P Cyg プロファイルを参照。
波の発生源と観測者の相対的な速度によって波の周波数が(従って波長も)変化して観測される現象。音波などの媒質を伝わる波と(特殊相対性理論に基づく)電磁波では周波数変化を計算する式がわずかに異なる。互いに近づく場合には周波数が高く、遠ざかる場合には周波数が低く観測される。光の場合には前者を青方偏移、後者を赤方偏移(運動学的赤方偏移)と呼ぶ。遠方の銀河からの光は赤方偏移しているが、これは宇宙膨張に起因する宇宙論的赤方偏移で、ドップラー効果による運動学的赤方偏移とは異なる(ハッブル-ルメートルの法則も参照)。
1842年にオーストリアの物理学者・天文学者であるクリスチャン・ドップラー(Christian Doppler)が公表した論文で、星(連星や超新星を含む)の色の観測から推測して光と音波の場合に定式化した。音波に関するドップラーの式は、1845年にオランダ人のバロット(Christophorus Buys Ballot)がユトレヒトで、屋根のない列車に乗った楽団のトランペット奏者が吹く音を絶対音感を持った音楽家が聞いて音程が変化する実験を行って証明した(星の色に関するドップラーの考察や計算は一部間違っていた)。星のスペクトルに見られるフラウンホーファー線の波長のずれから相対速度を求められることはフランス人のフィゾー(Hippolyte Fizeau)が示した(1848-1870年)。
天体のスペクトル中の吸収線や輝線の波長のずれから天体と観測者の視線方向の相対速度を知ることができるドップラー効果は、天文学の基本的な研究手段である。ドップラー効果は天文学の発展に大きな役割を果たしていることに加え、現代社会のさまざまな分野で応用されている(例:野球で投球スピードを測るスピードガン、ドップラーレーダーなど)。
ドップラーの1842年の論文の解説が掲載されているサイト:
https://en.wikipedia.org/wiki/%C3%9Cber_das_farbige_Licht_der_Doppelsterne_und_einiger_anderer_Gestirne_des_Himmels
https://www.youtube.com/embed/i6AouFHLb2g
ベルギーのゲント大学の研究チーム「Captain Einsteinプロジェクト」が製作したドップラー効果を体感できるムービー。「光速は時速20km」だと仮定し、ボートに乗った状態で光速(時速20km)に近づくとどのような景色が見えるかを示したもの。この動画の解説は英語だが日本語の解説は以下にある。
https://gigazine.net/news/20180709-captain-einstein-boat-tours/
望遠鏡架台のうち、赤道儀の一種。鉛直に立てた一つのピアで赤経、赤緯両軸を支える。望遠鏡筒は赤経軸からずれたところに来るため、バランスを取るためカウンターウェイトが必要となる。望遠鏡を支えるピアがコンパクトで、望遠鏡筒周りに広い空間が取れるため、長い鏡筒を支える架台として適している。このため、鏡筒の長い大型屈折望遠鏡の架台として用いられている。ピアが簡便な構造であり、巨大な構造物が不要であることから、アマチュアの望遠鏡架台としても広く用いられている。ドイツ式架台では、東から西へ子午線を通過して天体追尾する際に望遠鏡筒がピアとぶつかってしまうことがある。したがって、子午線をまたぐときには望遠鏡筒とカウンターウェイトの位置を入れ替える必要がある。架台(望遠鏡の)も参照。
自己重力系において重力と圧力がつり合った平衡状態。このような状態に対してはビリアル定理が成り立つ。ビリアル定理から平衡状態にある半径
ここで
この質量
双極分子流が観測されている分子雲コアのこと。分子流は原始星が駆動していると考えられるため、この分子流天体の中心にはすでに原始星が生成されていることになる。
星のスペクトル分類の一つ。1918-24年にかけて、ハーバード大学天文台のピッカリング(E. Pickering)と キャノン(A.J. Cannon)は30万近い星を線スペクトルの特徴にもとづいて分類し、ヘンリードレーパー星表として出版した。当初は分類にはアルファベットが順につけられたが、後に温度系列および化学組成の系列にもとづき、O, B, A, F, G, K, M型、およびR, N, S型に整理された。スペクトル型(星の)も参照。
物質を構成したり相互作用を媒介したりする、これ以上細かく分けられない最小単位の粒子(ただし量子力学で記述され粒子と波動の二重性を持つ)。素粒子はスピン角運動量の性質によってフェルミ粒子とボース粒子に分けられる。
素粒子の標準模型は、物質を構成するスピン量子数
標準模型に含まれるフェルミ粒子には粒子と反粒子の2種類がある。粒子と反粒子は理論的にはほぼ対等な存在であるが、我々の住む宇宙では粒子が反粒子に比べて圧倒的に多い。この非対称性はバリオン数生成問題と呼ばれ、未解決の問題である。
重力を媒介するゲージ粒子である重力子は未発見である。四つの力、物質波も参照。
電子とイオンが衝突すると、イオン中の電子が励起により一時的な捕獲状態(共鳴状態)が形成され、のちに光子を放出して再結合することがある。この再結合には結合される電子のほかにイオンの中で励起される電子が関与するために、二電子性再結合と呼ばれる。
陽子と電子の再結合に比べ、一時的な捕獲状態で電子とイオンが近距離に長く滞在するため、再結合の確率が高くなる。
星表面の動的な側面をとりいれて計算される恒星大気モデル。この計算では、星の大気を3次元的に取り扱い、静水圧平衡と放射平衡の仮定は運動方程式とエネルギー方程式に置き換えられる。これと放射輸送方程式、質量保存方程式を連立させて解くことにより空間各点での物理量の時間変化が決定される。このモデルでは、大局的な大気速度場をパラメータ化することなく取り扱うことができ、太陽表面の粒状斑運動やスペクトル線輪郭の詳細を観測と比較することが可能になるが、取扱いの難しさからまだ一般的なモデルとしては確立していない。
星雲、星団や銀河など、広がった天体の全体の明るさを等級で表したもの。全等級(total magnitude)と呼ぶこともある。天体の輝度分布をすべて積分して求める。広がった天体は一般にその境界を観測的に定めるのが難しく、積分等級を求めるときにどこまで暗い表面輝度まで含めるのかが問題となる。そこで、開口面積を変えながら開口測光を行い、測光値が変化しなくなる開口での等級を採用するなどの方法が取られる。
一般に天体の発する光の波長が伸びて観測されることを、赤い側にずれるという意味で赤方偏移という。赤方偏移が起きる原因は三種類あり、それぞれ異なる名前で呼ばれている。
第1は、相手の天体が相対的に観測者から遠ざかっている場合である。このときの赤方偏移はドップラー効果で説明され、これを運動学的赤方偏移と呼ぶ(図1参照)。
第2は、重力ポテンシャルに起因するものである。重力ポテンシャルがより深い場所から発せられた光は、観測者に到達するまでに波長が伸びる。これは一般相対性理論の効果で重力赤方偏移と呼ばれ、エネルギー保存則からも理解できる。
第3は、宇宙膨張の効果によるものである。十分遠方の天体はすべて赤方偏移を示すが、これを宇宙論的赤方偏移と呼ぶ。これは定性的にドップラー効果として説明することが多いが、厳密にはそうではない。天体を発した光がわれわれ観測者に届く間に、宇宙空間が膨張したために光の波長が伸びたのである(図2)。
宇宙論においては、赤方偏移とは現象を指すよりも、そのズレの大きさを表す赤方偏移パラメータ
赤方偏移と宇宙年齢、ルックバックタイム、距離の対応は、本辞典の「有用な諸データの表」
https://astro-dic.jp/about/table/ の中の
「赤方偏移と宇宙年齢および距離」
https://astro-dic.jp/redshift-age-distance/
にある。
スペクトル線の強度を連続光強度との比較で表す観測量。連続スペクトルの下(吸収線の場合)あるいは上(輝線の場合)にあるスペクトル線輪郭の面積を連続光強度で割った値。すなわち、線輪郭と同じ面積を持つ連続光の幅が等価幅である。成長曲線も参照。
経度、緯度、距離、方位、重力、地磁気、潮位、ジオイド、地殻変動など、地球に関するさまざまなデータを収集すること。衛星レーザー測距(SLR)、超長基線電波干渉計(VLBI)、全地球測位システム(GPS)など、宇宙測地技術の利用も進んでいる。
測地系の経度や緯度を定める基準点のことで、経緯度原点とも呼ばれる。日本の場合は東京都港区麻布台2-18-1にある日本経緯度原点がこれに該当する。日本経緯度原点は明治25年に旧東京天文台子午環の中心位置と定められたが、大正12年の関東大震災で子午環が崩壊した後、金属標が設置され現在に至っている。具体的な数値は、経度が東経139°44'28.8869"、緯度が北緯35°39'29.1572"、つくば超長基線電波干渉計観測点に対する方位角が32°20'46.209"である。
自由電子によるトムソン散乱に起因する不透明度のこと。ロスランド平均不透明度を参照。
電波望遠鏡の鏡面精度を測定するための代表的方法。電波望遠鏡の複素電圧ビームパターンは、十分遠方の電波源を受信したときに開口面上に作られる電場分布をフーリエ変換したものであり、この開口面電場分布の位相項が鏡面誤差分布に対応する。電波ホログラフィー法はこれを利用して鏡面の凹凸を測るものである。具体的には、測定したい電波望遠鏡のそばに参照アンテナを用意し、電波望遠鏡の指向方向を変化させながら遠方電波源からの電磁波を参照アンテナと同時に受信する。そして両者の位相差を測定することで、電波望遠鏡の複素電圧ビームパターンが求められる。これをフーリエ変換した結果の位相項として、鏡面誤差分布が得られる。
天体から地球に届く光の波長が短くなって観測される現象。波長が長くなって観測される現象を赤方偏移というのに対して用いられる言葉。天体がわれわれの視線方向に近づいてくる運動をしているために起きるドップラー効果が原因である。実験室で測った波長(静止波長)に対してどれだけ波長が短くなっているかを測定すれば、天体の視線速度がわかる。
スペクトル線(輝線、吸収線)の線輪郭の幅のこと(線幅を形成する機構については、線幅拡大を参照)。線幅を表す量として、半値全幅(FWHM。半値幅ともいう)、1/10全幅、ゼロレベル全幅(FWZM)などが用いられる。半値全幅は、スペクトル線の最大強度の半分の強度での幅である。天体のスペクトル線の場合、スペクトル線の中心付近の輪郭はスペクトル線を形成するガスの内部運動によるドップラー効果によって決まっていることが多く、ガウス関数で近似できる。半値全幅はガウス関数の標準偏差
という関係がある。このため、半値全幅は天体の速度分散を表す指標としてよく用いられる。1/10全幅は、スペクトル線の裾野の広がりを示す量として用いられることがある。フォークト輪郭も参照。
吸収を起こすガス粒子の熱運動や周囲の粒子による擾乱でスペクトル線の幅が拡大すること。スペクトル線はガス粒子(原子や分子)の離散的なエネルギー準位間の遷移に起因する。しかし粒子のランダムな熱運動は、ドップラー効果によりスペクトル線の波長(あるいは振動数)に幅を生じさせる。これはマクスウェル-ボルツマン分布(温度に応じたガウス分布(正規分布))で記述される。一方、ある励起状態を粒子が保つ時間が有限であることに起因するエネルギー準位の広がりによって、スペクトル線に幅が生じる(自然幅)。また、周りの粒子との衝突によってもエネルギー準位が影響を受け、スペクトル線に幅が生じる(圧力幅)。これらは減衰輪郭としてローレンツ関数(分散関数)で表され、線中心から離れたところでは逆2乗で減少する。一般に線中心付近ではドップラー効果に起因する広がり(ドップラー幅)が卓越し、線中心から離れると減衰の効果が現れる。両者がたたみ込みで合わさったものが最終的な線輪郭となり、フォークト輪郭と呼ばれる。観測されるスペクトル線はさらに、天体の回転運動やマクロな乱流運動により線幅が広がる影響を受けている。
波長(周波数)に対するスペクトル線の形を表した曲線。高い波長(周波数)分解能で観測を行うと、スペクトル線の本来の輪郭が観測可能となり、恒星大気で形成される吸収線については、ドップラー部と減衰部、回転の効果などを見分けることが可能になる。フォークト輪郭、線幅、線幅拡大を参照。