銀河内の星間空間に存在している物質のこと。通常、星(ここでは恒星に限らない)や恒星間天体やダークマターを除き、主にガス成分や星間ダストのことを指す。単に星間ガスということもある。星間媒質もほぼ同義で使われているが、星間媒質という場合には、高エネルギー宇宙線や(電)磁場成分も対象として含めることがある。
星間物質は、主成分である水素ガスの状態により、電離ガスと中性原子ガスと分子ガスに大きく3分される。これらは、図に示したように、密度と温度が大きく異なる複数の領域に分かれており、電離ガスはコロナガスとHⅡ領域、中性原子ガスは雲間物質とHⅠガス雲(中性水素ガス雲)、分子ガスは分子雲などと呼ばれる。
コロナガスは温度が数十万Kを超える最も高温かつ低密度なガスで、超新星残骸やスーパーバブルなど超新星爆発などによって生じた電離ガスが大きく膨張した結果生じたガスだと考えられている。銀河ハローでもコロナガスが観測されている。あまりに希薄であるがためイオンと電子とが出会って中性原子ガスになる確率が極めて低く、冷却が著しく遅いために星間空間に残ったガスである。銀河の中でも星がまばらで物質密度が小さい領域を占める。
HII領域は電離水素領域とも呼ばれ、高温の主系列星からの強い紫外線によって周囲の星間ガスが電離したものである。ガスの温度は1万K程度であり、形成初期には原子数密度が105 cm-3以上もあるが、急激に膨張して密度も低下し、末期には10 cm-3の密度になる。
HⅠガス雲あるいは中性水素ガス雲と呼ばれるガスは、温度100 K程度で密度1~100 cm-3程度で、空間的にまとまった領域を占めるが、銀河内に占める体積は小さいと考えられている。単体で存在しているほか、分子雲の周りを取り囲むように存在している。中性水素原子の21 cm線の吸収線によって観測される。
雲間物質は温度が1万度程度で密度は1個 cm-3 以下程度のガスである。、天の川銀河(銀河系)の円盤内に普遍的に存在しており、銀河円盤中の体積比率で大きな割合を占めると考えられている。主成分が中性水素原子であるが、恒星間に普遍的にある紫外線などにより部分的に電離している。中性水素原子が21cm線の輝線を放つため、容易に観測される。
分子雲は最も密度の高い星間ガスで、温度が10 K程度と低く、水素が分子として存在している。星間ガスの質量の多くを担っているが、星間空間に占める体積は非常に小さい。分子雲は、星の誕生現場である。
図の破線で示した直線は、圧力(密度×温度に比例)が一定の線である。コロナガス、雲間物質、HⅠガス雲は、ほぼ圧力平衡に近い状態にあることがわかる。一方、HⅡ領域と分子雲は周りよりも圧力が高い状態にある。HⅡ領域は高い圧力により、外側に向かって膨張している。それに対し、分子雲は自身の重力によりガスを閉じ込めているため圧力は高いものの、周囲のガスとは力学平衡に近い状態を保っている。
星間空間の主に分子雲の内部に存在する分子。単純な水素化物、酸化物、ハロゲン化物や分子イオン、ラジカルからより複雑なアルデヒド、アルコール、エーテル、さまざまな直線分子、炭素鎖分子、環状分子など、2025年時点で銀河系(天の川銀河)中におよそ330種の分子が発見されている。銀河系外の銀河で発見されているものは約70種である。
星間分子は相次いで発見されているが、ケルン大学が運用する「分子分光学のためのケルンデータベース(CDMS)」は新しい情報を継続的に更新している。また、「宇宙化学のための運動学的データベース(KIDA)には、星間化学、宇宙化学に関係深い分子の詳細なデータが集められており、その構造図や原論文なども検索できる。
The Cologne Database for Molecular Spectroscopy (CDMS)
https://cdms.astro.uni-koeln.de/classic/molecules
Kinetic Database for Astrochemistry (KIDA)
https://kida.astrochem-tools.org/
https://kida.astrochem-tools.org/species
アメリカ航空宇宙局(NASA)が開発した世界初の有人飛行ができる再使用型宇宙船。最大7人の乗員と貨物を搭載でき、人工衛星の運搬、無重力状態を利用した科学実験、国際宇宙ステーションの建設などに使われた。1981年の初飛行以来頻繁に打ち上げられ、2011年7月のアトランティスによる135回目の飛行をもって30年間の活動に幕を下した。
スペースシャトルは、外部燃料タンク、2本の固体燃料補助ロケット、および宇宙飛行士と貨物を搭載する軌道船からなる。補助ロケットは打ち上げ2分後に切り離されパラシュートを用いて着水し再利用される。上空で主エンジンが停止されると外部燃料タンクが切り離され、軌道船のみとなる。外部燃料タンクは大部分が大気圏内で消滅する。地球に帰還するときは、軌道船の姿勢制御ロケットを使ってグライダーのように滑空して着陸する。コロンビア、チャレンジャー、ディスカバリー、アトランティス、エンデバーの5機が運用されたが、チャレンジャーは1986年に発射から73秒後に爆発、コロンビアは2003年に地球帰還の途中で空中分解して、乗員14名の命と2機が失われた。
大きな貨物室を備えていることがスペースシャトルの特長で、これにより、ハッブル宇宙望遠鏡のような大型衛星を軌道に投入したり、軌道上にある衛星を回収して修理したり、地球に持ち帰ったりすることができる。1990年にディスカバリーによって打ち上げられたハッブル宇宙望遠鏡はスペースシャトルによって5回の修理が行われた。この「サービスミッション」は、1993年12月、97年2月、99年12月、2002年3月に行われ、キャンセルの予定を変更して行われた08年10月のミッションが最後となる予定であった。 しかし、運用継続を望む強い世論に押されて、2009年5月にもう一度、最後の修理ミッションが行われ、ハッブル宇宙望遠鏡は2017年時点でも良好な状態で運用がされている。 大きな修理は宇宙飛行士が船外活動で行なった。
分子雲を参照。
ガス星雲を参照。
口径2.7 m(有効口径2.5 m)の反射望遠鏡をジャンボジェット改造機B747SPの後部に搭載した天文台。 アメリカ航空宇宙局(NASA)とドイツ航空宇宙センター(DLR)により、カイパー飛行機搭載天文台の後継機として開発された。 2010年5月26日にファーストライトを迎え、2014年に本格的な科学運用を開始。その後8年間の運用の末、2022年9月29日に運用を終了した。高度12-14 kmからの観測を実現することで大気中の水蒸気の吸収を大幅に抑え、通常地上では観測ができない遠赤外線を含む0.3 μm-1.6 mmの広い波長範囲の観測を様々な観測装置でおこない、月の日照領域における水分子の発見や、宇宙で最初に生じたとされる分子イオン"水素化ヘリウムイオン"の初検出、多様な天体の磁場構造の解明など多くの成果を挙げた。
ホームページ:https://science.nasa.gov/mission/sofia/
みかけ上、光速度を超えた速度で運動しているように見える現象。ある天体が、光速度に近い速度でわれわれの視線に対して斜め方向に近づきながら、電磁波を放射している場合、視線に垂直な天球面上で、その物体があたかも光速を超えて運動するように見えることがある(天体が視線に垂直方向に移動した距離を、その両点から電磁波がわれわれに到達した時間の差で割ると、光速を超える場合がある)。たとえば銀河中心核からのジェットで高速に放出されるガスの塊を電波で観測した場合などに、このようなみかけ現象が起こる。実際に物質が光速を超えて運動しているわけではない。超光速運動をする天体の見かけの速度は以下のようにして導くことが出来る。
時刻0に銀河中心核からジェットと光子1が、時刻 $t$ にジェットから光子2が出た場合、光子1と光子2が観測者に届くときの時間の差は
$$\Delta t = (\ell_1-\ell_2)/c = (1-v/c\cdot\cos\theta)t$$
となる(図1参照)。このとき、時間 $t$ の間にジェットは見かけ上 $\Delta x = vt\sin\theta$ だけ動くから、ジェットの見かけの速度 $v_{app}$ は
$$v_{app} = \Delta x / \Delta t = v\cdot\sin\theta/(1-(v/c)\cdot\cos\theta)$$
で与えられる。
光速度不変の原理も参照。
スピッツアー(Lyman Spitzer Jr.;1914-97)はアメリカの理論物理学者・天文学者。オハイオ州トレド生れ、イェール大学に学び、プリンストン大学で1938年に天体物理学で学位を取得。33歳でラッセルの跡を継いで、同大学天体物理学教室の主任に就いた。主要業績は、星間物質と星の生成の研究(1968年出版の『星間物質』は標準テキスト)、プラズマガスの研究、磁場によってプラズマを閉じ込める装置(Stellarator)の発明、恒星系力学の研究と”緩和''(relaxation)の概念の導入、などである。2003年打上げのスピッツアー宇宙望遠鏡やハッブル宇宙望遠鏡の基本設計にも貢献した。
1973年に太平洋天文学会よりブルース・メダル、1974年に米国科学アカデミーよりヘンリー・ドレイパー・メダル、1978年には王立天文学会よりゴールドメダルなど、受賞歴は多数にのぼる。
参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1479
星間ダストを参照。
球対称形状の電離水素領域のモデル。質量の大きな主系列星は、表面温度が十分に高温で、大量の紫外線を放射する。そのため、大質量星の周りにある水素ガスは912 オングストロームより短波長の(13.6 eVより高エネルギーの)紫外線電離光子によって電離し、HII領域(電離水素領域)を形成する。
ストレムグレン球とは、1つの大質量星の周りに個数密度 $n$ の一様な水素原子ガスが十分遠くまで分布している場合を考え、星間ダストの存在を無視して導出した電離水素領域の簡単化したモデルである。この場合、電離領域は球対称に形成され、内部では、定常ならば電離と再結合とがつり合う。このときの電離領域の半径 $R_{\rm S}$ は、
$$Q =\frac{4}{3}\pi R_{\rm S}^3 n_{\rm e} n_p \alpha$$
で決まり、この $R_{\rm S}$ をストレムグレン(Strömgren)半径と呼ぶ。左辺の $Q$ は、単位時間あたりに大質量星から放射される電離光子の個数であり、右辺は、球内の電子(個数密度$n_{\rm e}$)と陽子(個数密度$n_p$)との衝突による再結合の単位時間あたりの回数である。ここで $\alpha$ は、水素イオンのすべての準位に自由電子が再結合する割合の総和で、再結合係数と呼ぶ。
実際の電離ガス領域では、$n = 1$ の基底状態への再結合の際に出る光子は、13.6 eV 以上のエネルギーをもつので、すぐに近くの中性水素原子を電離してしまい、実質的な再結合には寄与しない。そこで、実質的な再結合係数としては基底状態への再結合だけを除いて計算される場合が多い。
この実質再結合係数を$\alpha_B$ と書くと、近似的な式は、
$$\alpha_B = 2.6 \times 10^{-13}
\times(T/10^4\,{\rm K})^{-0.85}\,\,\,\,[{\rm cm^3\,s^{-1}}]
$$
となる。
重力を参照。
分子の量子力学的な振動状態を表す言葉。量子力学によると粒子の微視的状態は離散的な多数のレベルに分かれる。分子の振動運動についてもその各レベルは対応するエネルギーで区別され、これらのエネルギーレベルを振動準位と呼ぶ。エネルギー準位、回転準位も参照。
偏光を参照。
分子において、量子力学的な異なる2つの振動準位の間の遷移に伴って放出される光子(輝線もしくは吸収線)のこと。ラマン散乱も参照。
偏波を参照。
2個の水素原子が結合した分子であり、分子式ではH2と書かれる。地球上で見られる水素ガスは水素分子から構成されている。宇宙にある元素は、個数で比べると7割が水素である。星間ガスも主成分は水素であるが、1 cm3当たり数十個以上の比較的密度の高いガスは水素分子として存在している。これに対して、より密度の低い水素は中性水素原子か電離水素となっている。
真空中で水素原子2個が衝突しても、個々の原子が持つ運動エネルギーを放出できないので、かつては、星間空間では水素分子は形成されないと考えられていた。しかしながら、実際には星間ガスには水素分子を主成分とするガスも存在することがわかり、その形成過程が議論されるようになった。有力と考えられる過程の1つは、星間空間中の水素原子が星間塵(星間微粒子、ダストともいう)の表面に付着し、そこで結合して水素分子が生成されるとするものである。生成時に生じるエネルギーによって生成された水素分子は星間塵の表面から星間空間に放出されるとともに、塵内部に熱として吸収される。もう1つの過程は、一旦、水素イオンが生成され、過剰な電子が放出されることでエネルギーが奪われ水素分子が生成されるとする説である。水素分子ガスは星間空間中では比較的狭い範囲に局在しているので、空に浮かぶ雲になぞらえて星間分子雲と呼ばれる。恒星や惑星は、星間分子雲から形成される。
このように、水素分子は星間ガスとして重要な存在形態ではあるが、その直接検出は非常に難しい。なぜなら、水素分子は、2個の水素原子の距離が変化しない状態では電気双極子モーメントを持たず電気双極子放射を出さないため、電磁波を能率良く放射・吸収する状況が非常に限られているからである。
水素分子が高い内部エネルギーを持ち、原子間距離が変わる振動状態と回転運動状態とが同時に変化する場合には電気双極子モーメントが生じ、対応する振動回転遷移が起こる。これに対応する輝線は波長2 μm など近赤外線で見られるが、温度・密度が高い領域でしか励起されないため、これが検出されるのは、強い電磁放射で照らされていたり衝撃波が発生するような領域に限られる。これに対して、回転エネルギー準位間の遷移(回転遷移)による輝線は波長28.2 μm,17.0 μm,12.3 μm など中間赤外線から近赤外線にかけて放射されるが、これも温度が100 K以上の領域などでないと励起されない。したがって、星間分子の多くを占める10 K程度の低温の水素分子の観測は困難である。
星形成領域も参照。
望遠鏡の先端部あるいは観測装置の入射瞳に置く低分散プリズムのこと。視野内のすべての天体の光スペクトルを一度に撮影することができる。シュミット望遠鏡でよく用いられる。対物分光も参照。
天文学で用いられる定数をまとめた体系。天体暦を作るもとにもなる。IAU1964天文定数系、IAU1976天文定数系、IAU2009天文定数系などがある。
相対性理論(とくに光速度不変の原理)にもとづくと、時刻系によって時間や長さのスケールに違いが生じる。このため、IAU2009天文定数系では地球時TT・力学時TDB・座標時TCBなどそれぞれの系における定数の値を提示しており、適切な値を選択する必要がある。また、2012年の国際天文学連合(IAU)総会においては、IAU2009天文定数系のうちガウス引力定数 k を定義定数から外し、天文単位 au を定数に固定、GMS は観測により定めることとなった。
現在ではこのようにIAUで採択された天文定数系のほかに、個々の定数に対する最も確からしい値も別途整備されている。こちらは必ずしも全体として整合性の取れた数値ではないが、最新の成果がまとめられている。必要に応じて使い分けるとよい。
IAU2009天文定数系:https://iau-a3.gitlab.io/NSFA/IAU2009_consts.html
最も確からしい値:https://iau-a3.gitlab.io/NSFA/NSFA_cbe.html
金属を参照。
主に遠赤外線による観測によって、天の川銀河(銀河系)の円盤から離れたところにもやもやとした構造として見られる星間雲。地球上の雲である巻雲(シラス雲)と見かけが似ているため、この名前が付いた。星間ダストの熱放射に起源を持つと考えられる。その分布は中性水素ガス雲の分布と似ており、放射している星間ダストは中性水素ガスや分子ガスと混在していると考えられる。
