観測しようとしている信号が、雑音に対してどの程度の振幅ないしパワーを持っているかを示す指標。信号対雑音比あるいはSNRともよぶ。S/N比が高いものほど確度が高い情報であるといえる。雑音等価電力、ダイナミックレンジも参照。
ザックス-ボルフェ効果を参照。
スニヤエフ-ゼルドビッチ効果を参照。
音響光学型電波分光計のこと。
主鏡と副鏡ともに双曲面に近い非球面で球面収差とコマ収差のない光学系(焦点)を持った反射望遠鏡。凹面主鏡および凸面副鏡を持つ望遠鏡という意味では広くカセグレン望遠鏡(カセグレン焦点を参照)に分類されるべきものであるが、主鏡が放物面である古典的カセグレン望遠鏡(クラシカルカセグレン望遠鏡)との光学系の違いを明確にするため、リッチー-クレチアン望遠鏡の呼称を用いる。名前は、1922年にこの光学系を発明したリッチー(G.W.Ritchey)とクレチアン(H. Chrétien)に由来する。
主鏡に高次の非球面を用いて、広い視野に渡って、球面収差およびコマ収差を除去している。非点収差は残存する。焦点面は大きく湾曲しており、この湾曲と非点収差を除去するために焦点前に補正板(補正レンズ)を配置するものがほとんどである。補正板は1枚とは限らず2枚以上のものもある。主鏡、副鏡、補正板の三つの要素を込みにして最適化された光学系を修正リッチー-クレチアン光学系と呼ぶ。現在の大型望遠鏡はほとんどリッチー-クレチアン光学系あるいは修正リッチー-クレチアン光学系を使用している。
星の真の大きさと見かけの大きさ(視直径)から、セファイドやこと座RR型変光星のような脈動変光星の距離を求める幾何学的方法。年周視差による方法と同じ幾何学的方法なので、宇宙の距離はしごの最も基本的な方法の一つである。アメリカのバーデ(W.Baade)により1926年に提案され、1946年にオランダのウェッセリンク(A.J.Wesselink)により改訂されたのでこの名前がある。
この方法では脈動の1周期にわたる分光観測によって、星の表面の速度変化
として半径の変化量
視直径の変化
で表されることから、
ブレーズ回折格子(格子溝の断面が鋸歯状の形状を持つ回折格子)において、入射光が回折格子のブレーズ面に垂直に当たるようにした配置。この配置に回折格子を置いたとき、1次回折光は入射光方向に戻る。入射光方向に完全に一致する方向に戻る回折光は、入射光とブレーズ面での鏡面反射の関係にある。このため、この回折光の波長が、ブレーズ回折格子で最も効率の高い波長となる。これをブレーズ波長と呼ぶ。ブレーズ面の法線が回折格子の法線となす角度(これをブレーズ角と呼ぶ)を θB、回折格子溝の間隔を d とすると、ブレーズ波長 λB は、 λB = 2d sinθB で表される。
アナログ-デジタル変換のこと。
ドイツのボンにあるマックスプランク電波天文学研究所(MPIfR)が運用している、ボンから約40 km離れた谷にある電波天文台。口径100 mの電波望遠鏡を持つ。この望遠鏡は1972年に観測を開始し、周波数が600 MHzから96 GHzまでの帯域で観測を行っている。超長基線電波干渉計(VLBI)にも使われている。
ホームページ:https://www.mpifr-bonn.mpg.de/en/effelsberg
エディントン(Arthur Stanley Eddington;1882- 1944)は20世紀前半を代表するイギリスの天体物理学者。特に恒星の内部構造理論を確立したことで知られている。イングランドのケンガルでクエーカー教徒の家に生れ、1898年にマンチェスター大学に入学、数学教師ラムに強い影響を受けた。ケンブリッジ大学で研究を続け、1905年にグリニッジ天文台の助手に採用され、ケンブリッジ大学の教授を経て1914年にはケンブリッジ天文台長となった。
1919年、一般相対性理論が予言する重力場での光の屈折(1.75秒角)を測定するため、アフリカ大陸西沖のプリンシペ島へ、別動隊がブラジルへ遠征した。結果、1.61秒角と1.98秒角という値を得、一般相対性理論の正しさを証明した。その後、恒星内部構造の理論的研究から主系列星の質量‐光度関係を導き、セファイド変光星の脈動理論を作った。恒星の内部構造計算に放射の圧力を取りいれて成功したことが大きく評価されている。1923年、『相対論の数学的理論』(Mathematical Theory of Relativity)を出版、一般相対性理論の確立に大きな貢献をし、1926年には『恒星内部構造論』(Internal Constitution of Stars)を出版、天体物理学界に大きな影響を与えた。
また、『自然界の本質』(The Nature of the Physical World:1928年)、『科学の新しい道』(New Pathways of Science:1935年)といった哲学関係の書籍もあり、独特の自然観を展開した。1930年には、インド出身の若きスブラマニアン・チャンドラセカールが、初めてブラックホールが存在する事を理論的にイギリス王立天文学会の会合で指摘した際、その指摘をまともに検討することなく否定した出来事は有名である。
1924年に太平洋天文学会よりブルース・メダル、米国科学アカデミーよりヘンリー・ドレイパー・メダル、王立天文学会よりゴールドメダルを受賞している。1953年に彼の業績を讃え、王立天文学会によって「エディントン・メダル」が創設され、ルメートル(第1回)、林忠四郎(第15回)、ホーキング、ペンローズ(第18回)、ピーブルス(第20回)などに贈られている。
参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/151
天の川銀河(銀河系)ハロー種族(種族Ⅱ)の炭素星。赤色巨星の一種であるが、同程度の温度と表面重力をもつ星に比べて金属線は一般に弱いが、CH分子帯が強く、SrやBaなどの重元素の吸収線も強い。これらの元素の過剰は、炭素星(N型)にみられるように漸近巨星分枝(AGB)星による元素合成の結果であると考えられる。銀河系ハローの星は小質量星で、それ自身からこのような元素組成になることは期待されないが、CH星は一般に連星系に属することが確認されており、もともと主星であった天体が漸近巨星分枝段階に達したところで炭素やs過程元素が豊富になり、それが伴星表面に降着したものと理解されている。主星は現在では白色矮星に進化し、直接観測されない。CH星は銀河系ハローの赤色巨星の2割程度を占めるとの見積りもある。金属量の低い星では酸素組成も低く、炭素が容易にそれを上回ることができることがCH星が多い理由の一つである。また、同様の性質を示す準巨星はCH準巨星と分類される。化学特異星も参照。
重力の大きさから推定された質量と観測された質量の差。行方不明の質量とも呼ばれたが、1980年代以降はダークマターと呼ばれるようになった。
1937年にツビッキー(F. Zwicky)が、かみのけ座銀河団でその存在を示唆した。1960年代にはオールト(J.H. Oort)が、星の運動の解析から、太陽近傍にも存在することを指摘した。当然そこに存在するはずの質量が見当たらないとの観点から当時はミッシングマス(行方不明の質量という意味)と名付けられた。その後さまざまな観測から、ミッシングマスは宇宙に普遍的に存在することが確かとなり、ダークマターと呼ばれるようになった。 現在知られているミッシングマス(ダークマター)の存在を示す証拠としては、以下のものがある。
1. 渦巻銀河の回転曲線が銀河円盤の外縁部まで平坦である(回転速度が減少しない)ことから銀河周辺部には可視光や電波で観測できる恒星や星間物質に比べてずっと多くの質量がある。
2. 円盤銀河の中で恒星が長期間にわたって円盤状に安定して分布しているためには、それを取り巻くように大きな質量が分布している必要がある。
3. 観測される銀河の運動によって銀河団がばらばらになってしまわないためには、見えている銀河の総質量による重力では不十分で、その数倍以上が必要となる。
4. X線で観測される銀河団を包み込む高温ガスが宇宙空間に飛び散らないよう銀河団中に引き留めておくためには、銀河と銀河団ガスの質量では足りない。
5. 重力レンズ効果によって銀河団の質量を推定すると、見えている銀河と銀河団ガスの質量よりもはるかに大きな値となる。
6. 宇宙マイクロ波背景放射には10万分の1程度の温度ゆらぎがあり、これは宇宙の晴れ上がりの時点での物質密度のゆらぎを反映している。この密度ゆらぎを種にした自己重力による天体の形成を考えると、宇宙の年齢に当たる138億年程度の時間では、現在観測されている宇宙の大規模構造はもちろん、銀河スケールの天体も形成することができない。従って、宇宙マイクロ波背景放射に影響しない、電磁波との相互作用がない物質による密度ゆらぎが宇宙の晴れ上がり以前にできていたと考えられる。
恒星大気の放射場を等方的と扱う近似。光学的に十分厚い大気の内部では放射場はほぼ等方的と考えてよく、放射輸送方程式の扱いが簡単になり(拡散近似)、放射場のモーメント J, K のあいだに簡単な関係が成り立つ(K = (1/3)J)。ここで J は光の強度 I を全方向に平均した平均強度、K は I に大気の法線との角度 θ の余弦 cos θ を2回掛けて平均したもので放射圧に関係する。光学的に薄い大気表面でもこの関係が成り立つと仮定することをエディントン近似と呼び、これにより放射輸送方程式の解が容易に得られるようになる。実際には大気表面近くではこの近似は悪くなるが、K = fJ と形式的におき、f=1/3 という仮定から始めて放射輸送方程式を解き、新たに求められた f を用いて放射輸送方程式を解くという作業の繰り返しで解の収束を得るという手法(変動エディントン因子法)は有効である。恒星大気モデルも参照。
物質の粗密に対応する波。粗密波ともいう。天文学では、特に、渦巻銀河内での天体の粗密(渦巻腕)とそれに伴う重力ポテンシャルの波をいうことが多い。密度の高い領域に含まれる恒星が入れ替わらないならば、それは星団のように1つの実体を持つ天体と考えることができ、その全体の運動は構成要素である恒星の運動の平均値と一致する。しかし、分布している恒星と星間物質などの天体に粗密のパターンができ、それが伝わっていくならば、粗密パターンを構成する天体は同一である必要はなく、順次入れ替わっていてもよい。この場合、粗密パターンは構成天体の密度の違いを表す波と考えられ、その移動速度は一般に、構成天体の平均的な運動速度とは異なる。パターン速度、密度波理論、巻き込みの困難も参照。
窒素、炭素、シリコンなどの高階電離原子(N V, C IV, Si IV)による、幅が広くて(10000-30000 km s-1)かつ青方偏移した吸収線をもつクェーサー。高い柱密度の濃いガスが視線方向に高速で吹き出ていると考えられる。
バウツ-モルガン分類を参照。
中心天体に周囲から物質が落ち込む球対称降着において、放射による力と重力のつり合いで決まる限界光度をいい、エディントンにより最初に導かれた。 この限界光度より明るくなると放射圧が重力に勝るので、天体自身が飛ばされるか、あるいはガス降着が止まり光度が下がる。 すべての天体はエディントン限界光度
で与えられる。 ここで
天体を観測してえられる分光スペクトル中の吸収線や輝線のうち、どの物質(原子、分子、イオン、星間ダスト)が原因となっているかが不明の線のこと。電波領域には多数存在する。
時の流れ(暦日:れきじつ)を測り記録し将来に向けて予測する体系をいう。そのための方法論(暦法)を含めることもある。「こよみ」と読まれることも多い。英語のephemeris(エフェメリス)は主に後述する「天体暦」を指すが、almanac(アルマナック)や calendar(カレンダー)も用いられる。日本語の「カレンダー」には、暦の情報を日常生活に便利な形に表したもの、組織などの年間行事予定表、日程表なども含まれる。
暦日を測るために古くから用いられてきたのは、規則的に繰り返す天体の運行であった。日の出・日の入りの繰り返し周期である1日(正式には1太陽日)は人間を含む生命の最も基本的なリズムを作っている。少し長い周期を持つ月の満ち欠け(周期1月;正式には1朔望月)は最も目立つ天体現象の一つで、さまざまな文明において、宗教的、政治的な儀式とも関連して重要な意味を持っていた。一方、天球上の同じ星座のほぼ同じ位置に太陽が戻ってくる周期(すなわち地球の公転周期)である1年(正式には1太陽年)は、季節の変化に対応するので、人々の生活、特に農作業の基本周期であった。つまり1月と1年は両方とも古代から重要な周期だったわけである。
1年を単位とした暦は太陽暦、1月を単位とした暦は太陰暦と呼ばれる。月の満ち欠けが12回起きるとほぼ1年になることは古くから知られていたが、1朔望月(29.53059日)と1太陽年(365.24219日)の長さは整数ではなく、また両者の比は簡単な整数比になっていない。したがって、1年を12月とする太陰暦では、暦日と季節が1年に10日程度ずれてくる。これを補正する置閏法(ちじゅんほう)と共に、両者の折衷である太陰太陽暦が考案された。我が国で明治5年まで使われていた暦(いわゆる旧暦)は、太陰太陽暦であり、各月には和名がつけられていた。現在、日本を含む世界で広く使われているグレゴリオ暦は太陽暦であるが、工夫された置閏法により季節と暦日のずれは3000年で約1日に収まっている。
現在の日本において法律上の基礎を持つ暦は自然科学研究機構国立天文台(担当部署は天文情報センター暦計算室)が毎年発行する『暦象年表』であり、冊子版(販売されていない)に加えてインターネットで見られるWeb版も提供されている。また、毎年出版される『理科年表』(国立天文台編、丸善発行)の「暦部」にも簡略版が掲載されている。毎年2月はじめに出される官報の資料欄に、翌年の暦の主要部分が「○○○○年暦要項」として掲載される(国立天文台でも発表する)。これにより、翌年の国民の祝日のなかで日付の定まっていない「春分の日」と「秋分の日」の日付が定まる。日常生活における日本の暦は、旧暦に由来する干支、六曜、二十四節気、雑節などとも深く関係している。
天体の推算位置を天体力学により計算し時刻の関数として示す天体暦として、『天体位置表』が海上保安庁海洋情報部から平成22(2010)年まで毎年発行されてきたが、2011年以降の天体暦データは、暦象年表Web版に引き継がれている。天体暦に基づいて、航海する船が天体の観測から自分の位置を知るために便利なように作られた航海暦があり、平成17年までは、外洋を航海する船舶はこれらを備え付けることが義務づけられていたが、現在では衛星航法装置(全地球測位システム参照)または電波航法装置に置き換わっている。
国立天文台天文情報センター暦計算室の暦に関するサイト。「今日のほしぞら」も見られる。
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/
暦象年表のWeb版:https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/cande/
球対称な自己重力系の構造を表す方程式。名称はレーン(J.H. Lane)とエムデン(R. Emden)からとられている。恒星の内部構造は、静水圧平衡、連続の式、状態方程式、エネルギー輸送、エネルギー保存、および吸収係数の式で記述される。このうち、静水圧平衡の式と連続の式は
(ここで
を得る。ここで
である。
これをレーン-エムデン方程式という。これにより、ポリトロープ関係の