黄道と天の赤道のなす角度。この傾きが0°だと季節変化は起こらず、90°だと夏と冬では昼夜の長さが大きく変化し、季節変化は極端なものになる。実際の値は約23.4°であるが、このような適度な傾きを持つおかげで地球に適度な季節変化が生じることになる。歳差まで考慮したものを平均黄道傾斜角、章動まで考慮したものを真黄道傾斜角という。
黄道傾斜角の大きさはあまり大きく変化はしないが、長期的には、黄道面に対してさまざまな傾きを持つ惑星からの引力により黄道面が変動する“黄道の歳差”と呼ばれる現象により、わずかながら変化する。
互いに重力を及ぼし合う、複数の恒星からなる力学系のこと。連星、星団、銀河などさまざまな規模のものが該当し、主として、天体力学的観点から天体をとらえる場合に用いる語である。太陽系とは異なり、ほぼ同質量の相当数の天体からなるため、二体問題の解から摂動で解くことができない。このため、平均分布が作る平均場中をテスト粒子が運動するとして解くことが多かった。近年では、N体計算能力が高まったため、コンピュータによる数値計算によって研究が進んでいる。
なお、時として、太陽以外の恒星とその周囲を巡る惑星をまとめて呼ぶときに、太陽系に対応する普通名詞として恒星系と呼ぶことがあるが、複数の惑星からなる力学系という意味で、こちらは惑星系と呼ぶ場合も多い。
ケプラー(J. Kepler)がティコ・ブラーエ(Tycho Brahe)による惑星の観測データを解析して発見した惑星の軌道や運動についての法則のこと。第1法則、第2法則、第3法則がある。これらは、それぞれ次のようになる。
第1法則 惑星は太陽を一つの焦点とし、惑星によりそれぞれ決まった形と大きさの楕円軌道上を公転する。
第2法則 太陽と惑星を結ぶ線分は、等しい時間には惑星ごとにそれぞれ等しい面積をおおいながら公転する。
第3法則 惑星の太陽からの平均距離の3乗と公転周期の2乗との比は、惑星によらず一定である。
これらの法則の意味は次のようになる。
第2法則 惑星に働く力が、常に太陽に向かうもの(中心力)であること。[角運動量保存則]
第1法則と第2法則 その太陽に向かう力が、太陽からの距離の2乗に反比例する(逆2乗の)力であること。
第3法則 調和法則。すべての惑星について、同じ力の法則があてはまるということ。
これらの法則は、ニュートン(I. Newton)の万有引力の法則で説明されることになる。
時間の関数である平均近点角と離心近点角の関係を表す式。平均近点角を$M(t)$ 、離心近点角を$u(t)$ とすると、楕円軌道の場合のケプラー方程式は
$$ u(t) - e \sin u(t) = M(t) $$
となる。ここで$e$ は離心率である。ケプラー方程式を解くとは、$M$ が与えられたときに$u$ を求めることである。ここで$M=n(t-t_0)$である。$n$ は平均運動と呼ばれる天体の平均の角速度で軌道長半径と天体の質量で決まる量であり、$t_0$ は近日点通過の時刻である。つまり、時刻 $t$ を与えたとき、$u$ を求めることがケプラー方程式を解くことになる。$u$ が求められると、天体の位置などが計算できる。放物線軌道や双曲線軌道のときにも似たような関係式がある。
ケプラー方程式は一般に解析的に解くことはできない。このため、離心率で展開して逐次的に計算する、あるいは数値計算するのが普通である。観測から天体の軌道を計算する場合もケプラー方程式を解く必要があり、解析的には解けないものと考えられてきたが、近年、浅田秀樹が解析的に軌道を求める方法を発見し、注目を浴びている。
月の位相を参照。
ケプラー(K. Johannes)によって調べられた惑星の運動のことをケプラー運動と呼ぶが、厳密には古典力学のもとで2つの質点が万有引力の相互作用で運動するときの運動のこと。万有引力の法則、ケプラーの法則、ケプラー方程式も参照。
等しい大きさで向きが反対方向、そして作用線が平行で一致していないような2つの力のこと。偶力が働くと物体は回転を始めるが、並進運動の加速度は生じない。
惑星軌道の近日点が時間とともに移動する現象。ニュートン力学においても他の惑星の重力の影響によって、ある惑星が楕円軌道を一周した後、近日点がもとの位置からずれる。たとえば水星の場合、近日点移動は一世紀につき約574秒角である。そのうち金星の影響が約280秒角、木星の影響が約150秒角、他の惑星の影響が100秒角程度である。残りの約43秒角は謎であったが、一般相対性理論によるニュートン力学からのずれによって説明された。
近日点を参照。
近日点の方向は近日点引数あるいは近日点黄経で表す。近日点引数は昇交点から天体の軌道に沿って測った近日点までの角度で、軌道面内での近日点の方向を示すものである。記号としてはギリシャ文字の $\omega$ を使うことが多い。近日点黄経は近日点黄経=昇交点黄経+近日点引数で定義される。とくに、軌道傾斜角が0°の場合には昇交点黄経が定義されず、近日点黄経はまさに近日点の黄経となる。近日点黄経は慣習的にギリシャ文字の $\pi$ の筆記体である $\varpi$ で表されることが多い。軌道要素も参照。
波長が約0.01 nmよりも短い電磁波(エネルギーでは約120 keV以上)の名称。波長域はX線と重なっている部分があるが、原子核の状態の遷移によって発生するものはガンマ線、電子のエネルギー状態の遷移によって発生するものはX線と呼ばれる。宇宙から来るガンマ線は、宇宙における最も高エネルギーの現象で発生する。ガンマ線を放射する天体を一般にガンマ線源というが、その正体はまだわかっていないものが多い。
太陽時を参照。
地球の周りを回っている月や人工衛星の軌道で、地球からの距離が最も近くなる点のこと。地球に対する軌道が放物線や双曲線であっても、地球に最も近づく点を近地点と呼ぶ。近点、遠地点も参照。
ある天体の周りを回っている別の天体の軌道において、この2天体間の距離が最も近づく点のこと。中心天体が太陽、地球、火星、恒星(たとえば、実視連星系の主星)、天の川銀河(銀河系)中心の場合、それぞれ近日点、近地点、近火点、近星点、近銀点などと呼ぶ。楕円軌道、放物線軌道、双曲線軌道では定義できるが、円軌道では定義されない。遠点も参照。
銀河の周りを公転する天体について、銀河中心に最も近づく点のこと。逆に最も離れた点を遠銀点という。ただし、銀河の場合には質量分布が球対称とは大きく異なる上に、銀河内部を天体が通過することもできるので、公転軌道が閉じない場合が多く、恒星や惑星などに対する近点とは異なり、近銀点は1点になるとは限らない。近点や遠銀点を参照。
薄明を参照。
太陽系内の天体が運動していくとき、その軌道上で最も太陽に近づく点のこと。軌道としては、一般に、楕円、放物線、双曲線が考えられるが、いずれの場合にも太陽に最も近づく点が存在するので近日点が定義できる。離心率が0、すなわち円軌道の場合には定義できない。近日点と太陽の間の距離を近日点距離という。近点、遠日点、近日点引数も参照。
地球の自転軸は歳差や章動のように力学的に予測のできる運動だけではなく、予測不能な運動もしている。この運動をまとめて極運動あるいは揺動と呼ぶ。言い方を変えれば、極運動は自転軸が地球の形状の対称軸である形状軸に対して動き回る運動であるということもできる。つまり、極運動が起こると観測地点の緯度や経度が変化するのと同等の効果がある。z項も参照。
極運動には大気や水の質量分布の季節的変動による年周変化、430日程度の周期のチャンドラー揺動、ゆっくりと長期間にわたって変動する成分などが含まれている。極運動の大きさを表す$x, y$ は、UT1-UTCなどとともに地球姿勢パラメータとして国際地球回転・基準系事業(IERS)が発表することになっている。オイラー運動も参照。
アインシュタイン(A. Einstein)の一般相対性理論の基礎となっている等価原理によれば、重力が作用している座標系から自由落下している加速座標系に移ることで重力の影響を打ち消すことができる。ただし、重力は空間や時間によって変化するため、この加速座標系は時空全体ではなく限られた狭い領域を考えざるを得ない。このような局所的な加速座標系を局所慣性系と呼ぶ。局所慣性系に固定された時計の時刻は固有時である。慣性系も参照。
主として原子物理で用いられる「電子の軌道角運動量」と主として天体力学で用いられる「天体の軌道角運動量」の2つがある。
1. 電子の軌道角運動量は、原子において電子が原子核の周りを回る軌道運動によって発生する角運動量であり、1個の電子が持つ軌道角運動量は慣例として $l$ で表され、全電子による全軌道角運動量は $L$ で表される。原子における電子のエネルギー状態を与える基本的な物理量である。全軌道角運動量とスピン角運動量 $S$ を合成したものが電子が持つ全角運動量 $J$ で、 $J=L+S$ となる。また $L$ と $S$ の相互作用によって微細構造が現れる。
2. 天体の軌道角運動量は、軌道運動する天体の動径ベクトル $r$ と運動量ベクトル $p$ の外積で定義される量。 $L=r\times{p}$ で表される。
