天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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原始星

生まれた直後の星のこと。
分子雲コアの中で進む星生成過程において、自己重力により収縮する中心では、高密度部分の圧力が最終的には大きくなり、収縮が止まって準静的な構造を持つ天体が発生する。この天体のことを原始星もしくは原始星コアと呼ぶ。その後は、周りのガスが原始星コアに降り積もることで、原始星コアの質量は増加する。原始星コアとそこに降り積もるガスを含めたものを原始星と呼ぶ場合もある。標準的な星生成理論によると、準静水圧平衡の天体は2種類存在し、それぞれ第一のコア第二のコアと呼ばれるが、観測的に通常議論される原始星に対応するのは第二のコアのことである。
生成された直後の星である原始星は濃いガスとダストに覆われていて、主に赤外線電波で観測される。多くの場合、高速分子流と呼ばれる高速のガスを噴出していることが観測されているが、これは電磁流体力学的に駆動されたガスの流れだと考えられている。原始星はその後、Tタウリ型星を経て主系列星へと進化して、太陽のような普通の星になる。主系列星では、中心温度が十分高くなって水素の核融合反応が起こっているが、原始星やTタウリ型星ではまだ水素の核融合反応は始まっていない。原始星やTタウリ型星が輝くためのエネルギー源は重力収縮に伴う重力エネルギーの解放である。

高エネルギーの粒子が標的原子核に衝突した際に、原子核が砕けて複数のより軽い原子核や中性子が生成される反応。不安定な放射性同位元素の原子核も生成される。リチウムなどの軽元素宇宙線による破砕反応により生成される。

原始星を参照。

経緯台方式の望遠鏡は天体の日周運動を追尾中に焦点面に取り付けた装置から見ると視野が回転してしまうため、装置をその回転に合わせて回すか天体像を回して観測装置上で天体(視野)が静止した画像となるようにする必要がある。像を回転させる装置を像回転機構あるいは像回転補償機構と呼ぶ。通常は3枚の平面鏡からなる光学系でこのユニットを像回転の半分の角速度で回転することにより、天体像を観測装置上で静止させることができる。ちなみに装置を回すものは、装置回転機構と呼ばれる。

1998年に当時の科学技術庁が開発を計画し、NEC社が2002年に完成した日本のスーパーコンピュータ。横浜市の海洋研究開発機構(JAMSTEC)横浜研究所に設置されている。理論ピーク性能40 Tflops(テラフロップス)を有し、実効性能でもその50%以上を達成した。完成当時は世界最速のコンピュータであったが、2004年IBM社製のBlue Geneに首位を明け渡した。気候変動(地球温暖化)や地核変動など地球規模でのシミュレーションに利用され、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の報告書作成にも貢献した。2008年に新機種に更新された。
ホームページ:http://www.jamstec.go.jp/es/jp/

周囲の分子雲から孤立して存在している小型の分子雲。典型的な質量は太陽質量程度である。
質量が太陽質量の十倍程度以上ある大型の孤立したグロビュールを発見者の名前にちなんでボーク(B. Bok)グロビュールと呼び、内部では星生成が進んでいるものもある。代表的な例はB335など。

赤外線天文衛星であるIRAS衛星で検出されず、サブミリ波からミリ波以上の長波長の電波でのみ検出された原始星候補天体のこと。 通常は原始星に特有の双極分子流が観測されるため、濃い分子ガスの中に埋もれていて形成途中の若い星だと考えられている。観測されるスペクトル星周物質の分布に強く依存すると考えられるため、その解釈には注意が必要である。クラスⅠ天体分子雲コアも参照。

元素はその原子番号(原子核中の陽子の数)にしたがってその化学的性質が一定の周期で変化する(これを元素の周期律と呼ぶ)。性質の似た元素が同じ列にくるように並べた表が周期表で、1869年ロシアのメンデレーエフ(D. Mendelejev, 1834-1907)によって発表された。周期律は、量子力学を用いて原子内での電子の分布を計算することによって説明できる。周期表は元素の化学的性質や元素同士の化学反応を理解するための基礎である。核図表核種も参照。

形成されて間もない若い天体を観測的に分類するための名称。前主系列星の分類には、次式で定義される、波長2.2 μm と25 μmの赤外線波長域でのスペクトルの傾きを表す指標 $\alpha$ が用いられる。

$$\alpha = \left\langle \frac{d \log\,(\lambda F_{\lambda})}{d \log \lambda} \right\rangle_{\lambda=2.2-25\,\mu {\rm m}} $$

ここで、$F_\lambda$ は天体の波長$\lambda$ で測った放射流束で、単位波長あたりの量である(長波長の端は25 μmではなく10 μmや12 μmが使われる場合もある)。

クラスⅠ天体は、横軸 ${\rm log}\,\lambda$ 、縦軸 ${\rm log}\,\lambda F_\lambda$ のグラフで傾き$\alpha$ が正で($\alpha$>0)、スペクトルエネルギー分布が長波長側に向かって増加する。クラスⅠ天体は、原始星段階に対応する。赤外線のエネルギー超過は、星の周りのガスからの放射の寄与によるものである。Tタウリ型星と比較して分子雲コアに深く埋もれており星間減光$A_{\rm V}$)が数10等以上, 物質降着が活発で、双極分子流などの質量放出現象も普遍的に見られる。クラスⅡ天体は、スペクトルエネルギー分布が平坦か、あるいは右肩下がり (-2<$\alpha$ <0)であるが、 星自体の黒体放射に対して、明らかな赤外線超過が見られる。これはもっぱら星周円盤からの放射の寄与によるものである。このような星は、上記のTタウリ型星に対応する。スペクトルエネルギー分布がフラットなものはフラットスペクトルT タウリ型星とも呼ばれ、 クラスⅠ天体とクラスⅡ天体の中間的段階にあるものと考えられている。クラスⅢ天体は、スペクトルエネルギー分布が右肩下がり($\alpha$ <-2)で、 可視光から赤外線において、恒星の表面温度のプランクの法則で近似される。つまり、中心星の近傍にはあまり目立った星周構造は見られず、 弱輝線Tタウリ型星とも呼ばれる。クラス0天体も参照。

電波干渉計を構成する素子アンテナが検出した電場信号を受けとり、それらの間の相関をとる処理をする装置のこと。現代的な開口合成望遠鏡においては、相関器に分光機能も持たせるのが通常で、これらを特に分光相関器とも呼ぶ。分光相関器中でなされる処理は、フーリエ変換で実現される分光と、かけ算で実現される相関演算とに分類される。これらの演算順序の違いによって、分光相関器のタイプは大きくFX型とXF型に分類される。すなわち、先にアンテナ電場信号を分光してから相関をとる形式がFX型であるのに対し、相関をとってから分光処理を行う形式がXF型である。ただし近年では、デジタル回路技術の発展により、その中間的な構成を持つものも開発されている。どの構成にするかで必要な相関器の総数や拡張性の難易が異なる。相関器ではこのほか、遅延追尾や位相スイッチングといった、電波干渉計で必要とされる他の信号処理機能も合わせて実装されている場合が多い。

宇宙速度を参照。

相互にエネルギーをやりとりができる2つの熱力学的な系に対し、時間が経ってもそれぞれの熱力学状態が変化しない状況をいう。熱平衡状態や熱力学的平衡と呼ぶこともある。熱平衡にある系を特徴付ける熱力学変数が温度$T$である。古典近似の場合、系を構成する粒子のエネルギー分布は、温度が $T$ の場合として

$$f(\epsilon)=e^{-(\epsilon-\mu)/(k_{\rm B}T)}$$

で与えられるボルツマン分布となる。ここで、$\epsilon$エネルギー準位$k_{\rm B}$ボルツマン定数$\mu$ は化学ポテンシャルである。系全体が完全な熱平衡状態になっていなくても、部分系が熱平衡状態と見なせる場合もあり、特に,化学的に1種類の粒子のエネルギー分布が1温度のボルツマン分布に従う場合、これを局所熱力学平衡と呼び、星間ガス励起を考える場合によく仮定される。

クラスⅠ天体クラス0天体を参照。

カール・シュバルツシルト(Karl Schwarzschild;1873-1916)は、ドイツの天体物理学者(シュワルツシルト、シュヴァルツシルトとも表記)。フランクフルトに生まれ、シュトラスブルグ大学、ミュンヘン大学で学び、1891年に学位を取得した。1901年にゲッチンゲン大学天文台長、1909年ポツダム天体物理学天文台長に就任した。天体観測の分野では、写真観測による光度測定の標準化を行ない、天体物理学では、スペクトルの吸収線の理論(シュスター=シュバルツシルトの恒星大気モデル)を発表、銀河系天文学の分野では、恒星の運動の楕円体型速度分布を提唱した。特に有名なのは相対論的宇宙論の分野で、アインシュタイン一般相対性理論を発表して間もない1915年に、アインシュタイン方程式の厳密解(シュバルツシルト解)を求め、ブラックホールの半径を示すシュバルツシルト半径の理論を提出するなど、多くの分野で優れた業績を残した。第一次世界大戦に従軍してロシア戦線に参加、そこで病気になり、1916年ポツダムで死亡した。42歳であった。

 

参考:https://mathshistory.st-andrews.ac.uk/Biographies/Schwarzschild/

媒質の運動速度勾配が十分に大きいと仮定することで光子の脱出確率を概算して放射輸送の計算を簡単化する手法。LVG近似と略称される。放射輸送の計算を行って輝線吸収線の強さを計算する際に、媒質中の速度勾配がどの場所でも一定(速度∝距離)であり、分子雲がその相互作用領域より十分に大きいとすると、分子雲内のどの場所でも光子の脱出確率が同じと見なすことができる。このように近似して放射輸送計算を簡単化すれば、速度勾配の関数として各準位の分布量を概算し放射強度を計算できる。

マーチン・シュバルツシルト(Martin Schwarzschild;1912-97)はドイツ系のアメリカ人天文学者。カール・シュバルツシルト(Karl Schwarzschild)の息子で、スイスの物理学者エムデン(Jacob Robert Emden)の甥。ゲッチンゲン大学で天文学の学位を取った後、ナチス政権のユダヤ人迫害が激しくなり1936年にアメリカに亡命。オスロ大学、ハーバード大学、コロンビア大学で教え、1947年にハーバード大学の教授に就いた。星の構造と進化理論で多くの優れた業績をあげ、『恒星の構造と進化』(1958)は天体物理学の標準教科書になった。また、ストラトスコープ計画を指導し、大気圏外天文観測の基礎を築いた。

 

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1470

日常生活の時刻を計るときに、昼夜を問わず1日を等しく分割した時間単位を用いる方法。明治5年の改暦以前の江戸時代に用いられていた、昼間と夜間で時刻を測る単位が異なる不定時法に対して用いられる用語。現在の日常生活で使われている時刻(協定世界時)は定時法によっている。
国立天文台「暦Wiki」の「定時法と不定時法」も参照。
https://eco.mtk.nao.ac.jp/koyomi/wiki/BBFEB9EF2FC4EABBFECBA1A4C8C9D4C4EABBFECBA1.html

さまざまな形式で保管され公開されている天文データベースやデータアーカイブを利用して行う天文学研究を指す。仮想天文台も参照。

ショット雑音を参照。

物体が熱エネルギーを電磁波として放出する放射。熱的放射ともいう。すべての物体は、気体、液体、固体(物質の三態と四態を参照)の状態にかかわらず、温度に依存する熱放射を放射している。熱放射は物質中の原子、電子、イオンなどの熱運動に起因する。黒体放射が代表的なものであるが、その他に熱制動放射自由-自由放射ともいう)がある。