天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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地球潮汐

主に太陽による潮汐力によって固体地球に起きる潮汐のこと。広く知られている海水の潮汐は海洋潮汐という。

電磁場に対するポテンシャルで、スカラーポテンシャル $ \phi$ とベクトルポテンシャル $\boldsymbol{A}$ からなる。電場と磁場はポテンシャルを使って次のように書ける。

$$\boldsymbol{E}=-\nabla \phi -\frac{1}{c}\frac{\partial \boldsymbol{A}}{\partial t}, \quad \boldsymbol{B}=\nabla \times \boldsymbol{A}$$

ポテンシャルの選び方には、$\xi$ をスカラー関数として次のような自由度がある。

$$\phi'=\phi-\frac{1}{c}\frac{\partial \xi}{\partial t}, \quad \boldsymbol{A}'=\boldsymbol{A}+\nabla \xi$$

この自由度のことをゲージ自由度、上のポテンシャルの変換のことをゲージ変換という。ポテンシャルを、$A^\mu=(\phi, \boldsymbol{A})$ と書くと、これはローレンツ変換に対する4元ベクトル量で4元ポテンシャルと呼ばれる。

原子核が放射性崩壊を起こす際に発生するガンマ線のこと。天文学では 26Al (アルミニウム26)が半減期約100万年で逆ベータ崩壊するときや軌道電子捕獲する際に生じる1.8 MeVのガンマ線が有名。大質量星の中には 26Al を大量に作り星間空間に放出するものがあるため、100万年スケールでの星生成と爆発の指標とされる。

電弱統一理論を参照。

自然界の基本的な四つの力のうちの2つである電磁気力弱い力を統一的に扱う理論。1972年ワインバーグ(S. Weinberg)とサラム(A. Salam)によって独立に提唱されたので、ワインバーグ-サラム理論とも呼ばれる。SU(2)×U(1) というゲージ群にしたがうゲージ理論である。この理論では、現在の真空状態ではヒッグス場の中性成分はゼロでない期待値を持ち、それによって SU(2) のゲージ粒子であるWボソンZボソンは質量を持つため、SU(2) 対称性は自発的に破れている。一方、U(1) 対称性はそのまま保たれており、そのゲージボソンである光子が電磁気力(電磁相互作用)を媒介する。
この理論で存在が予想されたWボソンとZボソンと呼ぶ重いゲージ粒子は、後に実験的に存在が検証された。力の統一理論自発的対称性の破れも参照。

ある天体について、地球の中心から見た方向と地上の観測地から見た方向の差。天体暦などに掲載されている天体の位置は、一般的には地球中心から見た方向であるので、観測者から見た方向と微妙に異なることがある。したがって、観測を行う場合などに正確な方向が必要な場合には、地心視差の補正を行う必要がある。通常、地心視差の補正が必要なものは太陽系天体であり、補正量はで1°、太陽で9"、冥王星で0.2"程度である。
天体が地平線上に見えるときの地心視差を地平視差と呼ぶ。地平視差は地球半径分だけ離れたときの地心視差と考えることもでき、とくに赤道半径分だけ離れた場合の地平視差を赤道地平視差と呼んでいる。視差も参照。

コペルニクス(Nicolaus Copernicus;1473-1543)は、古代からの地球中心の宇宙観に対し、太陽を中心とする宇宙体系(太陽中心説=地動説)を提唱し、近代天文学への道を最初にひらいたポーランドの天文学者。1473年、交易の町であるトルニ(トルン、現ポーランド)に裕福な商人の子として生まれた。10歳のときに父を失い、司教である伯父ルーカスの庇護を受けた。18歳でクラコフ(クラコウ、クラクフ)大学に入り神学を学び、22歳でフロムボルク聖堂の参与会員に就任、その後イタリアへ旅立ち、ボローニャとパドバの大学で哲学、法学、数学、医学、天文学、ギリシャ古典を学んだ。1503年にフェレーラ大学で教会法の学位を取り、10年間の留学生活を終えるが、この間に天文学を学ぶとともに、イタリアルネッサンスの思想を身に受けた。帰国後、ワーミア(ヴァルミア)司教地区の律修司祭(Canon)の職に就き、生涯その職を離れることはなかった。1510年にフロムボルクに移り、町の城壁の部屋に居を構え、天文学の研究と観測を行なった。それは今も「コペルニクスの塔」として残されている。主な職務は司教区の行政と、司教つきの医師としての仕事であり、その中で『貨幣鋳造の方法』(1517年)という経済学書も著している。

1510年頃に『コメンタリオルス』(Comentariolus)を執筆して、初めて彼の太陽中心説を明らかにした。この書は印刷されなかったが、筆写本が各地に伝わり、天文学者としての彼の名声が広がった。その頃にローマ教皇レオ10世が教会暦の改訂を天文学者に諮問したが、コペルニクスは、観測も理論も十分でないという理由で積極的には参加しなかった。1539年にビッテンベルクの天文学者レティクス(G.J. Rheticus)がフロムボルクを訪れ、コペルニクスに新理論の出版を促し、その概要を『第一解説』(Narratio Prima)として執筆、本論の出版を望む声が上がった。1541年頃にコペルニクスはいよいよ『天球の回転について』(De revolutionibus orbium coelestium)の執筆に着手し、レティクスがそれを清書原稿にしてニュールンベルクで印刷されることになった。印刷の監督は神学者オジアンダー(A. Osiander)の手に移り、1543年に出版にこぎつけた。しかし、その頃コペルニクスは病床についており、完成本を手にしたのは亡くなる寸前であったといわれている。本書の序文は無署名であるが、オジアンダーが書いたもので、「本書は数学的な仮説であり、現実の宇宙の姿を示すものではない」という趣旨の弁明が書かれている。コペルニクスがそれを読んだかどうかは明らかでない。

死後コペルニクスは埋葬されたものの、どこに埋葬されているのかは不明だったが、フロムボルクの大聖堂で2005年夏、遺骨が発掘された。2008年に、ポーランドのシュチェチン大学とスウェーデンのウプサラ大学とが共同で、コペルニクスのものとされる毛髪とのDNA鑑定を行い、この遺骨がコペルニクスのものと認定されている。

コペルニクスの数学的理論は、ギリシャ天文学を集大成したプトレマイオス(Ptolemaeus)の『アルマゲスト』を凌駕するものとして高い評価を得たが、太陽中心説の方は大きな反響を呼んだものの、多くの支持者を得ることはなかった。太陽中心説が新しい宇宙観として、また思想潮流としてヨーロッパ文明に受け入れられるのは、半世紀後のことである。

電磁流体力学で現れる波動であり、MHD波動とも呼ばれる。横波のアルベーン波と縦波の速い磁気音波(ファーストモード)および遅い磁気音波(スローモード)の3つの異なる波動がある。

水素分子(H2)のような電気双極子モーメントを持たない分子であっても、電子の分布は非球対称なので、質量中心周りの回転に対して電子分布の形は変化する。水素分子のように電子分布が左右対称ならば、1/2回転ごとに元に戻り、1/4回転ごとに違いが最大になる。これを、電気四重極子モーメントという。この場合、分子が回転すれば、電荷分布が変動するため電磁波を放射する。これを電気四重極子放射という。一般には双極子モーメントに比べて四重極モーメントの方がずっと小さく、弱い電磁波しか放射できない。量子力学的には遷移確率が低いことに対応する。水素分子の場合は、電気四重極放射は極めて弱く検出は困難である。なお、近赤外線から中間赤外線領域において放射される輝線は電気四重極子放射と、原子間距離が変わる振動を伴った振動回転遷移の2種類がある。

原子の原子核の持つ核スピンと電子の持つスピンが同じ方向を向いている場合はエネルギーは高く、反平行のときはエネルギーが低い。このような相互作用をスピン-スピン相互作用という。この2つのエネルギー状態を遷移することによって生じるスペクトル線超微細構造線という。

物理系の大きさを特徴付ける長さ。
空間的に分布する媒質の密度が中心からほぼ滑らかに減少する場合には、密度が中心の値の1/eになる長さを一般にスケール長と呼ぶ。渦巻銀河銀河円盤の大きさを表す場合には、円盤の表面輝度分布を指数法則で近似するとき、表面輝度が中心の値の1/eになる半径がスケール長である。ここでe = 2.718....は自然対数の底。

原子番号や質量数の異なる2つ以上の原子からなる分子(異核分子)は、分子の質量中心と電荷分布の重心が異なるため、重心に対して、正と負の電荷を両端に持つ電気双極子モーメントを持つことになる。これは外部から電場をかけなくても分子の構造によって生じる電気双極子モーメントなので、永久電気双極子モーメントと呼ぶ。分子の回転状態の変化に伴って電気双極子モーメントが変化すると荷電粒子が加速度運動するのと同じことになり、電磁波を放射する。これを電気双極子放射と呼ぶ。電気双極子モーメントが大きな分子は、量子力学的には遷移確率が大きいことに対応する。電気双極子モーメントを持つ分子としては一酸化炭素(CO)、硫化炭素(CS)、シアン化水素(HCN)などがあり、多くは電波のミリ波からサブミリ波領域においてこの放射を発生する。水素分子(H2)のように同じ原子からなる等核分子では質量中心と電荷分布の重心が一致するので永久電気双極子モーメントを持たない。電気四重極子放射も参照。

電磁気力を参照。

星が生まれるとき、どのような質量の星がどのような頻度で生まれるかを表す関数。IMFと略される。質量の大きな星ほどその寿命が短いため、実際に観測される星の頻度分布に対して寿命の違いの補正を行って推定する。太陽質量の0.1倍程度から30倍程度までの星についての頻度分布を表している場合が多い。

質量が $M$ から $M+dM$ の間の値を持つ星の数 $dN$

$$\frac{dN}{dM} \propto M^{-n}$$

と表した場合、べき指数 $n$ の値は質量の大きい側で一定値になるという報告が多く、1955年に最初に初期質量関数を導出したサルピーター(E. Salpeter)は、$n=2.35$ を得た。多くの研究者が種々の散開星団OBアソシエーション、さらに銀河系天の川銀河)以外の銀河などで推定しているが、初期質量関数の場所による大きな違いはあまり報告されていない。星生成活動の活発なスターバースト銀河では大質量星が多く生まれているとの示唆もある。銀河の進化を理解する上で極めて重要な量であるが、その起源と普遍性についてはまだよく理解されていない。星生成も参照。

流体にはその圧縮性にともなって粗密波である音波が生じる。音波は、その振幅が小さい間は線形の波として振る舞う。流体力学の方程式が持つ非線形性のために、振幅の大きな波の伝搬速度が速くなり、もともと正弦波的であってもその波形が切り立ってくる。そのような極限として、拡散を含まない理想流体では、物理量(密度、圧力、速度など)に飛びをもつ解(弱解)が生じる。これを衝撃波と呼ぶ。衝撃波は、一般に音速を超えた部分と超えない部分を含む遷音速流に見られる現象で、天体現象においてもさまざまな流れに見いだされる。

衝撃波と同じ速度で動く系で見て定常な解を考えると、流体の質量の保存則は1次元では

$$\frac{d\,(\rho v)}{d x}=0$$

のように書ける。ここで、$\rho$$v$ は流体の密度と速度を表す。衝撃波のところで、$\rho$$v$ は飛びを持つので、微分は定義できず、衝撃波領域は(狭い意味では)上の方程式を満足することはできない。しかし、この式を衝撃波の位置を含む狭い区間で積分すると、

$$\int_{衝撃波を含む小領域} \frac{d\,(\rho v)}{d x}dx=0\,\,\,\,$$

すなわち

$$\rho_1\,v_1-\rho_0\,v_0=0$$

となる。ここで、添え字の 0 は衝撃波前面の、1 は衝撃波後面の値を示し、この式は、流体の質量流束が衝撃波面の前後で保存することを意味する。衝撃波を含むような流れであっても、積分形まで広げて考えれば、上の微分方程式の解とみなすことができる。同様の関係式は運動方程式とエネルギー方程式からも得られ、それらを解くことで、衝撃波後面の物理量は、衝撃波前面の物理量で表すことができる。これはランキン-ユゴニオ条件と呼ばれている。

超新星爆発などの高エネルギー現象が起こると、強い衝撃波が発生し、宇宙空間を超音速で伝播する。宇宙で起きる衝撃波の例としては他にも、惑星間空間擾乱弧状衝撃波銀河衝撃波などがある。

多数の荷電粒子がクーロン力のもとで運動しているプラズマにおいて、個々の荷電粒子のつくる電場の影響が及ぶ特徴的な距離。電子が温度$T$、密度$n$であるプラズマに対してMKSA単位系で

$$\lambda_{\rm De}=\left(\frac{\epsilon_0 k_{\rm B}T}{n e^2}\right)^{1/2}$$

で表される。ここで $\epsilon_0$ は真空の誘電率、$k_{\rm B}$ボルツマン定数$T$ は温度、$n$ は電子密度、$e$電気素量(素電荷)である。

荷電粒子の周りには反対符号の電荷をもった粒子が集まる傾向があるため、ある距離だけ離れると電場の影響が遮蔽される。この距離がデバイ長である。デバイ長よりも大きな空間スケールでは荷電粒子の運動は電場の影響をほとんど受けないとみなすことができる。

強い力を参照。

ガスや流体の熱力学関数の間の関係式。たとえば圧力 $P$ を密度 $\rho$ と温度 $T$ の関数として

$$P = P(\rho, T)$$

のように表す式。理想気体の状態方程式は、

$$PV = nRT$$

で表される。ここで $V$ は体積、 $n$ はモル数、 $R$ は気体定数である。

1890年にスミソニアン研究所が設立した天文台。しばしばSAOとも略される。米国マサチューセッツ州ケンブリッジにあり、ハーバード大学と連携して、ハワイのサブミリ波干渉計、ホプキンス山の6.5mマルチミラー望遠鏡(MMT)などを運用している。

ホームページ:http://www.cfa.harvard.edu/sao/

素粒子論におけるゲージ粒子である8種のグルーオンが媒介するクォーク同士を結合させる力で、強い相互作用とも呼ばれる。代表的な例は核子間に働く核力であり、湯川秀樹の中間子理論により実態が解明された。素粒子(基本粒子)は物質を構成するクォークとレプトンおよび相互作用により力を媒介するゲージ粒子からなる。素粒子間に働く相互作用には強い力の他に、弱い力電磁気力および重力があり、それぞれウィークボソン(WボソンZボソン)、光子重力子の3種のボース粒子によって媒介される。重力子は未発見である。
四つの力電磁気力弱い力も参照。