時の流れ(暦日:れきじつ)を測り記録し将来に向けて予測する体系をいう。そのための方法論(暦法)を含めることもある。「こよみ」と読まれることも多い。英語のephemeris(エフェメリス)は主に後述する「天体暦」を指すが、almanac(アルマナック)や calendar(カレンダー)も用いられる。日本語の「カレンダー」には、暦の情報を日常生活に便利な形に表したもの、組織などの年間行事予定表、日程表なども含まれる。
暦日を測るために古くから用いられてきたのは、規則的に繰り返す天体の運行であった。日の出・日の入りの繰り返し周期である1日(正式には1太陽日)は人間を含む生命の最も基本的なリズムを作っている。少し長い周期を持つ月の満ち欠け(周期1月;正式には1朔望月)は最も目立つ天体現象の一つで、さまざまな文明において、宗教的、政治的な儀式とも関連して重要な意味を持っていた。一方、天球上の同じ星座のほぼ同じ位置に太陽が戻ってくる周期(すなわち地球の公転周期)である1年(正式には1太陽年)は、季節の変化に対応するので、人々の生活、特に農作業の基本周期であった。つまり1月と1年は両方とも古代から重要な周期だったわけである。
1年を単位とした暦は太陽暦、1月を単位とした暦は太陰暦と呼ばれる。月の満ち欠けが12回起きるとほぼ1年になることは古くから知られていたが、1朔望月(29.53059日)と1太陽年(365.24219日)の長さは整数ではなく、また両者の比は簡単な整数比になっていない。したがって、1年を12月とする太陰暦では、暦日と季節が1年に10日程度ずれてくる。これを補正する置閏法(ちじゅんほう)と共に、両者の折衷である太陰太陽暦が考案された。我が国で明治5年まで使われていた暦(いわゆる旧暦)は、太陰太陽暦であり、各月には和名がつけられていた。現在、日本を含む世界で広く使われているグレゴリオ暦は太陽暦であるが、工夫された置閏法により季節と暦日のずれは3000年で約1日に収まっている。
現在の日本において法律上の基礎を持つ暦は自然科学研究機構国立天文台(担当部署は天文情報センター暦計算室)が毎年発行する『暦象年表』であり、冊子版(販売されていない)に加えてインターネットで見られるWeb版も提供されている。また、毎年出版される『理科年表』(国立天文台編、丸善発行)の「暦部」にも簡略版が掲載されている。毎年2月はじめに出される官報の資料欄に、翌年の暦の主要部分が「○○○○年暦要項」として掲載される(国立天文台でも発表する)。これにより、翌年の国民の祝日のなかで日付の定まっていない「春分の日」と「秋分の日」の日付が定まる。日常生活における日本の暦は、旧暦に由来する干支、六曜、二十四節気、雑節などとも深く関係している。
天体の推算位置を天体力学により計算し時刻の関数として示す天体暦として、『天体位置表』が海上保安庁海洋情報部から平成22(2010)年まで毎年発行されてきたが、2011年以降の天体暦データは、暦象年表Web版に引き継がれている。天体暦に基づいて、航海する船が天体の観測から自分の位置を知るために便利なように作られた航海暦があり、平成17年までは、外洋を航海する船舶はこれらを備え付けることが義務づけられていたが、現在では衛星航法装置(全地球測位システム参照)または電波航法装置に置き換わっている。
国立天文台天文情報センター暦計算室の暦に関するサイト。「今日のほしぞら」も見られる。
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
暦象年表のWeb版:https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/cande/
球対称な自己重力系の構造を表す方程式。名称はレーン(J.H. Lane)とエムデン(R. Emden)からとられている。恒星の内部構造は、静水圧平衡、連続の式、状態方程式、エネルギー輸送、エネルギー保存、および吸収係数の式で記述される。このうち、静水圧平衡の式と連続の式は
$$ \frac{dP}{dr}=-GM_r\frac{\rho}{r^2}\,,\,\,\,\,\frac{dM_r}{dr}=4\pi r^2\rho $$
(ここで $M_r$ は星の中心から半径$r$ 内の質量、$\rho$ は密度、$P$ は圧力、$G$ は万有引力定数)と表される。一般に圧力は密度と温度によるが、$P=K\rho^{(1+1/n)}$ の形(ポリトロープ)を仮定して解くとエネルギーの式から分離され、
$$ \frac{1}{z^2}\frac{d}{dz}\left(z^2 \frac{dw}{dz}\right)=-w^n $$
を得る。ここで
$$ z=A r,\quad A^2=[4 \pi G/(n+1)K] \rho_c^{(n-1)/n},\,\,\,\,
w(z)=(\rho/\rho_c)^{1/n},\,\,\,\,\rho_c=\rho(0) $$
である。
これをレーン-エムデン方程式という。これにより、ポリトロープ関係の$n$ (ポリトロープ指数)を与えれば星の中心からの距離とガス密度の関係を得ることができる。
国立天文台がその設置目的(国立大学法人法施行規則第1条)の一つである『暦書』の編製として刊行する冊子であり、法律上の基礎を持つ日本の公式の暦である。暦象年表には、二十四節気、朔弦望、日月食などの天文現象や太陽、月、惑星の位置などが記されている。暦象年表から主要項目を抜き出した暦要項は、前年2月の最初の官報に公示され、翌年の「国民の祝日」のうち、春分の日と秋分の日がこれによって確定する。2008年までは理科年表の「暦部」とほぼ同じデータを掲載していたが、以後はより拡張したデータを掲載している。また、暦象年表のWeb版は以下のサイトで見られる。暦(れき)も参照。
暦象年表Web版:https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/cande/
太陽系天体の位置観測に基づいて決める時刻系。平均太陽時は地球の自転をもとにした時刻系であるが、観測精度が高まるにつれて地球の自転が一様ではないことがわかってきた。一方、太陽系天体の運動はほぼニュートン(I. Newton)の万有引力の法則に従うものであり、時刻は一様に流れるものと考えられる。そこで、1956年の国際度量衡総会では、太陽系天体を観測し、その位置から逆に求めた時刻、すなわち暦表時を採用することになった。
具体的には、1秒の長さを1900年1月0日12時の太陽年の31556952.9747分の1と定義し、1900年の年初付近で太陽の幾何学的平均黄経が279°41'48.04"になる瞬間を1900年1月0日12時とした時刻系が暦表時である。
暦表時の決定はおもに月の観測によるが、その決定精度は低く、1967年の国際度量衡総会では、原子秒が導入されることになる。
電波を光子として検出する検出器で、熱として検出するボロメータ(熱型検出器)とは異なり、光子のエネルギーを電流やインダクタンスの変化として検出する。ヘテロダイン受信機は、干渉性を保存するコヒーレントな受信であるのに対し、電波天文学で(受信機ではなく)検出器というときは、観測する電波のエネルギーを測定する干渉性を保持しないインコヒーレントな検出を指すことが多い。2次元アレイ型検出器も参照。
エドワード・モーンダー(Edward Walter Maunder;1851-1928)はイギリスの天文学者。しばしばマウンダーとも表記される。ロンドンに生まれ、キングスカレッジに入学したが卒業せずに銀行に勤め、1873年グリニッジ天文台の分光観測助手となり、以後40年間、太陽黒点の写真観測などに従事した。太陽面上の黒点の出現位置が11年周期で変化することを示す蝶型図を発表した。モーンダーの蝶形図とも呼ばれる。古い黒点観測を集めて長期間の太陽活動を調べ、1645-1715年の約70年間は太陽活動が異常に不活発であったことを見出した(モーンダー極小期)。兄弟のトーマスとともにアマチュアを含めた大英天文協会(British Astronomical Association, BAA)を創立し、会長や編集長を務めた。王立天文学会会員。
日、週、月、年などを数える暦(れき)を天体(特に太陽と月)の規則的運行に基づいて作る方法。1日の長さは地球の自転周期で決まるが、1太陽年(365.24219日)と1朔望月(29.53059日)はいずれも1日の整数倍でなく、また互いに簡単な倍数関係でもないために、周期的に繰り返す長期間安定した暦を作るのは容易ではない。暦法は、朔望月を基にした太陰暦、太陽年を基にした太陽暦、両者の折衷法である太陰太陽暦に大別される。季節と暦のずれが大きくならないようにするために、うるう(閏)として余分な日や月を挿入するさまざまな規則(置閏法)が考案された。
ユリウス暦、グレゴリオ暦も参照。
干支とは十干と十二支を組み合わせて作った符号で、10と12の最小公倍数である60の組み合わせがある。十干(甲乙丙丁戊己庚辛壬癸)は、きのえ・きのと、ひのえ・ひのと、つちのえ・つちのと、かのえ・かのと、みずのえ・みずのとであり、読み方からわかるように、それぞれ2つ組(兄弟)として木・火・土・金・水に対応する。古代中国で物質の起源と考えられていた5元素に対応する。古代から知られていた太陽系内5惑星(地球は除く)がこの5元素と同じ名前であることは、中国の思想を反映しているものと思われ興味深い。「えと」という日本での読みは、兄(え)と弟(と)の繰り返しに由来する。十二支(子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥)は動物の名前に由来する。
60組の符号の順番からなる日付けの干支は中国の殷の時代から今日まで連綿とつながっている。干支を年にもつけて記録するようになったのは少し後で、紀元前1世紀頃からと言われている。干支の影響は、「戊辰戦争」や「甲子園」などのようにその年を表すのに用いられる他、「還暦」のお祝いなど、今でも日常生活に残っている。60年ごとに巡ってくる「丙午(ひのえうま)」の年(次は2026年)にまつわる迷信は現在でも完全には払拭されていない。
時間あるいは空間一定面を横切るエネルギーおよび運動量の流束を表す物理量で、 2階のテンソルで表現される。流体静止系では、エネルギー密度(時間・時間成分) および運動量密度(空間・時間成分)、エネルギー流束(時間・空間成分)、および 運動量密度流束である圧力および応力(空間・空間成分)を成分として持つ。 運動量と4元運動量の関係と同じように、ニュートン力学における応力テンソルの 相対論的拡張と考えると理解しやすい。 質量とエネルギーの同等性、および応力がモーメントをゼロにするように分布する ことから対称テンソルとなる。 非相対論的な完全流体の場合は、密度 $\rho$、速度 $(v_x,v_y,v_z)$、 圧力 $p$ を用いて
$$
T^{\mu\nu}=\begin{pmatrix} \rho & \rho v_x & \rho v_y & \rho v_z \\ \rho v_x &p+\rho v_x^2 & \rho v_x v_y & \rho v_x v_z\\ \rho v_y &\rho v_x v_y & p+\rho v_y^2 & \rho v_y v_z\\ \rho v_z &\rho v_x v_z & \rho v_y v_z &p+\rho v_z^2 \end{pmatrix} $$
と書ける。$\mu, \nu$ は 0 が時間成分、1, 2, 3 は $x, y, z$ 成分を表す。 一般相対性理論においては、ラグランジアン密度の時空計量に対する 変分によって定義される。アインシュタイン方程式と ビアンキ恒等式から、全エネルギー運動量テンソルの共変微分による発散はゼロとなるが、これは重力場を除いた全エネルギー運動量の局所的な保存を意味する。
デンマーク生まれでアイルランドで活動した天文学者ドライヤー(John Dreyer; ドレイヤーとも表記)が1888年に発表した、星団、星雲、銀河など、見かけの様子が単独の恒星とは異なる天体の天球上での位置と様相を示したカタログ。NGCは、このカタログの正式タイトルである New General Catalogue of Nebulae and Clusters of Stars(「星雲と星団の新一般カタログ」)の頭文字三つからとった略称であるが、略称の方が広く一般的に使われている。
元になったのはウィリアム・ハーシェルと妹のカロライン・ハーシェルの「星雲カタログ」をジョン・ハーシェルが拡張して作った「星雲と星団の一般カタログ」(GCと略称される; 5,079個の星雲・星団を含む)である。これを拡張したので「新」が頭についている。NGCカタログには7840個の天体が掲載されており、1860年分点での赤経順に番号が付されている。メシエカタログと同様、NGCカタログに掲載されている天体は、NGCに続けて掲載番号を付し、NGC 224などと呼ぶ。NGCカタログを補足するものとして5386個の天体を含む二つの「インデックスカタログ(Index Catalogue: IC)」が、1895年(IC I; 1520天体)と1908年(IC II; 3866天体)に出版された。ICカタログ掲載の天体はIC 10等と呼ぶ。
スレンティック(Jack Sulentic)とティフト(William Tifft)は、パロマーチャートおよび特別に南天を撮影した写真上で、NGCカタログに記載された7840個のNGC天体を精査して、1973年に改訂NGCカタログ(The Revised New General Catalogue of Nonstellar Astronomical Objects:RNGC)を出版した。精査の結果、NGC天体のいくつかは複数の天体からなることが分かった。彼らは、これらをNGC番号に続くアルファベットで表記し、それぞれの天体の原記述に加えて新たな記述を加え、誤りを訂正し、さらにパロマーチャート上の座標を加えた。複数天体を分離した結果RNGCカタログには8,167天体が含まれるが、ICカタログ掲載の天体は含まない。これらの天体はRNGCの後ろに番号を付けて呼ばれるが、RNGC番号は基本的にNGC番号と同じである。
1988年にはシノット(Roger Sinnott)が、NGCカタログとICカタログに含まれる 13226 天体全てを2000年分点の座標で記述した NGC2000 カタログを出版した。これは現在ウェッブで公開されている。また、ドイツのシュタイニッケ(Wolfgang Steinicke)は、 1980年代初頭から現在まで、NGC/ICカタログ天体に関するデータの改良と充実を継続している。そのデータは、非営利目的には自由に利用できる。沼澤茂美、脇屋奈々代は2009年に、NGC/IC天体の写真集「NGC・IC天体写真総カタログ」を発行した。
シノットによるNGC2000のサイト
https://heasarc.gsfc.nasa.gov/W3Browse/all/ngc2000.html
スタイニッケの解説サイトとダウンロードサイト
http://www.klima-luft.de/steinicke/ngcic/rev2000/Explan.htm
http://www.klima-luft.de/steinicke/index_e.htm(トップメニューの [Publications] )
見かけの明るさがある一定以上の天体サンプルを作った場合に発生する統計上の選択効果(バイアス)のこと。遠くのものほど本来暗いものを数え落とすことにその原因がある。この効果によって、同種の天体でも遠いものほど真の明るさが明るいという傾向が出てしまうので、注意が必要である。スウェーデンの天文学者マルムキスト(G. Malmquist)が明示した。
ニュートリノを参照。
ミューオンを参照。
アメリカ国立光学天文台を参照。
モルガン(William Wilson Morgan;1906-1994)はアメリカの天文学者。しばしばモーガンとも記される。米南部テネシー州に生まれ、シカゴ大学ヤーキス天文台に勤めて学位を取得した。1943年頃、キーナン(P. Keenan)やケルマン(E. Kellman)とともに恒星スペクトルを温度と光度階級で分類するMK分類を確立した。恒星スペクトル線の幅も考慮したMK分類を用いることで星の絶対光度がわかるため、それを使って天の川銀河(銀河系)の構造を調べ、オスターブロックらとOB型星の分布から渦巻腕の存在を示した。銀河の分類学では、ハッブル分類とは異なるヤーキス分類を提案した。1958年ブルース・メダル、1980年ヘンリー・ドレイパー・メダル受賞。
参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1441
太陽フレアの発生機構を解明することを目的として、宇宙科学研究所(ISAS)によって開発された太陽観測衛星。第14号科学衛星でコードネームはSOLAR-A。
1991年8月30日に鹿児島宇宙空間観測所(現在の内之浦宇宙空間観測所)よりM-3SIIロケットにより打ち上げられた後、「ようこう」と名づけられた。この衛星に搭載された観測装置は、13-100KeVの硬X線領域を4つの観測バンドで観測する硬X線望遠鏡、1nm程度の波長帯で太陽コロナを観測する軟X線望遠鏡、0.2nm波長帯でフレアが作り出す高温プラズマが放射する輝線スペクトルを観測するブラッグ結晶分光器、そしてフレアから放射される軟X線、硬X線、ガンマ線の広範囲のスペクトルを取得する広帯域スペクトル計である。硬X線望遠鏡と広帯域スペクトル計は国産、軟X線望遠鏡は日米の国際協力、そしてブラッグ結晶分光器は日米英の国際協力で開発された。ようこう衛星の観測により、太陽フレアがコロナ中で起こる磁気リコネクションを通して発生していることが確立した。
ホームページ:http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/yohkoh.html
ミッシングマスを参照。
波長が1-10 mm程度の範囲の電波の名称。ミリ波やサブミリ波では低温度の星間物質(分子雲や星間ダスト)中にある分子の輝線が多く観測される。電磁波、電波も参照。
アメリカ国立電波天文台を参照。
アメリカ国立太陽天文台を参照。
