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X線連星系

通常の恒星中性子星ブラックホールなどの高密度星との近接連星系で、相手の星から高密度星への質量降着で強いX線放射されるもの。近接連星系の一方が巨星となりロッシュローブを超えて膨張すると、伴星への質量移動が起こる。
伴星が比較的小質量星の場合、物質は星の周りに形成される降着円盤を経て星の表面に落下する。これは小質量X線連星系(Low Mass X-ray Binary, LMXB)と呼ばれる。伴星が重い星(早期型星)の場合、星の表面からは絶えずガスが放出されている(星風という)。星風は一般に、星の質量が大きいほど大きい。このガスの一部が高密度天体に捕えられると、やはり高密度天体の周りに降着円盤ができて、高密度天体はX線で明るく輝く。これが大質量X線連星系(High Mass X-ray Binary, HMXB)である。はじめて確実なブラックホール候補となったはくちょう座X-1(Cyg X-1)は大質量X線連星系である。
これから分かるように、X線は恒星質量ブラックホールの候補を見つけるための極めて有効な手段である。X線連星系を発見し光学対応天体が同定され、スペクトルから連星の軌道周期などが分かれば、質量の推定ができブラックホールかどうか判定できる。1970年代の初めから世界中でほぼ途切れることなくX線天文衛星による観測が続けられ、2022年現在銀河系天の川銀河)内で70個近くのブラックホール候補が発見されている。これらのうちの35個については銀河系内の分布が分かっている。
またチャンドラ衛星のような角度分解能の高いX線天文衛星で銀河を観測すると、多数の点状X線源が見られる。これらはブラックホールか中性子星を含むX線連星系である。

X線の検出器の一種で、高いエネルギー分解能が得られる。X線光子が半導体素子で吸収されると、吸収された光子のエネルギーに応じて素子の温度がわずかに上昇するが、その温度上昇を正確に測定することで、入射したX線光子1個1個のエネルギーを求めることができる。ただし、ごくわずかな温度上昇をとらえるために、素子は極低温に冷やす必要がある。エネルギー分解能が入射X線エネルギーに依存しないため、高いX線エネルギーでは分光素子よりエネルギー分解能が高くなる。回折格子と比べ、広がった天体にも適用可能、比較的高いエネルギーのX線も測定できるといった利点がある。すざく衛星ひとみ衛星に搭載されていたが、まだ長期運用には至っていない

素粒子の一つで、電子と同じ電荷を持つ、第二世代のレプトンのこと。ミュー粒子ともいう。
質量は1.9x10-28 kg、寿命は2.2x10-6秒で、電子と反電子ニュートリノ、ミューニュートリノに三体崩壊する。

 

原子、分子、イオンの量子力学的な微視的状態を表す用語。
量子力学によると粒子の微視的状態は離散的な多数のレベルに分かれる。その各レベルは対応するエネルギーで区別されるため、それらをエネルギー準位と呼ぶ。これらのうちで、最もエネルギーの低い状態を基底状態、それ以外の状態を励起状態という。量子力学も参照。

生命の化学進化を実験的に検証する目的で行われたアミノ酸合成実験。重水素の発見でノーベル化学賞を受賞したユーリイ(H. Urey)の学生だったミラー(S.L. Miller)は、1953年、地球原始大気を模擬した、メタン、アンモニア、水素、水蒸気の混合気体中で、放電を連続的に行った。原始海洋を模擬して、液体の水の入ったフラスコも加えて加熱した。数日の後に、装置内の水を分析したところ、酢酸、尿素のほかに、グリシン、アラニンなど数種類のアミノ酸分子が検出された。生体を構成する有機物が、無機物やメタンなどから直接に生成できるということは、生命の起源にとって重要な結果であり、大きな衝撃を与えた。ユーリイ-ミラーの実験(Urey-Miller experiment)と呼ぶこともある。

ミンコフスキー(Hermann Minkowski;1864-1909)はドイツの数学者。アインシュタイン(A. Einstein)の特殊相対性理論を幾何学的に洗練された形で表現した。ロシア(現リトアニア)に生まれ、8歳の時に家族で当時ドイツ領だったケーニヒスベルクへ移住した。1885年、ケーニヒスベルク大学から学位を得、ボン大学、ケーニヒスベルク大学で教鞭をとり、チューリッヒ工科大学の数学教授をしていたとき、アインシュタインが学生として数学を学んだ。ミンコフスキー時空は空間の3次元と時間の1次元を融合した4次元空間であり、ローレンツ変換を幾何学的に解釈するのに有用である。ミンコフスキーは数論や数理物理学の研究にも幾何学的表現を好んで用いた。数学者ヒルベルト(David Hilbert)との親交でも知られている。病理学者のオスカル・ミンコフスキーは兄で、電波天文学者のルドルフ・ミンコフスキーは甥である。

多体問題を数値計算で扱おうとすると、そのままでは、ある天体から見た他天体の相対座標 r=0特異点となり誤差が大きくなってしまう。しかし、平面内の運動の場合は、2次元直交座標ベクトルr=(x,y)T の代わりに、以下のような仮想的な2次元座標 w=(u,v)T を導入することで特異点の問題を解決することができる。

r=|w|2,(xy)=(u2v22uv)

このような変換をレビー-チビタ変換という。これを3次元の問題に拡張したものがクスタンハイモ-シュティーフェル(KS)変換である。

運動方程式を積分して得られる積分定数の1つ。運動エネルギーと位置エネルギーの和となり、普通は保存される量である。

熱平衡においては各自由度に kBT/2 のエネルギーが等しく分配されることを表す統計物理学の法則。ここで kBボルツマン定数T は温度である。考えている自由度において kBT に比べて十分に狭いエネルギー間隔で多数のエネルギー準位が存在する場合、この法則が成り立つ。成立しないのは、熱平衡にない場合や、その自由度に関するエネルギー準位が有限である場合、基底状態と第1励起状態のエネルギー差が kBT に比べて大きい低温の場合である。

電波天文学や初期の赤外線天文学では、2次元アレイ型検出器の入手が困難なため、広がった天体の様子を捉えるには観測点を移動して得た1画素ごとの観測を集めて画像にする必要がある。この際に、感度が十分であれば1点ごとで測定に要する時間が短くても済むため、これに比べて主鏡の向きを移動する時間が無視できなくなり、観測の時間効率が著しく低下する。このため、観測点を天球上で連続的に動かして観測するのがラスタースキャン観測である。1本の直線上を移動しつつ連続的にデータを得ることを走査またはスキャンといい、これを少しずつずらして2次元を掃く。ほとんどの場合、ずらす方向は走査方向と垂直とし、長方形の領域に対する画像を得る。観測速度を向上するために、1走査ごとに走査方向を逆転させるのが通例である。スイッチング観測としてラスタースキャン観測を行う場合(ほとんどの場合がこれに当てはまる)には、1走査の両端をOFF点(ポジションスイッチを参照)とする場合と、観測領域から離れた点に数走査ごとに移動して別にOFF点を観測する場合とがある。2つのビームでスイッチング観測を行いつつビーム方向に走査して差を記録する観測方法もあるが、その場合には、地球大気の影響を最小限にするために1走査ごとに高度をわずかずつ変える方法をとるため、天球上では完全に平行な走査とはならない。長らく連続波観測でのみ用いられていたが、受信機感度が大幅に向上した結果、輝線観測でも用いられるようになった。ただし、この場合には、オンザフライマッピング(OTF)と呼ぶことが多い。大気だけを観測するOFF点の観測時間に対して観測目的の広い領域(連続するON点)を観測する時間を多く取ることができるので観測効率は高い。一方、アンテナを高速で動かすのでアンテナの動特性(変形や動作の遅れなど)の影響を受けたり、1画素のデータを得る間にアンテナが移動するために角分解能が若干悪くなる。ポジションスイッチと比べると1操作の時間が長くなりがちでON点とOFF点との観測時刻の違いが大きくなりスイッチング観測の効果が十分に機能しなくなることがある。この場合、走査方向に隣接する画素での違いは小さいのに対して、それと垂直方向に隣接する画素では違いが顕著になるため、大気や受信機の変動によって1本の走査ごとの違いが画像に縞模様として現れることがある。これを、スキャン効果といい、それを補正するために2次元の領域を縦と横に交互に観測して相互に補正するデータ処理を行うこともある。

炭素質隕石に含まれる、アルミニウムとカルシウムに富む白色の包有物。Calcium-aluminium-rich inclusionの略語で、高アルミニウムカルシウム含有物とも呼ぶ。高温の原始太陽系円盤のガスから最初に凝縮した物質である。CAIは単一鉱物ではなく、スピネル、ペロブスカイト、アノーサイト(長石の一種)などの高温凝縮鉱物の集合体である。サイズは0.1 mmから1 cmを越えるものまであり、コンドリュールよりも大きなものがある。CAIの年代はコンドリュールよりも古くアエンデ隕石中では45.67億年を示すものが発見されている。難揮発性物質も参照。

正式には空軍などで使われる用語で、レーダーに捕えられたがその正体が確認できない物体。偵察機、鳥の集団、火球を伴う隕石などの自然現象、などさまざまな種類のものがあると考えられているが、実際には正体不明のものもある。高等文明を持つ異星人の乗り物という説も一般にはあるが、そうだとする科学的証拠はまだ見つかっていない。

放射が運ぶエネルギー流束量を表す量である。具体的には、ある微小面素を通過する放射が運ぶエネルギー量を、単位面積、単位時間あたりで換算したものとして定義される。

検出器に単一エネルギーの粒子が入射したときに、出力されるエネルギー(波高値)のばらつきの程度を示す数値。エネルギー換算した波高値分布曲線の標準偏差を入射エネルギーで割ったものを%単位で示すことが多いが、標準偏差の代わりに波高分布曲線の%全値幅(度数値がピーク値の半分となる波高値の差、Full Width at Half Maximum(FWHM))や半値幅(全値幅の半分、Half Width at Half Maximum(HWHM))なども半値幅(FWHMやHWHM)も用いられる。シンチレーション検出器で10%以下、半導体検出器では1%以下の値が得られている。分解能も参照。

サンフランシスコ近郊のハミルトン山(標高1400m)にあるカリフォルニア大学の天文台。1959年に完成した3 mシェーン望遠鏡のほか、1979年完成の1 m望遠鏡などがある。
ホームページ:http://mthamilton.ucolick.org/

惑星の地心視赤経の時間変化が0となる瞬間。惑星は天球上で恒星の間を通常は西から東へ運動していくが、留のときにはその運動がほぼ停止し、運動の方向(順行逆行)が入れ替わる。このため、留付近での惑星の見え方は、天球上で順行→留→逆行→留→順行に対応したループやS字型を描くように見える。逆行の項の図を参照。

放射圧加速を参照。

運動、重力、電気、熱のように形態は変化しても、これらのエネルギーの総和は系全体では保存することを述べた物理法則。外界への仕事や摩擦熱の発生により、一見成り立たないように思える場合も、その外界や摩擦熱を含めて系を再定義することにより、再び成立することが多い。一般に系が時間に陽に依存しない場合、その系の全エネルギーは保存する。運動量保存則角運動量保存則も参照。

周転円運動と訳される。もともとは天動説で惑星の運行を説明するために考えられた運動。天動説では従円の上を転がる周転円に惑星が乗っていると考える。現在は円盤銀河内を運行する恒星や降着円盤内のガスに運動に適用される。これらの恒星やガスはほぼ円運動しているとみなせるが、回転面内や鉛直方向に小さく振動している。この振動のうち、回転面内のものをエピサイクリック運動と呼ぶ。この振動の角速度であるエピサイクリック振動数(epicyclic frequency, κ)は回転角速度 Ω と回転軸からの距離 ϖ の関数として、

κ2=1ϖ3d(ϖ4Ω2)dϖ

と表される。

原子核乾板X線フィルムなどの感光材料を鉛板の間に挿入したもので、高エネルギー粒子の相互作用により発生する電磁シャワーの発達を測定し、エネルギーを決めるカロリメータと呼ばれる種類の粒子検出器の一種である。優れた位置分解能(~1 μm)を持つ。エマルションクラウドチェンバー(ECC)とも呼ばれる。