天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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プランク長

プランクスケールを参照。

量子力学の基本定数の一つで、記号 h で表され h6.626×1034 J s(ジュール・秒)である。プランク定数を 2π で割った値 =h/2π は換算プランク定数と呼ばれる。

量子力学の創始者の一人であるドイツの物理学者マックス・プランク(M. Planck)にちなんでその名が付けられた。最初は光子のエネルギー E と振動数 ν の間の比例関係 E=hν の比例定数として導入された。光の振動数と波長の関係からこの式は、 E=hc/λc光速度)とも表される。後にフランスのド・ブローイ(L. de Broglie)が、光子に限らずすべての素粒子は粒子性と波動性の両者を併せ持つとして、運動量 p を持つ粒子は波長 λ=h/p の波のように振る舞うことを示した。この波長をド・ブローイ波長という。

2019年5月20日より施行された新しい定義に基づく国際単位系(SI)では、プランク定数はその基礎となる4つの定義定数の1つとして
h=6.62607015×1034 J s (=kg m2 s-1
と定義された。他の3つは、
電気素量 e=1.602176634×1019 C (=A s)
ボルツマン定数 k=1.380649×1023 J K-1 (=kg m2 s-2 K-1
アボガドロ定数 NA=6.02214076×1023 mol-1
である。ちなみに、真空中の光速度は以下である。
c=2.99792458×108 m s-1
ここでそれそれの単位記号は、J(ジュール)、s(秒)、kg(キログラム)、m(メートル)、C(クーロン)、K(ケルビン)、A(アンペア)、mol(モル)である。
これら定義定数の「定義値」は今後変わることがないが、それは決してそれらの物理定数を今後より高い精度で測定する努力を否定するものではない。物理量の高精度の測定は科学の進歩の基礎である。電磁波も参照。

日本の天文学者(1897-1979)。理論天文学の広い分野で研究業績をあげた。大阪に生まれ、東京帝国大学天文学科卒業。イギリスのエディントン(A. Eddington)、アメリカのバーコフ(G. Birkhoff)のもとに留学した。アインシュタイン(A. Einstein)の一般相対性理論天体力学を扱い、シュバルツシルト解の近似で軌道運動を解いた。物質がブラックホールに落下するとき、途中でしばらく停留することを発見した。天体力学の著書には、『天体力学の基礎(上・下)』(1947)がある。
天体物理学では、希薄ガス天体の量子力学的取り扱いを進め、惑星状星雲スペクトル中の輝線を非マクスウェル速度分布で説明した。太陽紫外線でつくられる地球電離層の研究グループも指導した。第2次世界大戦後は東京天文台長として、乗鞍コロナ観測所建設、岡山天体物理観測所設置を指揮し、電波天文学をはじめ、日本の天文学全般を牽引した。国際天文学連合(IAU)副会長。英文著書『天体力学(全5巻)』を完成している。天体力学と天体物理学の両方で多くの研究者を育てた。文化勲章受章。

 

「天文月報」追悼記事
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790504.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790505.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790506.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790507.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790508.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790509.pdf
http://www.asj.or.jp/geppou/archive_open/1979/pdf/19790510.pdf

雑音(ノイズ)はいろいろな周波数成分の足し合わせで表現できるが、周波数ごとの強度が一定である雑音のこと。すなわち、すべての周波数成分を等しく含む理想的(仮想的)雑音である。自然界にはほぼ白色雑音と見なせる雑音は多く存在する。これに対して雑音強度が周波数に反比例(周波数が低いほど強い)する雑音もよく見られ、こちらはフリッカ雑音という。

大型双眼望遠鏡を参照。

天体に入射するエネルギーと反射するエネルギーの比。反射率ともいい、0から1の間の無次元の値をとる。気象学や環境学では、地表面が太陽の光を反射する割合を指すことが多い。アルベドは、地表の場所毎に、また雪や雲に覆われるか否かなどの状態によっても異なる。天文学では、太陽系の惑星、衛星、および小惑星など太陽系小天体に対して用いることが多いが、最近は太陽系外惑星にも使われる。この場合には表面の平均的なアルベドを用いることが多い。地球の平均アルベドは約0.3である。惑星で最も高いのは金星で約0.65、最も低いのは水星で約0.1、は約0.07である。アルベドから天体の表面の物質や状態に関する情報が得られる。月に模様が見られるのは場所によるアルベドの違いによる。

望遠鏡の光学系を実時間制御して最適化する技術。特に大型望遠鏡の主鏡の形状を姿勢や温度が変化しても保てるようにするため開発された。すばる望遠鏡の主鏡の能動光学システムでは、主鏡を支える261本の力支持機構(アクチュエータ)の支持力分布が最適になるようコンピュータで時々刻々制御される。各支持点の支持力は超精密力センサーにより誤差1グラム重の精度で測定し制御する。支持力分布が最適になっているかどうかは、実際の星像をシャックハルトマンセンサーで時々測って確認する。この考え方を拡張して、より応答速度が速い小型の可変形鏡を高速制御して、大気のゆらぎによるシーイングの悪さを克服する技術を補償光学と呼ぶ。

放射場と熱平衡状態にある物体の出す放射の放射強度輝度)の周波数分布あるいは波長分布を表す法則。発見者であるドイツのプランク(Max Planck)にちなんでこの名前で呼ばれる。放射場と熱平衡状態にある物体の放出する電磁波を黒体放射と呼ぶため、プランクの黒体放射の法則とも呼ばれる。また、放射エネルギー分布(スペクトルエネルギー分布)そのものはプランク分布あるいはプランク関数と呼ばれる。プランク分布あるいはプランク関数をプランクの法則とよぶこともある。

絶対温度  T[K] の黒体から放射される放射強度(単位時間、単位立体角あたり単位面積に到達するエネルギー)は、周波数 ν の関数として単位周波数あたりで表すと次の式で与えられる。

Bν(T)=2hν3c21exp(hνkBT)1[Js1m2Hz1sr1]

ここで  h  はプランク定数kBボルツマン定数c光速度であり、[  ]内は単位を表す。これを単位波長あたりにして波長 λ の関数で表すと次の式となる。

Bλ(T)=2hc2λ51exp(hckBTλ)1[Js1m2m1sr1]

ここで c=νλ の関係がある。この Bν(T)Bλ(T) をプランク分布あるいはプランク関数と呼ぶ(分光放射強度と呼ばれることもある)。

プランク分布あるいはプランク関数のグラフは、 Bν(T)Bλ(T) のどちらを表しているのか、すなわち、横軸が周波数 ν か波長 λ か、また、両軸の目盛が線形目盛か対数目盛かによって、見え方が大きく変わることに注意する。プランク分布 Bλ(T) には最大となる波長 λmax があり、その波長が絶対温度 T に反比例することはプランク分布が理論的に確立する前から発見されており、ウィーンの変位則と呼ばれている。これを式で表すと次のようになる。

λmax=2.898×103T[m]

分光放射強度を全振動数あるいは全波長に渡って積分することで放射強度 B(T) を求めることができる。すなわち、

B(T)=0Bν(T)dν=0Bλ(T)dλ

=2π4kB415h3c2T4[Js1m2sr1](=[Wm2sr1])

黒体の表面(単位面積)から前方のあらゆる方向に向かって単位時間に放射される全エネルギー I(T) は、B(T) を出射方向毎に重み cosθθ は表面に垂直な方向と出射方向とのなす角度)をつけて前方に向かう立体角 2π に渡って積分した値となる。すなわち、

I(T)=02π0π2B(T)cosθsinθdθdϕ=πB(T)

ここで、

2π5kB415h3c2σ=5.67×108[Wm2K4]

と定義すると、

I(T)=σT4[Js1m2]=[Wm2]

となる。つまり I(T) は温度 T の4乗に比例する。これをシュテファン-ボルツマンの法則といい、比例定数 σシュテファン-ボルツマン定数と呼ばれる。

分光放射強度から分光エネルギー密度を求めるには、分光放射強度を全立体角に渡って積分し、単位体積当たりに変換すればよい。すなわち、

uν(T)=4πcBν(T)[(Jm3)Hz1]

uλ(T)=4πcBλ(T)[(Jm3)m1]

また、全エネルギー密度は次のようになる。、

u(T)=0uν(T)dν=0uλ(T)dλ=8π515(kBT)4(hc)3[Jm3]

プランクはこの法則の導出を考える過程で、黒体放射の入っている空洞壁の振動子のエネルギーが連続した値を取ることができず、hν(エネルギー量子)の整数倍になっていると仮定した。このエネルギーの量子仮説はその後の量子力学の発展に寄与した。

日時計で目盛りに影を落として時刻を示すための部品。棒や三角形の板などがよく用いられる。

日本で2番目のX線天文学 衛星。1983年2月にM-3Sロケット3号機で打ち上げられ、1988年12月まで観測を行った。蛍光比例計数管を搭載し、その高いエネルギー分解能を活かして、さまざまなX線天体の精密なエネルギースペクトルを測定した。鉄のK殻X線を用いた天文学を切り開いた。中性鉄 Kα(アルファ)線も参照。

ホームページ:http://www.isas.jaxa.jp/missions/spacecraft/past/tenma.html

木星ガリレオ衛星の一つ。ボイジャー探査機が撮影した画像から、イオには火山活動があることが発見された。これは木星と他の衛星の引力に起因する潮汐力によってイオが周期的に変形するために、潮汐加熱によってイオの内部で熱エネルギーが発生して、地下にマグマができているためである。

ディッケ(Robert Henry Dicke;1916-97)はアメリカの物理学者。セントルイス出身、早くから科学に興味を示し、プリンストン大学で物理学を学ぶ。1941年、陽子の非弾性衝突実験でロチェスター大学から学位を取得し、第二次世界大戦中であった同年から1946年まで、マサチューセッツ工科大学の放射線研究所でレーダーの開発に従事し、ディッケ放射計を設計、宇宙の背景放射が20K以下であることを示した。1946年にプリンストン大学物理学教室に戻り、レーザーや電子の磁気回転比の計測などの研究を行った。

また、宇宙マイクロ波背景放射の発見に貢献した一人でもある。ジェームズ・ピーブルス(J. Peebles)、デイヴィッド・ウィルキンソン(D. Wilkinson)、ピーター・ロル(P. Roll)らと理論的な研究と検出器の開発を始めたが、1964年にベル研究所のペンジアス(A. Penzias)とウィルソン(R. Wilson)が先に信号を捉えたことを知り、その発見に宇宙論的な説明を加える論文を発表、重要な役割を果たした。等価原理の枠組みのなかで一般相対性理論の正確性の検証も行っている。

1970年にアメリカ国家科学賞、1973年には米国科学アカデミーのコムストック物理学賞などを受賞、その業績は高く評価されている。

 

参考:https://www.nasonline.org/wp-content/uploads/2024/06/dicke-robert.pdf

チリのアンデス山中標高約2600mのセロパラナルにあるヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営する天文台。口径8.2 mの望遠鏡4台からなるVLT、これに口径1.8 mの望遠鏡4台を加えた光赤外線干渉計VLTI、さらにVISTA望遠鏡とVSTがある。シーイングなど観測条件は、ESOの主力天文台であるラシーヤ天文台よりも優れている。
ホームページ:http://www.eso.org/sci/facilities/paranal

2003年に打ち上げられて、2005年にアポログループ地球接近小惑星(25143)イトカワを探査して表面のサンプルを採取、2010年に地球への帰還に成功した、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)の小惑星探査機である。旧名はMUSES-Cで、宇宙科学研究所(ISAS)の工学試験衛星として、イオンエンジンの実証や惑星探査技術の確立を目的として打ち上げられた。重力の弱い小天体に着地して、サンプルを回収して地球に持ち帰ることに成功したのは、世界初である。

地上観測から、イトカワは500 mほどの細長い形状をしたスペクトル型はS型の小惑星であると推測されていた。実際のイトカワは、大小2つの塊が接合したような形状をしていた。大小の塊の間に存在する滑らかな地域(ミューゼスの海)は、数cm程度の小石状の物質で覆われていて、着地およびサンプル採取地点に選ばれた。

「はやぶさ」のサンプル採取手法は、弾丸を衝突させて小惑星表面から巻き上がる放出物をホーンで集めてサンプルカプセルに導入するシステムである。着地時に弾丸が発射されなかったことがわかり、その後も、燃料漏れ、通信途絶、イオンエンジンの故障などがあり、サンプルの帰還は危ぶまれた。しかし、これらの困難を克服して、2010年6月13日に大気圏に再突入、本体は多数の破片となり流星のように輝いて燃え尽きたが、切り離されたサンプルカプセルは西オーストラリアのウーメラ地区に無事着地した。小惑星表面に着陸してのサンプルリターンに世界で初めて成功した。サンプルカプセルの中には1000個以上の微粒子が捕獲されており、初期分析から、小惑星起源であり、LL型コンドライトに近い組成を持つことが判明した。これはイトカワの分光観測の結果と一致した。また、地球と異なる酸素同位体比や、宇宙風化作用の証拠である鉄ナノ微粒子も発見されている。

はやぶさの観察した小惑星イトカワの表面はこれまで探査機が訪れたガスプラ、イダ、エロスといった大きな小惑星とは異なり、表面は細かいレゴリス粒子に覆われておらず、岩塊が積み重なっていた。最大の岩塊は50 mほどの大きさである。また、質量と体積から求まった密度は 1900 kg m-3 で、40%の空隙率が求められ、内部に岩塊間の空間が分布していることを示す。これらは、衝突破片が重力で集積したというラブルパイルモデルの強い証拠である。

「はやぶさ」の成功を受けて、後継機「はやぶさ2探査機」の計画が開始された。2014年12月に打ち上げられ、生命材料物質である有機物が存在すると考えられるC型小惑星(162173)1999JU3リュウグウ」に2018年6月に到達した。

空間的に無限大の大きさを持つ宇宙のことであるが、通常は、負の曲率パラメータ K = -1 を持つロバートソン-ウォーカー計量で表される宇宙のことを指すことが多い。

絶対温度 T で物質と熱平衡状態にある放射(黒体放射)のスペクトルエネルギー分布。プランク関数とも言う。プランクの法則を参照。

重力の影響下にあって密度成層がある流体中で、浮力によって生ずる振動の振動数Nをブラント-バイサラ振動数といい、系が球対称である場合には

N2=g(dlogeρdr1Γ1dlogepdr)

で与えられる。ただしここでg は重力加速度、ρ は密度、p は圧力、

Γ1(logeplogeρ)ad

は断熱指数、r は中心からの距離を表す。N2>0ならば、流体中の乱れによって平衡位置から上昇(または下降)した流体要素は膨張(または収縮)の結果、周囲の流体よりも密度が高く(または低く)なり、浮力は流体要素を平衡位置に戻す向きに働いて浮力振動が起こる。N2<0の場合、平衡位置からずれた流体要素は浮力の働きによって平衡位置からますますずれて行き、対流運動を起こす。

KAGRA大型低温重力波望遠鏡を参照。

地球接近小惑星のうち、軌道長半径が1.0 au(au は天文単位)以上で、近日点距離が1.017 au(地球の遠日点距離)以下の小惑星をアポログループと呼ぶ。アポロ群、アポロ型と呼ばれることもある。小惑星1862 Apolloにちなんで名付けられた。アポログループの小惑星は、太陽からの平均距離は地球-太陽間の平均距離より大きいが、地球軌道と交差して地球軌道の内側に来ることもある。はやぶさ探査機が探査を行った小惑星イトカワは、アポログループに属している。アテングループアモールグループアティラグループも参照。

自然界に安定に存在しない非常に重い原子核のこと。超重原子核、ultraheavy nucleusともいう。通常はウラン(質量数233)より重いものを指す。実験で人工的に合成するが寿命が短く放射性崩壊によりすぐに別の原子核になる。鉄(原子番号26)より重い原子核。熱核融合反応では合成されない。また、原子核物理学においては自然界に存在しない非常に重い(ウランより原子番号の大きい)原子核を指す(この場合はsuperheavy nucleusの訳語である)。