天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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フェルミ統計

電子や中性子、ニュートリノなどフェルミ粒子の集団が従う統計規則。フェルミ分布あるいはフェルミ-ディラック分布ということもある。同一種類の複数のフェルミ粒子は区別がつかない。またパウリの排他原理により、同じ状態に複数の粒子は存在できない。このために温度 T で熱平衡にある場合、状態 i の分布関数は、

f=1exp[(εiμ)/kBT]+1

と表される。ここで εi は状態 iエネルギー準位μ は化学ポテンシャル、kBボルツマン定数である。化学ポテンシャル μ が負の大きな数の場合、ボルツマン分布に近づく。化学ポテンシャルが基底状態のエネルギーより高く、温度が低い場合、縮退圧を発生させるようなフェルミ縮退という状態が実現する。ボース統計も参照。

連続的に変化する信号を標本抽出する場合、取り扱いたい最高周波数の2倍の頻度でデータを抽出すること。標本化定理に基づいた標本抽出方法である。分光器の周波数分解能に対するチャンネルの周波数間隔、マッピング観測の際にビームサイズに対する観測点間隔やスキャン間隔などを決める際にしばしば採用される。もし、ナイキストサンプリングより低い頻度で標本化すると、元の信号の高周波成分が標本から再現される信号の低周波成分として再現されることになる。この現象を「折り返し歪み」、あるいは「エイリアシング」と呼ぶ。アナログ-デジタル変換(A/D変換)も参照。

VLBAを参照。

電子の速度分布がボルツマン分布に従い、温度 T で特徴づけられるプラズマ。これに対して、非熱的なプラズマは、べき乗で近似できるエネルギー分布をもつ。電子の速度分布がボルツマン分布をしていない場合も、エネルギーとともに指数関数的に強度が減る場合は、熱的なプラズマと見なされる。天体物理学ではしばしば、そのスペクトルから、放射体が熱的プラズマであるかどうかが判定される。熱電子も参照。

並進運動に関して熱平衡状態にあり、ボルツマン分布に従ったエネルギー分布関数をもつ電子。これと対比されるのが非熱的電子。厳密な熱平衡にない場合でも、高エネルギーでエネルギー分布関数が指数関数的に減少する場合、熱電子とみなされることがある。これに対し、非熱的電子のエネルギー分布はべき関数で近似されることが多い。これとは別に、熱せられた電極から放出される電子を指すこともある。熱的プラズマも参照。

アメリカ航空宇宙局(NASA)による金星探査計画。パイオニアビーナス1号は、1978年5月20日に打ち上げられ、レーダーにより金星全体の地形のマッピングを行った。雲や大気の観測や太陽風粒子の観測を、1992年まで継続して行った。パイオニアビーナス2号は、1978年8月8日に打ち上げられ、大気組成や雲粒子、温度、圧力を測定する機器を搭載した1機の大型のプローブと、温度や圧力を測定する機器を搭載した3機の小型プローブを大気に突入させ、大気の構造を測定した。1機の小型プローブは金星表面に着陸した後も67分間データを送信した。

アメリカのハワイ州ハワイ島のマウナケアの山頂域(標高約4200 m)に日本の国立天文台(NAOJ)が建設した経緯台方式の光学赤外線望遠鏡。1998年12月24日に、望遠鏡が初めて天体からの光を観測したエンジニアリングファーストライト(望遠鏡の自動追尾用に取り付けられた小型CCDカメラを使用)、1999年1月に複数の観測装置で順次ファーストライトを迎えた。

標高 4200 メートルのマウナケア山頂域は、気圧は平地の3分の2しかなく、地上の天候システムの影響を受けにくい高さにあるため、快晴の日が多く、乾燥している。貿易風がハワイ諸島上空を滑らかに吹き、雲が山頂まで上ってくることは稀で、大気が安定していてシャープな星像を得られる。さらに、近くに大きな都市もなく、天体観測をさまたげる人工的な光はほとんどない。このようにマウナケア山頂域は、晴天率が高い、大気が安定している、湿度が低い、夜空が暗いなど、天文観測を行う理想的な条件がそろった場所で、世界有数の望遠鏡が並んでおり、マウナケア国際天文台群と呼ばれている。

すばる望遠鏡の主鏡は、有効口径8.2 m、厚さ20 cm、重さ22.8トンのULEガラス(超低熱膨張ガラス)を使用した世界最大級の単一鏡である。裏面を支える261本のアクチュエータが、望遠鏡を傾けた際に生じる歪みを補正することで、主鏡は常に理想的な形状に保たれている。この方式を能動光学と呼ぶ。望遠鏡周辺の空気の乱れを抑え星像の劣化を最小限にするため、円筒形のドーム形状が採用され、ドーム内部は昼間から夜間気温に空調されている。赤外線での観測では、大気揺らぎをリアルタイムで補正する補償光学装置とレーザーガイド星生成システムを使用し、高い空間分解能(解像度)を実現している。補償光学を用いてすばる望遠鏡が達成する最高分解能は、視力1000以上で、富士山頂に置いたコインを東京都内から見分けられる能力に匹敵する。

すばる望遠鏡には1999年のファーストライト当時から、主焦点カセグレン焦点、ふたつのナスミス焦点の4つの焦点があり、それぞれの特性を生かした観測装置が搭載されている。特に、望遠鏡の一番上にある主焦点に観測装置を搭載し、可視光において広い視野を高い解像度で観測できる能力を持っている。一般に口径の大きな望遠鏡ほど、収差の影響で一度に見られる空の領域は狭くなるが、すばる望遠鏡の第1世代広視野主焦点カメラであるシュプリームカム(Suprime-Cam)は8000万画素を有するデジタルカメラで、主焦点補正光学系のおかげで、満月とほぼ同じ大きさの34分角×27分角という広い視野を一度に撮影することができた。すばる望遠鏡は、これらの多彩な観測装置を駆使して、遠方銀河の発見や太陽系外惑星の直接撮像など、数々の観測成果をあげてきた。

2013年には、Suprime-Camの後継機としてハイパーシュプリームカム(Hyper Suprime-Cam: HSC)が稼働を始めた。HSCは独自に開発された 116 個の高感度 CCD 素子を搭載し、計8億 7000 万画素を持つ巨大な超広視野デジタルカメラで、新たに開発された主焦点補正光学系により満月9個分に相当する広い視野を一度に撮像できる。2014年から2021年までの 330 夜を使って、HSCすばる戦略枠観測プログラム(HSC-SSP: HSC Subaru Strategic Program)が実施され、そのビッグデータは全世界に向けて段階的に公開されている。HSC-SSPのデータから、かつてない広さと解像度のダークマター地図の作成など、すばる望遠鏡とHSCの特長を生かした成果が生まれている。さらに、HSC-SSPの公開データを使って、職業科学者ではない市民、すなわち「市民天文学者」が研究に参加貢献する「市民天文学」(シチズンサイエンス)プロジェクトも行われている。

2022年には、すばる望遠鏡の機能を大幅に強化し、天文学研究に新たな地平を切り拓くプロジェクト「すばる2」が始まった。将来計画まで含め4つの主力装置を使って、ダークマターとダークエネルギーの性質の探求から、銀河や様々な爆発現象、地球型系外惑星の探査まで、様々なスケールを網羅した4つの科学目標を追求し、宇宙の全体像を捉えることを目指している。

関連するサイト
すばる望遠鏡ホームページ:https://subarutelescope.org/jp/
すばる望遠鏡の特長:https://subarutelescope.org/jp/about/features/
すばる望遠鏡観測装置一覧:https://subarutelescope.org/jp/about/instrument/
すばるが解き明かす宇宙:https://subarutelescope.org/jp/subaru_discovery/
すばる望遠鏡が観た宇宙の姿 ―すばる望遠鏡20年の研究成果―(2019年):
https://www.nao.ac.jp/study/subaru20/
HSC-SSP日本語サイト :https://hsc.mtk.nao.ac.jp/ssp/home/home_jp/
すばる2:https://subarutelescope.org/jp/subaru2/index.php
すばる望遠鏡公式YouTubeサイト:https://www.youtube.com/@SubaruTelescopeNAOJ
すばるギャラリー:https://subarutelescope.org/jp/gallery/

 


マウナケア山頂の夕暮れ、観測をスタートする「すばる望遠鏡」

https://www.youtube.com/embed/KCfdiriOFj8?si=FgwSKybatEs7B8mE"


すばる望遠鏡新プロジェクト すばる2

https://www.youtube.com/embed/haknGpyhVzA?si=MvSRLWoVE0OZpNoy"


進化を続けるすばる望遠鏡

https://www.youtube.com/embed/4Je--MqBtL8?si=X1CgYyk-RJtIpZ5T"

2つの時系列信号の間にある関連性を指す言葉。相互相関関数を参照。

2つの信号の間での相関関数。異なった時刻や方向に対して、2つの信号がどの程度の関連を持つのかを示す。相関関数を参照。

アメリカ航空宇宙局(NASA)が1975年に打ち上げた2組の火星探査計画。バイキング1号と2号はそれぞれ軌道船と着陸船で構成され、軌道船は火星表面の詳細な画像を取得した。1号着陸船は1976年7月20日、クリュセ平原に着陸、2号は1976年9月3日、ユートピア平原に着陸した。バイキング探査の大きな目的は、生命探査すなわち火星土壌中の微生物の検出であった。過去に水が存在した可能性のある平原に着陸したが、周囲に存在したのは、玄武岩を主成分とする火山性の岩石であった。

生命探査実験では、土壌を加熱して放出されるガスを分析する有機物検出実験、微生物の呼吸作用を調べるガス交換実験、放射性炭素同位体を含んだ栄養液を加えて発生した気体を分析して微生物の代謝活性を調べる実験、光合成作用を調べる実験が行われたが、生命存在の証拠は得られなかった。着陸船の大気分析装置は、大気の微量成分の組成と同位体を測定した。アストロバイオロジーも参照。

カミオカンデの後継観測装置として、岐阜県神岡鉱山の地下に日本を中心とする国際協力で建設された巨大な水チェレンコフ検出器。天体ニュートリノの観測や陽子崩壊の観測を行うことを主な目的とし、1996年から観測を続けている。超純水5万トンを密封した直径39 m、高さ42 mの円筒形のタンクと、チェレンコフ光を観測する光センサーとしてタンクの壁に据え付けられた約1万1千本の光電子増倍管とその信号を扱う電子回路などから構成される。 2001年に光電子増倍管の約7割が破壊される事故が発生したが、翌年に部分復旧した。2006年に完全復旧して2022年時点で観測を継続している。大気ニュートリノの観測(1998)と、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究所で人工的に発生させたニュートリノを観測するK2K実験(2004)により、ニュートリノ振動を観測し、ニュートリノに質量があることを確定した。2009年からさらに高精度のT2K実験を行っている。ニュートリノ振動の発見により、チームリーダーの梶田隆章東大教授が2015年にノーベル物理学賞を受賞した。
2021年から後継装置としてハイパーカミオカンデ(直径68 m、高さ71 m、水量26万トン)の建設が始まった。2027年の観測開始を予定している。
ニュートリノ天文学も参照。
ホームページ:http://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/sk/
ハイパーカミオカンデ:https://www-sk.icrr.u-tokyo.ac.jp/hk/about/outline/

1989年にヨーロッパ南天天文台(ESO)がチリのラシヤ天文台に建設した3.6m望遠鏡。薄型主鏡鏡面を実時間制御の力支持で理想的な形に保つ能動光学方式の実証望遠鏡として、VLTの先駆けとなった。また通風型のドームの先駆けでもある。
ホームページ:http://www.eso.org/sci/facilities/lasilla/telescopes/ntt.html

アメリカのハワイ島マウナケア山頂にある、単一鏡のサブミリ波望遠鏡としては世界最大の口径15mを誇る。イギリスがオランダの協力のもと1983年に建設を開始し、1987年にファーストライトを迎えた。周波数215-690GHzをカバーする複数のヘテロダイン受信機と検出素子数が約1万のボロメータアレイカメラ(SCUBA-2)が搭載されている。現在は東アジア天文台(East Asian Observatory)が運用している。マウナケア国際天文台群も参照。
ホームページ:http://www.eaobservatory.org/jcmt/

ブラウン運動における微小粒子の位置の確率密度関数 P の時間変化を表す次の式(1次元の場合)を意味することが多い。

Pt=bPx+D2Px2

ここで b は外力による移流の効果を表し、D は拡散係数である。
一般にはボルツマン方程式の衝突項において衝突による速度変化の小さい弱い衝突の効果が支配的である場合に、衝突項を位相空間内の位置変化や速度変化についてテーラー展開し、その2次までしか考慮しない近似をフォッカー-プランク近似と呼ぶ。それによってボルツマン方程式から導かれる移流拡散方程式がフォッカー-プランク方程式である。

地球や磁場を持つ惑星の周囲にトーラス状に分布する高エネルギー粒子の帯状の構造。地球の放射線帯は、1958年にアメリカが打ち上げた人工衛星エクスプローラーに搭載された放射線計測器により発見された。機器責任者の名前をとり、バンアレン帯と呼ぶことが多い。
地球以外に太陽系で磁場をもつ惑星は、水星木星土星天王星海王星であるが、現在までのところ、これらのうち水星以外の惑星には高エネルギー粒子の放射線帯が存在していることが確認されている。

 

米国(+ハワイ)、カナダ、ブラジル、アルゼンチン、チリ、期間限定でオーストラリア、韓国の7か国の国際協力(国際ジェミニ天文台)で、ハワイ島マウナケア山頂(ジェミニ北望遠鏡)とチリのセロ・パチョン(ジェミニ南望遠鏡)に建設された2台の8.1m望遠鏡。ほぼ同じ設計で南北から全天を見る。カセグレン焦点に観測装置を複数搭載し、斜鏡を回転して速やかな装置切り替えを実現している。運用はアメリカ国立光学赤外線天文学研究所(NOIRLab)が行っている。
ホームページ:http://www.gemini.edu/

アメリカのハワイ島マウナケア国際天文台群にある有効口径10mの2台(Keck-I, Keck-II)の望遠鏡。カナリー大型望遠鏡に次ぐ世界第2位の口径である。ケック財団からの資金援助によりKeck-Iが1993年に、Keck-IIが1996年に完成した。直径10 mの主鏡は、直径1.6 mの6角形のユニット鏡36枚をつなぎ合わせて構成される分割鏡である。2台の望遠鏡からの光線を結合して干渉計として観測することもできる。カリフォルニア大学、カリフォルニア工科大学およびNASAからなるカリフォルニア天文学研究連合によって運営されている。

 

ホームページ:http://www.keckobservatory.org/

安価かつ軽量な工夫が凝らされたアマチュア向け大口径望遠鏡およびその形式のこと。1950年代にこの方式を考案したアメリカのアマチュア天文家ドブソン(J. Dobson)にちなんだ名前。アマチュア界では単に「ドブソニアン」あるいは「ドブ」とも呼ばれる。基本的には、軽い主鏡と鏡筒(相当部品)を経緯台式の架台に載せただけのものだが、さまざまなバラエティがある(写真参照)。分解して車に積んで移動しやすいことなどから観望会などで人気がある。

絞りより前にある光学系(レンズや鏡など)によって作られる絞りの像。物体から出た光のうち絞りを通過する光線を光学系を無視して直進させると、あたかも入射瞳が絞りであるかのような軌跡を描く。レンズの前に絞りがあるときは、絞り自身が入射瞳となる。射出瞳も参照。

HR図上で縦に移動するTタウリ型星の進化の道筋のこと(図参照)。
重力エネルギーを解放して輝いているTタウリ型星はほぼ星全体が対流状態になっている。また、星の表面付近で H- イオンの連続吸収が卓越しているため、放射の吸収係数の温度依存性が極めて大きい。これらのことに起因して、Tタウリ型星は表面温度が星の光度にほとんど依存しない平衡状態になることが理論的にわかる。そのため、Tタウリ型星はHR図上で上から下に縦(ほぼ温度一定)に移動する進化を示す。この状態を林フェーズという。この進化の時間スケールは重力エネルギーを放射によって解放する時間スケールであり、ケルビン-ヘルムホルツ時間である。HR図上において、この林トラックの右側には平衡状態の星が存在しえないため、林の禁止領域と呼ばれる。ヘニエイトラック前主系列収縮も参照。