天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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恒星系力学

球状星団銀河など多数の恒星からなり、重力で相互作用する多体系の進化を扱う力学。 1粒子分布関数 f(x,v,t) に対する無衝突ボルツマン方程式

ft+vfΦfv=0

が基礎方程式。 ここで Φ は重力ポテンシャルでポアソン方程式 2Φ=4πGρ を満たす。質量密度 ρ は、分布関数から ρ=fdv として計算される。

アストロバイオロジーを参照。

入射する光子によって生成される(電気)信号を光子1つずつ個別に検出(計数)する光検出法。主な光検出法は検出素子に入射する光子を何らかの方法で電子に変換して電流や電荷として計測する。電子の電荷は非常に小さいため、高感度を実現するためには電荷を蓄積してから測定する手法が主流である。一方、1つの光子から生成された1つの電子を電子雪崩現象を利用して増倍することにより、一つ一つの光子を計数する手法が光子計数法である。ただし、1つの光子からの信号が次の光子からの信号に重ならないように、天体からの光子のみならず背景の光子も非常に少ない場合にのみ用いることができる。具体的な検出器としては、光電子増倍管が用いられるが、量子効率は必ずしも高くない。高い量子効率を持つ半導体で同様の機能を持つ素子としてアバランシェフォトダイオードがある。

天体表面に存在するクレーターの数密度から、その地域の年代を決める手法である。クレーター年代学は地質構造の新旧を決める強力な手段である。しかしいくつか欠点がある。まず、絶対年代と直接に対応がつけられているのがアポロ計画の回収資料の年代がある月に限られている。他の天体では、隕石衝突のフラックス(単位時間に単位面積に衝突する数)を(数値モデルなど)何らかの方法で見積った上で、クレーター年代を求めることになる。また、衝突が多くなると新たな衝突が以前に形成されたクレーターを破壊することになり、クレーターの数密度が飽和して、古い年代が求められなくなる。一方で金星のように大気の厚い天体では小さな衝突体が大気中で破壊されてしまうため、クレーターの数が少なくなり年代を決めにくい。また、大きな衝突では、放出物が落下するときに二次的なクレーターを形成するため、小さいクレーターの数が変化することがある。

光子の検出器において、信号の雑音に対する比(S/N比信号対雑音比)は、荷電粒子などのバックグラウンドが十分小さければ、光源から観測される光子数の統計的ゆらぎで決まる。これを光子限界という。光子数の統計的ゆらぎはポアソン分布で近似される。コンフュージョン限界背景光バックグラウンド限界も参照。

カプタイン(Jacobus Cornelius Kapteyn;1851- 1922)はオランダの天文学者。ユトレヒト郊外のバルネベルトで生まれ、ユトレヒト大学にて物理学で学位を取得した。その後、ライデン天文台に入所して本格的に天文学を学び、1878年にグローニンゲン大学の天文学教授になった。ギル(D. Gill)がケープ天文台で撮影した南天の天体写真を測定・整理し、1896年にケープ写真掃天星表を出版した。1897年にバーナード星に次いで固有運動の大きいカプタイン星を発見、1902年には初めて絶対等級の考え方を提唱している。また、固有運動の研究から、恒星はランダムな運動ではなく、2つの流れに分かれてほぼ反対方向に運動していることを見出した(二星流説、1904年)。これは後に、天の川銀河銀河系)が回転していることの最初の証拠となった(オールトを参照)。

カプタインは恒星集団としての宇宙(現在の銀河系=天の川銀河)の構造と星々の運動を明らかにするために、全天から200ほどの領域を選び、世界の天文台が協力して観測を行う選択天域計画を1906年に提唱した。これは、世界の40ほどの天文台を巻き込んだ最初の本格的な国際的共同研究となっていく。途中結果をまとめたカプタインの論文は1922年に発表され、レンズ状の天の川銀河の構造を明らかにした。その大きさは4万光年で、太陽は中心から2000光年と求められ、カプタイン宇宙と呼ばれた。このモデルでは星間吸収は無視されていたが、カプタインの死後その効果が大きいことが分かり、天の川銀河の大きさは約10万光年と訂正された。
1902年に王立天文学会ゴールドメダル、1913年にはブルースメダルを受賞している。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/178

天球上での恒星の見かけの動きのこと。恒星の空間運動速度の視線に垂直な方向(接線方向)の速度によって生じる天球面上の位置の変化で、秒角/年(" y-1)の単位で測る。太陽や恒星は天の川銀河銀河系)という星の集団に属しているが、それらは天の川銀河の中心の周りを回っている。太陽は天の川銀河の銀河円盤に属する周辺の星々とともに回転しているがそれらの星々との相対位置は時間とともにわずかに変化する。また、銀河ハローに属する星は円盤とは異なる回転をしているので、相対位置の変化が大きい。この相対位置の変化が天球に投影されたものが固有運動である。一般に固有運動は近距離の星ほど大きいので、固有運動は近距離の星を見つける手段にもなる。

固有運動は1718年にハレーによって発見された。彼は、シリウス、アークトゥルス、アルデバランの位置が、古代ギリシアの天文学者ヒッパルコスが約1850年前に記録した位置よりも大きくずれているというティコ・ブラーエの先行研究を追認し、その原因を固有運動と考えた。

ほとんどの恒星の固有運動は1秒角/年以下で、最も固有運動の大きいバーナード星で10.36秒角/年である。また、年周視差連星系の運動と分離する必要もあるため、固有運動の観測には長期間にわたる精密な位置観測が必要である。

陽子中性子などのハドロンの基本構成要素でアップ(u)、ダウン(d)、ストレンジ(s)、チャーム(c)、トップ(t)、ボトム(b) の6種類がある。このうち u と d は電子や電子ニュートリノとともに第1世代に属し、s と c はミューオンμ)およびミューニュートリノとともに第2世代に属する。残りの t、b はタウ粒子(τ)、タウニュートリノ(ντ)とともに第3世代に属する。

反粒子であるアンチクォーク(u¯ のように表す)は、クォークと結合して中間子となる。各クォークはスピン 1/2 のフェルミ粒子であり、バリオン数 1/3 を持つ。また、赤青緑(RGB)という3種類の色(カラー)の自由度を持つが、色を持った状態を単体で取り出すことはできない。たとえば、陽子はuud、中性子はuddのように3つのクォークによって構成されるが、各クォークにRGB各色が当てはめられ、全体としては無色になっているのである。キャビボ-小林-益川理論も参照。

観測で取得されたデータを、画素位置やカウントから一般的な波長やエネルギー流束密度などの単位に変換する作業。例として、分光観測のデータの横軸が波長となるように変換することを波長校正といい、その際に波長の基準光源として用いられる輝線ランプは波長校正用光源と呼ばれる。これに対して縦軸のカウントを放射強度になるようにする変換は強度校正と呼ばれる。本来は「較正」という文字が使われていたが、常用漢字からはずれたため、「校正」が用いられている。積分球も参照。

銀河を構成する個々の星の分布、運動、金属量などのデータから銀河の誕生と進化を調べる学問分野。銀河考古学の対象は、個々の星を観測して星ごとの情報を得ることができる、天の川銀河銀河系)やアンドロメダ銀河(M31)およびそのほかの局所銀河群矮小銀河など、ごく近傍の銀河に限られる。

恒星惑星などの天体は、見かけ上は天球と呼ばれる球面上に配置されている。この球面上で互いの位置関係を解析するのが球面天文学である。赤道座標系黄道座標系地平座標系も参照。

宇宙の遠方にある天体の分布数、スペクトル、物理状態、運動などや宇宙背景放射の観測データに基づいて、膨張宇宙の構造と進化を実証的に研究する分野。

天球のモデルであると同時に天体の観測装置として使われた器械。渾天儀は中国での呼び名で、ヨーロッパでは天球儀が一般的な名称である。水平線、子午線、卯酉(ぼうゆう)線(東西を表す線)、天の赤道黄道白道などを表す多数の環、天の南極と北極を結ぶ軸、および天体を覗くための筒からなるが、製作者や時代によってさまざまなものがある。隙間があるものを渾天儀、球面で覆われているものを天球儀と区別することもある。

宇宙年齢に匹敵するほど長い半減期を持つ放射性元素を核時計として用い、古い世代の星における元素組成から宇宙・銀河・恒星などさまざまな天体の進化史を研究する学問分野。トリウム232(232Th; 半減期140.5億年)やウラン238(238U; 半減期44.68億年)などが用いられる。これらの元素の含有量が少ない星ほど古い星であると判定される。

太陽時を参照。

干支を参照。

恒星時を参照。

ある時計の時刻を異なる時計の時刻に合わせることを時刻同期と呼ぶ。たとえば、長波標準電波(JJY)などの報時信号やネットワークによる時刻情報提供サービス(NTPサービス)、全地球測位システム(GPS)などから得られる正確な時刻に合わせることをいう。各国の時刻標準を構成する原子時計もGPS衛星の信号などにより時計比較を行い、協定世界時と時刻同期させている。
時刻同期を定期的に行なうことにより、安定度の低い時計であっても正確な時刻を示すことが可能になる。

時刻の基準となるもの。国際的な時刻標準は国際度量衡局(BIPM)の維持する協定世界時である。国内の時刻標準である中央標準時あるいは日本標準時は、国立天文台(NAOJ)、情報通信研究機構(NICT)、産業技術総合研究所(AIST)などの管理する原子時計群により維持され、情報通信研究機構の送信する報時信号などで送信されている。
また、全地球測位システム(GPS)の信号には、衛星に搭載した原子時計の示す時刻と、地上の原子時計とのずれの情報が含まれており、ここからも正確な時刻を取り出すことができる。とくに高精度な時計比較にはこの時刻がよく使われている。
なお、現在では光の周波数計測をもとにした光格子時計ミリ秒パルサーのパルス周期をもとにした時計など、原子時計をしのぐ時刻標準の研究が進みつつある。

地心と観測者と天の極を含む面を観測者の子午面と呼び、子午面と天球の交わる交線を子午線と呼ぶ。つまり、観測者から見て北と南を指す方向である。かつて、方角は十二支を使って表していたので子(北)と午(南)を結ぶ線であることからこの名前がついた。天体が天頂より南側で子午線を通過することを南中と呼ぶ。
地球だけでなく、太陽惑星の場合も天体中心と天体表面上の点、天体の極を含むような面から、子午線を定義することができる。