天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

New

「QRコード付き名刺型カード」ダウンロード(PDF)

銀河系

太陽系が属している銀河のこと。解説は天の川銀河を参照。
「銀河」は今日英語では「galaxy」と表記されるので、一般の銀河と区別して太陽系が属している銀河(歴史的にはGalactic Systemと表記されていた)を指すときには「(the) Galaxy」あるいは「(our) Galaxy」の英語表記が使われた。それには日本語で「銀河系」あるいは「天の川銀河」という訳語が当てられ(文部省「学術用語集 天文学編 1974年)、一般には「天の川銀河」よりも「銀河系」が多く用いられてきた。しかし近年英語では、「銀河系」を「Milky Way Galaxy」とする表記が増えてきており、これに対して日本語では「銀河系」よりも「天の川銀河」を当てることが増えてきた。この辞典では説明文中で初出の場合にのみ「天の川銀河(銀河系)」と表記し、それ以下の文中ではどちらの用語でも同じ意味で用いている。銀河系の外にあることを強調する「extragalactic-」という英語の接頭語を日本語では「系外-」としているが、これは「銀河系外」の意味である。
ちなみに天の川銀河という名前の由来は、銀河系の一部が夜空に「天の川」として見えているからである。

夜空でめぼしい星を選ぶと、1つの大円上に集中する傾向がある。この大円は銀河面とは16°-20°傾いていて、ケフェウス座、とかげ座、ペガスス座、オリオン座、おおいぬ座、とも座、ほ座、りゅうこつ座、みなみじゅうじ座、ケンタウルス座、おおかみ座、さそり座を通る。これをグールドの帯という。太陽系から1キロパーセク(1 kpc=3000光年)程度までに分布する恒星が平面をなしているためである。銀河面と一致しないのは、太陽系を通る渦巻腕がなす面が銀河面に対して傾いているためだと考えられている。名前は、存在を指摘したグールド(B. Gould)にちなむ。

X線天文学の初期に、X線源の位置を特定する工夫の一つとして考案されたもの。X線検出器の前に、X線を通さない2枚の格子状(「すだれ」状)の金属マスクを一定の間隔で配置し、入射するX線が点状の源か拡がった源かを判別し、さらにその方向についての情報を得ることのできる装置。単純なコリメータを用いて方向分布を測定するには、検出器とコリメータの方向を少しずつ動かして空を掃引する必要があるが、この問題を克服するため、小田 稔が1965年に考案開発し、ロケットによる観測からX線天体の位置測定を行った。後に日本のはくちょう衛星に搭載された。斜入射型X線望遠鏡の使えない硬X線ガンマ線の観測に用いられる。X線天文学コーデッドマスクも参照。

太陽系の位置で天の川銀河中心周りを等速円運動する仮想的な点。英語の頭文字をとってLSRと呼ぶことも多い。国際天文学連合による推奨値を用いれば、LSRは、銀河中心から距離8.5キロパーセク(8.5 kpc=28000光年)で、銀経 90°、銀緯 0° の方向に速度220 km s-1で運動している。太陽運動を補正することで、天の川銀河内の天体の相対運動を理解するための基準として導入される概念である。 太陽を基準とする星々の運動のデータを解析してLSRの運動を求めるが、対象とする星のサンプルによって多少の不定性がある。

電波天文学では、局所静止基準を原点とした視線速度が日常的に用いられており、この場合、太陽の固有運動が観測的に未確定であるために生じる不定性に左右されないように「太陽は局所静止系に対して1900年分点赤経18h、赤緯+30°の方向に+20 km s-1 で運動している」とする定義を使用している。
天の川銀河太陽運動も参照。

太陽からの距離が100パーセク(100 pc=326光年)以内にあるA型星417個、K型巨星422個、およびM型主系列星306個の3つのサンプルの最頻値から求められた周囲の恒星群に対する太陽運動のこと。太陽運動を参照。また、A型、K型、M型については、スペクトル分類(星の)を参照。

明るい恒星のごく近傍にある伴星や惑星など暗い天体を観測するために用いられる装置。太陽系外惑星直接撮像法による検出で広く用いられる。もともと、太陽の明るく光る部分の外側にある、コロナと呼ばれる薄い大気の観測のために開発されたのがコロナグラフであり、同様の手法を恒星の近傍の伴星、惑星など暗い天体の観測に用いたもの。像面に遮光マスク、瞳面にリオストップと呼ばれる回折光用マスクを設けることによって明るい恒星光を遮断し、星像のハローを低減する。これは古典的リオコロナグラフと呼ばれているが、最近では数多くの新しいコロナグラフの手法が提案されている。CIAOHiCIAOSCExAOSEEDSも参照。

日時計は太陽の動きから時刻を測る装置である。この場合、太陽の南中する時刻が正午、ひとたび南中してから次に南中するまでの時間が1日ということになる。このような実際の太陽の動きをもとにした時刻を視太陽時あるいは真太陽時という。
しかし、地球公転軌道が円でなく楕円であること、地球の自転軸が公転面に垂直な方向に対して約23.4°の傾きを持っていることから、太陽の動きは季節によって変動し、視太陽時は一様な時刻系にならない。
そこで、天の赤道に沿って一様に運動する平均太陽という仮想的な天体を考え、それによって時刻を定めることにした。これが平均太陽時である。視太陽時と平均太陽時の差は均時差と呼ばれる。
とくに、正午から正午までを1日とする時刻は天文時、正子(しょうし、真夜中、午前0時あるいは午後12時のこと)から正子までを1日とする時刻は常用時と呼ばれている。

アメリカ国立光学天文台が運用する南米の光学赤外線天文台。サンチャゴの北500 km、ラセレナの東南東約50 kmにある標高2200 mの山頂にある。近くにジェミニ望遠鏡のあるセロパッチョンがある。キットピーク国立天文台の4 mメイヨール望遠鏡と同型のブランコ4 m望遠鏡をメインとして、1.5 m、1.3 m、1.0 m、0.9 mの5台の望遠鏡がある。
アメリカ国立光学天文台は2019年にアメリカ国立光学赤外線天文学研究所(NOIRLab)に発展改組された。
ホームページ:https://noirlab.edu/public/programs/ctio/
NOIRLabに至る歴史
https://noirlab.edu/public/about/history-of-noao/

恒星などの点光源を望遠鏡などの光学系で結像したとき、実際の像の中心強度が理想的な回折限界像の場合の中心強度の何割に到達するかで定義される指標で、結像性能を表す目安となる。波面収差の自乗平均平方根が $\sigma$ の場合、波長 $\lambda$ でのストレール比 $S$ は、$S={\rm \exp}\,[-(2\pi\sigma/\lambda)^{2}]$ となる。完全な結像の場合、ストレール比は1となる。大型望遠鏡で、補償光学を用いない場合、ストレール比は0.01程度かそれ以下でしかない。すばる望遠鏡の補償光学系ではストレール比が0.5程度に改善される。

天体のスペクトルにみられる輝線をその発生機構で分類したものの一つ。一般に、原子内の電子が下位のエネルギー準位に遷移すると、エネルギー差に相当する波長の光子(輝線)が発生する。遷移は、それに伴う量子数の変化が選択則と呼ばれる規則を満たす場合にのみ起こる。このため許容遷移という。電気双極子放射の許容遷移によって発生する輝線を許容線という。主な許容線の自然遷移確率は 1 秒当たり 105 から 108 と高い。禁制線も参照。

物体はその質量、組成によらず重力場中で同じ加速度で落下するという観測事実は慣性質量重力質量が等価であることを示している。またこれによって、一様重力場は一様加速度系と同等とみなすことができる。重力のこの性質を等価原理という。
アインシュタイン(A. Einstein)は等価原理に基づいて一般相対性理論を作った。実験的にはニュートン(I. Newton)が振り子を使って確かめた。等価原理が正しければ振り子の周期はひもの長さと重力加速度だけで決まる。ニュートンはそれをおもりの質量やおもりの素材を変えて、1000分の1の精度で確かめた。19世紀後半にはハンガリーのエトバス(L. Eötvös)がねじり秤を使って、慣性質量と重力質量が10億分の1の精度で一致することを示した。1970年代にはその精度は1兆分の1に達している。

許容線を参照。

宇宙マイクロ波背景放射(CMB)からの光が、銀河団プラズマ中にある大量の高温電子の中を通るときに、逆コンプトン散乱を受けその黒体放射スペクトルに歪みが生じる効果を指す。略してSZ効果とも呼ばれる。このとき、エネルギーの低い、つまり振動数の小さい(波長の長い)光子は電子からエネルギーを得る結果、長波長側から短波長側へ光子が移送されてCMBのスペクトルが歪む。このため、周波数 218 GHz(波長約1.38 mm)を境として、周波数の低い/高い側で観測するとCMBの温度が実際より低く/高く観測される。

天球上で見ると、銀河団の中心で電波強度が、低周波数域では弱く高周波数域では強くなったように見える。この熱的SZ効果の他に、銀河団がCMBに対して運動するためにドップラー効果で生じる運動学的SZ効果があるが、それは二次的なもので大きさはずっと小さい。

 

突発天体を参照。

エネルギーの大半を赤外線で放射していてその光度が太陽の1兆倍を超える銀河のこと。英語の省略形ULIRGがそのまま使われることもある。それより一桁小さい1千億倍以上の光度をもつ銀河を高光度赤外線銀河(LIRG)と呼ぶ。これらの銀河では爆発的な星生成スターバースト)が起こっていると考えられ、若い星から供給されるダストがガス中に大量に存在し、若い星から放射される強い紫外線や可視光線の大半をそのダストが吸収し、温まったダストが赤外線でエネルギーを再放射しているものと考えられる。この天体は銀河同士が相互作用しているものが多く、それが引き金となって爆発的な星生成が起こっていると解釈されている。このような銀河は、少なくとも宇宙の後半生においては、昔ほどその割合が高かったことが知られている。LIRGやULIRGの中には中心にブラックホールがある活動銀河核を持つものがある。

星生成を始めたばかりで、その質量(ダークマターを除く)の大部分は星でなく、ガスであるような銀河。構成する星は初代星およびそれらとほぼ同時期に生まれた星である。ガスは必ずしも原始組成である必要はなく、過去の別の銀河の星生成に由来する重元素で汚染されていてもよい。しかし、重元素汚染の程度は低いと考えられる。原始銀河は過去(すなわち遠方)の宇宙にあって、定義により存在時間が短いため、確実な候補はまだ見つかっていない。星生成に伴う強いライマンα(アルファ)輝線や青いスペクトルが目印になると考えられている。

近年、赤方偏移 z=10 を越える銀河(今から134億年前よりも昔の宇宙:宇宙年齢は4億年より若い)にある銀河が見つかり始めているが、これらは原始銀河に近いものと考えてもよい。

ジェームズ・ジーンズ(Sir James Hopwood Jeans;1877-1946)はイギリスの物理学者・天文学者。理論天文学において幅広く先駆的な業績を残し、イギリス王立天文学会長、王立協会副会長を歴任している。イギリスのサウスポートに生まれ、トリニティ・カレッジで学んだ。1903年にケンブリッジ大学で修士号を取得、1904-09年はアメリカのプリンストン大学の応用数学教授を務め、1910年にイギリスに戻り、ケンブリッジ大学の教授となり、1935年から王立研究所の教授職を務めた。気体分子運動論、電磁気学、量子論など基礎物理学に基づく天文学的研究がある。気体力学では、ガス塊の安定性の理論であるジーンズ不安定性、放射の理論では、レイリー‐ジーンズの近似式が有名である。回転流体の研究を発展させ、太陽系の成因説において星雲説に反対し、潮汐説を提唱し、連星の成因、星雲の生成と進化について論じた。また、恒星の構造と進化についての先駆的な研究を発表している。1922年に王立天文学会ゴールドメダルを受賞、多数の書を著わすなどの啓蒙活動も行ない、『我らをめぐる宇宙』(The Universe Around Us, Through Space and Time)、『神秘な宇宙』(The Mysterious Universe)、『物理学と哲学』(Physics and Philosophy)などの名著を残している。オルガンの名奏者でもあり、『科学と音楽』(Science and Music)という著作がある。

原始銀河のもととなった始原ガスの集まりを指し、この中でガスが重力収縮して星が生成され銀河が形作られる。原始銀河雲はそれ自身の重みやダークマターの作る重力場によって重力的に束縛された系であり、放射を出すことによってガスの冷却が十分に速く起こると、重力収縮が動的に起こってガスの密度が増大し、その中でガスは小さな塊に分裂して多数の星が生成されると考えられている。

現在の銀河団になると予想される過去の銀河の集団。主に赤方偏移 z が 2 程度以上に見つかる銀河集団に対して用いられるが、これはこの時代に銀河団の形成が始まったと考えられているからである。遠方にあって詳細な観測が難しいため、ある程度の数の銀河が現在の銀河団程度の領域に集まっていれば原始銀河団と見なされることが多い。銀河の個数や総質量などについての定量的な基準はなく、重力束縛系であるかどうかも問わない。厳密に定義されていない用語である。

多層膜X線反射鏡において、多層膜の周期長を表面近くでは広く、内側に行くほど狭くなるよう変化させると、低エネルギーのX線は表面近くで、透過力のある高エネルギーのX線は内側で反射され、単純な多層膜に比べ、有効に反射するX線のエネルギー範囲を広くすることができる。これをスーパーミラーあるいは多層膜スーパーミラー(multi-layer supermirror)と呼ぶ。硬X線領域(10-100 keV)での撮像観測を可能にする技術として、次世代のX線天文学 衛星に利用される予定である。