銀河の集団である銀河団や銀河群が、複数個以上連なった大構造のこと。およそ1億光年程度以上の大きさを持つ。フィラメントと呼ばれるブリッジ構造を介して連なっている。大規模な銀河の赤方偏移サーベイなどによってその存在が明らかになっている。数値シミュレーションによっても、重力によるダークマターの構造進化の結果、このような宇宙の大規模構造が再現されている。近傍宇宙ではわれわれの天の川銀河(銀河系)が属する局所超銀河団や、ピセス-ペルセウス超銀河団などが知られている。宇宙には逆に銀河がほとんど存在しないボイドと呼ばれる場所があり、対照的である。近年の研究で、局所超銀河団はその約100倍大きなラニアケア超銀河団の一部であることが分かった。
宇宙の大規模構造を参照。
宇宙の大規模構造の一つの名称。1980年代にハーバードスミソニアン天体物理学センター(CfA)のハクラ(J. Huchra)とゲラー(M. Geller)らによって行われた銀河の赤方偏移サーベイで見つかった。銀河の空間分布があたかも「万里の長城」を思わせるような細長い壁のように見えることからこの名がついた。地球から約3億光年離れたかみのけ座銀河団をほぼ中心にして東西方向に5億光年以上の長さを持つ「銀河からなる壁」である。この発見は、宇宙の大規模構造の最大の大きさを調べるための大規模な赤方偏移サーベイの原動力となった。
メグナード・サハ(Meghnad Saha;1893-1956)はインドの天体物理学者。ダッカ(現バングラデッシュ)郊外で生れ、ダッカ国立大学を卒業、電磁気学に関する一連の論文によって1918年にカルカッタ大学から理学博士号を得た。1919年からロンドンのファウラー(A. Fowler)を訪れ、彼の助言を得て恒星大気とスペクトルの関係を研究した。その結果、太陽光球の電離などに関する3篇の論文(1920)によって有名な「サハの電離式」を提案し、恒星のスペクトルと物理状態を定量的に結びつける道を開いた。帰国後、1923年にイラーハーバード大学(Allahabad University)の教授、1927年には王立協会のフェローに選ばれた。1938年にカルカッタ大学(University of Calcutta)の教授、カルカッタ核物理研究所の設立に尽力し、名誉所長となるなど母国の科学振興につくした。カレンダー改革、河川洪水対策にも貢献している。
偏向角がわずかで画像としては変化が観測できないが増光によってその存在が観測可能な重力レンズのこと。例えば、太陽程度以下の比較的低質量の天体が起こす重力レンズの場合が該当する。光の進路は重力によって曲がるため、重力源の背後から発した光は重力源の先で集まることになり、光学的にはレンズに似た機能を果たすことになる。この現象を重力レンズという。重力レンズによる曲がり角は一般にわずかである。たとえば、太陽質量の重力源が影響しても光の曲がり角は0.8ミリ秒角に過ぎないが、50キロパーセク(50 kpc=16万光年)離れた大マゼラン銀河内の恒星からの光が地球から10 kpc離れた重力源によって0.8ミリ秒角偏向した場合には、重力源の十分に近くを通る光線は地球上の観測者の位置に集光され焦点を結ぶことになる。この場合、重力レンズによる像の歪みを画像としてとらえることはできないが、光が集まることにより対象天体が増光したように見える。一般に、光源・重力源・観測者は互いに運動しているためにその相互位置は変化するので、重力レンズ効果による増光度は急激に変化する。これを利用すると、重力を及ぼしている天体を直接検出することができなくとも、増光によって間接的に検出が可能となる。同様な増光現象を示す一般の変光星とは、光度曲線の特徴と色による変光の違いがないことなどから区別ができる。
このような観測は実際に行われており、天の川銀河(銀河系)のハローには太陽質量以下の天体が多数存在することがわかっている。これらは「ハローに存在する質量を持つコンパクトな天体」の英語表記を略してMACHOと呼ばれるが、その正体はまだわかっていない。また重力マイクロレンズ現象は、太陽系外惑星を発見する手法の一つ(重力マイクロレンズ法)ともなっている。
惑星を持つ恒星による重力マイクロレンズ現象のコンピュータ・シミュレーション(背景の恒星の光が増幅される)クレジット:NASA
https://www.youtube.com/embed/z75aHv9SpVg
遠くの天体から出た光が、途中にある銀河や銀河団などの重力場によって曲げられる現象。重力場が凸レンズのように働くことから名づけられた。一般相対性理論の帰結の一つであり、重力レンズ方程式で記述される。重力場となる天体をレンズ天体、重力レンズ効果を受ける天体を光源という。
光源が何倍にも増光されたり、細長くゆがんだ像や多重像として観測される場合は、強い重力レンズ効果と呼ばれ、増光やゆがみの程度が小さい場合は弱い重力レンズ効果と呼ばれる。レンズ天体が太陽程度以下の比較的低質量の天体(恒星や惑星)の場合には、光線の曲がり角がごく小さいので、光源の像の歪みを画像としてとらえることはできないが、光が集まることにより増光したように見える。これは重力マイクロレンズと呼ばれている。重力レンズの最初の例は1979年に見つかった。これは銀河がレンズ天体となって光源であるクェーサーの二重像を作っているもので、QSO0957+561A/B と名づけられている。
強い重力レンズ効果は銀河団の中心部で多く見つかっている。光源がレンズ天体の真後ろにある場合は、アインシュタインリングという円環状の像が見られることがある。重力レンズ効果を受けた光源の像を詳細に調べることで、レンズ天体の質量やその分布を知ることができる。これは銀河や銀河団の総質量を測る有力な方法である。また、大きな増光効果を利用して、本来なら観測できないような暗い天体を調べることもできる(ハッブルディープフィールドの「3. もう一つのディープフィールド」を参照)。
弱い重力レンズ効果は宇宙論的歪み(コスミックシアー)とも呼ばれ、銀河団の大局的なダークマターの分布や、宇宙の大規模構造のスケールを越えるような広域にわたるダークマターの分布の研究の重要な手段である。
重力マイクロレンズは、銀河系(天の川銀河)に付随するダークマターがMACHOである可能性を調べるために1990年代はじめに多くの観測プロジェクトで用いられた。その後、太陽系外惑星の発見の有力な手段(重力マイクロレンズ法)ともなっている。
重力レンズを引き起こす銀河団(レンズ天体)が天球上を動くと想定したシミュレーション(厳密な数値シミュレーションではない)
https://www.youtube.com/embed/fO0jO_a9uLA?si=pyTAawh2PZb79RIu"
太陽系の形成過程を、天体現象の素過程を理論的に解明し、それを積み上げることによって説明しようとする理論。太陽系形成論に関する基本的な枠組は、20世紀後半に旧ソ連のサフロノフ(V.S. Safronov)と京都大学の林忠四郎のグループによって独立に構築された。これまでのところ、太陽系形成の標準シナリオとして、以下のような描像が得られている。
まず、星間分子雲のうち分子雲コアと呼ばれる、低温の水素分子を主成分とする密度の濃い部分が自己重力により収縮して原始太陽を形成する。この際に、大きな角運動量をもつガスは直接中心に到達できないため、原始太陽を公転するガス円盤(原始太陽系円盤)が形成される。円盤はガスとダストを含むが、ダストは互いに衝突合体して大きくなると同時に円盤の赤道面へと沈殿し、赤道面に薄いダスト層を形成する。ダスト層の密度が十分高くなると重力不安定性によって、微惑星と呼ばれる、数kmの天体に分裂する。微惑星は互いに重力作用を及ぼしあいながら衝突合体成長して周りの天体より質量の大きな天体(原始惑星)が形成され、さらにそれが成長して地球型惑星が形成される。木星領域では質量の大きな原始惑星が形成され、それが周囲のガス星雲を取り込むことにより、水素とヘリウムを主成分とする巨大ガス惑星が形成される。
1995年に始まった太陽系外惑星の発見では、これらの惑星系が太陽系とは大きく異なる性質をもつことが明らかになり、上の標準シナリオの修正と拡張が進められるきっかけとなった。
宇宙の初期に存在していたガスで、水素とヘリウムのみで構成され重元素を含まないものを指す。始原ガスから宇宙の第一世代の星(初代星)が形成され、宇宙の再電離が起こったと考えられている。
宇宙が生まれたときと同様の始原的な物質で形成された星という意味であり、主に水素とヘリウムのみからなり、重元素をまったく含まない物質から形成されたと考えられる天体である。第一世代の星を指す初代星と同じ意味で使われることが多い。
太陰暦に太陽暦の1年の概念を取り入れて、季節を反映するように両者を折衷した暦。我が国で明治5年まで使われていた暦(いわゆる旧暦)は、太陰太陽暦である。太陰暦では1年という概念はなく、月の満ち欠けの周期である朔望月(約29.5日)を反映して、30日の大の月と29日の小の月がほぼ交互に繰り返す。この暦では、12か月が約354日となる。この値は太陽暦の1年(約365日)より約11日短いので、太陰暦で36か月経つと太陽暦の3年との差が33日(約1か月)となる。そこで、太陰太陽暦では、この差をどのように調整して季節とのずれを小さくするかという置閏法が重要となる。我が国で明治5年まで使われていた旧暦では、約3年ごと(より正確には19年に7回)に、二十四節気にいう「中」のない月が出現するので、そのときにその前の月にうるう(閏)をつけて、うるう3月などと呼び、平年よりうるう月が1月多い13か月の年を作ることで季節と暦のずれを調整した。章法を参照。
宇宙論的歪みを参照。
月や人工衛星へのレーザー測距(SLR, LLR)、超長基線電波干渉計(VLBI)、全地球測位システム(GPS)など、世界中の観測結果を取りまとめ、国際天文準拠系や国際地球準拠系、両者を結びつける地球姿勢パラメータを維持、提供する国際機関。1987年に国際天文学連合(IAU)、国際測地学・地球物理学連合(IUGG)により国際極運動観測事業(IPMS)と国際報時局(BIH)の地球回転部門を改組して発足、1988年より活動を開始している。当初は国際地球回転観測事業 (International Earth Rotation Service) という名称であったが、2003年より国際地球回転・基準系事業 (International Earth Rotation and Reference Systems Service) に改称、略称はいずれもIERSである。
ホームページ:https://www.iers.org/
月の満ち欠けの周期である朔望月(約29.5日)を単位とした暦。実際の1月は30日の大の月と29日の小の月をほぼ交互に繰り返す。1月という概念はあるが、1年という概念はない。太陰暦の12か月は約354日で、太陽暦の1年である約365日より11日短い。太陰暦は季節を反映しないので、農業や多くの現代社会の活動には不便な側面がある。現在使われている太陰暦の代表的なものはヒジュラ暦(イスラム暦ともいう)である。
1957年7月1日から1958年12月31日にかけて、国際協力によって高層気象、地磁気、電離層など、地球の物理学的調査が組織的に行われた。この期間を国際地球観測年と呼ぶ。旧ソ連が世界初の人工衛星「スプートニク」を打ち上げたり、日本が南極観測を開始したのもこの頃である。
2007年は国際地球観測年から50年目にあたり、国際太陽系観測年(IHY)、国際極年(IPY)、国際デジタル地球年(eGY)、国際惑星地球年(IYPE)といった国際研究事業が行なわれた。
水晶は、延ばしたり縮めたりといった機械的な力を加えると表面に電圧が生じ(圧電現象)、逆に水晶に電圧を加えると物理的な変形をおこすという特徴を持っている。後者の特徴を利用して水晶片を振動させ、高精度で一定な周波数の発信をとりだす装置を水晶発振器と呼ぶ。この水晶発振器の振動数をもとにした時計が水晶時計である。腕時計など、日常的な用途にもよく用いられている。
形状と寸法を変えることでさまざまな固有振動数を持つ水晶片を作ることができる。したがって、周波数の精度も10-6程度のものから10-11程度のものまでバラエティに富んでいる。原子時計も参照。
衝撃波加速を参照。
電荷を帯びた宇宙線(荷電宇宙線)は地表面に達する前に地磁気の影響を受ける。宇宙線は正電荷を持った陽子が主成分であるが、地磁気の磁力線は南極から北極に向かっているため、正電荷を持った粒子が西側から入ってくると地球に対し外向きの力が働き(フレミングの左手の法則)、東側から入ってくると地球に対し内向きの力が働く。その結果、東側からは地球に落下して入ってこられない死角ができるため、西側からやってくる宇宙線の数が多くなる。これを東西効果という。
1. 電波銀河やクェーサーに付随して見つかる電波で広がった構造。活動銀河核から吹き出すジェットの末端に見え、このジェットによって中心核から供給される相対論的電子によって電波を放射していると考えられている。銀河を中心に両側に見える場合が多い。
2. 天の川銀河(銀河系)の中心方向で見つかった電波連続波を放射する 1°×1° ほどのΩ型の構造。Ωローブとも呼ばれる。銀河面上 $\ell$ = 0.2° および $\ell$ = 359.5° 付近から銀河座標系での北側に伸びており、b=+1° 付近でつながっている。銀河座標で東側は電波アークやその延長である偏波ローブと一体であるようにも見える。また、銀河面上では多数の天体が重なって見えるため、どのような構造になっているかは定かでない。成因については天の川銀河の中心付近で生じた爆発の衝撃波が非等方的に膨張したものを見ているとする説があるが、まだよくわかっていない。
電波で観測される宇宙ジェット。活動銀河核から反対方向に銀河のサイズの何倍もの長さに噴き出しているものが多い。電波はシンクロトロン放射によるものである。
原子核が電子を捕獲し、原子核内の陽子が中性子に変わる反応。これにより原子番号が一つ減少する。原子核が陽子過剰になった場合は安定核になるまで自発的に起こる。一方、電子縮退の起こっている環境で密度が高くなると、エネルギーの高い電子に取り囲まれている原子核が電子捕獲を起こし、中性子過剰となる。電子の縮退圧によって支えられている白色矮星や進化の進んだ大質量星の中心部は、電子捕獲により電子の縮退圧が減少するため、重力収縮あるいは重力崩壊を招くことになる。
