天文学辞典 :ASJ glossary of astronomy | 天文、宇宙、天体に関する用語を3300語以上収録。随時追加・更新中!専門家がわかりやすく解説します。(すべて無料)

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電波

波長が0.1 mm程度より長い電磁波の名称。波長0.1 mmから10 cm程度のものはマイクロ波と呼ばれ、そのなかはさらに細分化して、短い方からサブミリ波ミリ波、センチ波と呼ばれる。波長10 cm程度より長い電波は、波長の短いものから、極超短波(UHF)、超短波(VHF)、短波(HF)、中波(MF)、長波(LF)、超長波(VLF)と細分して呼ぶことがある(電磁波を参照)。
宇宙から電波が届いていることは1931-33年にかけてアメリカのジャンスキー(K. Jansky)によって発見された。天体が電波を放射する典型的なプロセスの一つはシンクロトロン放射である。そのほかにも宇宙に豊富にある中性水素原子の出す波長21cm の輝線、絶対温度2.7K の黒体放射に対応する宇宙マイクロ波背景放射、低温度の星間物質中にある分子が出す輝線などが電波領域で観測される。
宇宙から地球に届く電波のうち、波長が約1 cmから約20 mの間の電波はほとんど地球大気に吸収されることなく地上まで届く。約1 cmより波長の短いミリ波やサブミリ波は、地球大気中の水蒸気により吸収されるので、乾燥した高地からでないと有効な観測ができない。波長約20 mより長い電波は電離層に反射させるので地上には届かない。

ジェラルド・ドゥ・ボークルール(Gérard de Vaucouleurs; 1918-1995)はフランスの天文学者。パリ生まれ。14才の時に母親から小さな望遠鏡を買ってもらったことから天文学に興味を持ち、ソルボンヌ大学で2年間、物理、天文、数学を学んだ。第2次世界大戦の兵役後、1943年に再びパリ大学に入り1949年に気体と液体中でのレイリー散乱の研究で学位を取得した。1944年にアントワネット(Antoinette)と結婚し、以来二人はともに天文学の研究に携わる。
オートプロバンス天文台の望遠鏡を使って銀河表面輝度分布を測定する表面測光(surface photometry)の研究をおこない、1948年に楕円銀河の面輝度分布に関するドゥ・ボークルール則を発見した。後には、国際天文学連合の第28委員会の中に「銀河の表面測光」ワーキンググループを作って長く座長を務め、誤差が入りやすく手間のかかる、写真乾板による銀河の表面測光の精度を高め、解析方法を標準化して世界的に普及させるために尽力した。銀河系外天文学を目指してフランスを出た二人は、まずイギリスに渡り、1951年には、ストロムロ山天文台の74インチ望遠鏡を使えるオーストラリア国立大学(ANU)に移った。1954年にANUを去って一時エール大学の南天観測所にいたが、1957年にローウェル天文台、58年にハーバード大学と異動を重ね1960年にテキサス大学オースチン校に移ってからはそこで生涯研究を続けた。
1950年代に、銀河系天の川銀河)はおとめ座銀河団を中心とする銀河の大集団に属していることを示し、これを局所超銀河団と名付け、その研究に便利な超銀河座標系を導入した。また、銀河の形態分類を精力的に行い1959年にドゥ・ボークルール分類を提案した。これはハッブル分類を精密化したもので、その後の銀河研究に広く用いられた。形態分類と観測量との相関を調べるために、形態分類を定量的数値に対応させた形態型指数を導入した。
ジェラルドとアントワネットの二人は銀河の光度、直径、視線速度など種々の観測量を収集し、標準化してカタログ化とすることに大きな情熱を注いだ。1964年に出版された参照カタログ(Reference Catalog of Bright Galaxies: RC1)は、2599個の銀河に対する形態分類を含む基礎データを集めたカタログで、銀河研究者には必携の書であった。銀河の観測が加速度的に進む中で、二人はコーウィン(Harold Corwin)らの協力を得つつ25年にわたってカタログの整備を続けた。1976年には4364銀河のデータを含む第2参照カタログ(Second Reference Catalog of Bright Galaxies: RC2)、1991年には23,024銀河のデータを含む第3参照カタログ(Third Reference Catalog of Bright Galaxies: RC3)が出版された。これらのカタログは長い間、銀河天文学の基本データとして用いられた。
カタログの編纂と並行してジェラルドは1979年に、宇宙の距離はしごを使ってハッブル定数(H0)をH0=100±10kms-1Mpc-1とする一連の論文を発表した。これは後退速度から求まる銀河の距離としては、サンデージタマンが求めたH0=50±4kms-1Mpc-1の半分となる短い距離を与えるので、short distance scale(短い距離尺度)と呼ばれ、サンデージ-タマンのlong distance scale(長い距離尺度)との間で学問上の論争が20年以上続いた。
1988年にはアメリカ天文学会のラッセル賞を受賞した。
Ronald Butaによるアメリカ天文学会誌の追悼記事
http://adsabs.harvard.edu/full/1996BAAS...28.1449B

太陽極域にあるコロナホールから噴出しているように見える明るい羽毛状の構造。極域プルームは温度100万度程度で形成される真空紫外線域の輝線で最も高いコントラストで観測することができる。皆既日食時には、可視光で同様の構造が観測される。

大気を持つ太陽系の固体天体(惑星・準惑星・衛星)の極域に形成される氷の塊。黄道面に対する自転軸傾斜角が大きくないときに、極域の平均日射量は低く温度が低いため、氷が大気から凝縮することで生成される氷の組成や成分はさまざまである。地球では南極大陸やグリーンランドの氷床を極冠ということができる。火星の南極、北極に極冠があることは古くから知られていた。極冠の成分として、火星大気の主成分である二酸化炭素か水の氷かが議論されていた。マーズエキスプレス探査機の観測から、極冠氷の大部分は水の氷であり、二酸化炭素の氷は表層を覆っている程度であることが明らかになった。冥王星には、大気成分が凍った、メタンと窒素からなる極冠が存在すると考えられている。

国や地域が共通で使う地方時のこと。共通の標準時を使う地域全体を「タイムゾーン(time zone)」という。日本は一つのタイムゾーンにあり、日本標準時は東経135度の子午線に基づいて決められている。日本標準時の法令上の正式名称は中央標準時で、協定世界時より9時間進んでいる。

宇宙の支配的なエネルギー成分が物質成分となっている時期のこと。質量密度に比べて圧力の無視できる物質成分のエネルギー密度は、宇宙膨張に対してスケール因子の3乗に逆比例して減少する。これに対し、大きな圧力を持つ放射成分のエネルギー密度はスケール因子の4乗に逆比例して減少する。このため、過去に遡るほど放射成分のエネルギー密度の比が大きくなる。
現在、放射成分のエネルギー密度は物質成分に比べて1万分の1ほどしかないが、宇宙の大きさが現在の1万分の1の時点よりも前では放射成分のエネルギー密度が物質成分のそれを上回るようになる。ちょうど物質と放射のエネルギー密度が等しくなる時点を物質と放射の等密度時という。この時点より後は、物質のエネルギー密度が卓越するようになり、そのような時期を物質優勢期という。物質優勢期には、宇宙膨張がアインシュタイン-ド・ジッター宇宙の膨張則で近似的に表される。等密度時より以前は放射成分がエネルギー的に卓越する放射優勢期であった。宇宙項(あるいはダークエネルギー)や曲率の存在する宇宙では、物質優勢期の後に宇宙項優勢期あるいは曲率優勢期が現れる。

粒子や光子が1回散乱あるいは吸収されるまで進む距離の平均値。標的の個数密度を n 、標的の散乱断面積を σ とすると、平均自由行程は l = 1/(nσ) で与えられる。

放物面鏡を主鏡とするアンテナのこと。放物面アンテナともいわれる。放物面で反射した電波はその焦点に集められ、フィードホーンと呼ばれる1次放射器を通して受信機に入力される。電波が効率良く焦点に集まるためにはアンテナの鏡面誤差が観測波長に対して十分に小さくないといけない。また、大きなアンテナの場合は自重で放物面からはずれる傾向にあるのでホモロガス構造が採用されたりする。電波天文学の対象となる電磁波はほとんどがこの形式で作られているが、特に低い周波数の場合はダイポールアンテナや八木宇田アンテナのような線状アンテナが用いられる。

日震学の一分野。日震学は太陽の固有振動数を精密測定し、これを基にした内部構造診断を行う手法を中心に発展した。これに対して局所的日震学では、たとえば波動場の自己相関関数(または異なる観測点における振動の相互相関関数)を使って波動の局所的な伝播時間を測るなど、波動の局所的な伝播に関する測定を行って、これを基に太陽内部の局所的な音速異常やプラズマの流れを推定する。これまでに黒点の周囲の構造を測定する試みがなされているほか、子午面還流超粒状斑にともなうプラズマの流れ場の測定などの成果がある。

シュペーラーの法則を参照。

逆行軌道にある衛星のこと。衛星の公転逆行あるいは順行には2通りの考え方がある。一つは黄道の北極方向から見て反時計回りに公転する場合を順行、時計回りに公転する場合を逆行とするもの、もう一つは中心天体である惑星自転と同じ向きに公転する場合を順行、逆向きに公転する場合を逆行とするものである。
後者の定義を用いると、一般に惑星に近い軌道を回る衛星には、惑星の赤道面上にある離心率の小さい軌道を、惑星の自転と同じ向きに公転する順行衛星が多く、惑星から遠い軌道を回る衛星には、惑星の赤道に対してさまざまな軌道傾斜角を持つ離心率の大きな軌道を、さまざまな向きに公転するものが多い。
海王星の衛星トリトンは、惑星の近くを公転しているのにもかかわらず逆行している、珍しい例である。

ピレネー山脈のピクデュミディ山(標高2877m)の山頂にある天文台。フランス-ミディ-ピレネー天文台の一部である。1873年に建設された気象観測施設がその前身である。天文台の建設は1878年に開始され、1882年に開所式を迎えた歴史ある天文台である。口径2mのベルナールリオ望遠鏡をはじめとして、惑星観測用の1m望遠鏡、太陽コロナグラフやいくつかの太陽観測装置が備え付けられている。世界で最も太陽観測に適したサイトの一つで、特に午前中から午後の早い時間にかけては、非常に良いシーイング(0.3秒角に達することもある)が長時間安定する。太陽観測以外には、惑星表面の観測、金星の回転周期の決定、アポロ計画のための準備観測などで有名である。1952年にケーブルカーが開通し、今では観光地ともなっている。
ホームページ:http://www.obs-mip.fr/

時間的・空間的に変動する信号(ゆらぎ)を統計的に特徴づける量の一つ。ゆらぎをフーリエ変換して、そのフーリエ係数の振幅の2乗を波数(波長の逆数)の関数とみなしたものがパワースペクトルである。関数f(t)あるいはf(x)のパワースペクトルF(k)は、波数kの変動成分のエネルギー密度を表している。単一周期の三角関数に従う信号のパワースペクトルは、その周期の所にのみエネルギーがあるので、単一の線スペクトルとなる。
パワースペクトルは、変光星光度曲線など、変光現象の解析から周期性を調べる時に良く用いられる。準周期的振動も参照。
宇宙論においては、密度の空間的ゆらぎのパワースペクトルが重要である。宇宙モデルを決めると、パワースペクトルの期待値が理論的に計算される。これを観測値と比較することにより、もとにした宇宙モデルの正否を判定することができる。
また、宇宙マイクロ波背景放射の温度ゆらぎなどのように、天球面上に投影されたゆらぎでもパワースペクトルは有用である。この場合はゆらぎを球面調和関数で多重極展開し、その展開係数の振幅の2乗によりパワースペクトルが定義される。

木星ガリレオ衛星の一つ。

木星の衛星のなかで、サイズが大きい、イオ、エウロパ、ガニメデ、カリストを指す。直径はそれぞれ、3632 km、3138 km、5262 km、4820 kmである。公転周期はそれぞれ、1.76日、3.55日、7.16日、16.7日である。イタリアのガリレオ(G. Galilei)が1610年に観測して記録したことからこの名前で呼ばれる。ドイツのマリウス(S. Marius)もほぼ同時に観測している。4衛星は木星の名前のものとなったジュピター(ゼウス)の愛人の名前をとってマリウスによって命名された。

イオは、ガリレオ衛星のなかでは木星に最も近い天体である。表面には氷はなく、平均密度は高い(3528 kg m-3)。硫黄や二酸化硫黄の激しい火山活動がボイジャー探査機により発見された。イオの軌道は、エウロパ、ガニメデの影響で円軌道から歪んでいるため、木星から大きな潮汐トルクを受ける。結果として内部に大きな潮汐加熱が発生する。火山活動で放出される単位面積あたりの熱流量は 2 W m-2で、地球の平均値の30倍である。イオの火山活動で放出された二酸化硫黄の一部は、イオの重力圏から脱出し、イオの軌道に沿って中性分子とイオンがトーラス状に分布するとともに、木星磁気圏の粒子源となっている。

エウロパは、表面は氷に覆われているが、高い平均密度(3010 kg m-3)から天体に占める氷(+水)の割合は10%ほどと見積もられている。表面の氷の層の内側には地下海があり、その下には岩石質のマントルがあると考えられている。表面の氷には割れ目構造や地下から液体が噴出したと思われる地形が多数存在している。赤外分光観測からは、水溶性の塩類のスペクトルが得られていて、塩分濃度の高い水の噴出がもたらしたものと考えられている。エウロパの地下海は、木星による潮汐加熱で維持されていると考えられている。地球外生命探査の有力な対象である。

ガニメデは、太陽系で最大の衛星である。氷に覆われていて、暗くてクレーターが多く古い地域と、明るくクレーターが少なく溝地形に覆われている地域に分かれる。ガニメデの溝地形は、伸張応力による正断層地形と考えられている。ガリレオ探査機の観測から、ガニメデには固有磁場が存在することが明らかになった。中心にはFe-FeS系の流体核、その周りに岩石質の層、さらに厚い氷の層が存在する。氷の層の中には地下海が存在する可能性がある。

カリストは、ガリレオ衛星のなかでは一番外側にある。太陽系の衛星では、ガニメデ、タイタンに次いで大きな天体である。表面の氷は衝突クレーターに覆われていて、エウロパ、ガニメデのような水平運動や噴出による地形は存在しない。バルハラ盆地と呼ばれる巨大衝突でできた直径2000 kmを超える多重リング地形がある。カリストの内部の大部分は未分化で、氷と岩石が混在していると考えられる。表面には数100 kmの氷の層があり、その下部は融けている可能性がある。



ガリレオ衛星の軌道運動がよく見える動画。世界中の7か所の天文台に置かれた望遠鏡を共同運用して、天体を24時間観測し続ける能力を持つ「ラス・クンブレス天文台グローバル望遠鏡ネットワーク(https://lco.global/)」を使って2018年に撮影したもの。最も内側の衛星イオ(公転周期1.77日)の動きは他の衛星より速く、この動画の撮影時間(約3.5日)の間に、ほぼ2回公転することが分かる。
クレジット(Credit): Nicolas Hurez, Paul-Antoine Matrangolo and Carl Pennypacker/IAU OAE
元の掲載サイト https://iau.org/public/videos/detail/ann21047e/

https://www.youtube.com/embed/0NQHcRg2nxI

土星の主要リングであるAリングとBリングの間にある領域。カッシーニの空隙ともいう。1675年にカッシーニ(G. Cassini)が地上からの観測により、リング中に暗い溝のように見える領域のあることを発見したため、この名がある。しかし実際には粒子の存在しない溝ではなく、Aリング、Bリングに比べると空間密度は小さいが、無数のリング粒子が存在する領域であることが、ボイジャー探査機により明らかにされた。カッシーニの間隙の内縁、すなわちBリングの外縁は、Aリングの外側を回る衛星ミマスと 2:1 の平均運動共鳴の位置にあり、ミマスの重力作用が間隙の成因と考えられている。なお、英語のdivisionは、AリングとBリングの間にあるカッシーニの間隙のような異なるリング間の間隙を表し、gapは、Aリング中にあるエンケの間隙(Encke gap)のように、一つのリング中にある間隙を表すのに使われる。

変数 x に対する分布関数が x α の形になる分布。α(アルファ)の値をべき指数という。たとえば宇宙線のエネルギー(E )分布は 10 910 15 eV の範囲でほぼ E -2.7 に比例して急激に減少するべき関数型スペクトルを示す。光子指数も参照。

太陽周期活動を参照。

降着円盤モデルのうちで、ガス降着に伴って解放された重力エネルギーが効率よく放射エネルギーに転化され、円盤は明るく光るとするのが標準円盤モデルである。放射でよく冷える(放射冷却)ため圧力が下がり、円盤は面に垂直方向に縮んで幾何学的に薄くなる。標準円盤モデルは、粘性項を含んだ流体の方程式(ナビエ-ストークス方程式)を基に基本方程式がたてられ、それを解いて得られる。

太陽周期活動を参照。