天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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宇宙ジェット

天体に周囲から降着するガスの一部が細く絞られて一方向または双方向に噴出するもの。ガスが細く絞り込まれる現象はコリメーション収束)という。中心の天体の周りにはガスでできた降着円盤があると考えられている。英語の astrophysical jetを直訳すると「天体物理学的ジェット」となるが、ここでは意味の取りやすい「宇宙ジェット」としている。cosmic jetという英語が用いられることもある。
宇宙ジェットには、中心天体の違いにより、生まれたばかりの原始星からの「原始星ジェット」、天の川銀河銀河系)内にあるX線連星系中のブラックホールなどの高密度天体から出る「系内ジェット(Galactic jet)」、活動銀河核から放出され300キロパーセク(300 kpc=100万光年)もの長さにわたって宇宙空間に伸びる「活動銀河ジェット(AGN jet)」などの種類がある(表を参照)。原始星質量降着するときに見られる原始星ジェットは比較的低速度であるが、中性子星やブラックホールで見られるジェットは光速度に近い速度をもつとりわけ激しい現象であり、相対論的ジェットと呼ばれることもある。相対論的ジェットはブラックホールの存在証拠とされる場合が多い。
宇宙ジェットはクェーサー電波銀河などのいわゆる活動銀河において初めて発見された。最初の発見は1918年、おとめ座銀河団の中心に位置する巨大楕円銀河 M87 からである(カーチス、リック天文台36インチ反射望遠鏡可視光画像より)。第2次世界大戦後に電波干渉計が発明されて1950年代に電波ローブ(二つ目玉電波源)が発見された。その後大型電波干渉計VLAが稼働した1970年代末頃から、電波銀河の中心と電波ローブを結ぶ銀河間空間の細い橋のように見える電波ジェットが続々発見され、巨大スケールを持つ活動銀河核ジェットの全体像が明らかになった。超光速運動も参照。

宇宙のスケール因子を参照。

ダストを参照。

ロス卿(3rd Earl of Rosse; 1800-1867)はイギリスの天文学者。本名はウィリアム・パーソンズ(William Parsons)。大金属反射望遠鏡を作って、銀河の渦巻構造を発見した。英ダブリンのトリニティー大学とオックスフォード大学で数学を学んだ。アイルランドの広大な領地を相続した、第3代のロス卿。合金の金属鏡を研磨する技術を習得し、1847年に口径183 cmの「リヴァイアサン」と呼ばれた当時世界最大の反射望遠鏡をバー城(オファリー郡バー村のロス伯爵代々の住居用建物)に完成させた。当時、星雲と呼ばれた天体は、広がったガスか、それとも星に分解されるのかは、宇宙の大問題だった。ロス卿はリヴァイアサンを使って星雲を研究するうちに、M51星雲(銀河)の渦巻き模様を発見した。しかし、大望遠鏡で見てもオリオン星雲のように星に分解できないものもあったので、その後も論争が続いた。

ガンマ線バーストの検出およびその発生位置決定のために、アメリカ、日本、フランス、イタリアの協力により2000年10月に打ち上げられた多波長観測衛星軟X線カメラ(0.5-14 keV)、広視野 X線モニター(2-25 keV)とガンマ線 望遠鏡(6-400 keV)を備え、ガンマ線バーストが発生すると即座にその位置を計算し、地上のネットワークに数十秒以内に配信して追観測を促した。超新星爆発とガンマ線バーストの関連の証拠をとらえるなどの成果を挙げたが、装置の劣化に伴い2007年3月以降定常観測は中止された。
ホームページ:
http://space.mit.edu/HETE/
https://heasarc.gsfc.nasa.gov/docs/hete2/hete2.html

 

アストロバイオロジーを参照。

宇宙空間に存在する高エネルギーの放射線や、それらが宇宙空間を伝搬する過程や地球大気に入射した際に作る放射線のこと。前者は1次宇宙線、後者は2次宇宙線と呼ばれる。空気シャワーも参照。1912年にオーストリアの物理学者ヘス(V.F. Hess)によって発見された。1次宇宙線の主成分は陽子などの荷電粒子であるのに対し、2次宇宙線の主成分はミューオン(μ粒子)である。1次宇宙線は強度(単位エネルギーあたりの宇宙線個数流束)が大まかには

$$F(E)\propto E^{-\alpha}(\alphaは2.5\sim3)$$

で表されるべき型のスペクトルをもつ。ここで $E$ は宇宙線のエネルギーである。現在までに1020 eVに達する高エネルギー宇宙線の存在が確認されている。黒体放射のような熱的な過程ではこのような高エネルギーの粒子は生成することができないため、非熱的な宇宙線加速過程がはたらいていることになる。

関連画像の図に示した宇宙線のエネルギースペクトルを細かく見ると、3x1015 eV 付近と1019 eV付近で折れ曲がり、べき指数$\alpha$はそれぞれ約2.7から約3.1、約3.1から約2.7に変化しており、これらの構造はそれぞれ「ひざ(ニー、Knee)」および「くるぶし(アンクル、ankle)」と呼ばれている。さらに、約6x1019 eV 以上では再び急激な減少がみられ(ただし、統計量がまだ十分でないため正確な形はまだよくわかっていない)、これはGZKカットオフの現れであると一般に解釈されている。

宇宙線の起源はまだ完全に理解されてはいない。超新星爆発に伴う衝撃波等の天の川銀河銀河系)内の高エネルギー天体、また、活動銀河核ガンマ線バーストなどで生成・加速されると考えられている。

宇宙空間で知られる最高温度のプラズマ内にある最高粒子エネルギーを何桁も凌駕するエネルギーを持つ、高エネルギー宇宙線粒子を加速すること。 天の川銀河銀河系)内の空間に満たされている宇宙線粒子の総エネルギー量の考察から、銀河系内の宇宙線の起源としては超新星がほとんど唯一の候補であることが1950年代に認識されていた。しかし具体的な加速機構の描像が得られるにはさらに四半世紀を要した。現在では超新星爆発などにより高速で放出された物質が形成する衝撃波と、その周りの電磁流体乱流が宇宙線加速の主要な舞台であると考えられている。この加速を衝撃波統計加速という。乱流磁場中での宇宙線の生成を最初に論じたフェルミ(E. Fermi)の名を付けて衝撃波フェルミ加速とも呼ばれる。
一方銀河系外から来る宇宙線の起源、加速機構についてはまだ謎が多い。衝撃波加速も参照。

検出器の性能指標の一つで、入射光子のうち信号として取り出せる電子に変換されるものの割合。半導体の充満帯と伝導体のエネルギー差であるバンドギャップを超えるエネルギーの光子が検出器に入射すると伝導電子を生成するが、この効率は100%ではない。この効率の低下はさまざまな要因が関係している。検出器半導体の光-電子変換の行われる層が薄いと変換されずに透過してしまう光があり、生成した伝導電子が電極にまで到達する前に消滅する場合もある。また、検出器表面においては完全に光が半導体内に入射できずに一部は反射によって失われてしまう。量子効率は検出器に関連した光-電子変換効率であるが、地球大気や望遠鏡、観測装置などの効率も含めた変換効率である「システム効率」という概念も使われる。フォトダイオードも参照。

量子力学的な起源で発生する物理量のゆらぎ(雑音)を、量子雑音と呼ぶ。このうち、入射光子数や半導体検出器中の電子数のゆらぎに起因するものは、特にショット雑音と呼ばれる。電波天文学で広く使われているヘテロダイン受信機のように、位相情報も保持した検出法の場合は、位相上の量子雑音もまた問題となる。量子雑音の電力は、レイリー-ジーンズの近似式で計算した入力換算温度にして、T = hν/kB(ただし hkB はそれぞれプランク定数ボルツマン定数)で表され、高周波側ほどその影響が顕著になる。雑音も参照。

人工天体をある条件のもとで宇宙に飛行させるときに必要になる速度のこと。第一宇宙速度、第二宇宙速度、第三宇宙速度がある。 まず、第一宇宙速度は地球表面すれすれを人工衛星として飛行するために必要な速度で、約7.9 km s-1 である。 次に、第二宇宙速度は地球の重力を振り切るために必要な速度。第一宇宙速度の√2倍であり、約11.2 km s-1 である。地球からの脱出速度とも呼ばれる。最後に、第三宇宙速度は地球表面から出発して太陽の重力を振り切るために必要な速度で、約16.7 km s-1である。 脱出速度 $v$ とは、ある天体の重力を振り切ってその天体から無限遠に到達するために必要となる最低の速度であり、天体の質量を $M$、半径を $R$ とすると、エネルギー保存則より

$$v=\sqrt{2GM/R}$$

となる。ここで$G$ は万有引力定数。地球の場合には第二宇宙速度が脱出速度となる。脱出速度を越えない天体は楕円軌道を、ちょうど脱出速度を持つ天体は放物線軌道を、脱出速度を越える天体は双曲線軌道をとって運動する。

現在の宇宙に存在する元素の原子数の比は場所により異なるが、平均的な値を宇宙組成比と呼ぶ。最もよくわかっているのは太陽系の組成比で、太陽 光球面のスペクトル分析や地球に落下した隕石の化学分析など直接的なデータから得られる。水素とヘリウムがずば抜けて高いのは、宇宙誕生後の最初の数分間に軽元素合成が大量に起きたことを反映している。それより重い元素の大半は、恒星の内部の核融合反応や超新星爆発の際に合成されたと考えられている。

ローウェル(Percival Lowell;1855-1916)はアメリカの天文学者。火星に知的生命が住んでいるという仮説を展開し、冥王星を予言した。ボストンの名家に生まれ、子供の頃から星に興味を持ち、ハーバード大学で数学、古典文学などを専攻した。1876年に卒業、1883年に来日し、1893年までに4度、合計3年間日本に滞在した。朝鮮にも招かれ、『NOTO - 能登・人に知られぬ日本の辺境』『朝鮮』『極東の魂』などを著わした。スキアパレリ(G. Schiaparelli)による「火星運河の発見」の報に刺激され、1894年にアリゾナのフラグスタッフに私設のローウェル天文台を建設して火星を熱心に観測した。『火星』『火星とその運河』などを出版して、火星人論を強く一般社会向けに主張した。運河の存在は、その後の火星探査機の観測などにより否定されているが、H・G・ウェルズの『宇宙戦争』、ブラッドベリの『火星年代記』などSF小説や映画が生まれるきっかけになった。1902年、マサチューセッツ工科大学の客員教授となり、彼の天文台は太陽系研究のセンターになった。また、海王星より外側にある仮想惑星について天体力学の摂動計算を行ない、その探査を同天文台で実施した。彼の死後に、台員のトンボー(C. Tombaugh)が1930年に新惑星を発見し、冥王星と命名されている。

一般相対性理論を創り出したアインシュタイン(A. Einstein)によって、静止宇宙モデルを構成するために考えられた時空の座標系に依存しない定数。ギリシャ文字 Λ(ラムダ)がよく用いられる。アインシュタインが最初に提案した一相対性理論の基本方程式であるアインシュタイン方程式に基づいて一様で等方的な宇宙モデルを表す解をつくってみると、その解は必ず膨張、あるいは収縮してしまう。宇宙は無限の過去から無限の未来まで変わらず存在すると考えていたアインシュタインは、1917 年、自分の方程式に反発力を表す項を付け加えて時間的に変化しない有限な体積をもつ宇宙モデル(アインシュタインの静止宇宙)をつくった。この項を宇宙項と呼び、この項に現れる座標系に依存しないスカラー量を宇宙定数と呼ぶ。なおアインシュタインの静的宇宙は安定ではなくわずかな揺らぎで膨張、あるいは収縮してしまう不安定な存在である。

宇宙項は空間に付属するエネルギー密度ともみなすことができ、しばしば真空のエネルギーとも呼ばれる。数学的にはこの真空のエネルギーは正でも負でもよく、正の真空エネルギーだけを持つ宇宙をド・ジッター宇宙、負の真空エネルギーを持った宇宙を反ド・ジッター時空と呼ぶ。

宇宙の膨張が発見されると、宇宙を静止させるための宇宙項の必要性はひとまずなくなった。しかし宇宙定数の存在を理論的に否定することができないため、その後も宇宙定数がゼロかそうでないかは何度も取り沙汰された。20世紀終わりに宇宙膨張の加速が発見されると、宇宙定数が再び脚光を浴びることとなった。加速膨張を引き起こすエネルギーを一般に暗黒エネルギーというが、宇宙定数は宇宙膨張の過程でその値を変えない変化しない特別な暗黒エネルギーということができる。現在までの観測では暗黒エネルギーは宇宙定数であるとして矛盾はない。しかし真空のエネルギー密度として理論的に推定される宇宙定数の値は観測値よりもはるかに大きく、宇宙定数の起源は全くの謎である。フリードマン方程式も参照。

素粒子の分類の一族で、スピンが半整数の粒子をフェルミオンというが、その中で最も基本的な粒子はスピン1/2を持つ。スピン1/2をもつ粒子にはクォークとレプトンの2種類がある。クォークはバリオン数を持ちすべての相互作用をするが、レプトンはバリオン数を持たず、弱い相互作用と電磁相互作用しかしない。日本語では軽粒子。
レプトンは、電子、ミューオン(ミュー粒子)、タウ粒子とそれぞれに随伴するニュートリノのペアの総称である。各ペアを第一世代、第二世代、第三世代のレプトンという。各粒子は反粒子を持ち、反レプトンと呼ばれる。それぞれの世代のレプトンに対応して2つのクォークのペアが存在する。

ハーバード分類で表面温度の系列に属し、G型星よりも低温の星。表面温度は~5,300(K)。質量は太陽の0.8倍程度。水素のバルマー線は非常に弱い。中性金属線、CH、CN分子の吸収線が顕著になる。例、アークトウルス K2。

スペクトル型(星の)を参照。

宇宙は有限の過去から出発して現在に至ったものと考えられている。さまざまな観測データを組み合わせた結果、現在は誕生以来138億年が経過していると推定されている。これが現在の宇宙年齢である。ハッブル定数 H0 の逆数であるハッブル時間が宇宙年齢の目安をあたえるが、実際の宇宙年齢はその定数倍となる。その定数は宇宙モデル(特に宇宙の成分比とそれらが従う状態方程式)によって異なる。

同様に、ある時点(赤方偏移 z)での宇宙年齢の目安はハッブルパラメータの逆数で与えられる。宇宙年齢と赤方偏移の対応については、本辞典の「有用な諸データの表」および赤方偏移の項の図を参照。フリードマン宇宙も参照。
赤方偏移と宇宙年齢および距離の表
https://astro-dic.jp/redshift-age-distance/

宇宙に存在する天体の空間的分布に見られるいろいろなスケールの構造。たとえば多数の星が集まると星団と呼ばれる天体になる。銀河は、星や星団など個別天体の集団である。ただしその質量の多くは銀河に付随する見えない物質、ダークマターによって担われている。銀河の集団は銀河団と呼ばれる天体になる。銀河団の質量の多くも銀河間のダークマターによって担われる。銀河団よりも大規模な銀河の集団は超銀河団と呼ばれる。銀河の空間分布全体の中においては、超銀河団はもはや個別の天体というより、とくに銀河数密度の大きな部分に対応しているに過ぎない。超銀河団の間にはフィラメント状、あるいはシート状に銀河の連なっている部分や、あるいは銀河がほとんど見られないボイドと呼ばれる領域がある。このような大きな構造全体を、宇宙の大規模構造という。泡構造と呼ばれることもある。宇宙には、惑星や星などの最小単位の天体から、宇宙の大規模構造に至るまで、さまざまなスケールの階層構造が見られる。

レーマー(Ole Christensen Rømer [Römer または Romer とも];1644-1710)はデンマークの天文学者。しばしばレーメルとも表記される。木星衛星の食現象の観測から、光速度に関する定量的な数値を歴史上初めて求めた。

オーフスの商人の子として生まれ、コペンハーゲン大学に学ぶ。1671年、パリ天文台からジャン・ピカール(J. Picard)が、ブラーエ(Tycho Brahe)の天文台跡地の経度を決定するための、木星の衛星の食の観測に協力したことが縁でパリに赴き,パリ天文台長カッシーニ(G. Cassini)のプロジェクトだった木星衛星の食の観測と研究に加わった。地球の公転運動によって、地球が木星に近づく際には衛星イオの食の間の時間が短くなり、遠ざかる際には長くなることに気づき、これは光の速度が有限なためと解釈、光の速度を求めた。1676年にレーマーの得た光速は約21.3万 km/s で、実際の光速より3割ほど遅い値だが、その具体的な速さを求めて光の速さが有限であるとしたことは画期的であろう。しかし、当時は光速は無限であるという考えが支配的であったため、1728年のブラッドレー光行差の発見まで、広く受け入れられることはなかった。

1681年にデンマークに戻り、コペンハーゲン大学の天文学教授となった。1683年には王立数学者として、デンマークで最初の国家的な度量衡システムを導入している。また、水の沸点と雪の融点を2定点に採用した温度計を考案したが、これはG.D.ファーレンハイトに直接受け継がれ、現在の華氏温度となっている。

現在から昔に遡って測る時間のこと。現在の宇宙年齢を138億年とすると、宇宙誕生のビッグバンから時間の順方向に測る宇宙時間とは、(ルックバックタイム)=(138億年-宇宙時間)の関係がある。ルックバックタイムと赤方偏移の対応は、本辞典の「有用な諸データの表」
https://astro-dic.jp/about/table/  の中の
「赤方偏移と宇宙年齢および距離」
https://astro-dic.jp/redshift-age-distance/
にある。赤方偏移の項の図も参照。