II)が2005-08年にレガシーと並行して行われた。2008年から2014年までは太陽系外惑星の探査、銀河系の探査、ダークエネルギーの研究などの第3次サーベイ(SDSS-III)が行われた。2014年から2020年は、南天・北天からの銀河系の探査、近傍銀河の面分光、銀河とクエーサーの探査によるダークエネルギー研究を目的とする第4次サーベイ(SDSS-IV)が行われた。2020年からは天の川銀河、局部銀河群の銀河、クェーサー(ブラックホール)の探査を行う第Ⅴ次サーベイが進行中である。
レガシーサーベイを構想し、装置開発からデータ解析までプロジェクト全体を主導したプリンストン大学のジェームズ・ガンは2019年の京都賞を受賞した。
SDSSホームページ: https://www.sdss.org/
データ公開サイト:  https://skyserver.sdss.org/dr18/
(DR18以前の全てのサイトにもここからリンクがある)
教育やアウトリーチのためのサイト:  https://voyages.sdss.org/
京都賞受賞者: https://www.kyotoprize.org/laureates/

ダイナモ作用の強さを表す無次元量で、磁場の増幅率と拡散率の比を表す。最も単純には、これも回転流体に関する無次元量であるロスビー数の2乗の逆数になる。ロスビー数とは、流体の慣性の大きさとコリオリ力との比を表す量で、単純には流体の典型的な速度を $V$、長さを $L$、角速度を $Ω$ として $V/(2LΩ)$ である。ロスビー波も参照。

リーマン空間においてそれに沿って接線ベクトルが平行移動する曲線として定義される経路。曲線に沿って計算した長さが極値をとる停留曲線でもある。時空の場合、自己重力を無視した場合の質点の運動方程式を与える。
$\tau$ を固有時間として質点の世界線を $x^\mu=x^\mu(\tau)$ とすると測地線の方程式は次のように書ける。

$$\frac{d^2 x^\mu}{d\tau^2}+{\it \Gamma}^\mu_{\alpha\beta} \frac{d x^{\alpha}}{d\tau}\frac{d x^\beta}{d\tau}=0$$

ここで ${\it \Gamma}^\mu_{\alpha\beta}$ はメトリックテンソル $g_{\mu\nu}$ からつくられるクリストッフェル記号である。

$${\it \Gamma}^\mu_{\alpha\beta} =\frac{1}{2} g^{\mu\nu} \left( \frac{\partial g_{\alpha\nu}}{\partial x^\beta}
+ \frac{\partial g_{\nu\beta}}{\partial x^{\alpha}}-\frac{\partial g_{\alpha\beta}}{\partial x^\nu} \right)$$

重力による位置エネルギー(ポテンシャル)のこと。たとえば、質量M の質点とそこからrだけ離れたところに質点m があるとすると、この場合の重力ポテンシャルは-GMm/r である。ここでG は万有引力定数である。なお、この表式では、r が無限大になったときにポテンシャルが0になるとしている。
複数の物体の作る重力ポテンシャルはそれぞれの重力ポテンシャルを足し合わせることで求まる。MJ, MK をそれぞれの物体の質量、rJKをその間の距離とすると、重力ポテンシャルは
$ U = -\sum_{J < K}\left( \frac{GM_J M_K}{r_{JK}} \right) $ である。なお、 $\sum_{J < K}$とは J<KとなるすべてのJKの組み合わせの和をとるという意味である。
宇宙速度(脱出速度)は無限遠で力学的エネルギー(運動エネルギーと重力ポテンシャルの和)が0となるような速度として求めることができる。

気体中の分子や銀河内の恒星など、系の構成要素の速度空間における分布を表す関数。速度分布関数を $f(v)$ としたとき、速度が$v$ から $v+dv$ の範囲にある構成要素(分子)の個数は $dN=f(v)dv$ となる。マクスウェル-ボルツマン分布熱平衡にある分子ガスの速度分布関数である。

X線のうちで波長の短い(0.01-0.2 nm程度)ものの名称。電磁波も参照。

重力レンズを受けている天体の像を、一般相対性理論に基づいて記述する方程式。レンズ天体の中心方向から測った像までの角度をθ、レンズがなかった場合に観測される光源までの角度をβ、レンズによって光が曲がる角度を $\alpha$(θ) として、β = θ - $\alpha$(θ) と表される。観測者、レンズ天体、および光源の距離とレンズ天体の質量分布を与えれば解ける。

2つ(以上)の周波数を混合し、その差または和に当たる周波数の信号を取り出す回路のこと。ミキサーともいう。

量子力学と並ぶ現代物理学の基礎理論である。研究者は相対論と呼ぶことが多い。量子力学が物質の根源的な構成要素である素粒子の法則を扱うのに対して相対性理論は、物体の運動の舞台である時間と空間を対象とする。
相対性理論の登場以前の古典物理学(ニュートン力学)においては、時間と空間は物理学の対象ではなく観測者や物体の運動に無関係な絶対的な存在であった。その意味で、ニュートン(I. Newton)の「絶対時間」、「絶対空間」と呼ばれることもある。19世紀末、光速度不変の原理(あらゆる慣性系で光速度が一定であること)の発見によって、時間と空間の絶対性は崩れた。それを受けて、時間の進みと空間の尺度は観測者の運動に依存するとして物理学の体系を書き直した理論が相対性理論である。相対性理論では個々の観測者が測定する時間と空間は時空と呼ばれる4次元連続体上の座標として表され、物理量は4次元時空上で定義され、物理法則はどの座標系においても同じ形をとるとされる。
相対性理論には特殊と一般があり、いずれもアインシュタイン(A. Einstein)によって定式化された。特殊相対性理論重力以外の物理法則を扱い、4次元時空は不変で絶対的意味を持つ。それに対して一般相対性理論は重力を扱う。一般相対性理論では4次元時空ですら力学的自由度をもち、「時空が曲がる」あるいは「時空がゆがむ」と表現される。時空の曲がりが重力場とみなされる。
従来相対性理論は、光速度に匹敵するほどの速い速度の運動や非常に重力が強い状況でのみ有用とされてきたが、カーナビゲーションでは特殊相対性理論の時間の遅れと一般相対論的な時間の遅れの両方の効果を考慮してはじめて実用可能となるなど、さまざまなところで高い精度が要求される現代では、日常的にも影響のある理論となっている。

物体が自己重力により収縮する時間スケールのこと。崩壊時間ということもある。初期に平均密度ρ で圧力が無視できる球形状の物体は自己重力により収縮し、その密度は有限の時間 tff で(形式上)無限大となる。このとき、 $t_\rm{ff}=\left( \frac{3\pi}{32 G \rho_0} \right)^{1/2}$と書け、この値は初期の半径の大きさには依存しない(Gは万有引力定数)。この tff を自由落下時間と呼ぶ。自己重力系重力収縮星生成も参照。

気体から液体への変化のように、化学的、物理的に均一な物質の状態である相(phase)が他の相に移る現象。
宇宙論においてはビッグバン後にエネルギーの高い真空から低い真空に転移すること(真空の相転移)を指し、ここで解放されるエネルギー密度が宇宙の指数関数的膨張(インフレーション)を引き起こすとされる。宇宙初期には一つのみであった素粒子間の相互作用は、宇宙の温度低下とともに真空の相転移が起きて、現在の四つの力重力電磁気力強い相互作用弱い相互作用)に次第に分化していったと考えられている。ビッグバン宇宙論インフレーション理論クォーク-ハドロン相転移も参照。

質量を持つ二つの物体の質量の積に比例し、物体間の距離の二乗に反比例して働く引力(万有引力)。重力相互作用ともいう。素粒子物理学では、自然界に存在する四つの力のうちの1つである(他の3つは電磁気力弱い力強い力である)。天体の運動では重力が支配的な役割を果たす。ニュートン(I. Newton)は古典力学で重力を定式化したが、アインシュタイン(A. Einstein)は一般相対性理論により重力を時空の構造に組み込んだ。一般相対性理論の結果は、重力が弱い極限では古典力学の結果と一致する。

ただし地球上の物体に働く力を議論するときには、地球による万有引力と地球の自転による遠心力の合力が重力と呼ばれているので注意が必要である(ジオイド参照)。万有引力の法則も参照。

磁気双極子(大きさが同じで符号が逆の磁荷の対)、または円電流の作る磁場。太陽の磁場は、小さなスケールで見れば特に活動領域などで細かい複雑な構造があるが、大局的には双極子磁場となっている。

物体が持つ重力による位置エネルギー(ポテンシャルエネルギー)で、天体を無限遠にうすく広がる状態にするのに要するエネルギーで定義される。質量 M、半径 R の球状の天体が蓄えている重力エネルギーは aGM2/R である(Gは万有引力定数)。定数a は1程度の値で半径方向の密度分布による(一様密度のときは a=3/5)。星を作っている物質は、もとをたどれば宇宙空間に薄く広がっていた物質である。それらが重力場のなかで寄り集まって塊を作る。遠方から中心天体の重力に引かれて落ちてくる物質は、重力によって仕事をされて速度が増し、運動エネルギーを得る。これは、遠方にあったときに物質が持っていた重力エネルギーが姿を変えて運動エネルギーになったと考えられる。これを重力エネルギーが解放されるという。物質は衝突を繰り返したりして加熱されるので、解放された重力エネルギーは最終的には大部分が熱エネルギーとなる。星が生まれるときに中心部を核反応が起きるまで高温にしたり、ブラックホールの周りの降着円盤を高温にしたりするのは、そこに落ち込む物質が解放する重力エネルギーである。

恒星の位置(天文座標系による座標)、明るさ(等級)、スペクトル型固有運動などのデータを一定の基準と形式で収集したカタログのこと。
星表に附随して星の位置などを図で示したものは星図と呼ばれる。古くは紀元前2世紀頃にヒッパルコスが作ったとされる『ヒッパルコス星表』(46の星座を決めた)や『バイエル星図』(初めての全天星図)や『天球図譜』のもとになった『大英恒星目録』(写真観測による初めての星表;フラムスティード参照)から、近代の「ヘンリードレーパー星表」(スペクトル分類の基本となった)、「ボン掃天星表」、「SAO星表」、またヒッパルコス衛星の最新データに基づく「ヒッパルコス星表」(古代の同名のカタログとは関係ない)や11億個もの天体のデータを統合したアメリカ海軍天文台発行のNOMADまで、時代ごとにさまざまな目的のためにさまざまな星表が作られた。近現代のカタログの多くは、フランスのストラスブール天文情報センターで利用できる。
なお、最近のガイア衛星によるGaia-CRF3星表のように、国際天文準拠系を実現するものは、それが恒星ではなくクエーサーなど銀河系外の恒星状に見える天体のカタログでも「星表」と呼ぶことがある。
ストラスブール天文データセンターホームページ http://cds.u-strasbg.fr/
カタログ一覧 http://cdsarc.u-strasbg.fr/cats/cats.html

原子核が持つ量子力学的な角運動量のこと。原子核を構成する陽子と中性子の持つスピン角運動量と、それらが原子核内部で運動することに対応する角運動量とを合成した角運動量になる。電子などが磁気モーメントを持つのと同様に、原子核も核スピンに対応した磁気モーメントを持つ。核スピンも離散的な値しかとらず、それを表す量子数を慣例的に変数 I で表す。陽子も中性子もスピンが1/2であり、1個の原子核内では陽子同士、中性子同士はスピンが互いに反並行となっている2個が組になっている方が安定なので、それぞれ偶数個の合成スピンは0となる。このため、原子番号と質量数が共に偶数の原子核の核スピンは0となるが、一方だけが奇数の原子核の核スピンは半整数、両方とも奇数の原子核の核スピンは整数となる。水素原子の原子核は陽子そのものなので、その核スピンは1/2である。核スピンが同一原子内の電子の電場や磁場と相互作用することで、それがない場合に対してエネルギー準位のずれが生じることが超微細構造を生じる原因である。

ニュートン(I. Newton)の万有引力の法則において現れる質量のこと。質量のある2つの物体は互いに引き合うが、その引き合う力の大きさは、それぞれの物体の質量に比例して、互いの間の距離の2乗に反比例する。ここに出てくる質量が、重力質量である。ニュートンの運動方程式においても質量が出てくるが、これは慣性質量と呼び、重力質量とは区別する。これらの2つの質量が等しいということを主張するものが等価原理であり、エトバス(L. Eötvös)らが実験により高精度で成り立つことを示した。

ごく稀に、ビリアル定理により求めたビリアル質量を指すこともある。