天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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光化学反応

光エネルギーによって促進される化学反応。分子が光エネルギーを吸収した結果、電子が励起されて励起状態になり、分子間の反応が促進される。太陽系内では、地球大気でのオゾン生成や、タイタン大気中でのエタンや有機分子生成などが光化学反応の例である。光化学反応は宇宙空間での有機物の生成にも重要な役割をはたしている。H2O, CO, NH3, CH4などのアモルファス氷に紫外線を照射すると、イオンラジカルが形成されて、反応性が高くなりさまざまな有機物が生成されることが実験で確認されている。

水素原子のライマン𝛂輝線を放射している天体のこと。ライマン𝛂線は、水素ガスが電離した領域において、電離水素(陽子)が電子と再結合する際に放射される再結合線の一種で、静止系での波長は121.6 nmである。星生成領域の周りの電離水素領域(HII領域)や活動銀河核の周りの広輝線領域からの放射などが一般的である。宇宙初期にある銀河のなかにもライマン𝛂線を強く放射するものがあり、これらはライマン𝛂輝線銀河(Lyman 𝛂 emitter)と呼ばれる。また、銀河が最初に生まれるとき(原始銀河)に、星生成に伴う強いライマン𝛂線が放射されると考えられている。ライマン系列も参照。

水星小惑星のように大気のない固体天体の表面に存在する、衝突で岩石が破砕されて生成されたさまざまなスケールの粒子の堆積層。月面は数cmから数10mの厚さのレゴリス粒子に覆われている。月表面のレゴリス粒子の平均粒径は70μm である。レゴリス粒子が後の衝突で再結合した岩石も、月試料や隕石に発見されていて、さまざまな種類の鉱物の集合体である。小惑星では、天体のサイズが小さくなり、重力が弱くなると、衝突で放出された物質の再集積は少なくなる。また、小さい粒子は荷電して散逸する。結果として、1kmより小さい天体にはレゴリス粒子は存在しないと考えられていた。しかし、はやぶさ探査機による長径500 mの小惑星イトカワの観測では、数cmサイズの小岩片の堆積層が存在すること、持ち帰ったサンプルには1-100μm サイズの微粒子があることが明らかになっている。
火星金星の表面の砂状物質もレゴリスと呼ぶことがある。氷衛星など氷天体の表面にもさまざまなスケールの氷粒子が存在すると考えられており、これをレゴリスと呼ぶことがある。

遠方クェーサーのスペクトルに見られる、視線方向の手前に多く存在するライマン𝛂雲によってできるライマン𝛂吸収線の密集を総称して、"森''と表現する。主に中性水素からなるこれらの雲(吸収体)は、クェーサーより手前にあって後退速度が相対的に小さいため、その速度に応じてクェーサーのライマン𝛂輝線(静止座標で121.6 nm)よりも短波長側にライマン𝛂の吸収線を作る。クェーサー吸収線系も参照。

91.2-121.6 nm より短波長側に見られる銀河の連続スペクトルの鋭い落ち込み(ライマンブレイク)の顕著な特徴をとらえて探査し発見される、遠方にある星生成銀河の一種。ライマンブレイクは、星の大気スペクトル自身に見られる水素のライマン端(91.2 nm)のスペクトルの落ち込みと、ライマン𝛂線(121.6 nm)より短波長側の光が、手前にある中性水素によって吸収されることによるスペクトルの落ち込みとによってできる。隣接する2つの広帯域フィルターで探査した場合、この顕著なブレイクが赤方偏移してちょうど両フィルターの谷間に落ちるとき、短波長フィルターと長波長フィルターでの銀河の明るさの比が大きくなることを利用して同定することができる。ライマン𝛂天体ライマン系列も参照。

気相中の原子や分子が電離し、正イオンと電子に分かれて自由に運動している状態がプラズマである。ほぼすべての粒子が電離した状態を完全電離プラズマと呼び、電離度が低いものを弱電離プラズマと呼ぶ。
物質の三態である固体、液体、(中性)気体とは異なった状態であるため、物質の第四態ともいわれるが、中性ガスとは異なり、電磁場の影響を受けて極めて複雑な運動を行う。宇宙に存在している物質の多くはプラズマ状態にある。密度が十分に高く、プラズマ粒子同士の衝突が頻繁に起こっている場合は、その運動は電磁流体力学により記述される。プラズマ中の正負の電荷分布に偏りが生じると、プラズマに静止した系で測っても有限の電場が生じ、その電場を打ち消すような電荷の運動が生じる。この運動はプラズマ粒子の慣性のため振動となるので、プラズマ振動と呼ばれる。その振動の周期はプラズマの数密度だけで決まる。その周期の逆数に  (πは円周率)をかけた量はプラズマ振動数もしくはプラズマ周波数と呼ばれる。物質の三態と四態も参照。

オランダ電波天文学研究所が運用していた電波望遠鏡の1つ。初期の電波天体カタログとして有名なウエステルハウトWesterhoutカタログの作成、アンドロメダ銀河21cm線の検出などを行った。1990年代でも21cm輝線全天サーベイを行うなどの成果を挙げている。このアンテナの架台は経緯台であるが、当時は十分な性能のコンピュータが実用化されていなかったため、電気機械系のハードウェアにより日周運動の追尾を行うシステムが採用されている。現在は教育普及用の電波望遠鏡として地元ボランティア団体によって運用されている。

プラズマ粒子同士のクーロン力による2体衝突が無視できるようなプラズマ。2体緩和無衝突系も参照。

磁気リコネクションを参照。

太陽表面に見られる、大きさ約1000 km、寿命10分程度の対流運動のパターン。

H𝛂線による太陽観測において、波のような擾乱がフレア発生点から外側に向けて500-2500 km s-1の速度で伝播する現象。1960年にH𝛂線の高速カメラによってアメリカのモートン(G. E. Moreton)が発見した。この伝播する擾乱は、H𝛂吸収線の中心波長から0.5 Å 程度離れた波長位置ではっきり見えるため、擾乱位置で彩層が上下運動していることがわかる。内田豊は定量的なモデルにより、フレアによって発生した衝撃波(磁気流体ファーストモード衝撃波)が彩層の上方にあるコロナを伝わり、この衝撃波が彩層に突入したものが擾乱の正体であることをつきとめた。この衝撃波はコロナの上方に向けても伝播するため、このモデルはしばしば同時に観測されるII型バーストも説明する。ようこう衛星によるX線観測により、フレアの発生後にコロナ中を伝播する衝撃波が観測されたが、その性質は内田が予想したようにマッハ数1.2程度の弱い衝撃波であった。

モートン波を参照。

遠方にある物体を拡大して観察する装置のこと。あるいは、遠方にある物体からのさまざまな放射を集め高感度でとらえる装置のこと。もともとはその言葉のとおり、遠方物体を可視光で拡大観察するための装置のことを指していたが、今日では、遠方天体から地球に届く、ガンマ線から電波に至るあらゆる波長域の電磁波を集光してとらえる装置を広く望遠鏡と呼ぶ。

観測する電磁波の波長によって異なる技術が要求されることがあるので、観測波長を冠して、ガンマ線望遠鏡、X線望遠鏡、紫外線望遠鏡、可視光望遠鏡、赤外線望遠鏡、ミリ波望遠鏡、電波望遠鏡などと呼ぶことがある。可視光望遠鏡は一般には単に望遠鏡と呼ばれるが、天文学では光学望遠鏡と呼ばれことが多い。電磁波以外の観測装置も、ニュートリノ観測装置をニュートリノ望遠鏡、重力波を観測する装置を重力波望遠鏡などと呼ぶことがある。

地上物体の観察に用いられるものを地上望遠鏡、天体・宇宙の観測に用いられるものを天体望遠鏡というが、天文学の分野では地上望遠鏡と言えば「地上に置かれた天体望遠鏡」を指す。これに対して宇宙空間(スペース)から天体を観測する望遠鏡は宇宙望遠鏡と呼ぶ。大気の窓を透過する電磁波のみが地上から観測できるので、地上望遠鏡のほとんどは光学・赤外線望遠鏡と電波望遠鏡である。このほかに高エネルギーの宇宙線とそれに伴う現象を観測する地上望遠鏡もある。

最も歴史の古い地上望遠鏡は光学望遠鏡で、レンズを集光素子として用いる屈折望遠鏡であった。しかし大きなレンズの製作は技術的に困難で、大口径望遠鏡は反射望遠鏡となってきた。望遠鏡は天球上の任意の天体に向けることができ、かつ一旦目的天体を視野に捉えたらその日周運動を精密に追尾する必要がある。このために地上望遠鏡にはさまざまな架台の形式が考案されている。反射望遠鏡は現代の天体望遠鏡の主流であり、X線から紫外線、可視光、赤外線、電波まで広い波長域の電磁波の観測に用いられている。物質への透過力の強いガンマ線や硬X線では、反射鏡を集光素子として用いることができず、広い面積の検出器に光子の到来方向がわかる装置をつけて望遠鏡としている。

望遠鏡は1608年に発明された。オランダのミデルブルフという町の眼鏡職人達が眼鏡用のレンズを組み合わせているうちに偶然に遠方の物体が拡大されることを発見した。当時ミデルブルグには、ベネチアガラスの流れを汲む職人のいるガラス工場で高品質のガラスが製造され、眼鏡生産が盛んであった。望遠鏡の発明者は、その技術を最初に特許申請したハンス・リッパヘイ(Hans Lipperhey)とされているが、ほとんど同時期に他の眼鏡職人の中にも同様な技術を知った者がいた。ガリレオがイタリアのパドバで、自作の望遠鏡で夜空を観測したのはその僅か1年後であるから、望遠鏡のニュースはヨーロッパに驚くほど早く広まったことが分かる。ガリレオ式望遠鏡ケプラー式望遠鏡も参照。

1645年から1715年の約70年間に太陽磁気活動が弱まり、太陽表面に黒点がほとんど観測されない期間が続いた。この期間をその発見者にちなんでモーンダー(あるいはマウンダー)極小期という。ダイナモ機構の理論は、周期的活動のさまざまな性質だけでなく、このような極小期の存在も説明しなければならない。恒星ダイナモの働く、太陽以外の恒星でも同様な極小期はあると観測的にも示されているが、単に年齢が古く、自転が遅くなっているために、ダイナモ機構が働かなくなっているだけだと後に考えられるようになった恒星もある。

VERAのこと。

木星は太陽系内で最大の惑星であり、土星天王星海王星とともに、巨大ガス惑星の一つである。軌道長半径は5.2 au、質量は地球質量の318倍、太陽質量の約1000分の1、自転周期は約10時間、平均密度は約1330 kg m-3である。外層は水素とヘリウムを主成分とするガスであり、その下には金属水素層、そして中心には岩石と氷などからなるコアがあると考えられている。コアの質量は地球質量の数倍から十数倍と考えられている。しかし木星中心のような高温高圧での物質の状態方程式が明らかでなく、コアの大きさ、組成については不確定性が大きい。
木星のような巨大ガス惑星は、十分大きくなった氷からなる原始惑星が、周りの原始太陽系円盤ガスを捕獲して形成される(太陽系形成論を参照)。
木星を覆う雲は東西方向に帯状の構造を作っており、その中に楕円形の渦構造が存在する。渦構造の中で最大のものは大赤斑と呼ばれ、数百年以上にわたって存在していると考えられている。木星は惑星の中で最強の磁場を持っており、それに伴うオーロラも観測されている。
木星には2022年8月末時点で80個の衛星が確認されている(国際天文学連合IAUによって登録番号がつけられているのは72個)。その中で、最大の順行衛星であるイオエウロパガニメデカリストは発見者にちなんでガリレオ衛星と呼ばれている。ガリレオ衛星は、木星形成の最終段階において、木星の周りにガスとともに流入してきた固体物質が衝突合体を繰り返して形成されたと考えられている。一方、衛星の中には軌道長半径や離心率、軌道傾斜角が大きく逆行方向に公転するものもある。これらは不規則衛星と呼ばれ、木星系外から捕獲されたものと考えられている。
木星の環はボイジャー探査機1号によって発見され、その後のガリレオ探査機によって詳しく観測された。細く最も明るい主要リングの内側にはハローと呼ばれる、鉛直方向にも広がった環があり、主要リングの外側には希薄なリングが広がっている。これらは μmサイズのダストからなっており、これらの環の近傍にある小衛星に隕石が衝突してまき散らされたダストが環を形成したと考えられている。
木星は質量が非常に大きいため、太陽系のほかの天体の形成進化過程に大きな影響を及ぼしたと考えられる。


Timelapse of Jupiter’s auroras

VLAを参照。

海王星よりも外側で太陽を周回する天体。1930年にアメリカのトンボー(C. Tombaugh)により発見された。長い間、太陽系第9惑星として知られていたが、現在は太陽系外縁天体に含まれる冥王星型天体の一つでその代表例である。

エッジワース-カイパーベルト天体が続々と発見されて冥王星に近い大きさの天体(エリス)が発見されるに至り、2006年にプラハで開かれた国際天文学連合の総会で惑星の定義が作られ、冥王星は惑星ではなく準惑星となった。そして冥王星と似た性質を持つ天体を新たな種族とすることが決まり、2008年にオスロで開かれた国際天文学連合の執行委員会で、この種族に冥王星型天体という名前が付けられた。

1978年に衛星カロンが発見され、冥王星は当初考えられていたよりも小さな氷天体であることが明らかになった。質量は1.3x1022 kg、直径は2370 km(地球の19%)、平均密度は1852 kg m-3である。星の掩蔽の観測から窒素を主成分とする薄い大気(大気圧0.15-0.3 Pa)が存在することがわかっている。分光観測から、表面には窒素、一酸化炭素、メタン、エタンなどの氷が存在することがわかっている。2015年7月14日にニューホライズンズ探査機により観測され、変化に富む表面の様子が明らかになった。低緯度には反射率の低い地域と、窒素氷の噴出で形成されたと考えられるハート型のスプートニク平原がある。

冥王星には大きなカロン(直径約1200 km)のほかに、ニクス、ヒドラ、ケルベロス、スティクスと命名された大きさ約8-30 kmほどの小衛星が存在する。冥王星と衛星カロンは潮汐ロックにより同期自転している。

 

太陽系外縁天体の中で質量が大きく準惑星として定義づけられている天体を指す。2006年の国際天文学連合(IAU)総会で惑星の定義が採択された結果、冥王星は惑星ではなくなり、冥王星を含む新しい種族の分類を作ることが決まった。その定義は「太陽を周回する天体であって、その軌道長半径が海王星の軌道長半径よりも大きく、自身の重力によって静水圧平衡形状(球形)となるだけの質量を持ち、かつ軌道を占有しないものである」。この種族に付ける冥王星型天体(Plutoid)という名称は、2008年にオスロで開かれた国際天文学連合の執行委員会で決定された。2019年時点で、冥王星、エリス、マケマケ、ハウメアの4天体が冥王星型天体に分類されている。
なお、冥王星族天体(plutino)は別種の天体であることに注意。太陽系も参照。

モーンダー極小期を参照。