微惑星が衝突合体を繰り返して惑星が形成される惑星集積過程の初期の段階において、周りの微惑星より質量が大きくなったものがさらに周囲の微惑星より速く成長し、他から抜きんでて大きくなる現象のことを暴走的成長(または暴走成長)と呼び、他から抜きんでて大きくなったもののことを原始惑星と呼ぶ。それに対して、どの微惑星も同じような質量増加率で大きくなる場合を、秩序的成長と呼ぶ。実際の惑星成長がどちらの様式で進むかは、微惑星の軌道を乱す要因が何であるかによる。惑星集積の初期段階では、微惑星の軌道を乱すのは、微惑星同士の重力散乱である。この場合、大きな微惑星ほど重力により多くの微惑星を集められるという効果が強く働き、暴走成長が起きる。原始惑星の成長が進んで原始惑星による重力散乱が効くようになると原始惑星が重力によって周りの微惑星を引き寄せる効果が効きにくくなり、寡占的成長(複数の原始惑星が、同じような質量増加率で大きくなる)という別の成長様式に移行する。
テキサス西部のマクドナルド天文台にある有効口径9.2 m(鏡の実際のサイズは11 m × 9.8 m)の分割鏡望遠鏡。主鏡を対角長1 mの六角形球面鏡91枚で製作し、望遠鏡の高度角を55度に固定することで、従来の望遠鏡に比べて建設費を1/5に抑えて1997年に完成した。高度方向の追尾は鏡筒先端に取り付けられた観測装置を上下させることで行う。主に分光用の望遠鏡として用いられている。2005年に完成した南アフリカ大型望遠鏡は、この望遠鏡とほぼ同じ設計で建設された望遠鏡である。テキサス州副知事Bill Hobbyと実業家Robert E.Eberlyにちなんで名づけられた。
ホームページ:http://www.as.utexas.edu/mcdonald/het/het.html
宇宙空間内でも太陽風や放射圧などが抗力(ドラッグ)として働き、加速度が生じる。これらを打ち消して、あたかも重力だけが働くような状態に保持する技術やその状態のことをいう。低周波の重力波を観測するために宇宙空間でレーザー干渉計を複数の人工衛星で構成する計画があるが、各衛星はドラッグフリー状態に保つ必要がある。
星(一般には星に限らない天体)の明るさを測って、その星の等級を決定するための観測。
星の明るさ(等級)を精度良く測定するための測光観測は1940年代から、光電子増倍管など画像が撮影できない1チャンネルの電子的光検出器(光電測光器)を用いて行われていた。これは光電測光と呼ばれた。目標の星と明るさが既知の測光標準星を光電測光器で交互に観測して、出力の比から目標の星の明るさを決定した。その際は、天頂距離に依存するエアマス(空気関数)の違いによる目標の星と測光標準星の大気減光量の違いを補正する必要がある。
これは大変手間のかかる観測だが、写真観測が普及すると、写真乾板に写っている(同じ視野内の)多数の星の明るさを一度に測定する技術や装置が開発されてきた。写真乾板に写っている多数の星の明るさの比は、星像の黒みから特性曲線(天体写真測光を参照)を介して推定できる。しかし、写真の露光時間を変えれば同じ星の黒みが全く違うことから分かるように、写真の黒みからは明るさの絶対値を決められない。運良く測光標準星が同じ視野内にあれば、その黒みと明るさの絶対値の対応がつけられる。測光標準星がない場合には、その視野に写っている最低1個(通常は複数)の星の明るさを光電測光で測定して、星像の黒みと明るさの絶対値の対応をつける。この方法は写真測光と呼ばれた。天体写真測光の項目に述べたように、写真測光の精度は光電測光より悪かったが、多数の星の明るさを1度の撮像観測から決められるので広く利用された。
現在用いられているCCDなど2次元半導体光検出器では、出力が星の明るさに比例しているので、撮像データを計算機処理して同じ視野内の星の明るさの比を直接知ることができる。出力と星の明るさ(等級)の対応をつけるには測光標準星が必要なことは写真測光と同じだが、最近は測光標準星の数が莫大に増えているので、そこそこの視野なら測光標準星が入っている確率が高い。また、CCDなどは写真乾板と違って1回限りの使い捨て検出器ではないので、望遠鏡とカメラシステムの綿密な校正(calibration)を行って、視野内に測光標準星がない場合でも、(精度は少し劣るが)出力を直接星の等級に換算する場合もある。
測光観測では通常いくつかの広帯域フィルターを用いてそれぞれのバンドで観測を行い、明るさと色(スペクトルエネルギー分布を反映する)の情報から天体の大まかな性質を調べることができる。また多くのバンドの測光データから銀河の(宇宙論的)赤方偏移を推定する測光赤方偏移という手法もある。
測光システムを参照。
アメリカなどのグループがガンマ線天文学のために米アリゾナのホプキンス山(標高2320 m)のホイップル(Fred Lawrence Whipple)天文台に建設した口径10 mの大気チェレンコフ望遠鏡。1968年から観測を開始したが、なかなかガンマ線信号をとらえることはできなかった。チェレンコフ光の構造をとらえる解像型カメラが開発、設置され、荷電宇宙線とガンマ線の識別が可能になった。これにより、建設から20年余り後の1989年に、かに星雲が TeV(1012 eV )ガンマ線天体であることを初めて確認した。
2007年からより高性能の4台の12 m望遠鏡からなるベリタスガンマ線望遠鏡が稼働を始めたので、ホイップルガンマ線望遠鏡は2013年に役目を終えた。
ホイップル天文台ホームページ:http://www.sao.arizona.edu/FLWO/whipple.html
ホイップルガンマ線望遠鏡の後継として、アメリカを中心とした国際共同実験チームが米アリゾナのホイップル天文台のベースキャンプ(標高1268 m)に建設し、2007年から観測を開始した12 m望遠鏡4台による大気チェレンコフ望遠鏡システム。ヘスガンマ線望遠鏡と同等の感度を持ち、北天に設置されている利点を生かして、活動銀河核などのTeVガンマ線観測を行っている。
ホームページ:https://veritas.sao.arizona.edu/
星の色指数を用いて推定されるスペクトル型から得られる絶対等級と、測光観測で得られる見かけの等級から算出した天体までの距離。スローンデジタルスカイサーベイでは、この方法により、われわれの天の川銀河(銀河系)と合体中の矮小銀河の痕跡がハローの中にあることが発見された。分光観測によりスペクトル型を推定した場合には分光視差と呼ばれる。年周視差も参照。
測光観測と撮像観測の際の標準的な波長帯(バンド)の組み合わせ。測光系ともいう。代表的なものとしてジョンソン-カズンズの U, B, V, Rc, Ic(単に R, I と表記される場合もある)システムや、スローンデジタルスカイサーベイ のu', g', r', i', z' システムなどがある。すばる望遠鏡FOCASの例では、各バンドの中心波長とバンド幅は、U (360 nm, 56 nm)、 B (440 nm, 108 nm )、V (550 nm, 100 nm)、R (660 nm, 117 nm)、I (805 nm , 146 nm)である。近赤外線では大気透過率の良い波長帯に、J (1.26 μm, 0.17 μm)、H (1.64 μm, 0.28 μm)、K (2.20 μm, 0.40 μm)の各バンドが設定されている。
それぞれのシステムで観測した測光標準星のカタログと合わせて測光システムが定義される。
ドイツやフランスを中心とした国際共同実験として、2003年からアフリカのナミビアの高地(海抜1800 m)で高エネルギーガンマ線の観測を開始した12 m望遠鏡4台による大気チェレンコフ望遠鏡システム。複数台によるチェレンコフ光のステレオ観測により優れた角分解能を持ち、初めてTeV(1012 eV)領域で超新星残骸の広がった像をとらえ、銀河面 サーベイを行って数十個のTeVガンマ線源を発見するなど、TeVガンマ線の分野の発展において大きな役割を果たしている。2012年からは中央に28 m望遠鏡1台(H.E.S.S. II)を増設して観測を行っている。ヘス(V.F. Hess)は1912年に宇宙線を発見したドイツ人物理学者の名前でもある。
ホームページ:https://www.mpi-hd.mpg.de/hfm/HESS/
特定のアプリケーションに特化した特別なハードウェアを持たず、Fortran などの高級言語で書いたプログラムを実行できる計算機。これに対して、特定のアプリケーションに特化したハードウェアを持つ計算機を専用計算機という。
測光データから推定する赤方偏移。いつくかの測光バンドで測定した等級から、対象銀河のスペクトルエネルギー分布(SED)を求める。次にそれに既知のいろいろなタイプの銀河のSEDを赤方偏移を変えながら当てはめて、最もよく当てはまるSEDの赤方偏移をその銀河の赤方偏移と見なすという方法である。この方法が機能する理由は、銀河のSEDにはライマンブレイクや4000AAブレイクをはじめとした特徴的な段差や折れ曲がりがあることによる。分光による通常の赤方偏移の測定に用いられる輝線や吸収線は測光観測では検出できないので、次善の策としてSEDの形に注目する。より広い波長域をより多くのバンドで観測するほど、測光赤方偏移の精度は上がる。分光赤方偏移より誤差が大きいこと、SEDの特徴を取り違えてしまう致命的な誤りが完全にはなくならないことなどの欠点はあるが、分光できないほど暗い銀河を含む多数の銀河の赤方偏移を一挙に推定できるので、特に遠方銀河の研究で威力を発揮する。3個のバンドパスを使って特定の赤方偏移の範囲の銀河を選び出すライマンブレイク法は、最も簡素な測光赤方偏移法である。この方法で選び出された銀河をライマンブレイク銀河という。
周波数50 MHzから14 GHzの電波に対する超大型望遠鏡。SKA(エスケーエー)と略されることが多い。この周波数帯の観測は他の周波数帯に比べて角分解能または感度のいずれかが不足している現状を打開するために建設の必要性が認識されている。
英国、南アフリカ、オーストラリア、イタリア、インド、オランダ、カナダ、スウェーデン、中国、ニュージーランドの10ヶ国をメンバー国として検討が進められ、2018年より建設開始の予定。350 MHzを境に2つの望遠鏡を建設予定で、低周波SKA(SKA-low)および中周波数SKA(SKA-mid)と呼ばれ、どちらも多数の素子アンテナを組み合わせて使用する電波干渉計である。低周波SKAはオーストラリア、中周波SKAは南アフリカに建設される。
予算規模の都合で計画は2期に分かれており、第1期では、低周波SKAは対数周期双極子アンテナ約13万基を70 kmの範囲に、中周波SKAは口径15 mのパラボラアンテナ約200基を150 kmの範囲に配置する。第2期は第1期の建設と並行して詳細設計を進め、第1期を拡張する形で、低周波SKAは約50万基のアンテナを300 kmの範囲に、中周波SKAは約2500基のアンテナを3500 kmの範囲に配置した上で観測周波数を約25 GHzまで引き上げる。位相開口合成アンテナの技術も併用される見込。集光力1平方キロメートル程度を目指す。
主な科学目標としては、(1)銀河形成期から現在に至るまでの銀河進化の解明、(2)超強重力場での重力理論の検証と天体自体を用いた重力波天文学の開拓、(3)宇宙磁場の解明、(4) ビッグバン以降での第1世代天体の形成を中心とした宇宙進化過程の解明、(5)宇宙での生命現象の探査の5つが掲げられているが、天の川銀河(銀河系)の星間物質や電波による位置天文学でも大きな成果を挙げられるのではと期待されている。
ホームページ:https://www.skatelescope.org/
日本グループ:https://japan.skatelescope.org/ska-project/
Square Kilometre Array (SKA) Official Animation
https://youtu.be/8BBoDw2qVD0
2024年のSKAの建設作業の概要
https://www.youtube.com/embed/Zv1QN4YX28E?si=LFykqNOCj_oSXXuI"
1928年にロックフェラー財団から受けた600万ドルの資金援助により、パロマー天文台に建設された口径200インチ(508cm)の望遠鏡。資金獲得に尽力した天文学者ヘール(G.E. Hale)の名前がつけられた。最近では「ビッグ・アイ」とも呼ばれる。ヘール望遠鏡は1948年に完成したが、それまでの最大の望遠鏡の口径は100インチであったので、集光力は一挙に4倍となった。第2次世界大戦後まもなくの完成であったが、現代の大口径望遠鏡に必要な技術の多くがこの望遠鏡で実現した。主鏡を蜂の巣構造にして軽量化を図るハニカム鏡の技術、センターセクションを挟む鏡筒の先端位置と反対の主鏡セル位置での鏡筒のたわみを同じにして姿勢による光軸ずれを防ぐセルリエトラス構造、軸のスムースな動きを可能にする静圧軸受け、などである。ヘール望遠鏡は、1993年に口径10mのケック望遠鏡ができるまで、実質上世界最大の光学望遠鏡として世界の天文学の先端にあった(1976年にロシアで口径6mの望遠鏡が建設されたが、所期の性能を実現できなかった。特別天体物理天文台を参照)。ヘール望遠鏡はカリフォルニア工科大学、アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所、およびコーネル大学が共同で運用している。
ホームページ
http://www.astro.caltech.edu/palomar/about/telescopes/hale.html
北天拡張ミリ波干渉計の旧称。
ザイデル収差のうちの一つで、像面湾曲係数 D で表される。光学系の最良像面が平面でなく、湾曲面となることに対応し、実用的には湾曲の程度と向きを符号付きの曲率半径、またはその逆数で表す。
パロマー天文台にある口径48インチ(122 cm)のシュミット望遠鏡。1987年にサミュエルオシン-シュミット望遠鏡という愛称がつけられた。今日まで、実質上世界最大のシュミット望遠鏡として活躍している(口径ではドイツのタウテンブルグ天文台にある口径134 cmのものが世界最大だが、これはシュミット専用望遠鏡ではない。また、1973年に完成したオーストラリアにあるUKシュミット望遠鏡(UKST)は、基本構造はオシン-シュミットのコピーで口径も同じである)。ヘール望遠鏡と同じ1948年に完成した。翌年の1949年から56年にかけて、アメリカ地理学協会の出資によって全天サーベイ(パロマー天文台スカイサーベイ)を行った。さらに、1987-99年にかけて第2次サーベイを行った。写真観測の時代が過ぎて、2003年にシュミット望遠鏡用の161メガピクセルのCCDカメラが開発され、現在はこれを用いてさまざまなサーベイ観測が行われている。
パロマー天文台ホームページ:http://www.astro.caltech.edu/palomar/homepage.html
日米共同で米国ユタ州に建設された超高エネルギー宇宙線の観測装置。標高1400 mの680 km2の敷地内に、3 m2の粒子検出器507台を1.2 km間隔に設置した空気シャワーアレイと、さらにその周囲3か所に設置された大気蛍光観測ステーションから構成されており、2008年から1018 keV以上の宇宙線の観測を始めている。2014年に「ホットスポット」と呼ばれる宇宙線が多く到来する方向があることを報告した。ピエールオージェ実験、大気蛍光法も参照。
ホームページ:http://telescopearray.org/
電子や陽子、中性子などのフェルミ粒子が熱平衡にある場合の分布を表す関数。フェルミ統計を参照。
TMTを参照。
