天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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急冷炭素質物質

プラズマを用いて実験室で生成された炭素質物質で、低温度天体の赤外線スペクトルの細かいバンド構造をよく再現することが知られている。メタンを原料とし、赤色巨星の表面温度である3000 K程度に加熱されてプラズマ状態になったガスを真空中に放出し基盤上に吹き付け急冷させて生成する。
英語の頭文字をとってQCCと略されることがある。星間ダストPAHも参照。

写真乾板に写った天体の明るさ(写真の黒み)をもとに決められた等級。初期の写真乾板は主に青色波長域に感度があったので、写真から決めた等級は、肉眼で見た明るさから決めた等級(緑から黄色の波長域にウエイトがある)と系統的にずれることがわかり、その区別をするために前者を写真等級、後者を実視等級と定義した。後には実視等級も写真観測から決められるようになったので、写真実視等級とも呼ばれる。写真等級は mpg、実視等級はmv または mpv と表記する。現代の測光システムの中では、写真等級はBバンド、実視等級はVバンドの等級に近い。
アイリスフォトメータは、写真乾板から星の等級を測定する専用の乾板測定機である。

自由-束縛遷移を参照。

フリードリッヒ・フォン・シュトルーベ(Friedrich Georg Wilhelm von Struve;1793-1864)は、ドイツ系ロシア人の天文学者。しばしばストルーベまたはシュトルーフェとも記される。ドイツに生まれたが、15歳の時にナポレオンのドイツ侵攻のためロシアに移住、ドルパト大学(現エストニア、タルトゥ大学)で哲学と天文学を学んだ。1813年からドルパト大学教授となり、同天文台の台長を兼任し、恒星の位置の精密な観測を行なった。1822年から1837年にわたり、3000個余りの二重星を発見、カタログとして発表した。1834年にはプルコボ天文台を設立してその台長に就任し、当時世界最大の口径39cm屈折望遠鏡を完成させた。1839年にベガ(こと座α星)の年周視差を測定し、ベッセル、ヘンダーソンと並び歴史上初めて恒星距離を測定するなど、生涯にわたって光行差歳差章動位置天文学の基本定数の決定や、測地学研究に多くの業績を上げている。1826年にロンドン王立天文学会ゴールドメダル、1827年にロイヤルメダルを受賞。
なお、フリードリッヒ・フォン・シュトルーベの息子がオットー・ウイルへルム・シュトルーベ(1819-1905)で、その息子がカール・ヘルマン・シュトルーベ(1854 - 1920)とグスタフ・ウイルヘルム・ルートビッヒ・シュトルーベ(1858 - 1920)。ルートビッヒの息子にオットー・リュドビゴビッチ・シュトルーベ(1897-1963)がおり、シュトルーベ家は4代にわたってドイツ、ロシア、アメリカで活躍した天文学者を輩出した。

 

地球大気の屈折率にはわずかながら波長依存性があるため、恒星からの光を結像すると色分散を生じてしまう。これを大気分散といい、その大きさは天頂距離に依存する。レンズ光学系にこの大気分散を打ち消すような反対の色分散を生じさせることで、この問題を回避する装置を大気分散補正光学系という。二対の直視プリズムを、望遠鏡の高度角に連動させて回転させることにより、それぞれの色分散の加減をして補正するレスリー・プリズム方式や、色分散素子を光軸方向や光軸と垂直方向に移動させることでその量を調節する方式などがある。

電子とイオンが結合する際に放射されるスペクトル線。宇宙初期を除くと電離ガスは中性の原子が電離して生じるので、これらが再度結合して中性に戻るという意味で「再結合」と呼ばれる。ただし、電子はすべて同等なので再結合する際の電子とイオンの組は元の原子や元素と同じである必要はない。星間空間では水素、ヘリウム、炭素などの再結合線が観測されている。電離水素領域(HII領域)からは強い再結合線が放射されているが、それ以外の星間空間からの再結合線も観測されている。水素原子の場合は、主量子数n=1のエネルギー準位に遷移するライマン系列では紫外線領域で、n=2の準位に遷移するバルマー系列では主として可視光領域で放射されるが、nが数十以上の準位に遷移する場合は電波領域で放射され、H109α、H92αなど多数の再結合線が観測されている。パッシェン系列ブラケット系列、Hα(エイチアルファ)線も参照。

ストレムグレン(Bengt Strömgren;1908-87) はスウェーデンの天文学者。父は天文学者のエリス・ストレムグレンで、エーテボリに生まれ、コペンハーゲン大学に入学、わずか21歳で学位を取得した。ニールスボーア研究所での経験から、量子論を恒星の物理に応用することを早くから企図した。1940年には父の跡を継いでコペンハーゲン大学教授、コペンハーゲン天文台長に就いた。その後渡米してヤーキス天文台とマクドナルド天文台の台長を経て、1957年にプリンストン高等研究所の教授に就任。1930年代に星の水素とヘリウムの存在比を正しく推定し、中心に高温度星を持つ星間雲中の電離水素領域に関するストレムグレン球の理論を確立した。また、光電測光観測における4色測光系の提案でも知られる。
1959年にブルース・メダル、1962年に王立天文学会ゴールドメダル受賞、1966年にアメリカ天文学会会長、1970年に国際天文学連合の会長を歴任した。

参考:https://phys-astro.sonoma.edu/node/1481

旧ソ連が打ち上げた最初の人工衛星。1957年10月4日に打ち上げられたスプートニク1号は地球を周回する人類最初の人工衛星であった。1961年3月のスプートニク10号まで打ち上げられそれ以降はコスモスシリーズとなった。2号にはライカと名付けられた犬が載せられるなど、スプートニク計画は、有人宇宙飛行の実験も兼ねていた。その成果を基に、1961年4月12日にガガーリン(Y. Gagarin)がボストーク1号で人類初の宇宙飛行に成功した。スプートニク1号の成功は、宇宙開発に絶対の自信を持っていたアメリカに大きな衝撃(スプートニクショック)を与え、その後のアメリカの宇宙政策のみならず東西冷戦への対応にまで大きく影響した。

地球自転軸が天球と交わる点のこと。北側の点を天の北極、南側の点を天の南極という。赤道座標系で赤緯が+90°と-90°になる点である。
天の極は長期的には歳差によって黄道の極を中心に約23.4°の大きさで約26,000年かけて運動するが、短期的には章動によってさまざまな周期の運動をする。歳差のみを考慮した天の極の位置を平均の極、章動まで考慮した位置は天文中間極(以前は暦表極と呼ばれていた)と呼ぶ。
黄道座標系銀河座標系にも極があり、それぞれ北(南)黄極、北(南)銀極という。

視野を参照。

すばる望遠鏡主焦点に搭載された広視野カメラ。大気分散補正機能を持つ5群7枚のレンズ系からなる主焦点補正光学系により、視野の縁まで画質が劣化しないカメラを実現した。34分角x27分角の広視野を4096x2048画素の大型CCD素子10枚を敷き詰めて一度に撮影できる。CCD素子の間にわずかに隙間があるため、実際には視野中心を少しずらして複数枚の写真を撮影し(ディザリング)、隙間のない画像に仕上げる。8 m級望遠鏡ではすばる望遠鏡以外には、このような主焦点カメラがないため、遠方宇宙の探査観測などですばる望遠鏡が大きな成果を挙げる原動力となった。2017年5月に最終観測を行い18年間の活躍に終止符を打った。後継機として視野直径1.5度角を104枚の大型CCDで埋め尽くすハイパーシュプリームカムが、2012年秋から稼働中である。
ホームページ:https://www.naoj.org/jp/about/instrument/suprime_cam/

地上からの天体観測では大気のゆらぎが解像力の妨げとなる。可視光と赤外線では大気中の温度ゆらぎが屈折率の非一様性の要因となり光波面を乱す。電波では水蒸気の分布のムラが位相の乱れの要因となる。光束中のこのような乱れを実時間計測して、その補正を行うと大気ゆらぎの効果を打ち消すことができる。この技術を補償光学という。シーイングも参照。

多くの楕円銀河の半径方向の表面輝度プロファイルはいわゆるドゥ・ボークルール則によってよく近似されることが知られている。しかし、2体緩和のタイムスケールは楕円銀河では宇宙年齢よりも長いため、楕円銀河の輝度分布の普遍性がもしも何らかの緩和過程によるものであるとすると2体緩和以外の緩和過程が必要である。その候補としてリンデンベル(R. Lynden-Bell)によって 1967 年に提唱されたのが激しい緩和である。
楕円銀河のような自己重力系の形成初期においては、系が力学平衡から大きくはずれており系全体が大きな振動をする。リンデンベルは、このときに、系の重力場(重力ポテンシャル)の変化により、星の運動はランダムな摂動を受け、結果的に系が単位質量あたりの力学的エネルギーが等しくなる運動学的平衡状態に向かって進化すると主張し、この過程を「激しい緩和」と呼んだ。
ただし、その後の数値実験では、最終的な系の密度分布は初期条件依存性を残していることがわかった。また、近年行われているダークマターハローの構造形成シミュレーションでは、共通の密度分布は得られるが、それはリンデンベルが提唱した運動学的平衡状態からは遠く離れている。現在の理解では、「激しい緩和」は運動学的平衡状態に向かう進化に直接つながるものではないとされている。

地球の赤道面(地球の中心を通り、地球の自転軸である地軸に対して垂直な平面)が天球と交わる交線のことで、歳差章動によって変動する。歳差まで考慮したものは平均赤道、歳差と章動を考慮したものは真赤道という。赤道座標系も参照。

太陽から太陽風が吹いているように、パルサーからはパルサー風というプラズマ風が吹き出している(パルサーの項目を参照)。パルサー風とそのパルサーを形成した際の超新星残骸で放出された物質とが衝突して、衝撃波を形成する。そこで衝撃波加速された高エネルギー粒子からのシンクロトロン放射逆コンプトン散乱により、電波X線ガンマ線で輝くパルサー星雲として観測される。プレリオンとも呼ばれる。典型的なパルサー星雲として「かに星雲」が挙げられる。パルサー星雲のエネルギー源は、その中心にあって強磁場かつ高速で自転する中性子星(パルサー)の自転のエネルギーである。

自ら輝線を放出しているガス星雲のこと。発光星雲ともいう。

星間物質が周辺より高い密度で集まり、明るく輝いたり、あるいは光を吸収して暗く(黒く)なったりして、天球上で淡い雲のように見える天体を一般的に表す言葉。星雲という名前だが星や星の集まりではない。

電離ガスが自ら発光している星雲(電離水素領域惑星状星雲)を輝線星雲あるいは発光星雲、ガス中のダスト(塵)が近くにある星の光を反射・散乱して光っている星雲を反射星雲と呼ぶ。その両者をまとめて散光星雲と呼ぶことがある。電離水素領域は高温の星の周りの星雲でHα線がとても強い。惑星状星雲は、高温の白色矮星を取り巻く膨張する電離ガスである。望遠鏡の性能が十分良くなかった時代に、表面輝度の高い惑星のように見えたので(歴史的に)惑星状星雲という名前がついているが、惑星とは関係ない。超新星残骸もガス星雲に含める場合がある。

暗黒星雲は、ガス中に含まれるダストが背後から来る光を遮るので、天球上で暗黒の領域として観測される。ただし、暗黒星雲は暗黒物質(ダークマター)とは全く関係ない。

化学反応により星間ガスの組成が変化すること。星間ガスでは宇宙線や紫外線による電離、再結合、他の分子との衝突のほか星間微粒子(ダスト)の表面での反応や吸着、温度変化により化学組成が変化する。入射する紫外線の量やガス密度が変化すると、それに応じて反応が進むが、その進行は環境変化に比べてしばしば遅い。このため化学組成から、星間ガスの形成過程を推測することができる。イオン-分子反応化学進化(銀河の)も参照。

分子の量子力学的な回転状態を表す言葉。量子力学によると粒子の微視的状態は離散的な多数のレベルに分かれる(エネルギー準位を参照)。分子の回転運動についてもその各レベルは対応するエネルギーで区別され、それを回転準位と呼ぶ。量子力学振動準位も参照。

銀河中心部の広輝線領域の形状等を推定する方法の一つ。活動銀河核の中心核からくる可視連続光の時間変動と、広輝線領域からくる輝線の時間変動との間の時間的なずれを測定して、中心核からの連続光によって電離されて輝く広輝線領域の大きさ(中心核からの距離)や形状を測定する。さらに広輝線領域の速度分散を輝線幅から求めて、大きさの情報と組み合わせることによって、中心にあるブラックホールの質量を推定することができる。