カント(Immanuel Kant;1724-1804)は『純粋理性批判』(1781)、『実践理性批判』(1788)、『判断力批判』(1799)の3批判書で知られるドイツの哲学者。近世最大の思想家の一人。ケーニヒスベルグ出身で同大学に学び学位を取得、1770年から同大学教授に就任し、生涯同地に住んだ。
1755年に『天体の一般的自然史と理論』(Allgemeine Naturgeschichte und Theorie des Himmels)を出版。その中で、天の川はレンズ状の星の集団で、そのような島宇宙の一つであること、太陽系が星雲から形成されたとする星雲説(カント・ラプラスの星雲説)を唱えた。これは、星雲の中でガスが凝縮してたくさんの塊ができ、旋回して衝突合体が起こって少数の大きな塊となり、惑星になったという現代の太陽系形成論に通じる内容であった。また、月の潮汐摩擦により地球自転が遅くなることを示唆したり、「コペルニクス的転回」なる用語の創始者としても知られている。
直交した3平面での反射により、入射光の方向に180°光を折り返すための光学素子。ガラスの立方体の1つの頂点を切り出した形状を持つコーナーキューブプリズムや、3枚の直交する平面鏡で構成したコーナーキューブミラーがある。典型的な光学ガラス材BK7で製作したコーナーキューブプリズムは、正面から±5.7°の範囲内で入射する光に対し、3つの平面での反射が全反射となるため反射面をコーティングしない状態で効率が最大となる。これより広い角度からの入射に対しては、反射面をアルミなどで金属膜コーティングをしたものが利用される。レーザー測距時のターゲットなどとして用いられる。
同位体の区別を含めて元素をより正確に原子と区別する概念。原子番号(陽子の数)と質量数(陽子と中性子の数の和)で表現される。核図表を用いればすべての核種を見やすい形に表せる。
現在知られている物質はすべて原子からできている。原子は原子核と電子から構成され、さらに原子核は陽子と中性子の集合体である。陽子と中性子は合わせて核子と呼ばれる。原子は、その原子核中にある陽子の数(原子番号)によって異なる元素に区別されるが、同じ元素(原子番号)であっても、中性子の数が異なるものが存在する。これらは同位体と呼ばれる。同位体の中には安定なものと不安定なものがある。不安定な同位体は放射性同位体と呼ばれ、時間が経つにつれ、放射線を出して異なる原子核に変わる。たとえば、原子番号2のヘリウムには質量数4と質量数3の2つの安定な同位体がある。ヨウ素131はヨウ素の放射性同位体の一つである。放射性元素も参照。
縦軸に陽子数(原子番号)、横軸に中性子数をとってさまざまな原子核を示した図。この図の1つのマス目で指定される原子核の種類を核種と呼ぶ。元素の種類は陽子の数によって決まるので、一つの元素は縦軸の同じ位置にあり、横軸(水平)方向の広がりは同位体を示す。一つの元素に対して、自然界に安定に存在する同位体だけでなく、放射性崩壊を起こして放射線を出し他の核種に変わる不安定な放射性同位体も含まれる。また自然界には安定して存在しないが実験的に存在が確認された核種と、確認はされていないが理論的に存在が可能と予測されている核種も示されることが多い。
元素の化学的性質の理解に役立つ周期表に対して、核図表は原子核中の陽子と中性子の数に基づいているので、原子核の規則性や安定性、また元素合成を理解するのに有用である。
初期質量関数を参照。
楕円をその軸の周りに回転させてできる立体形状のこと。楕円をその長軸周りに回転してできる葉巻状の楕円体をプロレート(扁長楕円体)、短軸周りに回転してできる饅頭状の楕円体をオブレート(扁平楕円体)と呼ぶ。概略形状が自己重力で決まっている自転している天体は、概ね回転楕円体となる。なお、回転楕円体を回転軸と垂直な1つの方向に1次元的に拡大、あるいは縮小したものが、3軸不等楕円体である。
星間・銀河間などのガスの運動とその物理状態の時間変化(物理学では時間発展と呼ぶことが多い)は、粘性なし(非粘性)の流体力学の偏微分方程式でよく表される。コンピュータシミュレーションで、この方程式は、時間・空間両方に有限幅に分割した格子を代表する物理量の時間発展として計算される。そのうち、元の方程式の偏微分を差分で近似して進化を計算する方法が差分近似解法である。
ところで流速が音速を超える非粘性の流体では、しばしば、衝撃波が発生し、圧力、密度、速度などの物理量に衝撃波をまたいで飛びを生じる。しかし、飛びでは偏微分の値は発散するため、非粘性流体の差分近似解法では取り扱えず、数値不安定を生じる。この数値不安定を抑えるために元の方程式に人為的な粘性項を導入することが考案された。これを人工粘性と呼ぶ。また、差分法の打ち切り誤差が同種の項に相当する場合も同様に人工粘性と考えることができ、現在では衝撃波を含んだ流れを正確に記述する様々な方法が提案されている。人工粘性が大きすぎると解が不自然になめらかになって、微細な構造が消えたり、シャープな構造がなまったりする、つまり、空間的に急変する構造が再現できないという弊害がある。
放射性崩壊を参照。
ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei;1564-1642)はルネサンス期に活躍したイタリアの自然哲学者、数学者、天文学者。ニュートン、アインシュタインとともに現代につながる宇宙観の形成に大きな貢献をした。ガリレオは、音楽家で商人でもあったビンセンティオ・ガリレイの長男としてピサに生まれた。「ガリレオ」は「ガリレイ」の単数系で、トスカーナ地方では、長男には「姓」を単数形にしてその名前とする習慣があった。オスティリオ・リッチ(Ostilio Ricci)のもとで数学を学び、1589〜1592年、ピサ大学の数学教授、1592〜1610年、パドバ大学の数学教授となった。
1609年にオランダのハンス・リッパヘイが望遠鏡を発明したという噂を聞き、自ら望遠鏡を製作、1610年に木星の衛星や月面上のクレーター地形を発見、天の川も望遠鏡で観測して「重なり合って分布した無数の星の集合」であることを明らかにし、これらの結果を『星界の報告(Sidereus Nuncius)』として出版した。1610年にはピサ大学数学教授となり、トスカナ大公コジモ2世つきの数学者ならびに哲学者にもなった。その後、土星や太陽の黒点も望遠鏡で観測している。特に土星の観測では、環の発見には至らなかったが、土星が三つの星から出来ており、中央の星は両側の二つの星の3~4 倍の大きさを持っていると考えていた。また、金星の満ち欠けの観測から、天動説に強烈な批判を加えた。(天動説では金星は常に地球と太陽の間にあるため、三日月形や半月形にはなっても満月形になることはないが、地動説では金星が地球から見て太陽の向こう側にある時には小さく丸く見える。)1615年に宗教裁判にかけられ、2回の審問を経て有罪宣告を受け(1633年)、コペルニクス説の擁護を禁じられるとともに、アルチェトリに死ぬまで幽閉された。有罪とされたのはコペルニクス的宇宙観に関してで、異端のせいではなかった。1638年、完全に盲目になり、1642年、幽閉先で死去した。1610年の『星界の報告』の他に、 『太陽黒点論(Letters on Sunspots) 』(1613年)、『偽金鑑定官(Il Saggiatore)』(1623年)、『天文対話(Dialogo sopra i due massimi sistemi del mondo)』(1632年)、『新科学対話(Discorsi e Dimostrazioni Matematiche, intorno a due nuove scienze)』(1638年)などの著書がある。
力学への貢献は天体の発見ほど大きく取り上げられないが、自由落下の加速、慣性の法則、相対運動、振り子の等時性の研究などは非常に重要である。特に、実験結果を数式に結びつけて整理したのはガリレオが最初であり、以降の近代科学における研究法の基礎を築いたといわれている。これは、アリストテレスなどの権威の言葉ではなく、実験事実だけを信じるルネサンス的精神の発露とされる。
黄道上で太陽の黄経(黄道座標系を参照)が180度になる時刻。9月23日頃。二十四節気の一つである。秋分の日には、太陽は真東から昇り真西に沈み、昼と夜の長さがほぼ等しくなる。二至二分も参照。
光を干渉させるために2つの光波を重ね合わせる光学素子。 透過率と反射率がほぼ50%の半透鏡を用いる方法(マイケルソン型) や結像レンズの瞳の異なる部分に光を入射し焦点部で干渉させる 方法(フィゾー型)がある。干渉計も参照。
星生成シナリオの一つで、両極性拡散による長い時間スケールで分子雲コアが収縮し、星生成がゆっくり始まるという考え方。
分子雲コアが自己重力で動的に収縮できないように磁気圧で支えられていることを仮定している。
このモデルでは、分子雲コアの進化の時間スケールが観測から示唆されるよりも長くなることが問題点として指摘されていたが、分子雲内の超音速乱流による圧縮により形成された高密度領域で磁場が曲げられるため、双極性拡散が加速され、拡散の時間スケールが短くなることがわかっている。磁気流体力学も参照。
重力多体系の中で、2体緩和による進化が本質的な系のことをいう。考える時間尺度と2体緩和時間を比較して、2体緩和時間の方が短くなる場合、系は衝突系となる。たとえば、典型的な球状星団の2体緩和時間は 109 年程度となり、宇宙年齢の間に系は2体緩和により進化することがわかる。衝突系のN体シミュレーションは2体緩和を正確に計算する必要があるため、無衝突系に比べて計算精度が必要になる。
コンピュータによる実験のこと。数値シミュレーションともいう。自然現象を記述する方程式系は多くの場合、常微分方程式や偏微分方程式であるが、しばしば多数の変数を含んでいたり、強い非線形性を持っていたり、複雑な境界条件の下にある。そのため、解が解析的に解ける(数式で表せる)場合は非常に限られている。その場合、コンピュータを用いて数値的な解を求める(数式では書けないが数値はわかるのでグラフは書ける場合などがそれに当たる)ことが重要な研究手段となる。このようにコンピュータを用いて数値解を求めることで、自然現象を研究することをシミュレーションと呼ぶ。
シミュレーション天文学も参照。
微分方程式を数値的に解くための方法。差分法では、微分方程式に現れる微分を差分に近似することによって、微分方程式の解を数値的に求める。たとえば時間発展型の偏微分方程式の場合には、連続した時間と空間を有限個の離散的な点で表現する。空間的に離散化された点の集合を計算格子と呼ぶ。
同じような状況の日食が起こる周期で、約6585.32日(18年と11日、ただしうるう(閏)年が5回あれば10日)である。単にサロスということもある。ほぼ18年を 周期として同じような日食が起こることは、既に紀元前600年頃にはバビロニアのカルデア人によって知られていたので、カルデア周期と呼ばれることもある。サロス周期の原理については日食に記述。
すべての格子点が座標軸に沿って規則正しく並んだ計算格子。構造格子では、すべての格子点を配列を用いて表現することができる。たとえば2次元の場合には2個の整数の組み合わせ (i, j)を用いて格子点を表す。 同様に3次元の場合には3個の整数の組み合わせ(i, j, k)を用いて格子点を表す。天体物理学のシミュレーションでは最も一般的な計算格子である。
差分法を用いて偏微分方程式を解くときに、物理量を割り当てる点の集まり。偏微分方程式の差分法では、空間に連続して分布する物理量を、細かい点に分割して計算する。この点は通常網の目のように分布しているので、点の集まりを計算格子と呼び、点を格子点と呼ぶ。密度や速度などの物理量を格子点に割り当て、格子点上の物理量を更新することによって計算を進める。計算格子が細かいほど、解の解像度は増え、解の精度も向上する。計算方法によって計算格子の選び方はさまざまである。構造格子、千鳥格子、直交格子、直交非構造格子、適合格子細分化法、デカルト格子も参照。
