天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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gf値

振動子強度を参照。

1987年2月23日に大マゼラン銀河中で発見された超新星。B0.7~B3型星がII型超新星爆発を起こしたものと考えられている。爆発時の最大光度は絶対等級MV=-15.9 等とされ、見かけの等級でも2.6等に達した。望遠鏡発明以来、最も太陽系に近いところで発見された超新星爆発であり、さまざまな観測結果から超新星爆発についての理論が大きく見直されることになった。また、SN1987Aから爆発時に放出されたニュートリノカミオカンデで検出され、これが世界初の太陽系外天体からのニュートリノ観測となった。この業績を含むニュートリノ天文学の開拓に対して小柴昌俊東京大学名誉教授が2002年のノーベル物理学賞を受けている。

超新星はその英語の頭文字SNに続き、発見年の西暦、発見順の大文字のアルファベット1文字(A-Z)が付された名前で呼ばれ、27個目以降はアルファベット1文字に代わりaa,ab,$\cdots$,az, ba,bb,$\cdots$,bzのように小文字のアルファベット2文字が付される。SN1987Aは1987年で最初に発見された超新星である。これで生じた超新星残骸もSN1987Aと呼ぶ。

観測しようとしている信号が、雑音に対してどの程度の振幅ないしパワーを持っているかを示す指標。信号対雑音比あるいはSNRともよぶ。S/N比が高いものほど確度が高い情報であるといえる。雑音等価電力ダイナミックレンジも参照。

ザックス-ボルフェ効果を参照。

スニヤエフ-ゼルドビッチ効果を参照。

音響光学型電波分光計のこと。

主鏡と副鏡ともに双曲面に近い非球面で球面収差コマ収差のない光学系(焦点)を持った反射望遠鏡。凹面主鏡および凸面副鏡を持つ望遠鏡という意味では広くカセグレン望遠鏡(カセグレン焦点を参照)に分類されるべきものであるが、主鏡が放物面である古典的カセグレン望遠鏡(クラシカルカセグレン望遠鏡)との光学系の違いを明確にするため、リッチー-クレチアン望遠鏡の呼称を用いる。名前は、1922年にこの光学系を発明したリッチー(G.W.Ritchey)とクレチアン(H. Chrétien)に由来する。
主鏡に高次の非球面を用いて、広い視野に渡って、球面収差およびコマ収差を除去している。非点収差は残存する。焦点面は大きく湾曲しており、この湾曲と非点収差を除去するために焦点前に補正板(補正レンズ)を配置するものがほとんどである。補正板は1枚とは限らず2枚以上のものもある。主鏡、副鏡、補正板の三つの要素を込みにして最適化された光学系を修正リッチー-クレチアン光学系と呼ぶ。現在の大型望遠鏡はほとんどリッチー-クレチアン光学系あるいは修正リッチー-クレチアン光学系を使用している。

星の真の大きさと見かけの大きさ(視直径)から、セファイドこと座RR型変光星のような脈動変光星の距離を求める幾何学的方法。年周視差による方法と同じ幾何学的方法なので、宇宙の距離はしごの最も基本的な方法の一つである。アメリカのバーデ(W.Baade)により1926年に提案され、1946年にオランダのウェッセリンク(A.J.Wesselink)により改訂されたのでこの名前がある。

この方法では脈動の1周期にわたる分光観測によって、星の表面の速度変化 $v(t)$ を測定し($t$ は時間)、

$$\int_{t_0}^{t}v(t)dt=R(t)-R(t_0)=\Delta{R}$$

として半径の変化量 $\Delta{R}$ を求める。一方で対応する1周期での星の視直径の変化 $\Delta\theta$ を求める。星までの距離を $d$ とすると両者の間に $2\Delta{R}=d\Delta\theta$ の関係があることを利用して $d$ を求める方法である。

視直径の変化 $\Delta\theta$ を求めるには二通りの方法がある。一つは星の有効温度 $T_{\rm eff}$ として、星の単位表面積から放射されるフラックスを $F_\lambda(T_{\rm eff}(t))\equiv{F}_\lambda(t)$ と書く。モデル大気あるいはG, K, M型の巨星に対する星の色指数表面輝度の経験則から $F_\lambda(t)$ を求め、星の明るさ $S_\lambda(t)$

$$S_\lambda(t)=\frac{\pi{R(t)^2}F_\lambda(t)}{d^2}=
\frac{\pi\theta(t)^2F_\lambda(t)}{4}$$

で表されることから、$S_\lambda$ の時間変化(光度曲線の振幅)から $\Delta\theta$ を求める。もう一つは高分解能の干渉計観測で直接 $\Delta\theta$ を求める方法である。

ブレーズ回折格子(格子溝の断面が鋸歯状の形状を持つ回折格子)において、入射光が回折格子のブレーズ面に垂直に当たるようにした配置。この配置に回折格子を置いたとき、1次回折光は入射光方向に戻る。入射光方向に完全に一致する方向に戻る回折光は、入射光とブレーズ面での鏡面反射の関係にある。このため、この回折光の波長が、ブレーズ回折格子で最も効率の高い波長となる。これをブレーズ波長と呼ぶ。ブレーズ面の法線が回折格子の法線となす角度(これをブレーズ角と呼ぶ)を θB、回折格子溝の間隔を d とすると、ブレーズ波長 λB は、 λB = 2d sinθB で表される。

アナログ-デジタル変換のこと。

ドイツのボンにあるマックスプランク電波天文学研究所(MPIfR)が運用している、ボンから約40 km離れた谷にある電波天文台。口径100 mの電波望遠鏡を持つ。この望遠鏡は1972年に観測を開始し、周波数が600 MHzから96 GHzまでの帯域で観測を行っている。超長基線電波干渉計(VLBI)にも使われている。
ホームページ:https://www.mpifr-bonn.mpg.de/en/effelsberg

エディントン(Arthur Stanley Eddington;1882- 1944)は20世紀前半を代表するイギリスの天体物理学者。特に恒星の内部構造理論を確立したことで知られている。イングランドのケンガルでクエーカー教徒の家に生れ、1898年にマンチェスター大学に入学、数学教師ラムに強い影響を受けた。ケンブリッジ大学で研究を続け、1905年にグリニッジ天文台の助手に採用され、ケンブリッジ大学の教授を経て1914年にはケンブリッジ天文台長となった。

1919年、一般相対性理論が予言する重力場での光の屈折(1.75秒角)を測定するため、アフリカ大陸西沖のプリンシペ島へ、別動隊がブラジルへ遠征した。結果、1.61秒角と1.98秒角という値を得、一般相対性理論の正しさを証明した。その後、恒星内部構造の理論的研究から主系列星の質量‐光度関係を導き、セファイド変光星の脈動理論を作った。恒星の内部構造計算に放射の圧力を取りいれて成功したことが大きく評価されている。1923年、『相対論の数学的理論』(Mathematical Theory of Relativity)を出版、一般相対性理論の確立に大きな貢献をし、1926年には『恒星内部構造論』(Internal Constitution of Stars)を出版、天体物理学界に大きな影響を与えた。

また、『自然界の本質』(The Nature of the Physical World:1928年)、『科学の新しい道』(New Pathways of Science:1935年)といった哲学関係の書籍もあり、独特の自然観を展開した。1930年には、インド出身の若きスブラマニアン・チャンドラセカールが、初めてブラックホールが存在する事を理論的にイギリス王立天文学会の会合で指摘した際、その指摘をまともに検討することなく否定した出来事は有名である。

1924年に太平洋天文学会よりブルース・メダル、米国科学アカデミーよりヘンリー・ドレイパー・メダル、王立天文学会よりゴールドメダルを受賞している。1953年に彼の業績を讃え、王立天文学会によって「エディントン・メダル」が創設され、ルメートル(第1回)、林忠四郎(第15回)、ホーキング、ペンローズ(第18回)、ピーブルス(第20回)などに贈られている。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/151

天の川銀河銀河系)ハロー種族(種族Ⅱ)の炭素星赤色巨星の一種であるが、同程度の温度と表面重力をもつ星に比べて金属線は一般に弱いが、CH分子帯が強く、SrやBaなどの重元素の吸収線も強い。これらの元素の過剰は、炭素星(N型)にみられるように漸近巨星分枝(AGB)星による元素合成の結果であると考えられる。銀河系ハローの星は小質量星で、それ自身からこのような元素組成になることは期待されないが、CH星は一般に連星系に属することが確認されており、もともと主星であった天体が漸近巨星分枝段階に達したところで炭素やs過程元素が豊富になり、それが伴星表面に降着したものと理解されている。主星は現在では白色矮星に進化し、直接観測されない。CH星は銀河系ハローの赤色巨星の2割程度を占めるとの見積りもある。金属量の低い星では酸素組成も低く、炭素が容易にそれを上回ることができることがCH星が多い理由の一つである。また、同様の性質を示す準巨星はCH準巨星と分類される。化学特異星も参照。

重力の大きさから推定された質量と観測された質量の差。行方不明の質量とも呼ばれたが、1980年代以降はダークマターと呼ばれるようになった。
1937年にツビッキー(F. Zwicky)が、かみのけ座銀河団でその存在を示唆した。1960年代にはオールト(J.H. Oort)が、星の運動の解析から、太陽近傍にも存在することを指摘した。当然そこに存在するはずの質量が見当たらないとの観点から当時はミッシングマス(行方不明の質量という意味)と名付けられた。その後さまざまな観測から、ミッシングマスは宇宙に普遍的に存在することが確かとなり、ダークマターと呼ばれるようになった。 現在知られているミッシングマス(ダークマター)の存在を示す証拠としては、以下のものがある。
1.  渦巻銀河の回転曲線が銀河円盤の外縁部まで平坦である(回転速度が減少しない)ことから銀河周辺部には可視光や電波で観測できる恒星や星間物質に比べてずっと多くの質量がある。
2. 円盤銀河の中で恒星が長期間にわたって円盤状に安定して分布しているためには、それを取り巻くように大きな質量が分布している必要がある。
3. 観測される銀河の運動によって銀河団がばらばらになってしまわないためには、見えている銀河の総質量による重力では不十分で、その数倍以上が必要となる。
4. X線で観測される銀河団を包み込む高温ガスが宇宙空間に飛び散らないよう銀河団中に引き留めておくためには、銀河と銀河団ガスの質量では足りない。
5. 重力レンズ効果によって銀河団の質量を推定すると、見えている銀河と銀河団ガスの質量よりもはるかに大きな値となる。
6. 宇宙マイクロ波背景放射には10万分の1程度の温度ゆらぎがあり、これは宇宙の晴れ上がりの時点での物質密度のゆらぎを反映している。この密度ゆらぎを種にした自己重力による天体の形成を考えると、宇宙の年齢に当たる138億年程度の時間では、現在観測されている宇宙の大規模構造はもちろん、銀河スケールの天体も形成することができない。従って、宇宙マイクロ波背景放射に影響しない、電磁波との相互作用がない物質による密度ゆらぎが宇宙の晴れ上がり以前にできていたと考えられる。

恒星大気の放射場を等方的と扱う近似。光学的に十分厚い大気の内部では放射場はほぼ等方的と考えてよく、放射輸送方程式の扱いが簡単になり(拡散近似)、放射場のモーメント J, K のあいだに簡単な関係が成り立つ(K = (1/3)J)。ここで J は光の強度 I を全方向に平均した平均強度、K I に大気の法線との角度 θ の余弦 cos θ を2回掛けて平均したもので放射圧に関係する。光学的に薄い大気表面でもこの関係が成り立つと仮定することをエディントン近似と呼び、これにより放射輸送方程式の解が容易に得られるようになる。実際には大気表面近くではこの近似は悪くなるが、K = fJ と形式的におき、f=1/3 という仮定から始めて放射輸送方程式を解き、新たに求められた f を用いて放射輸送方程式を解くという作業の繰り返しで解の収束を得るという手法(変動エディントン因子法)は有効である。恒星大気モデルも参照。

物質の粗密に対応する波。粗密波ともいう。天文学では、特に、渦巻銀河内での天体の粗密(渦巻腕)とそれに伴う重力ポテンシャルの波をいうことが多い。密度の高い領域に含まれる恒星が入れ替わらないならば、それは星団のように1つの実体を持つ天体と考えることができ、その全体の運動は構成要素である恒星の運動の平均値と一致する。しかし、分布している恒星と星間物質などの天体に粗密のパターンができ、それが伝わっていくならば、粗密パターンを構成する天体は同一である必要はなく、順次入れ替わっていてもよい。この場合、粗密パターンは構成天体の密度の違いを表す波と考えられ、その移動速度は一般に、構成天体の平均的な運動速度とは異なる。パターン速度密度波理論巻き込みの困難も参照。

窒素、炭素、シリコンなどの高階電離原子(N V, C IV, Si IV)による、幅が広くて(10000-30000 km s-1)かつ青方偏移した吸収線をもつクェーサー。高い柱密度の濃いガスが視線方向に高速で吹き出ていると考えられる。

バウツ-モルガン分類を参照。

中心天体に周囲から物質が落ち込む球対称降着において、放射による力と重力のつり合いで決まる限界光度をいい、エディントンにより最初に導かれた。 この限界光度より明るくなると放射圧が重力に勝るので、天体自身が飛ばされるか、あるいはガス降着が止まり光度が下がる。 すべての天体はエディントン限界光度 $L_{\rm E}$ 以上では定常的に光ることができない。 放射による力と重力とのつり合いの式は、球対称に電磁波を放射する質量 $M$ の球対称天体に対して

$$L_{\rm E} = \frac{4\pi cGMm_{\mathrm{p}}}{\sigma_{\mathrm{T}}} = 1.2 \times 10^{31} \left( \frac{M}{M_{\odot}} \right) \,\,\,\,\mathrm{[W]} $$

で与えられる。 ここで $c, G, m_{\mathrm{p}}, \sigma_{\mathrm{T}}, M_\odot$ はそれぞれ 光速度、万有引力定数、陽子の質量、トムソン散乱の断面積と太陽質量である。光度がわずかでもエディントン限界を超えると放射圧が重力を上回り、ガスは外向きの運動を始める。つまりガスの降着量が減少する。すると光度も減少し、エディントン限界以下に戻る。典型的なX線バースターのピーク強度は中性子星のエディントン限界光度である。超大光度X線源も参照。

天体を観測してえられる分光スペクトル中の吸収線や輝線のうち、どの物質(原子、分子、イオン、星間ダスト)が原因となっているかが不明の線のこと。電波領域には多数存在する。