天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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ホームステイク実験

デービス(R. Davis)らがアメリカのホームステイク(Homestake)金鉱山(サウスダコタ州)の地下において1960年代に開始した実験で、世界で初めての太陽ニュートリノ観測実験である。

この実験は、615 t のテトラクロロエチレン(C2Cl4)を用い、ニュートリノと 37Cl の反応により生まれる 37Ar を約80日ごとに回収し、37Ar の崩壊数を低バックグラウンド比例計数管によって計測した。こうした実験手法は放射化学法と呼ばれ、あるエネルギー閾値以上のニュートリノの積分量を測定することになる。ニュートリノと 37Cl との反応のエネルギー閾値は0.814 MeVであり、37Ar の生成率に寄与するのは主として太陽ppチェインのうち不安定な 8B が崩壊するときに放出される 8B ニュートリノである(約76%が 8B ニュートリノ、15%が 7Be が電子を捕獲して 7Li とニュートリノになる反応で生成される 7Be ニュートリノ、他は pep三体反応によるものと CNOニュートリノなど)。ホームステイク実験が観測した 37Ar の生成率は約0.5個/日であり、標準太陽モデルの予想値約1.4個/日に比べて1/3しかなく、これを「太陽ニュートリノ問題」として提起した。ニュートリノ天文学も参照。

電子の密度ゆらぎに伴い励起される縦波の波動の一種であり、長波長ではプラズマ振動に漸近する。1920年頃にラングミュア(I. Langmuir)とトンクス(L. Tonks)による放電管の実験で、荷電粒子間の平均自由行程よりも短い波長の縦波が励起されることが発見され、電離気体(プラズマ)中では、中性の気体では現れない波動伝搬が起こりえることが明らかになった。今日この波動がラングミュア波動と呼ばれるようになった。

地平座標系を参照。

3枚の球面反射鏡を組み合わせた1対1再結像光学系。第1反射鏡(M1)と第3反射鏡(M3)は同一の凹球面鏡の一部となっており、第2反射鏡(M2)は第1、第3反射鏡と同心の凸球面鏡でその曲率半径は第1、第3反射鏡の半分である。第1、第3反射鏡の収差が第2反射鏡の収差を打ち消す設計で、3次の収差であるザイデル収差が5つともすべてゼロとなる。欠点は倍率が1に限られることであるが、逆にその条件のもとでは容易に収差の少ない光学系が設計できる。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が、マーズエクスプロレーションローバー計画火星に送った二つの火星着陸探査車(マーズローバー)の一つ。もう一つはスピリット。火星表面の地質を観察して岩石を分析した。
2003年7月7日に打ち上げられ、2004年1月25日に、火星のメリディアニ平原に着陸した。エアバックにより着陸したオポチュニティが静止した場所は、直径20 mのクレーターの中であった。このイーグルクレーターの内部に、火星ではこれまで確認されていなかった堆積岩地層を発見した。また、含水鉱物や、ブルーベリーと名付けられた球粒のヘマタイト酸化鉄を発見している。その後、14年あまりの期間、45 km以上の距離を移動して、表面の探査を続けた。その途中、エンデュランス、ビクトリア両クレーターの内部に降りている。電源は太陽電池であるが、電気回路部を保護するため放射性熱源を保有している。2018年6月に砂嵐に見舞われて通信が途絶え、それ以降復旧できずNASAは2019年2月に運用終了を発表した。オポチュニティは、地球以外の天体表面で最も長く探査活動を行った探査機である。キュリオシティも参照。
ホームページ:https://mars.nasa.gov/mer/home/

18世紀に彗星を探していたフランスの天文学者メシエ(C. Messier, 1730-1817)が彗星と紛らわしい拡がった天体のカタログとして作成したもの。メシエカタログに含まれる天体は頭文字Mの後にカタログ掲載の順番号をつけて表記される。メシエは1751年からパリのクリュニー僧院跡の観測所で半世紀以上も観測を続け、生涯で13個の彗星を発見した。1774年からはメシャン(Pierre F.A. Méchain)が観測に協力した。

メシエカタログの第1版は1774年に出版され、M1~M45の45天体を含んでいた。これに対してM46~M68の23天体を追記した第2版は1780年に出版された。さらに1781年にはM69~M103の35天体を追記した最終版(M1~M103)が出版された。その後、メシエやメシャンが観測した記録のある7天体(M104~M110)について歴史家による調査確認などが行われ、1970年頃までにM1~M110の110天体をメシエカタログの天体、すなわちメシエ天体とすることが広く合意された。

メシエ天体には、超新星残骸の M1(かに星雲)、球状星団の M3、渦巻銀河の M31(アンドロメダ銀河)、輝線星雲の M42(オリオン星雲)、散開星団の M45(プレアデス)、惑星状星雲の M57(環状星雲)、楕円銀河の M87など、明るくアマチュアにも人気のある有名な天体が含まれている。 パリから観測が難しい赤緯-35度以南の大小マゼラン銀河などは含まれていない。

 

メシエ天体の一覧は本辞典の「有用な諸データの表」にある。
https://astro-dic.jp/about/table/
メシエ天体
https://astro-dic.jp/messier-objects/

相反する2つ以上の過程が均衡しているため、全体の様子に変化が生じないこと。2つ以上の力がつり合っている力学的平衡、互いに逆方向に進む化学変化が同速度で進んでいる化学的平衡、エネルギーや圧力が均衡している熱力学的平衡などがある。
初期宇宙は高温・高密度状態にあったとよくいわれるが、温度という概念が正確に定義できる熱平衡状態が成り立つためには、巨視的に見て静的な状態が実現していなければならない。実際には宇宙は膨張しているので、膨張の時間スケールすなわち宇宙年齢に比べて反応の起こるタイムスケールが十分短くなければ熱平衡状態は実現しない。宇宙に存在する物質粒子同士の反応にはさまざまな強度のものがあるので、その種類によって十分速く起こるかどうかは異なっている。反応の早さと宇宙膨張率の比較により、平衡状態は以下の3つに分類できる。
1. 運動学的平衡(kinetic equilibrium)
反応の前後で粒子の種類の変わらない、弾性散乱のみが活発に起こっている状態。これによって粒子のエネルギー分布は平衡状態となり、ボース粒子ボース統計フェルミ粒子フェルミ統計に従う。しかし各成分の化学ポテンシャルの間には特段の関係はない。
2. 化学平衡(chemical equilibrium)
上記の反応に加え、反応前後で粒子の種類が変わるような反応も宇宙膨張より早く起こっている状態。分布関数の形は運動学的平衡の場合と同じだが、反応の前後の化学ポテンシャルの総和が等しくなる。
3. 熱平衡(thermal equilibrium)
最上位の平衡状態であり、考え得るすべての反応が宇宙膨張よりも早く起こっている状態である。非保存量に対応した化学ポテンシャルはすべてゼロになる。

フランスのパリ郊外のムードンにある、パリ天文台の支所。パリ市街の発展によってパリ天文台での天体観測が困難となったために、建設された。84 cm屈折望遠鏡を使用しての惑星研究や40 cmの二連屈折望遠鏡を使っての太陽の観測研究が有名。ほかに、100 cmと60 cmの反射望遠鏡を持つ。
ホームページ:https://www.obspm.fr/-histoire-du-site-de-meudon-.html?lang=fr

原子番号2の元素。元素記号でHeと表記される。質量数4のものがほとんどだが、3の同位体もわずかに存在する。存在量は水素に次いで多い。
その存在は、1868年の皆既日食時に取得された彩層のスペクトル線の中に新たに見出された輝線としてフランスのジャンサン(P.J. Janssen)により発見された。これがその時点で知られていない元素であると結論したのはイギリスのロッキャー(Sir N. Lockyer)であり、当時地球には見つかっていなかった太陽固有の元素ということでヘリウムと名づけられた。地球上では1882年にヘリウムの存在が確認された。

プラズマ中の波動の位相速度と粒子の速度が一致するとき、粒子は同じ位相の電場と長時間相互作用をすることができる。このような性質をランダウ共鳴と呼ぶ。もし波動とランダウ共鳴する粒子の速度に対して、その速度分布関数の傾きが負であればランダウ減衰となり波動は減衰し、一方傾きが正であると運動論的プラズマ不安定が起き波動の振幅は増大する。

粒子間の衝突が無視できる無衝突プラズマ中において、波動のエネルギーが、波動と粒子のエネルギー交換により減衰する効果であり、旧ソ連の物理学者ランダウ(L.D. Landau)によって見出された。波の位相速度 $v_{\rm ph}$ とほぼ同じ速度で運動する粒子は、波動の電場と長時間相互作用することでエネルギー交換を行うことができる(ランダウ共鳴)が、$v_{\rm ph}$ より速度の遅い粒子は波のエネルギーを獲得して加速され、一方 $v_{\rm ph}$ より速度の速い粒子は波にエネルギーを与えて減速する。通常のマクスウェル-ボルツマン分布の速度分布関数では、$v_{\rm ph}$ より速度の遅い粒子の数が速度の速い粒子より多く存在するので、プラズマ中の波動は減衰していくことになる。ランダウは、ラングミュア波動に対して線形化されたブラソフ方程式にラプラス-フーリエ変換を用いることでこの過程に物理的意味付けを与えた。

1965 年、エリック・ベックリン(Eric Becklin)とノイゲバウアーによりオリオン大星雲中に発見された波長 2μm の近赤外線で明るく輝く点源(BN 天体)。
彼らは1967 年までに1.6μm から10μm までの測光を行い、温度が700K と普通の恒星よりも著しく低温の天体であることを明らかにした。また同1967 年、クラインマン(D.E. Kleinmann)とロウ(F.J. Low)は22μm の観測により、BN天体から20 秒角はなれた場所に、温度70K とさらに低温で太陽光度の10 万倍で明るく輝く赤外線星雲(KL 天体)を発見した。
可視光でなく赤外線で観測されたことはこれらの天体が分子雲内部に埋もれていることを意味している。
さらに、恒星よりも温度が低いことはこれらの天体が周囲の星間ダストを加熱しその熱放射を見ていることを示唆しており、まさにこの場所で恒星が生成されていることを表している。

水素分子には、2つの原子核(陽子)の核スピンの向きが揃っている場合と反平行の場合の2種類の状態が存在する。 揃っているものをオルソ水素(オルト水素ということもある)、反平行の場合をパラ水素と呼ぶ。 2つの状態間の変換は核スピンを変換しなければならないため気相ではほとんど起こらず、お互い別々の分子であるかのように振る舞う。 この2つの状態は、化学的性質に違いはないが、物理的性質(比熱や熱伝導率など)がかなり異なり、核スピン異性体と呼ばれる。 フェルミ粒子である水素原子核(陽子)の置換に対する分子全体の波動関数の対称性の性質により、オルソ水素は回転量子数が奇数(J = 1, 3, 5, ...)のみの回転状態が存在し、逆にパラ水素は回転量子数が偶数(J = 0, 2, 4, ...)のみの回転状態が存在する。星間分子回転遷移も参照。

見かけの明るさが波長ごとに正確に求められており、分光観測データの波長感度校正を行うために用いられる恒星のこと。分光測光標準星ともいう。分光標準星としては、強い輝線や吸収線がなく、全体的になめらかな連続スペクトルを持ち、しかも孤立した恒星が望ましい。そのような条件を満たすものとして、孤立した白色矮星やA型主系列星などが選ばれている。F型星以降の晩期型の恒星は、多数の金属吸収線によって複雑なスペクトルを示すため、分光標準星としては適さない。標準星も参照。

流体中に生じる不規則な流れのこと。日常的な経験から、物体の周りに生じる流れの様子は、一般に流速に応じて変化することがわかる。流速が遅い場合には、流れは比較的規則的な層流となるが、流速が大きくなると、流れは乱れを生じ、不規則な変動を伴う。このような乱れた流れを乱流と呼ぶ。流れが乱流状態になるかどうかは、レイノルズ数と呼ばれる無次元量が良い指標となる。一般にレイノルズ数が1000程度を超えると、乱流が発達する。宇宙の流体はしばしばレイノルズ数が大きく、乱流状態にあると考えられている。乱流の典型的速度が音速よりも大きくなるような超音速乱流もしばしば発生する。たとえば、星生成の現場である星間分子雲で観測される分子輝線は、分子ガスの熱運動から予想される線幅よりも広がった輝線幅が観測されることから、超音速乱流状態にあると考えられている。

1. 光学において、入射光の波長が分散素子などによって分離される現象あるいはその度合いを指す。色分散あるいは波長分散ともいう。この用語に対する英語はdispersionである。
2. 確率・統計の分野では、分布(データ)のばらつき具合の指標(通常σ2で表される)で、平均値(期待値)の周りの2次のモーメントのことである。この用語に対する英語はvarianceである。分散の平方根σは標準偏差(standard deviation)と呼ばれる。

媒質中に乱流場があると、流れの中の小さな渦運動が粘性と同じように接線応力を生み出し、局所的に粘性力が生じたようにみなすことができる。このように乱流状態にある流体中に働く粘性を乱流粘性と呼ぶ。宇宙の流体はしばしば乱流状態にあり、乱流粘性によって運動量やエネルギーの輸送が起こる。たとえば、天体の周りにできる降着円盤では、円盤の差動回転によって磁場が捻じられ、磁気回転不安定性によって(磁気)乱流が発生すると考えられている。この磁気乱流中に働く乱流粘性によって角運動量が失われ、円盤内の媒質は中心へと落ち込み、中心天体への質量降着が起こる。

潮汐半径と同じ。衛星に働く惑星重力の強さが、惑星に近い側(または遠い側)の衛星表面と衛星中心とで異なり(潮汐を参照)、このことが原因で衛星に働く力を潮汐力と呼ぶ。衛星が惑星の十分近傍を公転している場合、潮汐力が衛星の自己重力よりも大きくなり、衛星を破壊しようとする(潮汐破壊)。衛星の物質強度を無視し自己重力流体であると近似した場合、衛星が潮汐破壊を受けてばらばらになる臨界の衛星軌道半径のことを、ロッシュ限界(またはロッシュ限界半径)と呼ぶ。惑星および衛星の密度を$\rho_c,\,\rho_p\,$、惑星の半径を$R_c$とするとき、ロッシュ限界は

$$a_{\rm R} = 2.456(\rho_c/\rho_p)^{1/3}R_c$$

と表される。太陽系の巨大惑星の衛星-リング系において、リングの存在する領域はほぼロッシュ限界より内側となっている。しかしリング粒子や衛星は流体ではないため、リング-衛星の境界とロッシュ限界の対応は厳密ではない。

なお、ロッシュ限界のことを「ロッシュ半径」ということもあるが、天体の重力圏の大きさを表す半径(ヒル半径を参照)のことを「ロッシュ半径」と呼ぶこともあるので、注意が必要である。

私たちが暮らす宇宙は時間方向1つ、空間次元3つの4次元時空でできている。しかし、相互作用の統一理論の立場からは3を超える空間次元を考え、4つめ以降の空間次元は小さすぎるか、あるいは遮蔽されていることによって観測にはかからない、という高次元理論が多数考えられている。その嚆矢はすでに1920年代にカルツァ(T. Kaluza)とクライン(O. Klein)によって与えられ、彼らは5次元時空において重力理論を考え、4番目の空間次元をコンパクト化して4次元時空の理論を構成すると、4次元重力と電磁場が現れる、という電磁力と重力の統一理論を考えた。相互作用の統一理論は、超重力理論、超弦理論と進化してきたが、超弦理論は量子異常を持たず、無矛盾に構成できるためには時空が10次元であることを要求し、4次元時空の残りの6次元空間はカラビ-ヤウ多様体にコンパクト化していると考える。このような、4次元時空を超える空間次元のことを、一般に余剰次元と呼ぶ。余剰次元の大きさが動的に変化すると、4次元宇宙に余計な場が発生したり、結合定数が変化したり、さまざまな影響が出てくることになる。

熱的電離ガス中の自由電子柱密度のこと。英語読みの発音「ディスパージョンメジャー」をそのまま用いることも多い。星間空間にある熱的電離ガス中を電波が伝播する際には、電離ガス中の自由電子が電磁波に応答する影響で、伝播速度(群速度)が真空中より遅くなる。その程度は、伝播する電磁波の周波数 $ν$ の関数となり、低周波ほどより遅くなる。このため、異なる周波数の電磁波信号が電離ガスを通過すると、透過に要する時間に違いが生じ、同時に発射された信号でも到達時間に違いが生じる。プラズマ周波数よりも十分に高い2つの周波数の場合、伝播時間の差は周波数の2乗の逆数の差に比例し、その比例係数は自由電子の柱密度に比例する。電離ガスが分布する奥行の長さを $L$ とし、熱的自由電子の数密度を $n_e$ としたときの分散量度 $DM$ は、

$${\rm DM}\equiv \int_{\rm 0}^{L}n_{\rm e}\ dx$$

で与えられる。天文学では、電子の数密度の単位を[cm -3]、視線長さの単位を[pc]として値を見積もることが多いので、それに合わせて分散量度の単位は[ pc cm -3]となる。パルサーからの電波は様々な周波数で極めて短い時間に同時に発射されるので、これを観測し、その到達時間差を周波数の関数として調べることで分散量度を測定することができる。これとパルサーまでの距離を用いて、パルサー方向の希薄な熱的電離ガスの平均密度を見積もる研究がなされている。