X線望遠鏡を参照。
一般に物体の回転は、互いに直交する3つの軸の周りとして定義できるが、各軸を妥当な方向とすると角速度ベクトルと角運動量ベクトルとの関係を対角行列で示すことができる。このような軸を慣性主軸という。分子1個についても、3つの慣性主軸を定めることができる。その慣性主軸周りの慣性モーメントを小さい方から順に IA, IB, IC とした場合(IA < IB < IC ; 等号の場合も含む)、2つが等しく、残りの1つが0ではない分子は、回転軸に対して対称な独楽(コマ)を古典力学的モデルにでき、これを対称コマ分子と呼ぶ。このうち、小さい方の慣性モーメントが等しい(IA = IB < IC)円盤型の分子を扁平(oblate)対称コマ分子、大きい方の慣性モーメントが等しい(IA < IB = IC)葉巻型の分子を扁長(prolate)対称コマ分子と呼ぶ。対称コマ分子の例としてはNH3(扁円)やCH3CN(扁長)などがある。これに対して、3つの慣性モーメントがすべて異なるものを非対称コマ分子という。
屈折率の異なる媒質の薄膜を交互に重ねることで多数の反射層をつくり、それらの光干渉を用いて、所望の透過特性、あるいは反射特性を持たせる技術。多層膜干渉フィルターは、色ガラスフィルターなどに比べて透過波長域と反射波長域の切れ味がよく透過率も高いものをつくることができる。フィルターも参照。
原子や分子中の電子がエネルギーを得て自由電子となること。電離と同じ。
原子や分子の中に存在する電子は束縛状態(bound state)にあり、束縛されていない電子を自由電子(free electron)と呼ぶため、このように呼ばれる。遷移に必要なエネルギーが電磁波(光子)の吸収により得られる場合は光電離(紫外線電離)であり、粒子の衝突により誘発される場合は衝突電離と呼ばれる。自由電子のエネルギーは連続的な値を取れるため、電磁波の吸収スペクトルは吸収線ではなく連続的となる。逆過程に相当する自由-束縛遷移は電子の再結合である。
束縛-束縛遷移、エネルギー準位も参照。
原子や分子中の電子がエネルギーを得て始めとは別のエネルギー準位に遷移すること。
原子や分子の中に存在する電子は束縛状態(bound state)にあるため、このように呼ばれる。遷移に必要なエネルギーは電磁波(光子)の吸収や他の粒子の衝突により得られる。遷移の始めと終わりの電子のエネルギー準位は特定の値を持つため、放出あるいは吸収される電磁波のスペクトルはエネルギー準位差により決まる特定のエネルギーを持つ線となる。放出の場合は輝線、吸収の場合は吸収線である。
2つの質点が万有引力の相互作用でどのように運動するのかを調べる問題。二体問題は解析的に解くことができ、その解はケプラー運動となる。つまり、太陽の周りの惑星、小惑星、彗星などの天体の運動は、近似的には太陽とそれぞれの天体の2つを考えた二体問題と見なすことができ、その軌道が楕円、放物線、双曲線であっても、すべて二体問題の解である。ただし、実際の太陽系では、多数の天体が存在しており、万有引力による相互作用がある。したがって、実際の太陽系天体の動きは二体問題から少しずれることになる。これを摂動と呼び、より正確に運動を求めるときに考慮される。
原子、分子などの物質において、その複数の状態の間の移り変わりを表す言葉。
移り変わる状態間にエネルギーの違いがある場合は、エネルギーの吸収や放出を伴う。2つの状態間の遷移において、エネルギーの吸収や放出が1個の光子の吸収や放出による場合には、その光子のエネルギーは2つの状態間のエネルギーの差に等しいため、特徴的なエネルギー(つまり振動数)の光子の吸収や放出で特徴づけられる。そのような遷移の確率は原子や分子の微視的性質を記述する量子力学により計算される。エネルギー準位も参照。
カナダのトロント郊外リッチモンドヒルにある天文台。デイビッド・ダンラップの遺志によるトロント大学への寄附をもとに、グラブパーソンズ社製の74インチ(188 cm)望遠鏡を擁して1935年に開設された。当時この望遠鏡はウィルソン山天文台の100インチフッカー望遠鏡に次ぐ世界第2位の大きさであった。1970年代にこの天文台でヴァンデンバーグ(S. van den Bergh)が考案した銀河の分類体系(DDO分類、改訂DDO分類)にその名前を残している。
2009年にトロント大学はDDOとその土地を売却しデイビッドダンラップ天文天体物理研究所を新設した。DDOは民間企業の所有となったが、74インチ望遠鏡をはじめ天文台設備はアウトリーチ活動を含め活用され続けている。
ホームページ: http://www.astro.utoronto.ca/DDO/
素粒子の量子数の1つで、クォークは1/3、反クォークは-1/3のバリオン数をそれぞれ持つ。
したがって、クォーク3個でできている陽子や中性子はバリオン数1を持つ。バリオン、バリオン数生成問題も参照。
赤外線のサーベイ観測で見つかった赤外線でシルエットに見える暗黒星雲のこと。 銀河面からの明るい中間赤外線放射を背景にして赤外線で暗く見える、巨大分子雲の高密度領域。赤外線宇宙天文台による観測で1996年に発見されたが、発見当時はあまり注目されなかった。その後、スピッツアー宇宙望遠鏡による観測で注目されるようになった。 赤外線暗黒星雲の中には、大質量星を含む星団を生む母体となる高密度分子ガス塊も含まれており、星団形成過程や大質量星形成過程の初期段階を理解する鍵を与える天体として注目されている。
ISO衛星を参照。
人工衛星の軌道の一つで、北極と南極の上空を通過する極軌道のうち軌道面と太陽方向の角度が一定に保たれる軌道。
このうち、軌道面が太陽方向と垂直な軌道は常に明け方か夕方を通過するために衛星にとって同じ温度条件が保たれるので都合がよい。この軌道で望遠鏡を地球と反対方向に向ければ、望遠鏡は軌道周回ごとに天球上の大円を掃く。軌道面が地球-太陽を結ぶ直線に常に垂直なので、この大円は地球の公転に伴い1年間に360°、つまり1日に約1°の割合で回転していく。このため、全天のサーベイ観測には最適の軌道であるが、同一天体を長時間観測することはできない。また、冷却望遠鏡を搭載し地球放射と太陽放射からの熱流入を避ける必要のある赤外線衛星にとっては、太陽光を常に片側から受けることになり、太陽シールドによる熱流入の遮断が容易となる。
視線に沿って積分した単位面積当たりの物質量のこと。物理量としては面密度と同じ。観測する周波数の電磁波と相互作用する物質の光学的厚みは柱密度に比例する。放射輸送を考えると、光学的厚みが小さい場合は放射強度も柱密度に比例する。ガスの原子や分子の数で測る場合と質量で測る場合があるが、後者の場合は面密度と呼ぶことが多い。
宇宙には物質の方が反物質よりはるかにたくさんある。定量的には、正味バリオン数密度 $n_{\rm B}$ と光子数密度 $n_\gamma$ の比は、
$$n_{\rm B}/n_\gamma=(5.9-6.4)\times 10^{-10}$$
という値を持つことが、ビッグバン元素合成の理論と軽元素量の観測、また宇宙マイクロ波背景放射の観測から知られている。初期宇宙のインフレーションによって仮にそれ以前に正味バリオン数があったとしても薄まってしまうので、観測されているバリオン非対称は、すべてインフレーション後に作られなければならない。これがバリオン数生成問題である。これにはさまざまな機構が提案されているが、どれが正しいのか現在ではわかっていない。
距離のわかっている星団の色-等級図と、距離を知りたい星団の色-等級図を比較して、主系列の明るさ(等級)の違いから星団の距離指数を求め、距離を知る方法。主に散開星団の距離決定に用いられる。かつては宇宙の距離はしごにおいて、セファイドの絶対等級の決定のために重要であった。この方法は、同じ色を持つ主系列星の真の明るさは同じであるという仮定に基づいた一種の標準光源法である。星団の星に対する星間吸収や星間赤化の補正を行うことはもちろん、基準となる星団と対象星団の間の金属量の違いも補正する必要がある。
銀河内の星間空間に存在している固体微粒子のこと。
星などが発する光を効率的に吸収や散乱して星間減光を引き起こす。通常は1μm 以下の大きさで、組成は酸素(O)、炭素(C)、マグネシウム(Mg)、ケイ素(Si)、鉄(Fe)などからなると考えられている。古典的な星間ダストのモデルでは星間ダストの主要な成分は、炭素系のものと、鉄やマグネシウムを含むケイ酸塩の微粒子と考えられている。
狭い意味では、星間空間に存在する星間ガスや星間ダストなどの星間物質を指す。
広い意味では、星間物質と非熱的高エネルギー粒子である宇宙線、星間磁場、電磁波などを含める。
IRAS衛星を参照。
星間ダストを参照。
スライファー(Vesto Melvin Slipher;1875-1969)はアメリカの天文学者。インディアナ大学で1909年に博士号を取得、ローウェル天文台に入り1926-52年まで台長を務めた。米国における天体分光観測のパイオニアで、惑星大気と自転、散光星雲、星間物質、星雲の視線速度の研究を行った。特に、1912年に系外銀河のスペクトルにおける赤方偏移を発見し、これが後にハッブル-ルメートルの法則の発見につながった。冥王星の発見者トンボーを指導したことでも知られる。
1932年に米国科学アカデミーよりヘンリー・ドレイパー・メダル、1933年に王立天文学会よりゴールドメダル、1935年には太平洋天文学会よりブルース・メダルを受賞している。
